新潟の寺泊は魚市場のイメージが強い。おいしい魚を食べに/買いに行くところ、あるいは日本海側の海水浴場、もう少しイメージを膨らませても…今は廃止されてしまったが…佐渡へのフェリーが出ていた港、といったところを思い浮かべる。温泉のイメージはなかった。
しかし、とくに決まったあてもなく長岡周辺で温泉宿を探していたところ、たまたま寺泊温泉北新館を見つけたのである。2種類の源泉を持ち、しかもぬるめだと書いてある。個人的な好みでぬる湯は大歓迎。いいんじゃないの。
場所が場所だけに食事は地元で仕入れた魚介が中心だろうし、その品質に間違いはないはず。うまい魚と米と酒、そしてぬる湯を期待して行ってみた。
寺泊温泉 北新館へのアクセス
北新館周辺の見どころ「トキみ~て」
徒歩圏には鉄道駅もバス停もない。当館のアクセス案内によればJR越後線・寺泊駅からタクシー10分とのことだ。新幹線駅で下車する場合は長岡からバスで寺泊駅まで行く(その後は先の通りタクシー)か、燕三条からタクシーで40分。昨今はタクシーもそう簡単につかまらないからなあ。
今回は自分の車で行ったので融通は利く。関越道長岡ICを出て、先に三島谷温泉永久荘へ立ち寄り入浴してから、北新館へ向かったのだった。だが時間的に余裕があったため、当館から3kmほどのところにある「トキと自然の学習館 トキみ~て」を見学することにした。100円。JAF会員なら50円。
ここでは飼育しているトキを一般公開している。おかげで佐渡まで行かずともトキを見ることができてしまう。飼育ケージ内でも運良く観覧通路寄りにトキがいてくれれば本当に間近に姿を拝めるのだ。当時は比較的近いところにいてくれた。ガラス窓+網越しですが。
羽は淡いピンク色=文字通りの朱鷺色。このような美しい色は9月~12月だけで他の時期は黒っぽくなるらしい。ちょうどいいトキ…じゃなくて時に来たな。しかも1日3回ある餌やり時間だった。
過去に佐渡へトキを見に行ったことはあるが、こんなカジュアルにトキと会える場所があるとは思わなかったぜ。お隣の建物にはトキの卵の模型や羽根の展示がある。
そして建物の2階は寺泊民俗資料館になっている。
日本海を見てから北新館へ
まだだ、まだ北新館じゃないよ。この旅では「愛車で日本海まで行く」フラグを立てる野望もあった。明日からの天気は良くないらしいから、今日のうちに日本海を見ておこう。トキみ~てから車で10分、寺泊水族博物館の前で実績解除。
と、ここまでやってようやく北新館へ。水族博物館から5分ほど。高台の林に囲まれたロケーションなので海は見えない。
温泉だけじゃない、よさげな雰囲気の旅館
スリッパいらずの宿
敷地の道路寄りのところに温泉と関係してそうなタンクのような設備があった。なせだか期待が高まる。
ではチェックイン。ロビーはすっきりした感じ。
こちらがお土産コーナーでございます。写真には写ってない近くの冷蔵庫内にビールが入っていて、湯あがりに部屋付け精算で買って飲んだ。
そういえば入館時に靴を脱いだ後、スリッパを履くことはなかった。廊下にタイルカーペット、階段など一部は畳式カーペットが敷かれているから、裸足でお過ごしくださいの宿なんだろう。
こちらは食事処の前。各所で照明をうまく使って、いい感じの雰囲気を出す工夫をしている。
一人泊にはもったいないくらいのお部屋
案内された部屋は10.5畳和室。布団は最初から敷いてあった。管理状態は良好で文句なし。
押入れかな?と一瞬思ってしまったふすまを開けると洗面所がある(案内時に教えてくれる)。
あとシャワートイレ付き。金庫あり、水ボトルの入った冷蔵庫あり、WiFiあり。ウェルカムお菓子はゴーフレットのほかに一切れの塩ようかん。正確な商品名は「塩たき」で寺泊の銘菓だそうだ。甘すぎないのがよろしくて、気になったけど結局買わずにすいません。
障子を開けて見える景色はこのような感じ。右手が内陸・トキみ~て方面、左手が日本海・水族博物館方面だ。
きんさん・ぎんさん、2種類の源泉
ニコイチ浴室かもしれない
北新感の大浴場は1階の奥。自分の部屋からだと階段下りてすぐ。男湯女湯が入れ替わることがありますと、どこかに書いてあった気がするけど、当時は入れ替えなし。
脱衣所に2種類の分析書が貼ってあって、銀の湯と名付けられた1号源泉が「ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉、低張性、弱アルカリ性、冷鉱泉」で加水なし、加温・循環・消毒あり。金の湯と名付けられた2号源泉が「含ヨウ素-ナトリウム-塩化物強塩温泉、高張性、弱アルカリ性、低温泉」で温水を加えて温度調整するために加水・加温あり扱い、循環なし、消毒あり。
浴室はもともと2つに分かれていたのを1つに統合したような様子で、その分だけ広く感じる。実際どうだかは知らんけど。手前側の元浴室Aだったらしき場所の洗い場跡はもろもろ撤去されて、奥側の元浴室Bだったらしき場所に5名分の洗い場がある。
金の湯はぬるい強塩泉
では手前側からいこう。こちらには金の湯の浴槽がある。みんな横並びで入るなら4名まで、向かい合わせになってよければ7名くらい入れるサイズ。お湯の見た目は浴槽の底がぎりぎり見えるくらいの濁った茶色。なるほど金の湯ですな。
浸かってみると、ぬる湯と呼んで差し支えないレベルでぬるく、その気になれば30分や1時間でも入れそうだ。温水を加えているおかげで高張性の強塩泉でもそんなにガツンガツン攻めて来ないし。ぬるい温泉に長く入ることを期待して来た身としては当たりです。
湯の花はちょっとあったかもしれんが泡付きはなかった。匂いは微弱なアブラ臭。湯口からの投入量は多いわけではないが、少し間をあけて入り直すたびにザバーっと結構あふれ出ていくから、それなりだとは思う。床の上は赤茶に変色しており、温泉成分ばっちりね。
お風呂が金の湯だけだったら連続1時間浴していたと思う。実際は金の湯15分→銀の湯5分を繰り返すスタイルになった。ちなみに滞在中の浴室は誰も来ずつねに独占で、金の湯狙いの客で順番待ちみたいなことはあり得なかった。
適度なぬくぬく感と微濁りがある銀の湯
奥側には銀の湯の浴槽がある。こちらは向かい合わせになれる奥行きがなく、横並びで7~8名くらいのサイズ。お湯の見た目は無色透明に近い。ただし微妙に白っぽい濁りがあって完全にクリアじゃない。なるほど銀の湯ですな。
温度はぬるめ。39℃くらいかな。ぬる湯と呼ぶには若干ぬくぬくしているし…そのぬくぬくが気持ちよかったりするんだけども…30分や1時間入り続けるのはちょっと苦しいかと思う。一方でお風呂42℃神話を信奉する方が入ると「なんだかぬるいなあ、温泉はもっと熱くないと…」って感想を抱くかもしれない。
湯の花や泡付きは確認できず。匂いもこれといった強い特徴なしで塩素臭もしない。湯口からの投入量は金の湯よりも多いものの、縁からオーバーフローしている様子は見られない。しかし床の上は白い析出物で覆われていたので温泉成分はばっちりでしょう。窓の外は一面ヤブのような草地でパノラマ的な眺望ではない。
余談として足湯跡についても触れておこう。フロントから大浴場へ向かう途中に「外の喫煙所へ出入りするため」らしきガラス戸があった。外を覗いてみると足湯跡がある。
足湯に関して案内や説明はとくに書いてなく、見学してもらう意図もなさそうなので、喫煙者以外は気づかず通り過ぎる可能性が高い。オレでなきゃ見逃しちゃうね。
米どころ・酒どころ・魚どころならではの食事
期待通りの海の幸を地酒とともに
北新館の食事はそれぞれ別の食事処にて。夕食は18時か18時半かくらいの選択肢はあるようだ。場所は1階大浴場よりやや手前のところ。大広間を仕切って個室にしてくれてた。夕食のスターティングメンバーがこちら。控えめプランにしてたのでそのつもりで見てください。
枝豆とロールキャベツ以外はシーフード系だ。刺身はこのあと持ってくると言ってたし、決して量が少ないってわけでもなさそう。風呂あがりにビールを飲んでたから、これ以上お酒で腹が膨れないように日本酒飲み比べセットを頼んだら、刺身とほぼ同時に出てきましたよ。
はい来た寺泊の刺身。ひらめが3切れ、あとは2切れずつブリ・鯛・タコの頭・甘エビ。一人でこれなら十分すぎる。細かい評論はできないが新鮮でうまい。寺泊まで来た甲斐があったぜ。お酒は長岡和島の地酒=池浦酒造の心月輪(純米)、阿賀町麒麟山酒造の麒麟山遠雷(吟醸)、関東でも名前をよく聞く村上市宮尾酒造〆張鶴の雪(特別本醸造)。いずれも評論不能なれどうまい酒です。
米どころの新潟だから締めのご飯まで期待大。新米の季節だしな。お上品な魚のお吸い物とともに。米がうまいのは偉大ですわ。おかわりできますと言ってくれたし、可能ならぜひそうしたかったが、予想通りにお腹がいっぱいになっておかわりできず残念なり。
なお、通常プランだと品数が増える中にタコしゃぶがあるらしい。自分は道北の豊富温泉で食べたけど、あれはうまかった。胃の容量に自信のある方はぜひ通常プランをどうぞ。
朝食でコシヒカリを食べまくる
朝食は8時か8時半かくらいの選択肢はあるようだ。場所はフロント近くのラウンジを兼ねた風の場所(個室ではない)。小鉢がいっぱい並ぶ系のスタイルで攻めてきた。
しつこいようだが米がうまい。テーブルに置いてあったメモによれば地元農家さんが育てた有機栽培コシヒカリだそう。いやあ~、困っちゃうな~、こんなにおかずがあるとおかわり必至だなあ~。写真に写ってない右側にお櫃があって好きなだけおかわりできます。
この布陣と地元コシヒカリの組み合わせで来られては、食が細い自覚のある自分もさすがにおかわりした。お櫃を空にすることはできなかったけれどもかなり頑張った。セルフでコーヒーも用意されており、頑張った満足感とともに食後のコーヒーを一杯。
* * *
自分が求める条件を満たす宿を思いもかけず寺泊に見つけて、ぬる湯と日本海の幸とうまい米と酒を堪能させてもらった。あのへんにぬる湯はない(ていうか温泉のイメージもない)だなんて、何事も思い込みはいかんという教訓ですな。
雰囲気・グレード感・料理の内容・客室の設計を考えると、決して一人旅やエコノミー感に偏った宿ではない。2人以上だったり温泉をマニアックに追求しない一般のお客さんこそマッチしやすい宿でしょう。自分のような人種はその末席にちょこっと混ぜてもらえればOKだ。