石油の温泉・奇跡の温泉と称される超個性派、道北の豊富温泉へついにやって来た。長年の夢が叶ったぜ。アトピーに効くとの評判で湯治に訪れる方々が絶えないとか。自分はアトピーではないが、近年は冬場のかゆみに悩まされており、今年はとうとう梅雨どきまで引きずってしまった。温泉効果で収まってくれればという下心がないといえば嘘になる。
ガチ湯治でない物見遊山の旅行者が泊まっても大丈夫そうな雰囲気の宿を探して選んだのがニュー温泉閣ホテル。お風呂は内湯ひとつのみ、見るからに石油とまでは言わないけど、なかなかに強い印象を与えてくれる。不思議とこの夜はかゆみが起きなかったし。あと、お湯もすごいが夕食の和御膳もすごかった。
豊富温泉「ニュー温泉閣ホテル」へのアクセス
豊富町の観光スポット・サロベツ原生花園
位置関係を考えると、道外の旅行者は稚内空港からのアクセスが自然である。稚内空港→バスで稚内駅→JRで豊富駅→バスで豊富温泉と乗り継いでいける。しかし自分が検討した時は稚内までの飛行機代がえらく高かった。
そこでオロロンラインを走ることでロードムービー的なロマンを味わう目論見もあって旭川空港からのレンタカー作戦にした。旅の2日目に天塩町の「てしお温泉夕映」に立ち寄り入浴した後もオロロンラインをさらに北上、北緯45度モニュメントを見学してからサロベツ原生花園へ。
原生花園の見学には、まずサロベツ湿原センターという施設へ入ることになる。観光案内や湿原に関する各種展示を行っている。
決して広くはないが情報量は多い。じっくり読んでたら時間かかりますね。
奥の方に気になるパネルが見えたので近づくと温泉むすめだった。豊富水由ちゃん。エゾカンゾウ鑑賞バージョンですな。
エゾカンゾウが咲く季節
では花を見に行きますかね。最初入ってきたのと反対側の扉を出ると遊歩道が始まる。最初に出迎えてくれたのが、かつて泥炭を掘っていた浚渫船。泥炭ってことはピートってことでウイスキー製造と関係あるやつか。
湿原といっても草が密に生えており、ぱっと見ただけだと湿原ぽくないかもしれない。
場所によっては水でジト~ッとしてそうな雰囲気のところもある。そういうところは紫のヒオウギアヤメが見られる。
黄色いエゾカンゾウは、すぐ目の届くところよりも少し遠巻きに眺めるくらいの場所に多かった。
晴れていれば遊歩道から利尻富士が見えるようだけど、この天気ではどうにもならない。あとはちょっとした展望台あり。
じゃあ豊富温泉に行きますかね。原生花園から豊富の中心部まで車で10分、そこから温泉街まで10分くらい。温泉街は比較的コンパクトにまとまってる中に各旅館やカフェなどが集まっている様子。
湯治にも観光にもどうぞなホテル
長期滞在向けの施策あり
先に町営の日帰り温泉「ふれあいセンター」へ立ち寄り入浴してから当館へチェックイン。フロントの向かいが飲食もできる風の休憩コーナーになっている。※夕食・朝食の際は別の食事処に案内された。自炊湯治客がここを使ったりするのだろうか。
お土産コーナーもございます。夕方の入浴後にはここで缶ビールを買って(フロントで都度精算)、部屋で飲みました。
2階への階段の踊り場に新聞記事が張り出されていた。長期滞在向けにコンドミニアムタイプを始めたとの内容。ガチ湯治やワーケーションに良さそうね。
昭和と令和が混在する部屋
案内された部屋は2階の10畳和室。どうやら一人泊向けのもっと小さい部屋もあるようだから、あえて広めの部屋を割り当ててくれたのだろう。ありがてえ。広縁や各種装飾といった遊びの部分が省かれてはいるが、べつに気にしないし、実用性は十分だ。布団は夕食中に敷いてくれる。
トイレ・洗面所は共同。最も近いトイレは小×3・和式個室1・洋式個室1だった。洗面所はピンク系洗面台2名分とブルー系洗面台3名分。色と男女の別は考えずに使っていいと思う。部屋にあるのは金庫と水入りボトルの入った冷蔵庫。あとWiFiあり。
テレビにコイン投入機が付いてるなど(実際は無料で見られます)、昭和の香りを残す中で令和のテクノロジーを導入したのがこれだ。館内・周辺観光案内アプリ的なやつ。おじさんは使いこなせませんでした。
窓の外は温泉街のメインストリート。左側に見えてる建物は川島旅館だ。
奇跡の温泉の一端を垣間見た大浴場
温泉おじさん、謎の予感に襲われる
ニュー温泉閣ホテルの大浴場は1階にある。右側が女湯・左側が男湯で男女の入れ替えなし。脱衣所の分析書を確認すると、ふれあいセンターと同様の「含ヨウ素-ナトリウム-塩化物温泉、高張性、弱アルカリ性、温泉」だった。加水とか循環とかの湯使いは不明だが、おそらく温度調整の加温くらいではないかと思われる。
浴室に入ると「ん?」と意識に引っかかる匂いがした。「うわっ石油くせえ!」とか、そういうわかりやすい驚きではない。なんだかわからんが、なんだかやばそうな感じ。うっかりするとめまいに襲われそうな予感を含んでいる。ふれあいセンターの浴室もここまでではなかった。
窓を見ると「湯温がどんどん下がるので開け放しにしないでください。出る時は閉めてください」という張り紙がある。同じような引っかかりを感じて換気しようと窓を開けちゃう客がいるんじゃないかな(実際にいました)。この事実だけでもタダモノではない温泉だ。
洗い場は10名分。お風呂はL字型をした内湯浴槽がひとつのみ。簡素といえば簡素だけど、露天だサウナだとレジャー的要素を求めるよりもアトピー対策のような実利を求める客が多そうだから、これでいいのだろう。8~10名程度は収容できるサイズで宿の規模相応ゆえ、団体さんが一気に押し寄せない限り、芋洗いリスクは少なそう。
明るいベージュの湯、そして匂いは…
では入湯。すでにふれあいセンターのお風呂で予習ずみだから、「おお、これはっ?!」というような感情の動きはない。お湯の見た目は濁りのある明るいベージュで浴槽の底は見えない。茶色い粒子のような湯の花が若干見られ、湯の表面には油膜風の白っぽい何かが浮いている。量は多くない。これが石油成分なのかな。タール云々という説明を見たけど。
お湯の匂いは石油を連想させるような特徴…例えばガソリン・灯油・有機溶剤など…とは異なるように思われた。これはふれあいセンターも同じで、表現するなら土ぼこり、あるいはカビ臭い古書店を連想させる。
当時の自分の推理では、たまたま源泉がおとなしい日で、ふだんはもっと強烈な刺激のある匂いを発散しているのではないかと…根拠はないですが。数名で連れ立って浴室にやって来たおじさま軍団の一人が「昔入った時はもっとニオってた」と語ってたのが耳に入ったから、あながちあり得ない話ではない。
自身も体験した肌への効果
しかし窓を開けたくなるやばい予感含みの匂いを最初に感じたことを思い出そう。お湯を嗅いですぐに「うわっ、キツっ」とはならないものの、浴室全体にうっすら漂うやばいソレとの合わせ技で、じわじわと追い詰めてくるのである。あんまり調子に乗ってくんくん嗅がない方がいいだろう。
右奥に湯口があって、反対側の端近くを陣取ればわりとぬるめの温度を享受できる。とはいえ特徴が特徴だし、塩化物泉にありがちなジリジリと体内に熱をこもらせるかのような効果もあって、そうそう長湯はできない。たくさん体験したければ短時間×回数多くってことになるでしょう。
湯あがり時には念のため軽くシャワーで洗い流してから出た。それでも翌朝には肌がほんのりかすかにアブラ臭かった。そして宿泊した夜から翌日の昼すぎまで、旅行中もずっと悩まされていた身体のかゆみがピタッと収まったのは大したもんだ。さすがは奇跡の温泉。
「せっかくだから」が功を奏した食事の楽しみ
夕食の豪華な和御膳に乾杯
ニュー温泉閣ホテルの食事は朝夕とも1階奥の食事処で。ネットで予約する手立てが見つからなくて電話で予約した際に、夕食にはシンプルな定食プランと和御膳プランがあると聞いて、せっかくだからと和御膳にしてもらったのだが、まさかの想像を超える展開。
見た瞬間に思わず吹いたわ。写真1枚に収まりきらないので2枚に分けますね。
お造りの後ろに隠れ気味になっちゃってるのがエゾシカ肉。臭みはなく柔らかかった。ヒンナヒンナ〜。左端はタラバガニだ。ちゃんとほじくるスプーンも付いてくる。焼き魚はメヌキって聞いたような。ではもう1枚。
中央手前の小鉢はニシン。右にはでっかいホタテ。意表を突かれたのが、たこしゃぶ鍋。たこのしゃぶしゃぶなんて初めての体験だ。軽く湯に通したらポン酢か酢味噌につけてどうぞ。絶妙の歯ごたえと噛むほどに広がる甘みがたまらん。しかもちょこっとじゃなくてたくさんあるのだ。幸せが止まらない。
これほどのメンバーを相手にすれば当然満腹になる。膨満感に苦しむ手前で完食できたからうまく配分が考えられてますな。和御膳を選んで正解だったな。いい思い出になった。
朝食のご飯をつい食べ過ぎる
朝も同じテーブル席で。安心感のある定番系を揃えてきた。
サラダや小鉢は中央のテーブルに置かれているのを取ってくるセルフ方式。イカの塩辛をはじめ、ご飯のお供がいろいろあるので、自分にしてはお米を多めに摂取した。お櫃の中の8割くらいを消化したかな。
テレビに映し出される朝ドラを見ながらいただいたが、近年は朝ドラ鑑賞をやめちゃったから話の筋はわからない。朝の時間を読書とBSテレ東の経済ニュースに振っちゃったからねー。おかげでドル円相場と米国の金利動向に敏感になっちゃった。それはおいといて、最後にコーヒーをいただいてごちそうさま。
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長年の念願だった豊富温泉をついに体験できた。ニュー温泉閣ホテルは奮発して和御膳プランにしても比較的痛くないお値段で泊まれてお得感があった。温泉は、浴室に漂うあのやばい予感こそがガチの本物であることを示しているし、かゆみがピタッと収まったのも偶然や気のせいではないはず。
観光旅行で1泊するパターンではなく湯治などで長く滞在する場合も、シンプルな食事のプランや湯治プランやワーケーションプランが提供されており、エコノミーに利用できるから検討してみるといいだろう。