下部さんの真髄を体験できる源泉宿 - 下部温泉 古湯坊源泉館

下部温泉 古湯坊源泉館
あるメンバーの「下部温泉を体験してみたい」という声から始まった、今回の山梨グループ旅行。2泊目がいよいよ下部温泉のターンである。ここはひとつ、下部の真髄を味わっていただこうではないか。ゆえに選んだお宿は足元湧出泉で知られる古湯坊源泉館となった。当宿は自分も初めてで興味があったし、鮮度ピカイチの足元湧出泉には大いなる期待を持っていた。

地下1階のような場所に作られた屋内岩風呂は、結構な広さであるにもかかわらず、たくさんのお客さんが出入りしていて、なかなかの盛況ぶり。下部特有の冷っこいお湯は、慣れれば心地よい浴感に変わる。当たり前のように長時間入浴できちゃうぬる湯だ。他に新源泉を引いたやや温かいお風呂もある。

下部温泉「古湯坊源泉館」へのアクセス

JR駅から1kmくらいのところ

古湯坊源泉館の最寄りはJR身延線の下部温泉駅。しかし駅近くの旅館はごく一部であり、多くは下部川に沿って山側へ1kmほど歩く道中に点在している。当宿に関しては送迎してくれるみたい。

この道中の旅館には過去いくつかお世話になったっけ。元湯甲陽館湯元ホテル大市館裕貴屋…湯元ホテルは素泊まりか朝食のみになっちゃったし、あと2つは閉館しちゃった。下部の状況は大変厳しい。古湯坊源泉館は定評あるところだから大丈夫だと思うけど…。

さて、2日目の朝に石和温泉ホテル八田をチェックアウトした我ら一行。下部温泉へ直行すると時間が余ってしまうため、毎度おなじみの信玄餅工場へ。信玄餅詰め放題サービスは到着時点でとっくに完売となっていた(朝6時半に整理券を配るほどの人気!)。

続いて甲府市内の武田神社&信玄ミュージアムへ。こちらも何度か来ている定番スポット。詳細は割愛します。
武田神社

個人的に3回目の身延山久遠寺

参拝や見学を終えてようやく正午くらい。今から直行してもまだ2時間ほど余る計算だな。どうしましょう。うーん、ノーアイデア。いささか強引な思いつきで身延山久遠寺へ行ってみることにした。

個人的には過去2回、しだれ桜の見頃に身延山を訪れている。かなりの人出だった。2回目の時は交通規制がかかってて、遠くの富士川沿いに駐車してシャトルバスで往復したほどだ。だが今回は観光シーズンを外れていたせいか、全然混んでなくて、斜行エレベーター隣接の駐車場(1時間300円)にあっさり止められた。待ち行列なしのエレベーターが妙に新鮮。
斜行エレベーター
本堂を撮影するのに他の人間が画角に入ってこないんだから。
身延山久遠寺本堂
初訪問のメンバーには「斜行エレベータを使ったのは、正門から登る石段がとんでもないからです」と忠告しておいた。「本堂に着いたら石段を上から覗き込んでみてください。言ってる意味がわかります」と。
長くて急な石段
さあ時間が余る問題は解消した。下部温泉へ向かいましょう。


古湯坊の名前が合ってる宿

下部のコア区域ゆえ運転注意

現地は下部のコアというか、道は狭くて旅館が集まってて最もゴチャついている一角(上記の裕貴屋・湯元ホテルも同じ一帯)。当宿のそばに車を長時間止めておくスペースの余裕はないため、坂を上った先の駐車場を利用する。車のキーを預けて移動してもらうことはできたし、帰りは駐車場までワゴン車で送ってくれた。

では入館。
古湯坊源泉館の本館入口
こちらがロビーでございます。全般に昔ながらのレトロな雰囲気が色濃く残る。まあこのあたりはどこもそんな感じだけど。
ロビー

昔ながらの雰囲気でも設備はしっかり

我々が案内された部屋は同じ建物(本館)3階の2室に分かれていた。広い方を紹介すると、10畳+広縁和室。年季が入っているようでいて内装や設備面はしっかりしている。布団は夕食中に敷いてくれる方式。
古湯坊源泉館 本館10畳客室
シャワートイレ・洗面所あり。金庫あり、別途精算のお酒などが入った冷蔵庫あり、WiFiあり。タオルハンガーの収容力がちょっと不足気味だったかな。後述するようにお風呂に持っていくのがフェイスタオル・バスタオル・湯浴み着タオルの3種になるのでね。

窓から見える景色はこの通り。日本特有のウェットなムードがあふれてたまりませんな。
窓から見える景色

ぬる湯湯治の世界へようこそ

大浴場は別館神泉に

お風呂についてはチェックイン時に詳しい説明がなされる。噂の大浴場は朝6時から夜22時まで。本館を出て20メートルくらい歩いたところの別館神泉の中にある。こちらの別館は湯治療養客が泊まるようだ。
別館神泉
また、別館神泉とは反対方向の坂を上ったところに第二別館なる建物も確認できた。
坂の向こうに第二別館
別館神泉内の脱衣所は男女別だけど中はつながっている。つまり混浴だ(17時から18時は女性専用時間帯になる)。部屋から持参するのはフェイスタオル・バスタオル・湯浴み着…男性の場合は腰巻きタオル&留めクリップ…となり、必ず湯浴み着着用のこと。どこにあったか忘れたけど分析書には「アルカリ性単純温泉、低張性、アルカリ性、低温泉」と書いてあった。

浴室内は地下に下りていく階段の先に例の足元湧出風呂、階段を下りない1階相当のところに小浴槽と洗い場がある。シャワー付きのカランは4名分+カーテンで個室風に遮断できるブースが1名分。

別源泉を引いた加温浴槽

先に小浴槽を説明しよう。3~4名の規模で周囲に岩を配しており、「こちらのお湯は第二別館から引いた源泉です」というような説明が書かれている。浸かってみると適温。地下のお風呂が冷っこいので温冷交互浴用の加温槽でしょう。

チェックイン時のお話では、地下のぬるいお風呂に20分→こちらの適温小浴槽に3分、のセットを繰り返し、最後にぬるい方でサッと締めるのが標準作法らしい。

お湯は無色透明で無臭に近い。きっと無味無臭なんだろう。湯口は2箇所あって投入量多し。特に手前側の湯口では、ペットボトルを押し当ててお湯を汲んでいる人の姿をしばしば見かけた。飲泉もできるんですかね。

足元湧出の特徴を存分に味わえる極上ぬる湯

主役たる地下の岩風呂は18畳の広さがあるとのことで、確かに大きい。真ん中までみっちり詰めなくても縁に沿って15名は入れそう。とはいえ、つねに5~6名はいるし、10名を超えてくる時も普通にある。まあみなさん、ここに入るのが目的で来てるんでしょうからね。ぬるいから長時間滞在するし。やや深めで自分の体格だとあご下まで浸かる。

お湯は無色透明。匂いには若干の硫黄香を感知した。湯の花ははっきり確認できないが、泡付きははっきりわかる。浸かってしばらくすると腕などに細かい泡粒がビシーッと付着するのだ。源泉に含まれるガス成分が飛んでしまわないうちに触れることができる、足元湧出泉ならではの新鮮なお湯だからこそだと思われる。

床は板張りになっていて、たまにボコボコっとあぶくが浮かび上がってきたり、お湯が立ち上る感触を背中に感じたりする。まさしく足元湧出ですな。きわめて清澄なお湯が乱されるのを防ぐべく、大浴場へ行くたびに石鹸で体を洗ってから入ってくださいとチェックイン時に指導された。

すでに書いたようにお湯はぬるい。というよりヒヤッとするレベルなので30℃くらいじゃないかと思う。温泉とは熱いものだという固定観念があると、入った時「なんじゃこりゃ?!」と驚くかもね。でも次第に慣れてきて20分は全然平気でいられる。お湯からあがった際は妙にほかほかする感覚に包まれるくらいだ。

ぬる湯好きにとっては幸せこの上なし。ここ20分→加温槽3分→ここ20分→加温槽3分の小一時間セットを夕方1回、夜1回、朝起床後に1回、チェックアウト前に1回やりましたよ。出る際には脱衣所で腰巻きタオルを脱水機に1分かける。別の人の直後に出ると脱水機待ちがちょっとめんどいから、よく観察してタイミングをずらしましょう。

本館に用意された新源泉の内湯

本館5階にもうひとつ小さめな浴場がある。脱衣所の分析書によれば「アルカリ性単純硫黄泉、低張性、アルカリ性、高温泉」であり、町営の共同源泉を引いたものだそうだ。源泉名は「しもべ奥の湯高温源泉」、下部の新源泉ってやつですな。

浴室にカランは4台。奥に4名サイズの浴槽。岩風呂とかの趣向はなくて普通ぽい感じ。お湯は無色透明で硫黄香がやや強め。別館神泉のぬる湯と比べてしまうので熱めだ・適温だと錯覚しそうになるけど、冷静にみれば体温程度のぬるめの湯というべきだろう。

こちらのお湯も悪くはないんだが、どうしても主役のお風呂にみんなの目が向いてしまい、あまり来る人もいなくて影の薄い存在なのはちょっと気の毒かも。


ご当地は水がいいから食事もうまい

夕食は多彩な品とおいしいお米

古湯坊源泉館の食事は朝夕とも中3階くらいの個室にて。湯治宿のイメージがあるから質素系かといえばそんなことはなく、結構多彩な顔ぶれで攻めてきた。
古湯坊源泉館の夕食
お造りの中に湯葉が含まれてた。あとはエシャロットっていうの? らっきょうみたいな味のやつ。そこかららっきょうの話題となり、嫌いな食べ物の話題へと発展したのは、いい思い出。固形燃料で温めるやつは肉と野菜の蒸し焼き。鍋が温まったら手前のコップに入ったタレを投入する。

その後、天ぷらと川魚の塩焼きが出てきた。ヤマメだと思うけど自信なし。アユとかイワナとかヤマメと言われても正直わかってないのよ。完成した鍋とあわせてこうなる。
古湯坊源泉館の夕食 その2
文字数を割いて記しておきたいのが、ご飯がおいしかったこと。なんだかすごいツヤツヤ光ってたし。メンバー全員が「うまいうまい」と評していたから単なる一個人の感想ではなさそうだ。

聞いた話によると、お米の種類が~というよりも、水がいいからだそうだ。確かに地理的に富士の名水っていうイメージに連なるし、下部温泉そのものも清らかな名水って感じだしな、ってのはさておき、とにかくうまかった。しかし満腹感により一膳のみで打ち止め。もっと攻めたかったなー。

定番的な朝食、やっぱりお米がうまい

朝食も同じ個室で。朝食中に布団を上げるか・そのままにしておくかを訊かれたな。我々はそのままでお願いしますと回答した。別に朝食後に寝る予定はなかったけども。
古湯坊源泉館の朝食
定番風の旅館の朝ごはん。だがそれがいい。蓋をされた鍋は湯豆腐で、着席時にはすでに完成していた。蓋が鍋にくっついちゃって外すのにちょっと手間取った(力任せにすると鍋をひっくり返しそうで慎重にならざるを得ない)。

朝はこれくらいの量で十分でしょう。お米はやっぱりツヤツヤでおいしい。リベンジ気分で少しだけおかわりしたような気がしなくもない。そして食後は布団で睡眠…じゃなくて、ラストの小一時間入浴へ。最後までしっかりと下部温泉を堪能しました。

 * * *

時おりふと行きたくなる下部温泉。中でも湯質にこだわるなら古湯坊源泉館ということになるのだろう。湯治場風情・湯浴み着・温冷交互浴・温泉にしては冷っこいという「世間一般的な温泉レジャー施設のイメージ」から外れた特徴を持ってるので、納得の上で訪問されたい。これらの特徴が刺さる人なら、間違いなくハマるはずだ。


おまけ:帰りもぬる湯天国…佐野川温泉を再訪

帰りは南部町の佐野川温泉へ立ち寄った。個人的には2回目。富士川を離れ、佐野川沿いを走るラスト1kmほどは思い出よりも狭い道だった。そして駐車場にはすでに県外ナンバー含むたくさんの車がずらりと並ぶ。あやうく満車かと思ったほど。
佐野川温泉
入浴料は650円。100円リターン式貴重品ロッカーあり。泉質の説明は「単純硫黄温泉、低張性、アルカリ性、低温泉」だった。一部の浴槽で加温している以外は源泉かけ流しのはず。洗い場のカランの数は見落としたけどそれなりにある。

内湯は加温浴槽と非加温浴槽が並ぶ。どちらも向かい合わせなしで5名程度いけるサイズ。非加温側は湯口で飲泉可。お湯は緑色をしており硫黄臭が感じられる。加温側は適温、非加温側は明らかに体温以下のぬる湯で、温度差がなかりはっきりしている。

露天エリアには岩風呂が2つあり、手前側は(自分は今回入ってないが)体温程度にぬくぬくする温度のはず。入ったメンバーもそんなようなコメントだったし。奥側が主役級というか一番お客さんを集めているところで、ヒヤッとするくらいのぬる湯、かつ泡付きがかなりある。特に奥の湯口に近い場所を陣取ると尋常でなく泡まみれになる…皆それを知ってか、湯口付近は隙あらばすぐに埋まる。

当湯にも小一時間入浴して大変満足した。この旅で最も人口密度の高かったのが佐野川温泉。みんな行きたくなる・人気があるってのは、まあわかる気がする。