目を見張るアワアワぬる湯は名湯の証明 - 霧積温泉 金湯館

霧積温泉 金湯館
秋という名の真夏と変わらない気候の中でスタートしたグループ旅行の2泊目は、碓氷峠の霧積温泉金湯館。山奥の一軒宿で涼しい土地みたいだし、温泉もぬるいことで知られている。今の我々にぴったりじゃないか。

霧積温泉に関連するフレーズで有名なのが「母さん、僕のあの帽子どうしたでしょうね」…人間の証明ですな。小説を読んだことはないが映画は近年の何かの媒体で鑑賞した気がしなくもない。詳細は覚えてないけど。ある殺人事件をめぐる物話であり、事件の舞台のひとつが霧積温泉なのだ。

当館はいろいろとすごかった。現地までの道、建物をはじめとする雰囲気はまさに秘湯。温泉はぬるくて超アワアワ。料理は夕食の天ぷらに大注目だ。

霧積温泉金湯館へのアクセス

車で行くなら十分に下調べを

霧積温泉金湯館は車で行けない。正確には旅館の前まで一般人が車で行ける道路がない。栃木の奥鬼怒温泉郷へ行ったことのある方は思い当たるフシがあるでしょう。かつて「きりづみ館」という旅館のあった跡地に車を置いて、(1)ホイホイ坂という山道を30分歩くか、(2)一般車が入れない林道を金湯館の車で送迎してもらうか。電車で行く場合はJR横川駅まで送迎してくれる。

送迎を利用する場合は前日12時までに連絡すること。なおかつ上記(2)を採用するなら、当日は駐車場に着いてから「いま着きました」連絡するのはNGで、碓氷峠旧道から県道56号が分岐する地点=玉屋ドライブインを通過するタイミングで一報入れなければならない。そこから先は携帯が圏外になる可能性があるためだ。

我ら一行はといえば、旅の2日目に万座温泉日進舘をチェックアウトした後は前日行きそびれた八ッ場ダムへ。しかし超絶混雑を目の当たりにして、対岸の湖畔公園展望スペースから遠望するのが精一杯だった。
八ッ場ダム
続いて嬬恋村の北軽井沢へ。草軽電気鉄道の旧北軽井沢駅舎を見学したかったのでね。
草軽電気鉄道 旧北軽井沢駅舎
こんなミニミニな列車が草津と軽井沢を結んでいたのか。乗ってみたかったな。
草軽電気鉄道の車両

ものすごい林道の奥にある旅館

碓氷峠旧道が土砂崩れによる通行止めのため、碓氷バイパス経由で玉屋ドライブインを通過し、宿に一報を入れる。ドライブインから先の県道56号は、途中からセンターラインが消えてとても狭い道に変わる。もし自分がドライバーだったら完全に泣きが入ってたな。運転される方はお覚悟を。頑張って行き切ると旧きりづみ館跡の駐車場に着いた。
金湯館駐車場(旧きりづみ館跡)
待つこと15分くらいで送迎車がやって来た。集まったお客さんを乗せて一般車通行禁止の林道に入る。この道がまたとんでもない。ぎりぎり車1台分の幅しかないし、路面状態も良くないし、道の片側は深い谷に落ち込む崖なのにガードレールがない。過去最恐の車道は米沢の姥湯温泉までの林道だったけど、それをも上回るレベルかもしれぬ。

当館は冬も営業するのが驚きだ。雪や凍結が当然ある中で県道56号だって走れる気がしないのに、この林道を送迎してくれるわけだよね。どういう運転で乗り切るんだろう。達人の技か。


歴史と自然に彩られた一軒宿

かつて避暑地として栄えたところ

送迎車を降りた地点は金湯館を見下ろすような場所だった。階段を下って近づいていく。
金湯館までの下り道
はい、下りてきました。
金湯館
シンボルともいえる赤い橋で旅館前の小川を渡る。霧積川の源流だろうか。水が非常に透き通っており、深さや流れの速さの感覚がつかめないくらいだ。
旅館前の赤い橋からみた霧積川
ではチェックイン。玄関入ってすぐのところに、謂れは不明ながら甲冑を飾っていた。
飾ってあった甲冑
また、人間の証明の作中に登場した温泉地であることを示すように、各種解説や展示があった。
人間の証明についての解説
かつてこの地域は避暑地として栄えており、別荘や旅館が何軒もあって、政治家や文化人がたくさんやって来てたみたい。現在の姿からは想像できないなー。

部屋へ案内しますの声についていくと、別の建物へ移動した。平成に増築されたという別館でしょう。
別館の建物
別館には専用の玄関があり、玄関の隣は自然の岩清水を豪快にかけ流す洗面所だ。
岩清水を使った洗面所

別館の3部屋をぶち抜いて利用

我々の入った別館の1階はなんと、3部屋をぶち抜いた8畳×3間。うち2間には人数分の布団が敷いてあった。居間に相当する残り1間がこちら。
別館の居間部分
トイレは共同。本館側の女湯近くに男女共用トイレ1つと、フロント近くに男子用・女子用がある。男子用は小1+シャワーなし洋式トイレの個室2。洗面所は先ほどの岩清水で。金庫なし、冷蔵庫なし、WiFiなし。部屋の鍵もありませんので気になる方は貴重品を預かってもらうなり相談してみては。

あとエアコンなし。たまたま異常な残暑の日で、さすがの霧積温泉も部屋が少し蒸したので扇風機に活躍してもらったが、下界のような苦しみ悶えるほどの暑さではない。

窓からは水車が間近に見える。宿泊客の中に海外の方がいて物珍しげに記念撮影してたな。
水車
泳ぐ魚の影がちらつく池もある。この魚が夕食に出てきたりして。
池
ハード面は全般にかなり年季が入ってるものの、それこそが歴史ある旅館なのだと思えば気にならない。周囲は自然がいっぱいで、いかにも山奥の秘湯の雰囲気に溢れている。

エピソードをひとつ…お風呂から戻った時だったか、別館の玄関を開けようとしてふと見ると、戸の格子に紐のようなものが絡みついてた。生き物っぽい…小さいヘビでした。たぶんシマヘビ。まだ小さいし、熊やスズメバチに比べたら危険じゃないし、むしろ益獣と思ってそっとしておいた。


名湯といわれる霧積温泉を体験する

素朴な風情のお風呂場

お風呂は本館1階に男女1箇所ずつ。別館からも近い。廊下に張り出された分析書には「カルシウム-硫酸塩泉、低張性、弱アルカリ性、温泉」とあった。いわゆる石膏泉ですな。源泉温度は38.9℃。はっきりと確認できなかったものの、加水・加温・循環・消毒のない源泉100%かけ流しのはず。

脱衣所の前に館内サンダルを脱いで置くようになっているので、それを見れば誰かいるのか・混んでいるのかはわかる。客同士あうんの呼吸でうまく融通し合って芋洗いを避けるとよい。みんなぬる湯にじっくり入りたくて来てるんだろうから、とくに週末の独占狙いはなかなか難しいとは思うが。

旅館の性格上、脱衣所も浴室も素朴なつくりだ。まあそのへんはみなさん承知の助でしょう。霧積温泉に来て露天風呂だのサウナだの脱衣所に洗面台とドライヤーが欲しいだの言わんでしょう。

あふれるお湯とまとわり付く泡

洗い場は4名分。現代風のカランではなくて、シャワーや温度調節機能のない素朴な蛇口からお湯が出てくる。このお湯は匂いと感触からして温泉じゃないかと思う。なおシャンプー・ボディソープはあります。

浴槽は4名サイズ。5名入るときつくなる感じ。隅っこの湯口にコップが置いてあるのは飲泉できるってことだろうか。軽く手で受けてごっくんしてみたらサラッとして飲みやすかった。源泉の投入量が多い分、あふれて出ていくお湯の量も半端ない。浴室の床はつねにお湯に覆われ、誰かが浴槽に身を沈めるたびにサバァーーーッと大量にあふれて床上が洪水状態となる。なんじゃこりゃあ。

お湯は無色透明で湯の花の存在は意識されず。匂いは若干硫黄ぽいタマゴ臭を感知した。そして泡付きがド派手にすごい。最初のうちは泡が付かない。で、ぬるいから長く入っていると、そのうち腕などに小さな泡が付着していることに気づく。いったんそのモードに入ると加速度的に付き始めるのだ。

やがて泡の粒が大きくなり数も増える。腕をちょっと動かすだけで、振り払われた泡が浮上してシュワーッと音を立てんばかりに(実際は立てないけど)プチプチと弾ける様子が目に入る。肌がなじんでくると、泡を払ってもまたすぐに付着するし。なんじゃこりゃあ。

心地よいぬるさ加減

ぬる湯の温度にもいろいろ幅がある中で、こちらは体温より1~2℃高いくらいだと思われた。爽快感というよりは、ほんのりぬくい安楽感。朝の布団の中でうだうだする心地よさに近いか。のぼせることなく長時間入り続けることができてしまう。ぬる湯の醍醐味は十分に味わえるだろう。

この日は人の出入りがわりとあって、適度に回転してあげないとな~という意識もあって、1時間浴を連発するような入り方はしなかったけど、臨機応変に立ち回りながら堪能させてもらった。ぬるくても湯あがりはぽかぽかで温泉効果はしっかり。お肌もいつもと違う普通じゃないスベスベ感。前日の万座温泉との合わせ技効果なんだとしても、こりゃすごい。


ごはんも思い出に残る内容

夕食の天ぷらに注目したい

金湯館の食事は朝夕とも部屋食だった。目安は夜が18時・朝が8時だけれども、「出来上がり次第、各部屋に順次お持ちしますので、だいたい30分前から構えていてください」とのことだった。了解です。

夕食は17時半前に運ばれてきた。四角いお盆いっぱいに乗せられて登場した第1陣がこちら。天ぷらの量がすげえ。
金湯館の夕食
いかにも山の宿という顔ぶれ。群馬だけに刺身こんにゃくがあるね。天ぷらは15種類だか18種類だかって書いてあるのを見たような。フロントのボードに本日の天ぷらリストが書かれていた記憶があるんだが、真面目に読まずにスルーしちゃった。今から思えばちゃんと読んでメモしておけばよかった。

かぼちゃ・さつまいも・きのこに加えて野草類が結構含まれていたのは、よそでなかなか見かけない具材で貴重な経験。物珍しいだけじゃなくてしっかりおいしい。

第2陣は鮎の塩焼きとビッグな豚汁。鮎は骨までばりばりいけた。具たくさんの豚汁はそれだけで結構なおかずになるレベル。
鮎の塩焼きと豚汁
天ぷらがボリュームあったし、その他の料理もあったし、ビールもたっぷり飲んでたし、締めのご飯は軽く一口が限界だった。ご飯おいしかったんだけどね。若い頃はチャクラを開いて胃の容量を一時的に拡張できたが、その能力はすでに失われて久しい。母さん、僕のあのチャクラどうしたでしょうね。

おかず軍団勢揃いの朝食

朝食は7時40分頃に到着。ひとつの皿に賑やかに盛り付けられたおかず軍団がとてもボリューミーに見える。
金湯館の朝食
きのこたっぷりの味噌汁がこれまたでかいっすね。卵は生だったと思う。おかず軍団はあるし、とろろはあるし、納豆に卵。これはご飯をたくさん食べろということかと、前夜のリベンジついでに意気込んでお櫃の前に立ったものの、まずは軽く一膳で様子見という弱腰…そしてそれきりで終わった。我ながら情けない。

キラキラ系でない素朴系のメニューをどう評価するかは好みによるとしても、個人的には朝も夕も、この内容とボリュームはお値段以上のレベルとみた。ちなみに食事中はテレビをつけていたが、民放は入るのにNHKは映らなかった。テレ朝もだめだったかな。参考までに。

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長年にわたって多くの人に愛されてきた霧積温泉金湯館。あの良質のぬる湯ならば納得だ。現代の視点で見ると、山奥の秘境にひっそりと佇む歴史ある一軒宿という存在は、少なくない人々にとって貴重、かつたまらない魅力に映ることだろう。霧積に麦わら帽子は見つからなくても、名湯は見つかります。