箱根は全般に相場がお高いため遠征先に選びにくい。宿泊・交通インフラがよく整備されており、車を使わなければ冬でも尻込みしなくていいのは利点なのだが。予算面については素泊まりと割り切って探すことで対応するしかないかな。
えーい、弱気になってはいかん…正月明けてまだ間もない頃だったが鉄の心で何食わぬ顔して休暇を取り、平日1泊の条件で探したところ、2食付きで手が届くお値段の温泉宿が見つかった。箱根湯本の近江屋旅館だ。
加温のみの源泉が投入されるお風呂は事前に想像していた以上に良かった。部屋出しの食事もなかなか良き。ある意味「今どきのGLOBAL HAKONE」らしくないスタイルがかえって好印象を与える。
箱根湯本温泉・近江屋旅館へのアクセス
旧東海道沿いの旅館
近江屋旅館は旧東海道(県道732号)沿いにあり、最寄り駅は箱根湯本。自分はとくに脈絡もなく鎌倉の稲村ヶ崎温泉に立ち寄ってから藤沢→小田原→箱根湯本と移動して来た。あたりを観光するつもりはない。さっさと旅館へ直行しましょう。
体力や時刻表との相談になるが、(1)駅から20分歩くか、(2)旧東海道経由の路線バスで台の茶屋下車・徒歩3分か、(3)湯本地区の旅館送迎バスで宿の前まで乗せてもらうか、の選択になる。元気が残ってたので(1)を選択。徒歩20分くらいは超余裕のはずだった…平坦ならば。
グーグルマップの指示にしたがい、最初はメインストリートを歩いて温泉場入口バス停のところで橋を渡る。行列のできる店=はつ花そば本店や立派な吉池旅館の前を過ぎて再び橋を渡る。
距離を取るか、傾斜を取るか
そこから川沿いの道を進んだのが罠だった。天成園という巨大なホテルに着いちゃうと行きすぎで、少し手前のコンビニ脇から始まる小さな石段を登っていく。
この石段が結構な急傾斜なのだ。しかもうねうねと長く続く。あっという間に体力を奪われ、息が切れた。かなりの高低差を強引にカバーさせられたと思われる。グーグルマップさん、距離的には最短かもしれないけど、もっとゆるい傾斜ですむ経路はなかったの?
登りながら、いつの間にか脳内に箱根八里の歌がエンドレスリピートしていた。♫箱根の山は天下の険、函谷関も物ならず。まったくもって天下の険だよ。滝廉太郎だよ。
苦闘の末、旧東海道に出たらゴールは近い。あーやっと着いたー。徒歩の場合、2つ目の橋を渡ったら川沿いを行かず、マップを確認しながら早めに旧東海道へ合流することを意識して進めば、傾斜が平準化された舗装道路ルートを活用できる。とはいえきつい坂道には違いないが。
今どきの箱根に染まっていない貴重な旅館
昭和レトロながらもメンテナンスはしっかり
息を整えて、ではチェックイン。こちらでお待ちくださいと示されたのが廊下に置かれた椅子とテーブル。ミニロビーといったところか。中庭の池を眺めながら待つ。
手続きを終えて案内された2階の部屋へ向かう。階段の踊り場にノンアル飲料のみの自販機があったな。外観も内部も昔ながらの雰囲気がいっぱいなのが逆に新鮮だ。箱根にまだこのような旅館が残っているとはね。
ただし決して古いままではなく、内装は適宜メンテされてるみたいだし、お風呂場の前には「温泉 Hot spring / Fuente termal」などと外国語を混ぜた案内がかかっていたりする。
一人旅には余裕のある部屋
一人泊なのに部屋は6畳+3畳だった。ありがた山の寒がらすでございます。3畳間がこちら。空の冷蔵庫あり。
こたつが設置されている6畳間がこちら。布団はセルフでお願いします。見る限り金庫はないようだ。ちなみにWiFiあり。浴衣やタオルと一緒に電源の延長コードが置いてあったのは気が利いてて良いね。ウェルカムお菓子は箱根路の月という萩の月みたいなの。
トイレは共同で2階の両端にそれぞれ男女別あり。自分の部屋に近い方は男性個室1+女性用個室1だった。また洗面台は部屋に付いていた。
箱根の旧東海道沿いであるから、周囲は民家や旅館が多い。自然の景観よりは家屋が目に入ってしまうのは仕方がない。入室時にカーテンが閉めてあったのはそういうことなんじゃないか。なるべくご近所さんが入らないアングルで外を撮影してみたのがこちら。
絶景云々を求めてきたわけではないからカーテンは閉めきりでOKです。
貸し切りスタイルで利用する2つの浴室
妙に気に入ってしまった小浴室
近江屋旅館のお風呂は2階に大小2箇所。いずれも予約不要の「空いていれば自由に利用可」な貸し切りスタイル。チェックイン直後は小さい方へ行ってみた。脱衣所に入ったら戸を閉めて内鍵をかける。洗面台は見当たらずで、壁の分析書によれば源泉名は馬立場温泉、泉質は「単純温泉、低張性、弱アルカリ性、温泉」とのこと。加温のみで加水・循環・消毒なし。やるじゃない。
浴室にカランは1台。他にはカプセル錠剤形をした1~2名サイズの浴槽があるのみ。小さなお風呂だが不思議と好印象を持った。源泉投入量に見合ったサイズゆえの良質なお湯を予感したことと、ひとりの身には収まりの良い安心感を与えたからだ。
湯口はなく、浴槽の下の方から源泉を入れているようだ。あふれたお湯は床を流れて隅っこへ消えていく。見事なかけ流しですな。浸かるとザバーっと勢いよくあふれ出すのが小気味良い。
過剰でない加温のおかげでゆっくり浸かれる
見た目が無色透明のお湯は面白みに欠けると思うかもしれないが「こういうのでいいんだよ」的な満足もある。ほんのり甘い微硫黄香があったし、やわらかく包まれる感触がなんとも言えんね。ただの沸かし湯とは明らかに違う。青い浴槽タイルのうち一部は温泉成分の影響でか黄色っぽく変色していたことからも、しっかりした湯使いの温泉であることは間違いない。
源泉温度はたしか38.3℃、それを適温まで加温して提供している。ぬる湯派としては非加温のままの源泉に入ってみたい気もするけど、一般のお客さん向けに調整するとこれくらいの温度がベストなんでしょう。冬の冷えた身体にはちょうどいいかな。のぼせることなく結構じっくり入れます。
外の景色を楽しむことを目的とした窓はない。お湯と向き合うことに集中するタイプのお風呂だ。なので「いい湯だな~」という印象が強く残りやすかった。他に気を散らすものがないからね。なんだか気に入ったので、夕方・夜・朝2回いずれも小さいお風呂を利用したのであった。
大きい方の浴室も同様のお湯を楽しめる
もう一方の大きい方は1回しか利用しなかった。大きいお風呂を一人で占有しちゃうのも気が引けるというか。あと上に書いたように小さいお風呂で十分満足どころか気に入ったので、せっかくなら大きい方に入らないと損だという感情が湧かなかった。
複数名で来ているお客さんが普通であることを考慮すれば、大きいお風呂が利用中になりやすいのは自明の理。夕食後にうまくタイミングを見計らって短時間だけ体験させてもらった。
こちらは脱衣所に洗面台あり。カランは4台で、浴槽は落花生のような形をしており、3~4名サイズ。そのうち半分が浅く作られている。お湯の特徴は小さい方と同じ。パワフルに攻め立てる感じでなく、じわっとやさしく温めてくれるソフトな当たりが良い。
温泉一人旅の気分に合ってるお食事
おじさんにはちょうどいい内容の夕食
近江屋旅館の食事は朝夕とも部屋出しだった。夕食は18時・18時30分から選べて、用意ができると部屋に内線がかかってくる。やがて運ばれてきた品々がこちら。
ボリューム控えめに見えるかもしれないが、食の細いおじさんにとっては、完食するのに苦労するビジョンが見えないのはいいことだ。いつもは豪快に残してしまうお櫃のご飯も人並みに攻略できそうだ。自信が湧いてきたぞ。ちなみに醤油差しのとなりにある黒い壺は、鍋物に入れる自家製の唐辛子薬味だ。お好みでどうぞ。
年を重ねてくると、脂の乗ったカルビだマグロだというよりも、酒を飲みながらこのような料理をいただくのがうれしくなってくる。途中で天ぷらとデザートが追加され、鍋物もできあがった。天ぷらは熱いのを持ってきてくれる。やるじゃない(ニコ…)。
締めのご飯はお櫃の6割くらいをたいらげたので、これはもう勝利を宣言してよかろう。典型的な旅館飯だと一口とか軽く一膳で終わっちゃうから。
朝から高らかに勝利宣言
朝は8時・8時30分から選べて、夕食と同様に用意ができると部屋に内線がかかってくる。やがて運ばれてきた品々がこちら。
オーソドックスな和定食ですな。豆腐は冷奴かと思ったら湯豆腐だった。あったまるわあ~。もちろんおかずは完食したうえで、お櫃のご飯を4割ほどいただいた。朝にしては頑張った。勝利宣言。
お風呂は朝9時半まで入れるから、朝食後チェックアウトまでにラスト入浴する気があれば、やってやれなくはない。安心してください、入ってますよ。
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インバウンドの時代らしく外国人の嗜好に合わせたNipponのOnsen Yadoとかゲストハウス、あるいは一生縁のない超高級宿ばかりかと思っていた箱根に残る、昔なじみ感と一種の郷愁を与えてくれる貴重なお宿。周辺の相場を考えるとお得感もある。
そして温泉目的で訪れても十分に満足できる湯質。強烈な個性はないが「奇をてらわず基本に忠実」なのが逆に個性といえるかもしれない。
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