地獄の猛暑の真っただ中に奥蓼科温泉郷の明治温泉へ行ってきた。開業が明治21年ということで明治温泉かと思ったら、明らかに治る温泉だから付いた名前らしい。まあそういうのは後から知った話で、最初の動機は、蓼科ならいかにも涼しくて避暑に適してそうだったことと、ぬるいお風呂があるとわかったからだ。真夏に熱々の温泉はちときつい。
実際のお風呂は3つ…適温とぬるいやつと冷たいのがあった。温冷交互浴をキメてもいいし、ぬる湯三昧も可能。無理なく1時間級の入浴ができてしまう。そして二酸化炭素と鉄分を含んだ濁り湯が温泉旅の特別感を盛り上げてくれる。いいね。旅館付近にある「おしどり隠しの滝」が見事で観光面もばっちり。
明治温泉へのアクセス
御射鹿池から横谷渓谷方面へ
車なしの場合はJR中央本線茅野駅から渋の湯行きのバスに乗って35分、明治温泉入口下車。当館や横谷渓谷へ続く道を5~6分歩く。
自分の場合はマイカーで中央道諏訪南ICから湯みち街道を通って、まずバスの終点である渋の湯まで行き、渋御殿湯で立ち寄り入浴した。それから明治温泉入口まで引き返して、近くの御射鹿池を見学した。渋の湯へ行く途中で1回見たんだけどね。せっかくだからもう1回見よう。妙に幻想的な雰囲気があるせいか、訪れる観光客が絶えない様子。
明治温泉入口バス停から当館までの500mほどは車1台分の幅しかない道路。当館利用者以外は車を置いて歩くようにと指示する看板が立っている。自分は車で走ったけど、歩行者を交わすのに気を使うし、もし対向車が来たら詰むぞとハラハラしながらの500mだった。
なんとか無事に到着。旅館前に砂利敷の駐車スペースあり。旅館を正面に見据えた際の左手に横谷渓谷遊歩道の標識が見えた。チェックイン前にちょっと探索してみるか…と行きかけたところにワンちゃんがいました。客に愛嬌を振りまくでもなくマイペースを貫いてる。
旅館の隣がおしどり隠しの滝
そこから標識に従って階段を下っていくと渋川が流れており、確かに渓谷風の地形だった。それだけじゃなく緩やかな多段の滝が目の前にあった。おしどり隠しの滝だ。
ほほう、いい雰囲気ですな。少し場所を変えてもう1枚。
おしどり隠しの滝から始まる横谷渓谷遊歩道は100分ほどの行程。道中に王滝・一枚岩・屏風岩・霧降の滝・乙女滝などの見どころがある。今回は時間と体力と根性が不足していてチャレンジせず。※落石や崩落でしばしば通行止めになるみたいなので直前の情報収集は抜かりなく願います。
じゃあ旅館に入りましょうか。先ほどのワンちゃんのいるあたりから見上げる明治温泉の姿がこちら。
滝と森に囲まれた旅館
長時間滞在プランで早めのイン
チェックイン可能な15時よりもかなり早い時間だったが、11時以降であれば部屋には入れずとも湯あがり休憩室に滞在することができる特典付きプランだった(その間に温泉に入ってもOK)。とりあえず休憩室を利用させてもらおう。
窓が渋川の方を向いているようだな。ベランダに出てみよう。
へえー、おしどり隠しの滝を真上から覗き込む形になっているじゃないか。考えてみたらずいぶん恵まれたロケーションに立ってる旅館なんだな。
なんてことをやったり本を読んだりするうちに時間が過ぎた。ではチェックイン。フロント横のロビーはこうなっちょります。
ロビーから外のウッドデッキへ出られる。その先には苔むした森が広がっていた。
なんとなく、八ヶ岳を挟んだ向こう側にある白駒の池にあった苔の森を思い出すなあ。5年前に行ったんだなあ。直線距離ならそう遠くないから、似たような森が続いていてもおかしくはないか。
避暑地ゆえエアコンいらず
案内された部屋は2階の8畳和室。布団はセルフでお願いします。浴衣は2階に上ってすぐのところにタオル類とともに置いてあるのを取っていく方式。
トイレ・洗面所は共同…2階の男子トイレは小×2・非シャワーの洋式個室×1。部屋に空の冷蔵庫あり、金庫なし、WiFiあり。土地柄エアコンはなく、令和の夏はどうなんだろうと思ったら、まあまあ大丈夫だった。エアコン効かせた室内ほどひんやりしてないが暑苦しさは感じない。旅館によくあるお茶っ葉のほかにスティックコーヒーあり。
駐車場向きの部屋で川は見えない。そういう要素を欲したら休憩室へ行けばいいから無問題。
色と温度の異なる3つのお風呂
メインは赤茶色の湯の適温風呂
明治温泉の大浴場は地下1階相当にある。手前に女湯、奥に男湯で男女の入れ替えなし。脱衣所には脱いだスリッパを他人が履いて帰らないように番号札付きのクリップが置いてある。分析書も掲示されており、メタホウ酸・メタケイ酸・遊離二酸化炭素の項をもって温泉とみなすと書かれていた。温泉法上の温泉ってやつですか。
加水なし、加温・循環・消毒あり。PH3.5の酸性。あとは実際に入浴してみての感想で含鉄泉の要素が大きそうだった。ほかに明治温泉の由来や入浴方法について書いたパネルもある。長時間よりは回数を多くした方が効果があるとかなんとか。気にせず1時間浴しちゃいましたけどね。
浴室にシャワーの付いた洗い場は4名分。浴槽は3つ。まず正面奥にある6名サイズの適温風呂へ。赤茶色のお湯で満たされ浴槽の底はまったく見えない。適温風呂だから当然のごとく適温で、しかし熱すぎることはない。40℃くらいだろうか。わりと長く入っていられる。
湯の花と呼んでいいのかどうか、赤錆びた鉄粉を連想させる茶色い粒がたくさん漂っている。いかにも金気臭が強そうだなあと思って、お湯を触った手に鼻を近づけると、なぜか焦げ硫黄臭だった。たぶん先に立ち寄った渋御殿湯の硫黄泉の匂いが染み付いてしまったのだろう。
大きな窓の向こうに見える木々の緑とお湯の赤茶色のコントラストがいい。窓から下の方を目を向けると渋川がちらっと見えた。お風呂の場所はばっちりですね。
黄土色の湯の低温風呂はとても気に入った
やや別室的な雰囲気のところにあるのは4名サイズの低温風呂。こちらのお湯は赤みが後退した黄土色という違いはあるものの、濁りのためにやっぱり浴槽の底は見えない。浸かってみると35℃くらいに感じた。体温程度のお湯の塊と30℃くらいの少しヒヤッとする塊が混ざりきらずに回遊している様子で、温度変化の波がある。ぬるくて気持ちいいのは変わらないけどね。いくらでも長く入っていられます。
遊離二酸化炭素が云々といっても身体中に炭酸の泡が付くわけではない。ただし腕や足を動かした時に少量の小さな泡(炭酸的なシュワシュワじゃなくて小さなあぶくに近い)が浮かんでくる様子に、二酸化炭素成分の雰囲気を見て取ることができる。
こちらも窓から渋川の流れを視認できた。ちょうどおしどり隠しの滝のあたりになるのかな。向こうからこっちは見えてないと思うけれど。そして浴槽の縁や床に目を向ければ温泉成分ですっかり茶色く変色していた。まあそうなるよな。
自分がぬる湯好きだからとはいえ、低温風呂はかなり気に入った。ここでひたすらジーッとしているのがハッピーこの上なし。幸運にもぬる湯狙い客は多くなかったようで、つねにびっしり満員・一人が出ると後釜を狙いすましていた別の一人がさっと場所を占める・いったん入ると半永久かと思うくらい占有・あぶれた人は事実上ノーチャンス、というような争奪戦がない。先客がいても5分程度で出ていく場合が多い。うまく回っていて好印象。
冷たい源泉風呂は無色透明の湯
最後の紹介は2名サイズの源泉風呂だ。一方の端から打たせ湯の形で源泉が浴槽内へ落ちてきている。お湯の見た目は無色透明。源泉だと濁ってないのね。ぬるいを通り越して冷たいと感じる25℃くらいの温度だ。照明が十分に届かず暗いため、お湯の細かい様子まではよくわからない。
少々脱線して照明の話をすると、夜に来てみたところ、浴室内の照明は1箇所だけということがわかった。適温風呂の位置には光が当たるが、低温風呂と源泉風呂はほとんど真っ暗だった。最初のうちは無人だったので低温や源泉に浸かるには一人で暗闇に挑まなければならない。べ、べつに怖くないんだからね。
源泉風呂から適温風呂へ移動すると、温度差が一種の爽快感となって襲ってくる。温冷交互浴としてはかなりいい感じ。個人的には、適温に数分→低温に10~15分→気分で適温に戻るか源泉か→源泉であれば2~3分で適温へ、のサイクルを繰り返した。
湯あがりは汗だくになることもなく、夏向きのすっきりさっぱりした感覚。おかげで滞在中に1時間浴×4回やった。
明治温泉でいただく山ごはん
夕食はシンプル版のヒメマス甘露煮プラン
明治温泉の食事は朝夕とも1階の食事処で。夕食は18時。行ってみると部屋ごとに決められたテーブル席に通された。ぼっち状態を考慮してか、他の客からの好奇の目にさらされるプレッシャーが小さい…自意識過剰なだけだとは思うけど…隅っこの席にしてくれたのはありがたい。
ご飯とお吸い物を除く料理はほぼ最初から用意されていた。
ちょっと少なめに見えるのは、シンプルな山ごはんプランだから。もともと少食+おっさん枯れでますます食が細くなった自分には、旅館のたくさんの料理でお腹が苦しくなってしまうことがよくあるから、これくらいでも全然OK。
中央の豆腐は地元の有名なところのだと聞いた。やや固めでしっかり締まってて食べごたえあり。右の味噌をつけていただく。主菜は2日間煮込んだヒメマスの甘露煮だ…うまいねこれ。ごくごく一部の小さな固い骨片を除いて、頭も背骨も尻尾も全部食べられた。
ひと通り胃袋に収まってから、ご飯を単体でいただく。たいがい旅行先の白米はそれだけでおいしいので、おかずなしでも全然問題なく単体でいけちゃうのだ。はい、ごちそうさま。
朝の卵かけご飯にこだわりあり
朝食は7時半。寄せ豆腐+ちょっと洒落た感じの小鉢セットになってますな。
中でも取り上げるべきは卵かけご飯でしょう。はっきりとアピールしてないけど卵は地元の自信作じゃないかなあと予想。おいしく食べる方法とそのための器具が添えられているくらいだから。
(1)黄身と白身を分ける、(2)白身を混ぜる、(3)白身をご飯にかける、(4)黄身をご飯の中央に乗せる、(5)黄身に少量の醤油を垂らす、(6)黄身をつぶしながら食べる、だそうです。おじさんは今まで何も考えず、黄身と白身を雑に混ぜてからご飯にかけていたよ。
食後のコーヒーはないが、部屋に戻ればスティックコーヒーがある。そちらを飲んで朝チャージ完了。
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避暑気分でリフレッシュできたことを考えると、夏場に奥蓼科という選択がちょうどうまくはまった気がする。御射鹿池やおしどり隠しの滝、今回はパスしたが横谷渓谷遊歩道など、見学スポットやアクティビティには事欠かない。もっとガチな方には八ヶ岳登山もあるし。
もちろん最大目的のぬる湯も満足のいくクオリティで気に入った。ぬる湯好きには特におすすめしたい宿だ。