土湯峠の秘湯で楽しむ白と赤の競演 - 鷲倉温泉 高原旅館

鷲倉温泉 高原旅館
福島市と猪苗代町の間にある土湯峠。ここには秘湯系の温泉宿が点在している。ちょっとややこしいことに、福島市側の麓に土湯温泉および奥土湯を称する温泉宿があるが、ここで話題にするのは峠を登ったところにある土湯峠温泉郷の旅館群だ。それらを指して奥土湯と呼ぶこともあるからややこしい。

そのうちの何軒かは過去に泊まったことがあるものの、当時は温泉趣味に目覚める前だったから、宿泊ついでの慌ただしい入浴となり、温泉面があまり記憶に残らなかった。

ちゃんと堪能しておけばよかった…ということで、当時のメンバーの一部とともに、今度こそ温泉をメインに据えて挑んだ先は鷲倉温泉・高原旅館。2つの源泉をかけ流しで楽しめる。

鷲倉温泉 高原旅館への道

なぜか飯坂温泉の紹介になっちゃってます…

旅の2日目、我ら一行は高湯温泉・玉子湯をチェックアウトして高湯不動滝へ行ってみることにした。滝へ向かう途中までは車で行けるらしい。だんだん狭くなる道路を登っていくと駐車場があった。そこで目にしたものは…
高湯不動滝遊歩道前の駐車場
「熊出没のため通行止」の張り紙。えー!! しかし出ちゃったものはしょうがない。泣く子と地頭と熊とスズメバチには勝てない。無理せず引き返した。熊に制圧された高湯不動滝よ、さらば。

次に向かったのが奥州三名湯の一角をなす飯坂温泉。過去に共同浴場の波来湯に入ってみたら、とんでもなく熱かった(それでも共同浴場の中ではマイルドな部類だとか)。ぬる湯を好む我々は、お風呂に入るつもりはなくて、温泉街をぶらついてみたかっただけ。

旧堀切邸と鯖湖湯が見どころ

波来湯・旧堀切邸お客様向け駐車場を見つけて車を置いた。徒歩数分のところにある旧堀切邸は個人的に2回目の訪問となる。入場無料。
旧堀切邸
十間蔵そばの紅葉がちょうど見頃できれいだった。
旧堀切邸の紅葉
主屋の中を見学できるので入ってみましょうか。
主屋
内部の部屋は3つの蔵に通じていて、蔵の中にいろいろと展示物がある。理解が浅いため詳しくは説明できません。
主屋からつながる蔵
敷地内に足湯・手湯コーナーがあるのはさすが飯坂だね。
足湯・手湯コーナー
旧堀切邸の裏門を出るとすぐに現れるのが飯坂のシンボルともいえる共同浴場・鯖湖湯だ。
鯖湖湯
すぐ隣は鯖湖神社とお湯掛け薬師とほりえや旅館。
鯖湖神社

温泉むすめを探せ

それから飯坂温泉駅まで歩いて、これまた飯坂を象徴する十綱橋を記念撮影。
十綱橋
駅には温泉むすめ・飯坂真尋ちゃんをフィーチャーした真尋神社があった。そうと知らなければ通り過ぎてしまうかもしれない場所。オレでなきゃ見逃しちゃうね。
真尋神社
十綱橋を渡って愛宕山公園へ歩いていく途中にあったのが共同浴場・仙気の湯。見るだけで入らない我ら。
仙気の湯
愛宕山公園は坂がきつそうだからパス。駐車場へ戻りつつ、最後に摺上川と旅館群と紅葉を記念撮影。すっかり飯坂温泉の観光記になっちゃった。
摺上川
じゃあ鷲倉温泉に向かいましょう。走りやすく整備された土湯バイパスの途中から旧道に入って、くねくね山道をしばらく走ると到着。我々は旧道を走る距離を短くするため、バイパスを峠の終わりまで走りきった後、反対側から旧道に入って戻るようなコースを取った。

※2025年2月の寒波時に起きた土湯峠の雪崩は、我々が取ったコースではなくて素直な行き方をした場合の旧道上で発生した模様。野地温泉とともに鷲倉温泉も孤立したが冬季休業中のため宿泊客はいなかった。


わりと新しめの雰囲気がある秘湯宿

当館の背後は地獄谷になっているのか、噴煙もくもく。いかにも温泉湧いてますって感じだな。
背後に噴煙が上る鷲倉温泉
では入館。日本秘湯を守る会に加盟しているだけに秘湯宿らしさを残しつつ、万人向きの洗練された雰囲気を醸し出している。
鷲倉温泉のロビー付近
こけしの展示なんかもあったな。で、こちらがお土産コーナーでございます。
お土産コーナー
我々は2階の2部屋に分かれて入った。どちらも8畳+広縁和室だった。布団は夕食中に敷いてくれるクラシック方式。
鷲倉温泉 8畳客室
トイレ(シャワートイレの操作パネルが壁に付いてたがボタンを押しても反応しない)・洗面台あり。金庫あり、空の冷蔵庫あり、WiFiあり。ウェルカムお菓子に加えて各自1本ずつのミネラルウォーターが置いてある。内装・設備は適宜更新されているようで、わりと新しめな感じだった。
窓から見える景色
窓の外は我々が走ってきた旧道と、その向こうに山が広がっている。方角的に吾妻小富士か?…よくわかんないや。


白と赤のすぐれた温泉を行ったり来たり

タマゴ臭に包まれた白の湯

鷲倉温泉の大浴場は3箇所。標語的に言うと「白の湯が2箇所・赤の湯が1箇所」…1階廊下の一方の端に白濁硫黄泉の男女別内湯と貸切露天風呂があり、他方の端に赤茶色な緑ばん泉の露天風呂がある。

最初に白の湯の内湯へ行ってみた。分析書によれば「単純硫黄泉(硫化水素型)、低張性、弱酸性、高温泉」とのこと。PH5.8。はっきりした記述は見当たらないものの、加水あり、加温・循環・消毒なしといったところかと思われる。

浴室に入るなりプ~ンとタマゴ臭が漂ってきた。さっそく来ましたね。カランは4台でシャンプー・リンスには各地の秘湯宿でおなじみの秘湯くまざさシリーズが使われている。内湯浴槽は横並びに7~8名が入れるサイズで半分ほどが浅めに作られている。※浴槽底の段差を指摘する注意書きあり。

やや熱めの硫黄泉

お湯は完璧な白濁。照明の具合によるせいか、前日の玉子湯を青白系だとするとこちらは無彩色に近い乳白色、もしくは緑白系の印象を受けた。湯の花の様子もどことなく違っているように見える。漂う白い粒がもはや認識できないくらい細かな微粒子になったような。

お湯の匂いを嗅ぐと、当初感じた強さのタマゴ臭はなく、ずいぶんマイルドな硫黄臭だった。もっとも単に鼻が慣れてしまっただけかもしれない。温度はやや熱めだから長く入り続けるのは難しいだろう。

なお、この浴場にはもともと露天風呂があったっぽい。出入口の跡もある。現在は閉鎖されて内湯のみとなっている。

自由に入れる貸切露天風呂がなんとも贅沢だ

内湯の帰りに貸切風呂の前を通りかかったら、ちょうど空いてたから、これ幸いとすかさず入った。好機を逃したばかりに以後ずっと利用中ばかりでノーチャンスってことになると悲しいからね。貸切風呂は無料かつ予約不要で、空いていれば何回でも利用できる。入る際は札を「入浴可」から「利用中」にひっくり返して浴室の内鍵をかける。

独立した脱衣所はなくて風呂の脇に脱衣かごが3つ置かれている。カランは1台。5~6名サイズの浴槽は岩風呂じゃなくて木製だった気がする。泉質やお湯の主な特徴は内湯と同じ。ただしぬるめで入りやすかった。我々の好みとしてはこちらに軍配が上がりますね。

あー、こいつは心地良いな。ゆっくり浸かれるから温泉気分のご満悦タイムも持続しやすいわけで、大変結構なり。斜面+草木の茂みに面しているためパノラマ絶景というわけではないが、山の秘湯の雰囲気は感じられる。これほどのお風呂を自由に貸し切って入れるというのは相当な特典ではないかな。

白の湯とはまた別の良さがある赤の湯

夕食後は赤の湯へ行った。館内スリッパをサンダルに履き替えていったん外へ出ると、目の前に「岩根の湯」という湯小屋が立っている。
鷲倉温泉 岩根の湯
中に入ると飲泉所があるけどコロちゃん対策のため利用中止で残念。男湯・女湯に分かれた先は、まず簡易的な脱衣所、続いて露天風呂が現れる。そういえば分析書は「酸性-含鉄(II・III)-アルミニウム-硫酸塩泉、低張性、酸性、高温泉」となっていた。PH2.7。ふむ、緑ばん泉ですな。正確な定義は知らないけれど。

洗い場はなし。5名サイズの岩風呂に配されている岩はすっかり赤茶けており、温泉の強さを物語っている(ネット情報だと女湯は木の浴槽みたい)。お湯も赤茶色に濁っているのかと思えば無色透明だった。あれっ、そうなの?…底や側面を固める岩の赤茶色が透けて赤湯に見えているっぽいね。それとも日々のコンディション次第で濁ることもあるのかな。

ぬるめの適温で浴感が不思議なほどに良い。あるメンバーは白の湯よりもこちらをいたく気に入っていた。湯の花や泡付きは確認できずで匂いは弱めの金気臭。露天風呂からの景色は貸切風呂に似て斜面+草木。風情も湯質も大変結構ですな。

もちろん翌朝起床後とチェックアウト前にも入浴。特徴が異なる白の湯と赤の湯を行き来するだけで楽しいし、温泉がお肌と体調にとても効いてるような気がする。今回は貸切風呂を含めて特定の1箇所に客が集中することなく、わりと分散していて、余裕ある人口密度の中でゆったり入れたのもよかった。


多彩な品に誘われて、ついつい食べすぎてしまう

夕食の品数に圧倒される

鷲倉温泉の食事は1階の大広間で。部屋ごとに決まったテーブル席に通される。テーブル同士は十分に離れていて全然密ではない。時間は夕食18時、朝食7時半に固定。

夕食のスターティングメンバーがこちら。いきなり圧倒される品数なんですけど。
鷲倉温泉の夕食
お造りにカツオが入ってたのはよかったな。ふだんなかなか食べる機会がないんでね。エビの皿に入ってる黒い羊羹みたいなやつは本当に羊羹だったっぽい。ここで甘味を入れてくるとはあなどれん。お肉はしゃぶしゃぶしていただきます。釜飯はできあがりに30~40分かかるとのことで最初から火が入る。

最初の品だけでお腹いっぱいになりそうなのに、途中で鮎の塩焼きと天ぷらだったかが追加されてエラいことになった。食べ切れねえー。ビールの炭酸でも胃が膨れちゃってたんで。しかしうまいことはうまいので、残すには忍びなく、なんとかやっつけていった。

さすがに釜飯の完食はあきらめた。おこげを含む部分を中心にダイジェスト版の分量だけいただいて終了。誇張でなく本当にボリュームたっぷりの夕食だった。

朝からガッツリもやむなし

朝食もなかなかですぞ。こりゃ昼ごはん抜きでも大丈夫だなと思ってしまうくらいの品揃え。
鷲倉温泉の朝食
野菜ジュースは本来ヨーグルトなのでそのつもりで見てください。鮭・明太子・梅干し・味噌(?)というだけでもご飯が進んでしまう。自分は夕食を消化しきれてなくてセーブ気味にご飯一膳ですませたが、他のメンバーは耐えきれずにおかわりしていた。「こんなのおかわりしちゃうよねえ」とのこと。

朝食が7時半だと食後からチェックアウトまで時間的余裕がある。つまり最後の入浴タイムを長めに取れる。なんとなく得した気分で、さあて赤か白か、白か赤か、どっちにしましょうかね。

 * * *

すぐれたクオリティの2種類の源泉を楽しめるのは結構なアドバンテージではないかと思う。しっかり堪能するためにも慌ただしい計画にせず、時間に余裕を持って臨みたいところ。今回の我々はそのようなポリシーの下で行動し、おかげでとても満足した。

近くの磐梯吾妻スカイラインは11月中旬から4月上旬まで冬季通行止めになり、当館も同じような期間が休業となる。旅館に泊まれてもスカイラインは走れない、あるいはその逆という微妙なタイミングのあやもあり得るので、4月・11月に訪れる場合は注意されたい。