春の島根遠征の初日に三瓶山エリアで湯めぐりした。名湯ぞろいでどれも省きたくない。そうすると、早いうちに目的を果たして同地域を離脱→夕方までに他の温泉地へ到着する、という行程が時間的に厳しいため、初日の宿をこのエリアで探さなければならない。そうしてお世話になったのが「国民宿舎さんべ荘」だった。
ハード面は手堅いつくりで安心感あり。料理やサービス面もいい感じだ。肝心の温泉面も、良質のぬる湯である三瓶温泉を過剰にいじらずに提供してくれて、いくつかのお風呂は源泉かけ流しだ。大きな湯船だけでなく、一人用の湯船がたくさん用意されているのも大きな特徴といえる。おかげで独占…独泉ってやつですな…し放題でござる。
国民宿舎さんべ荘へのアクセス
鉄道旅の場合、JR山陰本線大田市駅→下の町・青少年交流の家行きバス40~45分→国民宿舎さんべ荘前下車。自分は出雲空港からレンタカーでこのバスと同じルートをたどって三瓶山エリアに着いたのが10時台。それから小屋原温泉→そばカフェ湯元→千原温泉と湯めぐりして、15時台にさんべ荘までやって来た。なお、当館へ直行する分には運転がストレスになる狭い道など特にないから安心。
当時は雨が降ったり止んだりの天気。雨霧で遠くの景色は霞んでしまっている。今日の天気はおいといて、そもそもこのあたりは霧が多いんじゃないかという気はした。そんな感じの地形と雲のかかり方だった。
実際にさんべ荘の近くには「霧の海展望所」がある。泊まった翌朝の、まだしも視界が開けてきた状態で霧の海展望所から撮影したのが下の写真。
仮にもっと天気が良かったとしても、上側の厚い雲の層がなくなるだけで、下界にかかっている雲は残って(もっと広くつながって)雲海らしい雲海を見せることが多いんじゃないかと予想する。
幅広い客層に向いてそうな国民宿舎
王将戦の会場にもなっている旅館
駐車場はわりと広くて余裕あり。奥の方に足湯コーナーがあった。
あとこんなのも。飲泉じゃなくて手湯かな。
明治初期、このあたりは志学村であり、当時「志学温泉」と呼ばれていた三瓶温泉の温泉権は村外の豪農に売却されていたらしい。それを村のために買い戻すのに尽力したのが梶谷啓次郎だって。
さんべ荘は王将戦の会場になっていて、玄関前にこんな立て看もありましたよ。
さて入館しよう。日帰り入浴の客がわりと多く、フロントからロビーにかけては旅館と日帰り温泉の入り混じったような雰囲気だった。こちらがロビー。
お土産コーナーもございます。
ひと通りの設備は揃っている
割り当てられた部屋は2階のダブルベッド洋室。典型的なビジネスホテルのシングルルームよりは全然広い。Mサイズの浴衣、タオル、バスタオルは部屋に備え付けてある。違うサイズの浴衣は階段前の棚に積んである。
反対側からの図。
シャワートイレ、洗面台あり。金庫あり、空の冷蔵庫あり、WiFiあり。あってほしいものはひと通り揃っている感じだ。缶ビールやペットボトルのお茶など飲みたければ1階に自販機があったかと。コンセントの位置の問題で、就寝時にスマホを充電しながら枕元に置くことができず、起床アラームとして使えなかった。代わりに枕元には目覚まし時計が置いてある。
カーテンを開けて見えたのは向かいの部屋の窓。でも首を右にひねったら景色がよく見え…だめだ、白い霧じゃん。まあ今日の天気じゃしょうがないね。
広いから中で湯めぐりができちゃう大浴場
内湯はあがり湯的に使いたい
さんべ荘の大浴場は1階。夜までと翌朝以降で男女が入れ替わる。大浴場前に分析書が掲示されていて「含鉄(II,III)-ナトリウム-塩化物泉、低張性、弱酸性、温泉」と書いてある。源泉温度は34.8℃。他に含鉄を冠さないナトリウム-塩化物泉の分析書もあった。2種類の源泉を使っているのかな。
湯使いについては純温泉協会認定の純温泉A(完全かけ流し)がこの浴槽とこの浴槽、純温泉C(加温のみ)がこの浴槽とこの浴槽…という説明図もあるけど、浴槽の数が多くて覚えきれません。※でも実際に入浴してみればだいたい見当はつく。
夕方と夜に体験した男湯から説明していこう。とにかく浴槽がたくさんあるから1個1個は短めにいきます。脱衣所では鍵付きロッカーを利用。壁にポーラの美肌温泉認定証が貼ってあったなあ。
浴室にカランは11台。サウナ・水風呂の類を除くと内湯浴槽はひとつのみ。向かい合わせで2名×5組くらい収容できそうな湯船に無色透明のお湯が注がれている。温度は適温。「加温・循環しています」と書かれているし、正直なところ主役ではない。あがり湯としての役回りか。
たくさんの一人用浴槽が点在する露天エリア
主役は露天エリアにいる。いや、はっきりした主役は決まってなくて群像劇とでも呼ぶべきか。まず最初に出くわすのが、4名+寝湯2名サイズの岩風呂。お湯は半透明・微濁りの適温。ちょっとだけ浸かって以降はもう入っていない。
ここから先は一人用浴槽のオンパレード。
岩風呂の奥に箱湯と呼べばいいのか、四角い木箱型の一人用浴槽が2つ並んでいる。体勢的に寝湯ぽい姿勢で浸かることになる。お湯は岩風呂よりも濁りが強い黄土色。温度はややぬるめの適温。かなり主張の強い金気臭は今日めぐってきた各温泉と同様だ。軽く加温した純温泉C相当ではないかと思われる。
箱湯の斜め向かいには一人用の陶器風呂が2つ。お湯は箱湯と同様で温度だけがやや熱い。ちなみに一人用はいずれもお湯の投入量が十分に多く、いろんな人が入れ代わり立ち代わりで利用したからといってお湯が鈍っている心配はなさそうだった。
ぬる湯派の狙い目は酒樽風呂と釜風呂
さらに奥には、お待たせしました、純温泉A=33℃の源泉をそのままかけ流しで提供する酒樽風呂と釜風呂がある。ぬる湯派のおじさんが特に狙ったのはここだ。酒樽は知り合い同士なら2名入っても不自然ではないサイズ、釜は完全に一人用サイズ。
先客で埋まっていることもあるけど、ぽっかり空いていることが多く、気楽にトライしやすい…夏は争奪戦になるかもしれないが。主に小さい方に浸かって長湯を楽しませてもらいました。お湯が予想外にも無色透明なのは、熟成して濁ってくる前の状態、フレッシュな源泉であることの表れなんだろうか。個人的な温度の好みにマッチしたからにせよ、このお湯はかなりいい。よかよか。
これだけじゃない。さらに奥のトンネルを抜けると、石見銀山代官所が云々の文句とともに2つの木の浴槽が現れた。一方は丸い樽型、もう一方は四角い檜風呂。お湯は黄土色のにごり湯でややぬるめの適温。箱湯と同様の特徴であった。
結局のところ一人用風呂は8個もあった。各々好きなところを見つけて楽しむといい。
もう一方の大浴場は宝船がテーマ?
男女入れ替わった朝の男湯も基本的には似たつくり。11名分の洗い場、内湯、岩風呂までは全く同じ構成で、箱湯があった場所に大きめの樽風呂が1つだけある。そして斜め向かいの陶器風呂があった場所は五右衛門風呂に置き換わっている。まあ一緒だけどね。
その奥は宝船が云々の文句とともに4種類の浴槽が設置された空間になっている。まず釜風呂と樽風呂、これらは純温泉A相当の33℃源泉を使用しており、入浴時のお湯は透明でなく黄土色に濁っていた。その隣にある別の釜風呂は加温した源泉を使用。
一番奥に小舟の形をした浴槽。3つの区画からなり、それぞれが1名サイズ。うち2区画は軽く仕切られてはいるが実質つながっている状態。温度は適温。残り1区画は他と完全に仕切られており、33℃源泉がかけ流しになっている。この源泉も黄土色濁りだった。
なお、露天エリアは囲いがめぐらされていて屋外の眺望はないものの、あれだけ広いと上はぽっかり空だし開放感は結構ある。
食べる楽しみにも十分応えてくれる
夕食は地鶏せいろ蒸しコースで
さんべ荘の食事は朝夕とも1階のレストラン「アイリス」にて。夕食時間は3つほどの選択肢から希望できたかと。部屋ごとに決まったテーブル席に配膳されていたスターティングメンバーがこちら。
先附は甘酒白菜とイカのウニ和え。魚はカレイの桜えびおろし焼き。プラスお造りで三瓶山といえども海産物には事欠かない。茶碗蒸しは「志学のおだし」で味付けしてある。志学のおだしとは三瓶の原木しいたけを使った万能だしのこと。お土産コーナーでも売っていた。細かい評論はできないけどうまかったよ。
固形燃料で温めているのは銀山地鶏せいろ蒸しだ。できあがりの頃に出てきた手打ちそばとあわせてこうなった。
地鶏はコクがあって味が濃厚。ビールによく合うわ。凌ぎにそばを食べたらお腹いっぱいになってきた。しかし胃が苦しくなりながら頑張って詰め込むというのではなく、苦しくなる手前で完食できたので結果的にはちょうどいい量だったのかな。締めのご飯は甘みのある三瓶産コシヒカリだった。
朝食もしっかりたっぷり
朝食は7時から8時半の間に行けばいい。7時半過ぎに行ったら、皆さんお早い。自分が一番の遅参だったみたいだ。ご飯と味噌汁はセルフでお願いします。
朝からガッツリいくタイプじゃないので、これくらいあれば十分過ぎるほどだ。イカと鮭、肉団子とウインナー、そして梅干し…トリプルアタックで来られては、ご飯をおかわりしたくなるので困ってしまう(困るな)。
先客が次々と食べ終わって去っていき、自分だけがぽつんと取り残されそうで焦りが募る…給食の時間に居残りさせられた小学生みたいな。食後の談話を楽しむグループがずっと残ってくれたのが心の支えになった。最後のコーヒーまでどうにか落ち着いて対処できた。
* * *
小さなお子様連れファミリーからお年寄りまで、幅広い年代の客層がいたし、自分以外にも一人泊の客がいた模様だ。ハード面・サービス面の間口の広さを感じさせる。温泉面では非加熱源泉そのままの浴槽に独占で入れるのがいい。熱いのが良ければ適温風呂もあるし、選択肢が多いのは頼もしい。三瓶山エリアの温泉めぐりの基地に適した宿だ。