源泉と海の幸と地酒に酔う旅の夜 - 温泉津温泉 のがわや旅館

温泉津温泉 のがわや旅館
山陰の名湯として知られる温泉津温泉。島根まで来たからには訪れておかないとな。ということで島根遠征の2泊目に温泉津温泉を選んだのであった。現在は大田市に属し、大田市といえば世界遺産の石見銀山があるから、観光しながら行けばちょうどいいな。

幸いにもネットから気軽に予約できる一人泊OKな旅館がいくつかあった。その中から「のがわや旅館」さんのお世話になったところ、昔ながらの風情を残す雰囲気の良い旅館で、日本海の味覚を並べた料理がうまい。大浴場にはやや小ぶりながら源泉かけ流しの風呂があり、熱めガツン系のお湯を体験できる。ほかに貸切風呂まである(諸般の事情により入らなかったが…)。

温泉津の町並みも見どころだ。また来たくなる温泉地だった。

温泉津温泉「のがわや旅館」へのアクセス

石見銀山観光とセットでどうぞ

JR山陰本線に温泉津駅がある。当然そこが最寄り駅だが、駅を出てすぐ温泉街直結ではない。観光案内所のある温泉街入口までが徒歩10分、のがわや旅館までなら15分だ。駅から5分あまり歩くと温泉津湾が見えてくる直前に若林酒造が現れる…ここのお酒があとで話の中に登場する。
若林酒造
自分は電車じゃなくてレンタカーを活用した。1泊目の宿・国民宿舎さんべ荘を出発して、まずは世界遺産として有名どころの石見銀山へ向かう。ここはパーク&ライド方式を取り入れており、駐車場事情および車を置いてからの足については軽く考えない方がいい。しっかり下調べしておくべきだ。

最初に石見銀山世界遺産センターに立ち寄って資料館を見学した。400円。まじめな展示は割愛して重い重い銀魂…じゃなくて銀塊の写真だけ紹介します。頑張ってどうにか持ち上がった。
石見銀山世界遺産センターの銀塊

レンタサイクルで龍源寺間歩へ

雨が降りそうな天気と所要時間と体力面を勘案し、大森代官所跡まで車で移動してからレンタサイクルで龍源寺間歩(坑道)へ往復する作戦をとった。河村レンタサイクルさんの電動アシスト自転車でいざ出発。片道20分で龍源寺間歩手前の駐輪場に着いた後は3分ほど歩く。

はい、これが坑道の入口です。入場料500円。
龍源寺間歩の坑道入口
内部はこういう感じ。昔の坑夫の人形展示などは一切ない。生の坑道跡でございます。
龍源寺間歩の坑道内部
坑道を出た後の帰路に佐毘賣山(さひめやま)神社があった。山深い地に突如現れる、ごつくて威厳たっぷりの神殿が印象的だ。
佐毘賣山神社

温泉街の狭い道には注意

代官所跡へ戻る途中で五百羅漢というお寺に寄り道した。胎内くぐりのできる本堂と…長野善光寺のようなトンネルではない、御本尊の裏側の暗い空間を通るだけだが…道を挟んで向かいにある500体の羅漢像を見学できる。両方合わせて拝観料500円。内部は撮影禁止。
五百羅漢
近所には思わずカメラを向けたくなる昭和レトロな光景が展開していた。ほーぉ、これはこれは。石見銀山からしか摂取できない栄養がある。
五百羅漢前の通り
そんなこんなで本格的な雨にあわないうちに観光を終え、午後は江津市まで有福温泉御前湯を体験しに行って、夕方に温泉津温泉へやって来たのだった。温泉街の道路はとても狭い。対向車が来るとなかなかハードだから頑張れ。
温泉津温泉街通り
のがわや旅館の駐車場は道路を挟んだ向かいの袋小路的なスペースを使う。


昔ながらの風情を感じさせる旅館

ではチェックイン。決して古くさくなってない一方でライトな今風というわけでもなく、外観から受ける印象以上に昔ながらの風情を感じさせる館内ですな。こちらがロビーでございます。
ロビー
案内された部屋は2階の6畳+椅子やテーブルのないミニ広縁からなる和室。布団は夕食後に敷いてくれるクラシック方式。
のがわや旅館 6畳客室
トイレは共同。2階の男子トイレは、もう忘れちゃったけどたぶん小×2とシャワートイレ個室×2だったかと。洗面所もトイレの隣りにある2名分を共同で使う。金庫あり、別途精算の缶ビールなどが入った冷蔵庫あり、WiFiあり。タオルハンガーは大きめで扱いやすい。

窓の向きの関係で外に見えるのは家屋の列。赤や黒のテカテカ光る感じの瓦が印象的ですな。石州瓦っていうんだっけ。
窓の外に見える景色
もうちょっとこう、別の趣向はないものかという方は洗面所の窓から外を見るといい。よく手入れされた中庭と温泉街の裏側に広がる緑が目に入る。
洗面所から見える景色
写真左下の1階部分は大浴場へ通じる廊下になっている。この廊下から見る中庭もなかなか趣のある景色だったな。


温泉津の源泉を体験できるお風呂

一般風呂と源泉風呂の組み合わせ

のがわや旅館の大浴場は1階にある。同じ1階でもフロントから直接通じてなくて、2階中央もしくは奥の階段から1階へ下りて、昔懐かしの写真を飾った廊下をゆく。
大浴場への通路
で、右へ曲がって中庭の見える廊下の先に男湯・女湯・貸切風呂がある。朝になると男女は入れ替わる。まずチェックイン直後に入った男湯から記そう。脱衣所にはカゴ付き棚が並び、掲示されている分析書には「ナトリウム-塩化物泉、低張性、中性、高温泉」と書かれていた。湯温が下がる時期のみ加温の源泉かけ流し。

浴室には4名分の洗い場。うち3箇所がシャワー付き。内湯ながら岩風呂風につくられた浴槽が2つ。奥の方は5名規模の長方形でお湯は無色透明だった。非温泉の沸かし湯だろう。温度は適温。温泉おじさんとしては積極的に入る機会はなかった。

予想以上のパワフルな湯に汗だく

手前のふた回りほど小さな、ぎりぎり2名規模の浴槽は、濁り湯で満たされていて底は見えない。こちらは源泉風呂でしょう。湯口からチョロチョロと流れ込むお湯の色は、照明の影響でなんとも特定しがたいが、おそらく茶色系だ。浴槽に組まれている岩のあちこちが温泉成分によって茶色く変色していた。

温度は適温。しかし温泉効果のせいかジワジワ攻めてくる度合いがかなり強い。こりゃすげーな。じっくり長湯なんてことはできそうもない。これが温泉津温泉のパワーか。お湯をすくって匂いを嗅いでみると、金気臭が強め。加えて塩化物泉ということで、いかにも温まり効果抜群って感じの特徴だな。

独占状態だったし、クールダウンを挟みつつ粘ってもいいけど、こういうタイプの温泉は「短時間×回数多く」が適している。いったんサクッと終わりにしてあがった。そのわりに湯あがり後のぽかぽかがすごくて汗だらだらよ。

うっかり入り損ねた貸切風呂と、入れ替え後の男湯

また後で入りに来よう、夕食後は貸切風呂もありだな…そんな目論見はすべて吹き飛んだ。ちょっと入浴しただけで“だる~ん”となってしまい、夕方は1回きり。そして夕食後は満腹感とお酒飲みすぎで動けなくなって断念。このパターン、たまにやらかすんだよな~。

ちなみに自分の予約したプランだと貸切風呂を1泊中に1回のみ40分間無料で利用できる特典付きだった。あらかじめ希望時間を予約しておくというよりは、入りたくなったらフロントに出向いて状況を確認し、空いてたらそのままゴー、の方式みたい。余裕こいてないでチェックイン直後にトライすべきだったな。

翌朝。その気になれば貸切風呂の権利を使えたかもしれないが、まあいいや、男女入れ替わった方の男湯に行こうっと。こちらは岩じゃなくて石の風呂。地元の福光石を使っているとの由。4~5名規模のL字型をした沸かし湯浴槽と、L字に接するように2名規模の四角い源泉浴槽をはめ込んだような配置。

浴槽の縁は黒っぽいグレーな石のはずなんだけど、源泉風呂の縁は温泉成分の茶色がこびりつき、まるで茶色い石のようだった。温度その他の特徴は上述した岩風呂の源泉と同じ。ぎゅんぎゅん効いてきます。ちなみに洗い場が何名分だったかは覚えてない。カランが2台か3台はあったはず。


ご当地メニューと地酒と地ビールにご満悦

夕食は寅さんビールとともに

のがわや旅館の夕食は(少なくとも自分のプランだと)部屋食だった。3つほどの選択肢から希望した時間になると料理が運ばれてくる。スターティングメンバーがこちら。
のがわや旅館の夕食
温泉津湾に温泉津港、海が近い土地だけに見事な海鮮主体の品々。どれもこれも知らない食材じゃないが、東日本太平洋側マンから見ると微妙に毛色が異なるような気がする。もちろんおいしくいただきました。

こういう料理に合わせるには日本酒なのかなー。だがまず飲まないわけにはいかない酒があった…寅さんビールだ。温泉津へ行きたいと意識したきっかけが映画「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」だからな。石見麦酒製造。苦みのある大人の味。

夜の入浴を断念するほど飲み食いしちゃった

凌ぎのそばまで進んだ時点でお腹いっぱいになってきた。と思ったらさらに4品追加。うおおおお。
のがわや旅館の夕食 その2
いずれもすばらしかったが特に印象に残っているのが、もち米に百合根とたらこを加えたおこわ風。こういう組み合わせ方があったのかと感服つかまつった。食感と味覚のハーモニーがたまりませんな。で、ビールが終わりに近づいたので、地元若林酒造の開春特別純米を追加注文した。

酒の味を云々いえる舌を持ち合わせてないのを前提に、当時の感想としてはすっきり辛口。しかも塩辛いと思った。まあ海のそばの酒蔵ってことでアイラモルトのイメージに引っ張られてそう思っただけだろう。ウイスキーと一緒にしてはいけない。もちろんピート香はしませんでした。

締めのご飯をちょっといただいてもう満腹で苦しい~。しかも300mlの開春がまだ半分以上残っている。食後もちびちび飲んで減らしているうちに、酔いと満腹感で「もう風呂は無理っす」になっちゃった。

温泉津名物の海苔汁が出てきた朝食

朝食は大広間にて。前夜の満腹感は収まっており、飲んだのが良い酒だったおかげか変な酔いも残ってなく、すっきりした目覚めで体調ばっちり。大丈夫、朝ごはんいけまっせ。
のがわや旅館の朝食
定番的なメニューに加えてイカが出たのが日本海らしい感じがする。少し後で焼きカレイも出てきた。春にふさわしくたけのこもあって文句なし。最も旅情を感じたのが温泉津名物と説明された海苔汁で、海苔と白玉が入っている。熱々です。一口めはやけどに注意。

食後、部屋へ戻る際にテーブルの「コーヒー札」を渡すことで、コーヒーまたは紅茶を部屋まで持ってきてくれるサービスもある。いいねー。ありがたくコーヒーをいただいた。

 * * *

温泉津温泉の街の雰囲気がいいし、そこに自然と溶け込むのがわや旅館の風情もいい。広々とした大浴場とか絶景露天風呂とかを優先的に求めるのでなければ、力強い源泉を堪能できるお風呂もなかなかのもの。お食事面もご当地らしさを感じる内容で満足した。寅さんに触発されての温泉津来訪だったが、来てみてよかったと結論できる。