泥火山の自然研究路を擁するお風呂いっぱいの宿 - 後生掛温泉

後生掛温泉
秋田八幡平を代表する名秘湯のひとつが後生掛温泉。名前は知っていたし八幡平周辺には何度か行ったことがあるけど、後生掛温泉に寄る機会がこれまでなかった。それがどうにも心に引っかかっており、気力体力経済力が衰える前に行っておくべきだと決意したのである。

アスピーテラインが開通している夏期であれば、レンタカーなど車さえあればアクセス手段で行き詰まることはない。露天風呂はおまけ的な感じで小さいものの、浴室内はメイン浴槽に加えて気泡湯・泥湯・箱蒸し湯といったさまざまなパターンのお風呂が提供され、いろいろな入浴法を試すことができて楽しい。

旅館の奥に広がる地獄地帯に整備された後生掛自然研究路も見どころだ。

後生掛温泉へのアクセスと自然研究路

名だたる温泉が集まる地域

旅の2日目、藤七温泉からふけの湯に立ち寄りつつ、後生掛温泉に到着したのはまだ午前中。アスピーテラインの秋田側を通る路線バスが休止している現在、公共交通機関だとこうスムーズにはいかない。レンタカーで良かった~。

ふけの湯の近くには大深温泉というのもあって、ふけの湯・大深・後生掛をセットで体験しないと、この地域の温泉をクリアしたと言えないのではないかと気になりつつ、まあ温泉入りすぎになっちゃうしなと思って自重した。コンプリート欲より体調優先。

だがそれでも、ふけの湯から後生掛温泉まで、車だと10分弱で着いてしまった。名だたる本格温泉を短時間で立て続けに入ったらすぐに茹だってノックアウトされちゃいそう。朝は藤七温泉にも入ってるし。1時間くらいはクールダウンタイムを設けるべきだろうな。

温泉の前に後生掛自然研究路を散策する

そこで最初に後生掛自然研究路を散策することにした。旅館の前が駐車場になっていて、結構埋まってはいたものの、空きスペースを見つけて止めることができた(本当の繁忙期には徒歩3分ほどのところにある第2駐車場が開放されるっぽい)。駐車場の奥から遊歩道が始まっている。

…誰もいない。あの駐車場を埋める勢いのお客さんたちは誰も歩いてないのか。完全にひとりぼっちじゃん。熊とか出ないだろうな。ビクビクしながら、熊鈴がないので時には手を叩きながら進む変なおじさん爆誕。

やがてオナメ・モトメが見えてきた。後生掛温泉の名前の由来にもなった噴泉だ。
オナメ・モトメ
オナメ・モトメ付近で振り返ると、地獄谷に続いて旅館という非日常的な光景を目にすることができる。
オナメ・モトメ付近から見た後生掛温泉
もう少し歩くと紺屋地獄なる泥湯ぽい池が現れた。紺屋地獄って別府にもあったな。底からボコンボコンと盛んに湧き上がってきてる。
紺屋地獄
突然、すぐ近くでゴゴッと大きな音がした。熊か?! 茂みに熊がいるのか!!…道端に小さい穴が空いててミニ紺屋地獄みたいにボコボコいってたのが音の正体でした。あ゛ーもう。やめてけれ、やめてけ〜れクマクマ、ってね。クマクマパパヤー♪
音の正体はミニ紺屋地獄
やや大きい直径1m級の紺屋地獄もあちこちにある。
小規模の紺屋地獄

最後に待つのは大湯沼

途中で道が二手に分かれる(のちに再び合流する)。短いコースを選んだけれど、もう片方は先の合流地点がロープを張ってKEEP OUTになってたから、どのみち通れなかったようだね。陥没穴が道まで侵食しちゃってる。
合流地点:長いコースは立入禁止
最後の見どころは大湯沼。大湯沼って登別にもあったな。黒っぽい泥火山と青白い巨大露天風呂のような池からなる。
大湯沼
遊歩道の最奥部からみた大湯沼。結構広いね。
大湯沼 その2
後生掛自然研究路は30~40分あれば大湯沼まで往復できる。見学してたら60分とは言わないまでも小一時間のクールダウンタイムを稼ぐことはできた。では本命の温泉へ。


馬で来て足駄で帰る後生掛温泉

日帰り客は奥から入館

正面玄関は宿泊客専用だった。日帰り客は建物の脇からこのようなゲート(?)を抜けて一番奥へ。
日帰り客はこちらへ
すると日帰り用の出入口がある。
日帰り用出入口
受付で入浴料をお支払い。800円。右手に休憩室あり。畳の広間ではなくて椅子がちょっと設置されてるパターン。左へ進んで最後は階段やスロープを下っていくんだったかな。自販機・100円戻らない式ロッカー・休憩や待ち合わせ用のベンチとともに男湯・女湯の入口がある。

脱衣所や浴室全体の印象としては、湯治場の風情を醸しつつ、古さや鄙び感を抑えたモダンテイストだった気がする。少なくとも藤七やふけの湯よりはそういう要素が強かった。分析書をチェックすると「単純硫黄温泉、低張性、弱酸性、高温泉」だった。PH3.0。メモに記録はないけど加水あり、加温・循環・消毒なしと思われる。

メインとなる神経痛の湯と気泡を出す火山の湯

浴室内に立ち込める硫化水素臭は、この地域の温泉群が備える“ワクワクする特徴”だ。当湯もまったく期待を裏切らない。そしていろいろなお風呂があるなというのが一目でわかる。じゃあ1箇所ずつ試していきますかね。

まずはぬるめのかけ湯。浴室左奥の方に8名分の洗い場。カランは新しめで安心感のあるつくりだ。右中央くらいのところにメイン浴槽。8名以上が入れるサイズで「神経痛の湯」っていう名前が付いてた。熱めの調整で源泉に近い雰囲気を味わってくださいとの趣向。

うーん、確かに熱い。ここでずっと長く粘るタイプではないな。ゆえに人がいないか、いても短時間で立ち去るために混雑する場面は想像しにくい。お湯は乳白色で強く濁っており、硫化水素臭を放つ、まさに王道の白濁硫黄泉。ガツンとくるお湯が好きな人は深く満足しそう。

その隣に2~3名サイズの「火山の湯」と名付けられた小さめの浴槽があった。すんごいボコボコいわせてる。気泡湯・バイブラ風呂ですかね。お湯の濁りはメインに比べたら弱めだった。そして浸かってみるとぬるめ。ぬる湯と呼ぶレベルではないけど入りやすい温度。気泡目当てというよりはこの温度を求めて何度も入ったなあ。見てるとメインよりも人気がある感じ。

ワンポイントアクセント的な露天風呂と箱蒸し風呂

ん? 奥の戸から外へ出られるようだぞ。露天風呂があるのか。行ってみよう。ガラッと戸を開けると、3名が横並びで入るくらいの小さめな露天風呂があった。すでに2名が縁のところでクールダウン休憩しており、お湯の中に入ってない。もしや…ああ、こりゃ熱いね。メイン内湯にも負けないくらい熱い。長くはいられないな。

露天風呂は屋根付きだった記憶がある。そして石垣が目隠しとなっているため眺望はない。石垣の向こうに草木がちらっと見えるくらいだ。開放感よりはおこもり感を楽しむお風呂かな。ちなみに冬は落雪の危険があると露天風呂を閉めることがあるらしい。そのような注意書きがある。※この地域で通年営業ってのは、すごいでしかし。

浴室内へ戻ろう。かけ湯近くにまだいくつか体験すべきポイントが残っていた。かけ湯のところから段を上がるようにして3名分の箱蒸し風呂が並んでいる。新玉川温泉で見たのと同様のやつかな。箱の中に収まって頭だけ外に出す…あれ、うまく出ないぞ。やり方が悪いのだろうか、なんか変な感じになっちゃったし、結構熱かったためすぐ終了。

後生掛のトップスターはぬるめの泥湯

その奥にあるサウナは関心対象外なのでスルーします。かけ湯を挟んで箱蒸し風呂の反対側には打たせ湯と泥湯があった。打たせ湯は2名分。腰掛ける場所に向かって上から温泉が落ちてくる。量と勢いから、なかなかの打撃力を感じた。

隣の泥湯は2名サイズ。やや暗めの乳白色の湯に半身浴体勢で浸かることができるようになっている。温度はぬるめ。体験した中では一番ぬるかった。ぬる湯派としてはここにずっといてもいいくらいだが、お客さんの人気を最も集めており、入れ代わり立ち代わりでやって来るためにあまり長く独占するのはひんしゅくを買いそうなムード。かつ、いったん場を離れると次のチャンスを掴むのは楽じゃない。後生掛のトップスターだな。

泥湯の入り方=そばに設置されている箱から泥を取り出して肌に塗り、半身浴体勢で10~15分。ぬるいからそれくらいの時間も苦にならない。泥は紺屋地獄でボコンボコン出てきてたアレに近いブツなんだろう。いかにも濃縮された源泉成分って感じのを直接肌に塗るわけだから効果てきめんじゃないの。

というような具合で、ひと通り体験するだけでもそれなりに時間がかかる。当時は泥湯のチャンスがあまりなくて、主に神経痛の湯と火山の湯を行き来するパターンに多くの時間を費やした。正直なところ、なんだかぐったりしてきたので、このあと運転しなきゃいけないしと自重して、予定時間より早めに切り上げたのだ。半端ない湯力の後生掛温泉であった。