八幡平の地熱パワーを感じるモダン秘湯 - 松川温泉 峡雲荘

松川温泉 峡雲荘
八幡平周辺には、温泉めぐりを始めた平成末期以降に限っても、3回行ったことがある。それでもなお取りこぼし感が残っていた。岩手側がまったくノーマークだったこと、秋田側もなんだかんだで新玉川温泉しか訪れていないことだ。田沢湖~乳頭温泉地域を含めればいくらか増えるが。

八幡平エリアの温泉をもうちょっとカバーしたい…この感覚は完全に個人のコレクション趣味的なものだから、みんなを巻き込んだ旅行で達成しようとしても話がまとまらないだろう。単独でするっとクリアしてしまうのが一番だ。

ということで決行した一人旅の1湯目は松川温泉の峡雲荘。モダン秘湯の安心感ある雰囲気の中で見事な白濁湯を楽しめる。

松川温泉 峡雲荘へのアクセス

地獄の暑さを逃れて北へ

南関東の我が地元は終わりの見えない残暑が続く時期。八幡平の方は秋の気配が出てきて涼しくなっているのではないかとの下心もあった。7月末から8月初めにかけて大雨が東北を襲ったり、温泉めぐりのような進路だとSNSで騒がれた“ゆっくり”台風10号の影響でどうなることかと思ったが、旅行を断念するような事態には至らずにすんだ。

まず新幹線で盛岡へ。駅前で借りたレンタカーを走らせ、盛岡ICから東北道に入る。途中で小雨の降る区間もあった。今日の天気は雨から次第に回復する予報。まず峡雲荘で温泉に入り、その間に晴れてくれば八幡平の観光ができるかもな、と皮算用をしながらのドライブ。

松尾八幡平ICを出たら、アスピーテラインと樹海ラインが分かれるところまで行って、樹海ラインの方へ進む。あとは樹海ラインをずっと走ればいい。秘湯へ向かう道にありがちな、くねくねカーブの登り坂続きだけど、センターラインを引いてもおかしくない程度に幅のある道路で泣きが入るほどではない。大丈夫。

樹海ラインの状況に注意

途中で何度か地熱発電所の看板を目にした。松川地熱発電所ってのがあるみたいね。さすがは一大温泉地帯。ちなみに松川温泉の旅館は地熱を暖房に利用していると聞く。もし発電所を見学できるならしてみたいと思いつつ、ちょっと時間的に厳しいかなー。

松尾八幡平ICから30分はかからず現地に着いた。付近は完全に山の中で2軒の旅館くらいしかない(2023年まで3軒あったが松楓荘が閉館)。また、当時は樹海ラインの松川温泉から先が道路陥没により通行止めだった=藤七温泉や八幡平山頂レストハウス方面へ抜けることはできない。周遊計画を組む際はご注意。


王道の白濁硫黄泉を提供するモダン秘湯

新しくてきれいな館内

無策でふらっと訪れると建物の目の前に駐車する余裕はないかもしれない。少し手前の小高くなってる場所が収容力ある駐車スペースになっているからそっちに止めた。

では入館。山奥というロケーションながら建物は大きくてモダン秘湯的な雰囲気がある。内部も鄙びてなくて新しい感じ。入って右手にお土産コーナーがございます。
お土産コーナー
ん? これは…熊だよね。
熊の毛皮
熊害のニュースを見聞きしているうちに熊への恐怖心が異常に増大してしまったおじさん、今回の旅では「絶対に熊と遭遇しないこと」を肝に銘じていたが、早くもエンカウントしちゃった。毛皮状態ならセーフってことにしよう。

男湯・女湯・混浴露天・女性用露天からなる

よさげな雰囲気を醸し出す囲炉裏風ロビーについては、すでにお客さんが休憩中であり、カメラを向けるのは自粛しておいた。さて本題に移ろう。フロントで日帰りの旨を告げて入浴料をお支払い(700円)。この先にロッカーはないから貴重品があればフロントでお預かりしますとのことで、財布や車のキーやスマホを預けた。

通路をずーっと進んだ先に大浴場。まず混浴露天風呂の入口があって、これは可能なら後で入りに来ようと思っていたら、どうやら男湯から直接行ける構造になっていることが後に判明した。混浴露天に続いて男湯・女湯の入口がある。加えて女性専用露天風呂もあるようだ。

分析書が掲示されていたのは脱衣所だったかな、廊下だったかな。とにかく「単純硫黄温泉(硫化水素型)、低張性、弱酸性、高温泉」とのこと。温度調整のための加水あり、加温・循環・消毒なし。

青白く濁ったお湯が待っている

浴室に入った瞬間に鼻をついた硫化水素臭で勝利を確信した。こりゃあ間違いないぞ!…まあ落ち着いて様子を探りましょうかね。洗い場は5名分、といっても、一般的なシャワーやカランがあるわけじゃない。蛇口から出るのは水。洗い場を貫く大きめの樋というか長く連なる木箱の中に透明なお湯が注ぎ込まれており、それを桶ですくい出して使う。

内湯浴槽は8名サイズ。当時は自分以外に浸かっているのは多くて2名程度でかなり余裕があった。お湯は完全に白く濁っており浴槽の底は見えない。光の当たり具合のせいか黄色みや緑みではなく、どちらかといえば青白く見える。温度は適温。長湯が難しい程度には熱い。匂いはいかにもな硫黄系であり、王道の白濁硫黄泉をしっかり堪能できる。

浴槽は窓際ぎりぎりまで及んでなくて、窓際付近は浴槽の縁とその延長風な空間になっている。そこに2名のおじさまが横になっていた。へー、これが東北の温泉の風物詩・トド寝ってやつか。本場だからトド寝用の空間を設けているんだね。

と思ってたら、おじさまが去った後の空間をチェックすると、別にそういう設計意図はないみたいだぞ。普通のデッドスペースに見えるがなあ。でもせっかくだから自分も一瞬だけ寝転んでみた。まあ確かに、この体勢で熱めの湯に軽く触れるのは気持ちいいかもしれん。


風情のある露天風呂はややぬるめ

しばらく観察していると、奥の扉から外へ出ていく人・戻って来る人がいる。露天風呂へ通じているのか。行ってみよう。外へ出てちょっとだけ歩くと20名は余裕でいけそうな大きな露天風呂があった。絵に描いたような白濁の湯に満ちた岩風呂だ。雪見風呂が似合いそうね。お湯は内湯よりややぬるい。

設置場所を考えると、これが混浴露天風呂っぽい。全体としては1つにつながっているものの、大きな岩を置いて真ん中にくびれを作って2区画に分けた雰囲気になってるし。自分のいる区画の反対側も見えるっちゃあ見えるけど視線が届きにくくなってる。

当時は男湯からくる男性陣しかいなかったから特に気を使う局面なし。周囲は低めの柵+その向こうは森。立ち上がって柵の下を覗き込めば、渓谷が見えるようでいて見えない。無理してワイルドな絶景を求めるより、お湯に浸かりながら遠近の緑を楽しむのが一番いいように思う。

内湯と露天風呂をローテーションしつつ、さて、そろそろ出るか。湯あがりは汗だく状態。季節が季節だし、加水ありとはいえ地熱発電しちゃうくらいの熱量の温泉だからな。しかし汗が引いたらお肌すべすべになっていた。おっさんであってもうれしい効果。

帰る頃にはどんよりした黒い雲が消えて白い雲の間から青空がのぞくようになっていた。よーし計算通り。いよいよ八幡平山頂へ向かって、しゅっぱーつ!