温泉と湯宿に対する個人的な好みは、長く入れるぬるめの湯であること、湯使いにすぐれた源泉かけ流しならベスト、浮かれて陽気に騒ぐのでなく落ち着いて静かに過ごせる宿、規模にこだわりはないがどちらかといえば小規模系、そして温泉目当ての一人旅(世間一般的な家族・カップル旅行のノリでない客)に理解があること。ただし手の届かない高級宿は除く。
伊豆の温泉にはずいぶん行ったつもりだったが、上記の条件を見事に満たす未訪宿がまだあった。伊豆市の神代の湯だ。温泉を滞在価値の中心に据えた宿であり、内湯も露天風呂も貸切風呂も絶妙なぬる湯なのがうれしい。しかもしっかりと源泉かけ流し。一人旅の客も多くいて心強い。
梅木温泉 神代の湯へのアクセス
修善寺から伊東へ向かう途中にある
住所としては伊豆市梅木になる。地図を見ると修善寺から伊東へ向かう途中、伊豆スカイライン冷川ICの手前くらいのロケーションだ。伊豆箱根鉄道・修善寺駅から筏場方面行きバスで八幡上(はつまかみ)、もしくは伊東駅行きバスでJA伊豆の国八幡支店前にて下車。いずれもバス停から徒歩1kmほどになる。
修善寺駅までの送迎もあるようだが、公式ホームページからの予約のみとか条件があるようなので、時間を含めて予約前に確認しておくのが無難。
今回は自分で車を運転していった。旅の2日目に雲見の民宿さかんやをチェックアウトして、途中で湯ヶ島温泉のテルメいづみ園に立ち寄り入浴し、それから神代の湯へ向かった。実のところ当宿は12時からチェックインできるから、どこにも寄らず12時に着くように直行して入浴三昧も可能ではあった。旅先でいろんな温泉を体験しようとする「せっかくだから」根性がどうしてもね…。
駐車場の選択は安全策で
各部屋に冷蔵庫はない・共同の冷蔵庫があるとの情報を事前にキャッチしていたため、途中で湯あがりに飲む缶ビールと軽いおつまみをコンビニで買い込んだ。※のちに自販機が館内にあることを確認。
さて、冷川ICへと続く県道を八幡の交差点まで走るのは問題ない。そこで県道を外れて梅木の奥の方へ進む道路が狭いので注意。細かい右折左折が連続するし分岐もあるから、事前に地図を頭に叩き込んでおくか、カーナビを頼らないと戸惑いそうだ。一応ところどころに看板は出てます。
駐車場は3箇所。まず旅館の目の前の敷地に宿泊者専用で4台分。ここはスペースの余裕的に車の取り回しが容易とは言えない。自分の技量だと何度も切り返ししまくった。大きい車は少し手前の第1駐車場がよさそうだし、なんなら徒歩1分ほど離れた第2駐車場…大浴場のあるあたり…でいいやと割り切れば気が楽かも。
現代湯治宿の雰囲気がある
チェックインしたら貸切風呂の予約を
さあチェックイン。お土産コーナーというよりはグッズ販売のショーケースぽいものがあった。
この向かいにビール含む自販機が設置されており、さらには宿泊者専用貸切風呂の予約記入シートを置いた台がある。制限時間40分+次の客との入れ替えマージン5分=45分間隔で区切られた時間帯ごとに記入欄があり、早いもの勝ちで好きな空欄に名前を記入すればOK。回数制限は見当たらなかったものの、やりすぎは顰蹙を買うから節度を保って。当時は平日のおかげかチェックインの段階でまだ空欄が目立ち、余裕で夕方1回と翌朝1回を押さえることができた。
客室は2階に集まっている。重厚感よりはモダンで軽やかな雰囲気、別の言い方をすると現代湯治宿風の雰囲気がある。下の写真の背後にはコミック書庫室あり。
部屋はシンプルにして装備十分
案内された部屋は6畳和室。ごてごてした装飾のないシンプルなつくり。そういう意味でも現代湯治宿っぽい。タオル・バスタオル・作務衣は用意されているからご安心を。布団敷きはセルフでお願いします。
トイレ・洗面所共同。男女共用と女性専用があり、共用の方は洗面台×3、男性小用×2(自信なし)、シャワートイレの個室×2。部屋には金庫なし、冷蔵庫なし(共同)、WiFiあり。窓から見える景色はこんな感じ。
木の枝で隠されてわかりにくいが、左下の屋根付き渡り廊下らしきものは旅館内にかかる神代橋。左中ほどの屋根が見えてる建物が大浴場だ。本館から神代橋を渡って大浴場のある別棟へ移動するようになっている。
良質のぬる湯三昧を楽しめてしまうお風呂
神代橋の向こうに大浴場
上に書いた通り、大浴場は別棟にある。まず1階のロビー兼湯あがり休憩風の部屋を通る。オールディーズ曲が流れるシャレオツな空間だ。なんだかフォールアウト(オープンワールドRPGの超大作)を思い出すな…I Don't Want To Set The World On Fire~♪
そしてこのような出入口でサンダルに履き替えて神代橋を渡る。38℃のぬる湯っていう紙が貼ってあるな。期待大。
別棟の手前が男湯で奥が女湯。男女の入れ替えなし。脱衣所には鍵付きロッカーが並ぶ。分析書によれば「ナトリウム-硫酸塩泉、低張性、アルカリ性、高温泉」だそうだ。芒硝泉ってやつですな。PH9.2。はっきりとした記述は見当たらずとも、加水・加温・循環・消毒なしの湯使いだと思う。源泉温度は47.8℃だから加水なしでうまく冷まして38℃で提供しているのだろう。
ほんのりぬくぬくするぬる湯が素晴らしい内湯
浴室のカランはたしか4台だったかと。内湯浴槽は横一列に並ぶ入り方で4名、向かい合わせを許容すると7名程度いけるサイズ。きれいな無色透明のお湯で満たされている。湯の花は意識されずで炭酸のような泡付きはないが、たまに家庭の一番風呂的な泡が見えることはある。
匂いはどう形容していいかわからないけど明らかな温泉臭。硫酸塩泉系に特有なのかな、伊豆の温泉によくある匂いだ。温度面は好みにばっちりはまって大変よろしい。入った瞬間の第一印象は「ぬる湯ゾーンの上限、あと1~2℃低ければなお良」にもかかわらず、すぐに慣れて印象が変わる。ヒヤッとせず逆にのぼせもしないベストな設定なのだ。体温前後の不感温度+αの微かなぬくぬく感が冬にぴったり。
はっきりいって1時間浸かりっぱなしでも大丈夫。まあ実際そこまで長湯はしなかったものの、内湯で1時間粘らなかったというだけで、露天風呂と行き来して合計1時間ほど大浴場に滞在するのはザラ。
同様にぬるい露天風呂もいいぞ
その露天風呂は内湯と同じようなサイズ。温度も似たようなもので、無限に入っていられそうな心地よさ。刺激の少ないやさしい泉質も長湯に向いている。気持ちよく浸かってぼーっとしていると、いつのまにかコックリコックリ居眠りしそうになるくらいだ。
こりゃあいいや。1年の締めくくりにこのような好みのぬる湯に出会えるなんてなあ。人生捨てたもんじゃないね(大げさ)。まさに心身ともに溶けていくような気分である。
浴槽よりひと回り広い範囲が露天エリアの行動範囲となっており、当時は範囲内外の境界部分をシートで覆っていたため眺望はなかった。隙間からチラ見した様子だとシートの向こうは庭園風に整えた空間のようだ。シートが強風対策などの一時的な措置なのか、あるいはつねに覆われているのかはわからない。屋根もあるから半露天に近い雰囲気だ。
希少な北投石を入れてラジウム浴も期待できる貸切風呂
貸切風呂は大浴場とは別の場所だ。本館のすぐ隣りとはいえ一瞬だけ外に出る必要があるため、うう寒ぶっ、となって貸切風呂棟に入ると暖房が効いてたのは気が利いてて、ありがた山の寒がらす。中に3つの浴室があるように見えたが、2つは使われてない様子。
残った1室の札を「使用中」に変えたら中に入って内鍵をかける。脱衣所の広さから、4~5名グループの利用にも十分に対応できそう。分析書の記述は「ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉、弱アルカリ性、低張性、高温泉」で大浴場と若干違う。源泉地の住所も違ったから別源泉かと思われる。
浴室には2台のカランと4~5名サイズの内湯浴槽。一人客なのに40分間独占しちゃってすいませんね。お湯の特徴や温度は大浴場のお湯と同様だった。こいつはたまらんぜよ。
貸切風呂独自の特徴として、浴槽の底に2つの北投石が沈めてある。北投石とは放射性のラジウムを含む温泉沈殿物でできた希少な石で、台湾の北投温泉や秋田の玉川温泉が産出地として有名。つまりこの貸切風呂はラジウム温泉でもあるってことか。貴重な体験をしてしまったな。ホルミシス効果だぜえ。
野菜を中心としたヘルシーなお食事
派手ではないがほっとする夕食メニュー
神代の湯の食事は朝夕とも1階の食事処で。時間は夕食18時・朝食8時に固定。見たところ数名のグループ客、カップル客に加えて自分のような一人客も数組いた。テーブル席の向きが他客と視線を合わせないようにしてあったのは好感。
夕食のスターティングメンバーがこちら。現代湯治宿の雰囲気に合ってるね。
最初の段階では肉も魚もない。事前にわかっていたことだし、前日が食べ切れないほどの海鮮づくしだったから、バランスが取れてむしろちょうどいい。おじさん世代にはこういうのでいいのよ。芋の周囲にわさびを塗ったように見える料理は、わさびじゃなくてつぶした豆(ずんだ?)だからご安心を。
ドリンクの注文やご飯のおかわりなどは「すいませ~ん」と呼ぶんじゃなくて、QRコードを読み取って実行するLINEアプリからの注文にご協力お願いしますとのこと。たまに居酒屋で見かけることはあったが、旅館業界では先進事例じゃないの。ビールに続いて飲んだ自家製梅酒がしっかりした風味でおいしかったな。
途中で赤魚の煮付けが出てきた。その後にご飯と味噌汁をお願いしたらご飯が発芽米だった。なんともヘルシー。
ちなみに今回の料理内容はおひとりさま専用プラン。少なめに見えても完食には1時間かけている。肉や魚をもっとがっつりいきたければ相応のプランが用意されているから検討されたし。
お粥がやさしい朝食
朝食も野菜中心のヘルシーな献立。食事処にもフォールアウトBGM、じゃなくてオールディーズが流れていて洒落てますな。
ご飯は発芽米を使ったお粥だった。おかわり用の共用お釜も用意されている。自分は朝からそんなに食べないので一杯で十分でした。ヘルシーを強調するあまりの物足りない薄味ではなく、かといって濃すぎることもなく、ちょうどいい味付けであった。アジの開きは結構大きい。片付けるのにやや手間取ったほどだ。さすが伊豆のアジ。
食後はラスト入浴…の前に部屋に戻ってコーヒーを。部屋にドリップコーヒーが1パック用意されているのだ。このときのために温存しておいた。
さあて朝チャージ完了。チェックアウト前にちょこっとだけラスト入浴するか。
* * *
またひとつ、結構なぬる湯宿に出会ってしまった。12時チェックインを最大限に活かせば、これでもかというくらいにぬる湯を堪能できそうだ。※かわりに夜は22時まで。深夜入浴を狙いがちな方はご注意。
また館内の雰囲気や食事内容から考えて、温泉メインでゆるりと過ごしたい大人向け、その方向性が自分のスタイルに合う方におすすめしたい。一人旅に対してオープンな姿勢もありがたいね。
おまけ:世界遺産の韮山反射炉
神代の湯をチェックアウト後、帰る前に韮山反射炉へ寄ってみた。世界遺産だから。
入場料500円でまず資料館を見学する。詳細は割愛。資料館を出ると反射炉の近くまで行ける。燃料を燃やした熱を天井に反射させて鉄を溶かしたから反射炉、なるほど。
時は江戸時代末期。国防のために反射炉の鉄から大砲を作った。炉の近くに復元した大砲が展示されている。
見学を終えて帰ろうとしたら、ちょうどイメージキャラクターの「てつざえもん」が現れた。
口から鉄を…吐かないね。