湯村温泉というのが全国にいくつかある。関東在住民としてよく行くのは甲府の方。夢千代日記で有名なのは兵庫県の日本海側(こちらは未湯)。そして島根県雲南市の出雲湯村温泉は、今回の遠征最後の立ち寄り先となった。なんでも開湯は1300年近くも昔で、出雲風土記にその存在が記されているほどの歴史を誇るらしい。
奥出雲を発して宍道湖へ至る斐伊川の川べりにある温泉地だ。そこの公衆浴場「漆仁の湯」は観光客も利用できて湯質・雰囲気・景色の評価が高い。じゃあ行ってみましょうかね。
全般にいい意味で素朴な風情にあふれていて、ゆっくりと静かな時間が流れるような空気に癒やされる。なおかつマイルドなやさしいお湯で入りやすい。川見露天風呂もグッド。
出雲湯村温泉 漆仁の湯へのアクセス
頓原から、たたらの里を越えて
JR木次線の木次駅からであれば、雲南市民バス北原線に乗って30分弱で湯村温泉停留所まで行けるようだが、木次線もバスも本数が少ないため注意。
今回は湯めぐりの便宜上レンタカーに頼った。朝、温泉津温泉を出発して昼過ぎに頓原ラムネ銀泉、そしてここ出雲湯村温泉へ。100kmの一般道ドライブと、旅館の朝風呂を含めて1日4湯への入浴は、個人的にかなり頑張ったなあ。どんより曇り+たまにぽつぽつ降るような天気だったから観光をあきらめて温泉に集中するしかなかったんだけどね。
頓原から当湯までは40分くらい。カーナビまかせでよくわかっていないが、一般的に選択されるルートを通ったのだろう。狭めでカーブの多い区間はあったものの極端に酷な道路はなかった。
川沿いの奥の細道がクライマックス
高速道路を越えてしばらく走った先に現れた「鉄の未来科学館」はちょっと気になるなあ。オープンエアミュージアムという看板も立っている。観光施設として整備された様子にしては客の気配がない。なんだろう、入ってみるか…しかしスケジュールを気にして通り過ぎてしまった。後日の調べによると2021年に閉館しちゃったみたいだ。残念。
やがて出雲湯村温泉地区に南側から進入した。まず目に留まったのが国民宿舎清嵐荘で、わりかし規模があってモダンな建物。そこを通過してちょっと行くと、急なV字の角度で左に曲がれとカーナビの指示が。それから橋を渡って即右折アンド右折。ようは最も川沿いの細い道へ入れと。その最後のアプローチ道は本当に狭いから対向車が来ないことを祈ろう。
漆仁の湯の奥に舗装+白線で数台分の区画を示した駐車場があるけど、集会場云々と書いてあって利用可否の確証が持てなかったため、さらに奥の未舗装駐車場に止めた。そちらは入浴客用で間違いない。
ゆったりまったりが約束されたかのような温泉
目の前は湯乃上館という旅館
当湯の向かいは湯乃上館という旅館である。お風呂は漆仁の湯を利用するスタイルのようだ(宿泊客はもちろん何度でも無料)。古民家の雰囲気がいいですね。
では参ろうか。冒頭写真の左奥には有料の足湯コーナーがあった。せめて足湯だけでも、という事情持ちの客がそれなりにいるってことかな。屋内に入るとすぐ受付があって500円をお支払い…本記事公開時点では600円になってる模様。男湯女湯の中間地点に貴重品ロッカーあり。
脱衣所に分析書があったかどうか忘れた。下足箱付近だったかもしれないが、どこかで見た記憶はあって「アルカリ性単純温泉、低張性、アルカリ性、高温泉」だった。源泉温度は42℃台…湯船ではもう少しぬるめになってた。加水・加温・循環・消毒なしのはず。
落ち着く雰囲気の浴室に合ってる、やさしいお湯
浴室内にカランは1台のみ。シャンプーはなく石鹸だけが置いてある。様子を見ていると、みなさん洗身洗髪を行う時にカランを使わず、3箇所ある細長いかけ湯槽から洗面器でお湯をすくい出して使っていた。そういう流儀なんでしょうね。
かけ湯槽のお湯は源泉で間違いないだろう。なぜなら2つのかけ湯槽から15名くらい入れそうなサイズの内湯浴槽内へお湯が流れ込んでいて、それが湯口の役割を果たしているように見えたからだ。お湯は清澄な無色透明。浸かってみると熱すぎない適温だった。42℃よりはぬるいかな。
なんの雑味もないクリアなお湯という印象。入った瞬間からスッとなじんでくる感じのマイルド・オブ・マイルド。ガス成分による気泡とか漂う湯の花とかも目に付かず、清々しいほどピュアな温泉ではないだろうか。かといって普通の沸かし湯とは違う浴感があるし、匂いを嗅げばアル単ぽい温泉臭はわかる。万人向きですね。
浴室の雰囲気もいい。天井や壁は素朴な木の湯小屋の印象が強いし、浴槽は岩風呂風につくられている。たまたまにせよ客の数は多すぎずで人口密度は低く、みな黙々と湯浴みに勤しんでおり、せかせか動き回ったりワイガヤなムードを醸し出していない。ただゆっくりと時が流れている。おじさんくらいの年齢層にはそういうのが味わい深いなあ。
ちなみに素朴=古い・ボロいではない。管理状態は良好で、快適に利用できる水準は保たれているからご安心を。
いつまでも川を眺めてしまう露天風呂
露天風呂もあるな。6~8名サイズで浴槽の縁は木、内部の素材は石だったような。湯口からの投入量が多く、反対側の湯尻からあふれて出ていくお湯の様子がなかなかに豪快。浴槽内のお湯がどんどん入れ替わっているように見えて頼もしい。
見た目その他の特徴は内湯と一緒で温度だけがぬるめだった。ぬる湯好きとしてはありがたい。露天風呂に多く時間を割いて内湯をワンポイントアクセントにする使い方をさせてもらった。屋根が付いてなくて途中から雨が降ってきたけど、そんなの関係ねえ。
露天風呂から斐伊川が見える。下の写真は帰り際に駐車場付近から撮ったもので、露天風呂で目にするのも概ねこんな景色だ。
空模様と一緒に川も荒れてきちゃってたけど、ふだんはもっとおとなしい流れなんじゃないかと思う。一説によると河原に野湯の露天風呂が存在するそうだからね。しかも足元湧出泉。よーし、じゃあ探して入っちゃうぞ、なんて今回はそんな状況じゃないし余裕もない。野湯の方は上級マニアの方々におまかせします。
旅のスケジュールが気になったのと、1日4湯でぐったりして帰りの運転に差し支えるのをおそれて、節制気味に行動して滞在40分であがった。しかしその気になればもっともっと長湯を楽しんだに違いない、やさしいお湯だった。遠征の締めくくりにぴったりですな。
おまけ:試練の武部峠越え
最後のおまけ。漆仁の湯を出たとたん雨が本降りになってきた。うわゎーー。けどまあ、あとは空港近くのレンタカー屋まで運転するだけだから、天気面では逃げ切り濃厚。よし勝った(謎)。
だが安心するのはまだ早い。高速代をケチって一般道を走ったため、途中でえらい酷な道を走るはめになった…。最初の斐伊川沿いの県道(?)は普通だったが、北から西へ向きを変え始めた矢先、このままだと出雲市中心部へ向かってしまい空港から遠ざかるとカーナビが判断したのか、川を渡って別の北向きの道に入るよう指示してきた。
おそらく武部峠越えの道だと思う。建設中のトンネルを横目に狭い山道へ進入したところ、この旅で最も過酷で狭隘な道であった。きっつー!! ずっとヒヤヒヤし通し。もし対向車いたら完全に詰んでいた。荒神谷遺跡のところまで来たら走りやすい道路になってようやくホッとした。最後にこんな試練が待っていたとは。
とにもかくにも無事でよかった。ということで空港では一人打ち上げ会。スサノオラーメンというのを注文してみた。
麺はスープの下に沈んでいる。中央の青緑色の具は、かまぼこで作った草薙の剣だそうだ。出雲らしさを表現したラーメン食べて大団円。今回は極上の温泉ばっかりだったし、好きなぬる湯にもたくさん入った。大収穫だったな。