日本三大峡谷といえば黒部峡谷(富山)、大杉谷(三重)、そして清津峡(新潟)。清津峡には過去に2度訪れたが、清津峡の入口にある清津館という旅館が気になっていた。日本秘湯を守る会の会員宿ってことで、つまりは秘湯ロマンを期待できるし、川を眺めながら入る貸切露天風呂を体験してみたい。加えて露天風呂はぬるいという情報を知ったので、ぬる湯好きとしての興味もあった。
秋の新潟遠征でいよいよその機会が訪れた。天気は良くなかったですけどね(雨の露天風呂になってしまった…)。ゆで卵の匂いがする単純硫黄泉はなかなかのクオリティ。ぬるいのはごく一部で、ほかはマジョリティが好む普通の適温風呂だから一般の方も大丈夫。
清津館へのアクセスと清津峡見学について
清津館と清津峡は実質同じ場所
清津峡が有名観光スポットだけに清津館へは電車+バスでアクセスできる。と思ったら、バス停から1.8kmほど歩く必要があった。新幹線が停まるJR越後湯沢駅から森宮野原行きバスで清津峡入口下車。1日4本の運行だから注意。バス停から当館までは車のすれ違いがしんどい細い道を徒歩20分。一応、バス停までの送迎サービスはあるようだ(要連絡)。
今回は自分の車で行った。旅の2日目に寺泊温泉北新館をチェックアウトし、長岡の寺宝温泉に立ち寄り湯してから、下道を走って清津峡まで来た。移動中に強い雨が降ってきてしまい、あーあって感じ。せっかくの絶景が…。
そこで清津峡の見学を翌日に延期したのだけど、ここでは時系列を無視して先に紹介しておこう。ちなみに翌日の天気も雨でした。
宿泊者ではない一般観光客向けの第1駐車場が清津館の手前にある。ただし行楽シーズンはすぐ満車になってしまうと思われる。運悪くあぶれたら、もっと遠い第2・第3駐車場に止めて歩かなくてはならない。第1駐車場からであれば数分で清津峡トンネルの前に着く。
アートな空間となっている清津峡トンネル
清津峡見学とは、このトンネルを歩くことにほかならない。トンネルは意外と長くて往復30分以上みたほうがいいね。
途中に3箇所の横穴(?)があって、そこから峡谷の様子を覗くことができる。そそり立つ崖が柱状節理になっているのが見どころだ。
終点はアートな空間になっている。床面に浅く水を張って鏡のようにしているのだ。これが映えるということで人気を呼んでいる。
人が写っていない写真を撮ることができたのはかなり運が良かったと思う。ひっきりなしに見学者がやって来て、開口部のところで記念撮影をしたり、しばらく佇んだりするのが普通だから、どうしても人間が写り込んでしまうのだ。人波が途切れるシャッターチャンスを待っても無駄でしょう、普通は。
開口部に立つとこのような風景が展開している。絶景のクライマックスといったところか。
もっと詳細な内容・晴れた日の様子については6年前に初めて見学したときの体験談にまとめてある。なお、清津館に泊まると入場料が100円安くなる割引券をくれる。
景勝地の秘湯宿
さすがは清津峡カラーが強い
当館には宿泊者専用駐車場があるので、一般用の第1駐車場が仮に満車でも気にせず先へ進むべし(誘導員のおじさんには「清津館に泊まります」と言えば通してくれる)。ではチェックイン。フロント横にお土産コーナーがございます。
その隣にコーヒーやお茶のセルフサービスがある休憩コーナーと食事処。
ほかにロビーやマッサージチェアなんかもあったが、一番目についたのがこの展示。
チェックインの際に貸切露天風呂の時間を予約する。宿泊中に1回30分に限り無料で利用できるのだ。2回目以降は各300円となる。
古き良き雰囲気の部屋
案内された部屋は3階。階段で上っていく途中、2階でこのような展示を見かけた。
当湯のサブタイトル「薬師の湯」の由来を説明している文章に名刹・雲洞庵との関わりが触れられていた。和尚様が薬師如来像を清津の郷の守りとして安置してから云々あって温泉を発見したっぽい。雲洞庵にはおじさん何度も行ってるからね~。こんなつながりがあったとはね~。
さて、今宵のお部屋は10畳+広縁和室。なかなかに古き良き旅館の雰囲気があって良さげ。布団は最初から敷いてあった。
トイレは共同。3階の男子トイレは、たしか小×2・和式個室1・洋式個室1だったかと。洗面台は部屋に付いてる。金庫あり、別途精算のビールなどが入った冷蔵庫あり。WiFiは1階ロビー付近のみであり、部屋では使えなかった。
季節柄カメムシは避けられない。窓や戸を閉め切ったつもりでもどこからか侵入してくるのが奴らだ。慌てず騒がず、備え付けのガムテープで捕獲して包んでくずかごへお連れしよう。窓は第1駐車場の方角を向いており、中間に立つお土産屋さんなどが並ぶ景色だった。
景観と湯質にすぐれたお風呂
貸切露天風呂限定で体験できるぬる湯
貸切露天風呂をチェックイン直後の時間帯で予約していた。移動中は強い雨だったけど、現地はぎりぎり降り出す前だったから今のうちにと。しかし浴衣に着替えていざ出陣というタイミングで降り始めちゃった。あーあ。
本館を出て清津峡トンネルへの道を横断すると露天風呂小屋がある。小屋に入って内鍵を締めると、そこが脱衣所だ。掲示されている分析書には「源泉名:薬師の湯、単純硫黄温泉、低張性、アルカリ性、高温泉」と「源泉名:小出2号泉、含硫黄-ナトリウム-塩化物温泉、低張性、アルカリ性、温泉」の2種類があった。寒期のみ加温あり。
岩風呂が2つあるのは2種類の源泉に対応しているのだろう。手前側が小さくて1名用、奥が3名用。お湯の見た目はどちらも似ていて違いはわからない。濁りのない青みがかった緑色をしている。
手前はぬる湯と呼べるくらいにぬるかった。体温前後なんじゃないかな。こっちが小出2号泉でしょう。そしてお湯はゆで卵のような匂いがして硫黄感たっぷり。自分の好みにピッタリはまる。時おりダークな綿毛風の湯の花がふわふわ漂うのが見られるのも頼もしい。泡付きはなし。
今回は一人旅だからいいけど、もう少し広ければなあ。2~4名のグループで来るパターンも多いだろうから、そういう場合は交代で入ることになるのでね。
清津川を眺めて入る薬師の湯
隣の3名サイズは熱めで41か42℃くらいに感じた。こっちが薬師の湯だね。長く入り続けるのは難しいね。クールダウンタイムを挟む必要があるだろう。寒い時期の屋外ならちょうどいい感じかもしれない。温度以外でぬるい方との特徴の違いはよくわからなかった。
貸切露天風呂のセールスポイントは、清津川のそばに作られているために川見風呂を楽しめることである。一般観光客は川沿いの道を歩くだけなのに、自分はさらに川に向かって突き出た露天風呂に入りながら峡谷を予感させる景色を眺めている…なんだかすごい特別感&優越感だなあ。※下の写真は露天風呂付近の道の上から撮影した清津川。
あいにくの雨模様の中での入浴となったが、脱衣所に山笠が置いてあるからそれを頭に乗せてしのいだ。主にぬるい方に集中したものの、ぬる湯に30分はあっという間である。早くもタイムリミットが迫ってきた。温度と湯質がばっちりなので惜しいけど仕方がない。ずっと雨だったし2回目にはチャレンジせず。
館内のお風呂は熱めでパワフル
あとは夕食前・寝る前・翌朝起床後に館内2階の大浴場へ行った。こちらは薬師の湯を使用。加水・加温・循環・消毒すべてなしの湯使いは立派。
浴室にカランは5台。うち2台がシャワー付きで3台はシャワーなし。あとは四角いタイル浴槽が1つ。向かい合わせを許容せず横一列に並んで入ると詰めて4名までのサイズ。向かい合わせOKなら2名×3組で6名いけそう。お湯は露天風呂と違って緑みのない無色透明に見えた。なんでしょうね。
浸かってみると熱い。実際は適温なんだろうけど、個人的な体感では熱い。ちょっと浸かっているだけでグワーッと攻め立ててくるような力強さがある。硫黄成分やらなにやらの温泉効果ですかね。こりゃあ効くわ。湯の花や泡は見なかったが、ゆで卵臭はしっかりと感じられた。日常を離れた温泉気分は十分に味わえる。
なお、朝だけは適温の範疇で比較的入りやすい温度だった。これくらいフレンドリーだとありがたいね。湯あがりは期待した通りにお肌つるつるになる、美肌の湯でもある。
期待に応えてくれた清津館のお食事
夕食は個人的に鯉の刺身に注目したい
清津館の食事は朝夕とも1階の食事処で。夕食は18時、朝食は8時で固定。少なくとも自分は朝も夕も同じテーブル席だった。
夕方の風呂あがりにビールを飲んでいたため、夕食時は日本酒飲み比べセットを注文。スターティングメンバーの料理とともにこうなった。
山の味覚ぽいものが並ぶ。前日が寺泊の海鮮主体だったからちょうどいいわ。とくに印象に残ったのが川魚の刺身で、鯉と美雪ますを生ワサビでいただくのだが、鯉が今まで体験したことがないほどに洗練されている。なめらかでとろりとした食感と臭みのない上品さ。スジや小骨がゼロ。はい優勝。
鍋は鴨鍋だったかと。途中で追加されたヤマメ(?)塩焼きとともに。
飲み比べセットは超地元ぽい銘柄の清津峡と、同じく近隣の自然をイメージさせる苗場山(どちらも苗場酒造だった)、そして個人的に好きな鶴齢(青木酒造)をチョイス。まあふだんは日本酒を飲んでないし、利き酒ができるわけでもないんですけどね。うっかりしてたのが日本酒1杯サービスプランを予約してたらしく、途中でチェイサーの水を持ってきてくれたのかなと思ったら、苗場山がもう1杯増えた。お、おう…。
朝は温泉粥と魚沼の新米を堪能
朝はすっきりとした目覚め。前夜の酒は残っていない。おじさんをなめてもらっちゃ困りますぜ。ではさわやかに朝ごはんをいただきましょうか。
豆乳から作った豆腐的なやつと自分で作るハムエッグ、ゆえに目の前にあるのは生卵。ほかにセルフサービスの牛乳やジュースもあった。お米に関しては、最初に温泉粥が運ばれてくる。あー、なんだかホッとするわね~。
続いて普通の白米が来た。言うまでもなく新潟魚沼の新米だからうまいに決まっている。あー、どうしよっかなー、おかわりしようかなー、と迷っているうちにお腹がいっぱいになってきて脳内に終了のホイッスル。あ゛ーー、しま゛ったあ゛ーー、満腹感をごまかしてでもおかわりすべきだったか。
食後は最初に書いたセルフサービスのコーヒーをいただいて終了。茶釜の中のお湯を注ぐギミックが面白い。
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安定した満足感を期待できる秘湯宿である。清津峡トンネルのすぐそばという恵まれすぎたロケーションと、地の利を生かした貸切露天風呂がやはり強みであろう。内湯のいかにも効いてますというような力強さに関しても刺さる人は少なくないと思われる。薬師如来のご利益ですかね。