前回の福島遠征からまだ日が浅いというのに、さっそく次の計画へ向かおうとする温泉おじさんの姿があった。だってもうすぐ冬になっちゃうんだもん。積雪云々で足が遠のく前にあと1回、長野の温泉へ行っておきたい。
行き先は個人的になじみの薄い木曽をチョイス。車ではなく電車・バスでの移動、しかも都合により1泊2日のダイジェスト版だったから、奈良井宿・妻籠宿とか開田高原・御嶽山とか周遊してる余裕はない。温泉に全集中だ。
お泊り先は上松町の桟温泉旅館とした。有名な観光スポット・木曽の桟のすぐそばにあり、二酸化炭素泉を冷たい源泉と加温湯の交互浴で体験できる。そして食を目的に訪れるのもありと思わせる料理もおすすめ。
桟温泉旅館へのアクセス
路線バス停留所から徒歩10分
桟温泉旅館に最も近いJR中央本線上松駅でも3km以上離れており、徒歩40分は覚悟しなければならない。ちなみに次に近い木曽福島駅だと5km。天気が良くて快適な気温で元気なら歩けなくはないが…。
両駅を通る路線バスがあるので(本数は少ない)、時間をきっちり調べていけば頼りになる。自分の時は木曽福島駅15時9分→板敷野15時19分、帰りは板敷野10時3分→木曽福島駅10時14分の便がちょうどよかった。
板敷野の隣の「かけはし大橋」停留所でもいいのだが、グーグルマップで調べると、旅館までの推奨経路がぐるっと遠回りするコースになっている。ショートカットできそうな・できなさそうな、いろいろ怪しいから単純な一本道で行けるわかりやすさ優先なら板敷野。
泊まるついでに木曽の桟(跡)を見学しよう
今回は新宿から木曽福島まで高速バスで移動した。渋滞遅れ込みで5時間。やっぱり木曽は気軽に来られる近さじゃないな。到着後は上述のバス便までたいぶ時間の余裕があったから、宿場町の雰囲気を残す小路を歩いたり関所跡を見学したりした。詳細は別記事にて。
それから路線バスに乗って板敷野下車。国道19号の旧道と思われるだらだらとした坂を下っていくと10分ほどで赤い橋が現れる。こいつは木曽の桟じゃないけど、見どころには違いない。
上は夕方到着時の風景。下は翌朝帰りに撮った写真。後者は道路から木曽川のそばまで下りて撮影したが、結構命がけだから要注意。階段や歩道はなく、滑りやすい一枚岩の斜面を下るしかない。補助用のロープを伝って慎重に上り下りしないと滑落するよ。
道路を円柱で支えている箇所に注目。昔ここに木曽の桟があって、壁面の石積みはその名残らしい。対岸から見るとこうなっている。
赤い橋の上から見る木曽川もなかなかですぞ。川岸の岩の形がちょっと独特な感じ。
橋を渡ると旅館の手前に川辺まで下りていける坂道がありんす。
というようなロケーションにあるのが桟温泉旅館なのだ。
ロケーションにすぐれた旅館
ほのぼの系の雰囲気あり
ではチェックイン。フロント向かいのロビーにはこたつがスタンバイしていた。まもなく大活躍するのかな。
夜とか翌朝はロビーの椅子の上で猫ちゃんが居眠りしてました。他にもう1匹、茶色猫もいる。
もふもふなワンちゃんもいますよ。ほのぼのしてて癒やされますな。
ロビーのところに缶ビール含む自販機あり。ここで夕方の湯あがりにビールを買って飲んだ。
木曽川ビューがいい感じの部屋
客室は2階に集まっている模様。案内されたのはそのうちの1室、6畳+広縁和室である。一部に年季の入った箇所もあれど、おおむねよく手入れされており、居住性に問題なし。布団は最初から敷いてあった。
トイレは共同で男子トイレは小×4と和式個室1とシャワートイレの洋式個室1。洗面所も共同。水+湯の蛇口ペアが3組。金庫なし、冷蔵庫なし、フリーWiFiあり。当時はファンヒーターで暖房していたが、夏用のエアコンもさすがにあるんじゃないですかね。覚えてないけど。
幸いに川側の部屋で、窓からの眺めがいい感じだ。紅葉のピークだったら最高の景色に違いない…きっと超人気で予約困難だろうね。
左の方に目を向ければ例の赤い橋も見える。
夜はライトアップとかやってないかなと思って撮ってみたのがこちら。
季節柄カメムシはいそうでいなかった。廊下や室内に1~2匹のちっちゃなてんとう虫が歩いてたくらい。サンバは踊ってくれなかった。
クールでハジけた茶色い温泉
なかなかに貴重な二酸化炭素泉
桟温泉の大浴場は別棟にある。1階奥の自動ドアの先がこのような渡り廊下になっている。ずっと屋根の下を歩くから雨の日も濡れないですむ。
別棟の手前が男湯で奥が女湯。中に入ると貴重品ロッカーあり、ただし200円。脱衣所のロッカーも鍵付きなので、たいがいそっちで用が足りるだろう。ロッカーと洗面台の間に2台のマッサージチェアがデーンと置かれている。
掲示されてる分析書には「単純二酸化炭素冷鉱泉、低張性、弱酸性、冷鉱泉」とあった。PH5.3、源泉温度15.5℃。加水なし、加温・循環・消毒あり。二酸化炭素泉の名前から、炭酸の泡がたくさん付くシーンを想像してしまう。期待しよう。
まず加温浴槽でウォームアップ
浴室の洗い場は6名分。なにやら外へ通じているようなドアがあって、「かつては露天風呂があったけど現在は休止されてドアも締め切り」のパターンをこのところ立て続けに見たから、ここもそうなのかなと思った。もし露天風呂があったとしたなら入ってみたかったなあ。
あとは内湯浴槽が2つ並んでいる。向かって左が加温浴槽、右が源泉浴槽。サイズはどちらも4~5名程度。明らかにお湯の色味が違ってて、加温側は濁りがやや弱めな黄土色、源泉側は強く濁った赤茶色だ。両者はきっちり仕切られているわけではなく、浴槽の縁を超えて微量のお湯の行き来が見える。とはいえ混ざってちょうどいいぬるさになっている場所はない。
まず加温浴槽へ。うん、適温ですね。ぬる湯派の自分にとっても、冬に突入しつつある季節にはむしろちょうどいい温度であった。1~2分で源泉側へ移るつもりだったけど、外を歩き回って身体が冷えていたこともあり、なかなか踏ん切りがつかないね。
湯の花や泡付きはない。お湯の匂いを嗅ぐと、その色から想像されるほどの金気臭の主張はなく、土気臭が混じって複雑になった感じの印象だった。そしてじりじり効く浴感がたまらんぜえ。加温した冷鉱泉だからと侮れない。
泡が弾ける冷たい源泉浴槽
ではいよいよ源泉浴槽へ。まず手を突っ込んでみた。うん、冷たいね。多少なりとも加温しているのかどうか定かでないが、とにかく水風呂のような温度である。ワイルドだぜえ。心臓がびっくりしないように半身浴の体勢で下半身を慣らし、続いて胸下まで、最後にゆっくりと肩まで浸かっていった。
湯の花はよくわからず。泡は最初は気が付かないけど、しばらくすると微小な泡が腕などにたくさん付着しているのが確認できた。各地でたまに体験する「泡付きのある温泉」と比べると泡がとても細かい。腕を動かすと振り払われた泡が浮かんでパチパチと弾ける。匂いは金気臭の主張が前面に出ていた。こちらは色から連想されるイメージ通り。
しかしまあ冷たい。30分とか1時間浴できちゃうぬる湯とは違う。動かずじっとしていれば結構大丈夫なんだけど、それでもだんだん身体がガタガタと震えてくるのだ。そうなったら無理して粘らず加温側へ移るべきだろう。温度差が大きい分、温冷交互浴の不思議な快感が強調されてたまらんぜえ。
温冷交互浴の感覚と赤茶色成分のクセが強い
浴槽の縁や壁や床はもともと茶色系の素材だったようでもありつつ、温泉成分で赤茶色がこびりついたような形跡も明らかに見て取れる。湯口のまわりは特にそうだ。大きめの窓は木曽川を向いており、部屋から見えたのと同様の景色が広がっている。翌朝起床後に入浴した際にはまだ暗い川を眺めて、「木曽で『夜明け前』を体験」の実績解除だとほくそ笑んだのはいい思い出。
体温前後の(個人的なベスト温度帯の)ぬる湯ではないものの、適温&水風呂レベルの交互浴はある意味で癖になるし、ばっちり仕上がる。入浴後はなんだか身体がシャキッとしちゃった。二酸化炭素の効果もあったのかな。
なお、あがる際は肌をシャワーで洗い流さない派なのだが、タオルで拭いたらタオルに赤茶色が移ってしまって焦ったため、次の入浴時からは洗い流すことにした。
満足度の高いお食事をゆっくり堪能
夕食に出るもの出るもの、すべて良い
桟温泉の食事は朝夕とも1階広間にて。当時は2つの小部屋に仕切られており、ぼっち客の自分は別の団体さんと一緒に一方の小部屋が割り当てられた(もちろんテーブル席は別々だ)。最初の料理が出てくるまでと合間合間に少し待ち時間があるのは、作りたての料理を出してくれるからだ。夕食の最初がこちら。
前菜が、味噌で味付けした豆腐・わさびを加えた柿・きんかん甘露煮・ふぐ(って言ってたと思う)・からすみ、ですよ。いきなりすげーな。そしてでっかいきのこ入りの肉鍋。お酒は地酒の中乗さんにしてみた。新酒だそうだ。フレッシュな味わいですいすい飲めるもんで、おかわりしちゃった。
続いては馬刺しと鮎とホニャララあんかけ。とろりとした食感の馬刺しがたまらんぜえ。
まだまだ終わりじゃない、宴は続く
まだまだあるよ。一般的な里芋でなくヤツガシラを使い、白子と組み合わせるあたりが実に心憎いですな。
天ぷらも出てきました。食材にびっくりだ→いちじく・わかさぎ・ふきのとう。この季節にふきのとう…だと…?
「ああ、お腹いっぱいでもう入りません」からの釜飯キターー!! これまたきのこたっぷり&牡蠣入りとくれば、残すわけにはいかない。が、結局は完食できずで敗北。お吸い物に松茸入りってのがすげーな。
お腹いっぱい、夢いっぱい。なんというか、食材のチョイスと、それらの組み合わせの妙がとてもすばらしく、お味と意外性を楽しむ夕食となった。ソース・クリーム・マヨ系でべっちょりの味付けにしていないのも個人的に評価高い。
朝食もたっぷりゆっくりどうぞ
朝も結構すごいよ。蒸し野菜がたっぷり出てきてびびったわ。ごまだれでどうぞ。昆布の上に乗せられた豆腐がニクいね。
ふだんの雑な食生活からくる低い解像度では気づかない技や工夫がきっといっぱいあるんだろうな、と思料いたします。ご飯はお櫃にたっぷり入っているから好きなだけどうぞ。食後はコーヒーとチョコレートが出てきて優雅なひと時。
個人客が旅館の食事にかける時間は一般に夕食60分・朝食30分ってところだろうか。当館は量が多めなこともあるし、料理が次々に出てくるスタイルだし、ゆっくり楽しむ雰囲気もあり、所要時間は長めにみておくべき。ワタクシの場合はそれぞれ120分・60分かかったので。このため朝食後にラスト入浴する余裕がなかったけど後悔はしていない。
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冷たい源泉風呂が主役であることを考えると、温泉目当てで行くなら夏向きなのかもしれない。温度差のある温冷交互浴は結構癖になるし、二酸化炭素泉の泡体験がいいね。そして食に関しても良い体験ができた。お料理を目当てに来てもいいくらいだと思った。こういう出会いがあるから温泉めぐりはやめられない。
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