北海道のオロロンラインを北上する旅、とくれば、天塩川河口部に位置する天塩町を通ることになるのは必然といえる。経路的な話だけではなくて、道北の湯めぐりで欠かせない温泉が存在するという理由もあるし。その温泉とは「てしお温泉 夕映」と名付けられた施設。宿泊することもできるが今回は日帰り入浴として利用した。
表向きは茶色く濁った強塩泉なんだが、しかして他との違いを際立たせている個性は強烈なアンモニア臭である。あれはとてつもない“クセつよ”だった。実際に体験すれば嫌でも鼻腔と脳裏に刻みつけられる。入浴後しばらくは、現実に目の前でそんな匂いはしていないのに、アンモニア臭がフラッシュバックしてたくらいだ。
てしお温泉夕映へのアクセス
公共交通機関だと国鉄羽幌線はとっくの昔に廃止されたのでバスで行くしかありません。留萌⇔豊富間を結ぶ路線バスならそのものズバリ「てしお温泉夕映」停留所がある。札幌から直行する特急バスだと天塩停留所で下車して徒歩15~20分。
一方で北海道旅行なら車を利用する率が高いだろうし、自分もそのパターンだった。朝、しょさんべつ温泉ホテル岬の湯をチェックアウトして、オロロンラインをさらに北へ。すっきりしない天気で車窓の景色の魅力も割り引かれちゃってる感じ。雨じゃないだけましと思うしかない。
15分ほど走ったところの金浦原生花園でいったん小休止&見学。そんなに大規模でない駐車場と、立ち止まらずにすたすた歩くだけなら1周10分程度の木道が整備されている。トイレや売店はない。
時期的にエゾカンゾウの黄色い花が咲いていた。ただし一面に咲き誇るというほどではないし、花びらがしおしおのやつが目立つ。終わりかけの時期ですかね。
この天気では遠くに利尻富士が見えるわけもなく、絵に描いたような絶景とはいかなかった。ちなみに関東が梅雨入りした時期でも、現地は長袖シャツ1枚・できれば上にもう1枚羽織りたくなるくらいの気温だった。
さて天塩へ向かいますか。金浦から当館までは25分。最後はオロロンラインを外れて鏡沼の方へ向かうと、冒頭写真のような建物が見えてくる。天塩漁港や天塩川の河口まで数百メートルというロケーションだ。
個性的な、あまりに個性的な温泉
日帰り客もホテル入口から
日帰り客は冒頭写真の建物から入るのが本来の形だったようだが、玄関は閉鎖されており、左手のホテル入口からお入りくださいという張り紙がしてあった。そのホテル入口がこちら。
たしか券売機で入浴券を買うんだったかな。600円。玄関で靴を脱ぐパターンではなく、1階部分は靴のまま歩き回れる。その範囲にはレストランやロビーが含まれる。
ロビーには漫画が置いてあり、窓は海や港の方角を向いている。晴れてたら利尻富士が見えたりするのかな。
ロビーの隣はスポーツジムという意外性。何台かのマシンが置いてあるだけの小スペースだけどね。
今回は和風浴場を体験
大浴場のある2階への階段を上がったところで靴を脱いで次のような通路を進んでいく。
通路の壁にはあらゆる職種のスタッフ募集チラシが貼ってあった。今どきはどこもそうだとはいえ人手不足に悩まされてるんだなあ。そう思って観察すると人の活動する気配がほぼない…少ない人数でどうにか回している感は否めない。
通路の奥に和風浴場と洋風浴場があって当時は和風が男湯だった。脱衣所に掲示された分析書によれば「含ヨウ素-ナトリウム-塩化物強塩泉、中性、高張性、温泉」とのこと。加水なし、加温・循環・消毒あり。ちなみに消毒ありといっても塩素臭は一切しなかった。ていうか、あれだけアンモニア臭の印象が強かったら、なんも関係ねっす。
洗い場で感じた激強のアンモニア臭
浴室に入るとさっそく刺激臭が。しかしまだ序の口だし「言われてみれば…」程度で気になるほどではない。これなら全然フレンドリーじゃないかと思い、21名分ものキャパを誇る洗い場へ向かう。しかしこの洗い場こそがアンモニア臭のクライマックスであった。
うわっ、なんじゃこりゃあ!! 鼻にツーンとくる刺激がとんでもない強さ。そして認識される匂いは確かにアンモニア。人によっては古いトイレに染み付いた匂いを想像するかもしれない。過去に体験した新潟の西方の湯よりもキツいぞ。温泉おじさんは「こういう個性なんだな」と受け入れたけど、ダメな人はダメかもね。
あとで風呂あがりに分析書を再確認したら、ナトリウムイオンや塩化物イオンのmg数が1万超えなのはいいとして、二番手グループの中ではアンモニアイオンと臭化物イオンが数百のレベルでトップ級だった。そこに含ヨウ素とくればね…。でも安心してください、洗い場を離れればそんなでもない。お湯じたいはべつにアンモニアくさくないし。
低温風呂と高温風呂の使い分け
内湯浴槽は薬湯・低温風呂・高温風呂の3つが並ぶ。薬湯は3~4名サイズできれいなラベンダー色のお湯。沸かし湯でしょう。薬湯には結局入らなかった。
低温風呂は6~7名サイズで電光板表示によると39℃。お湯は濃い茶色を呈しており浴槽の底はまったく見えない。アンモニアを想像するほどの刺激臭がなく、あくまでアブラみのある強塩泉である。
にもかかわらず、洗い場でなぜあんなにツーンとくる刺激に襲われたのか、よくわからんな。まれにお湯じゃなくて漂う空気の方から例の刺激臭が鼻を抜けていくことはあるが…。匂いネタを脇におけば、ぬるめで長く楽しめるいいお風呂。
高温風呂は15名サイズでお湯の特徴は一緒。電光板表示は41℃を示しており、体感的には熱めの適温だ。こちらに長く入り続けるのは厳しいので、濃ゆい温泉が熱さとともにグワーッと攻めて来るのを全力で受け止める短期決戦スタイルで臨むことになろう。意識して低温風呂と交互に入るのもあり。
熱めで刺激臭を避けられる露天風呂
続いて露天風呂へ。広いが複雑な形のために実質10名サイズといったところの岩風呂だ。お湯は熱い。高温風呂より熱いかも。屋外で風が通るし、アンモニア臭を意識する場面はなかった。匂い面でどうしても抵抗がある方は、露天風呂なら気にならないはずだから、そちらへどうぞ。
露天風呂はまわりを塀に囲まれつつも、隙間から海が見える。当時の天候ではただ灰色の景色になっちゃってたけど、うまくはまれば利尻が見えたりして最高なんだろうな。ちなみに内湯も一面が広くガラス張りになっているので、天気が良くてガラスが湯気で曇らなければ景色がよく見えるのかもしれない。
そんなこんなで小一時間の入浴を終えた。湯あがりの肌はしばらく汗が引かずベタベタする系。そのあとは塩化物泉らしくコーティングしたみたいにツルテカになる系。
いやー、それにしても噂に違わぬアンモニア臭だったな(洗い場がクライマックスとは予想してなかったけど)。その日はずっと、何かの拍子に例の刺激が鼻を突く感覚に何度も襲われたのである。相当強烈な体験として脳裏に刻まれたのだろう。実のところ、この文章を書いている最中にまたフラッシュバックしちゃったし。行った甲斐がありすぎる。