ノスタルジックな足元湧出ぬる湯という夢の舞台 - 千原温泉

千原温泉
島根三瓶山エリアで温泉めぐりをするなら絶対に外せないのが千原温泉。足元湧出の生まれたて源泉を堪能できる貴重な温泉だ。しかもぬるい。ぬる湯好きにとってこんな夢のような話があるだろうか。

今回の島根遠征でも当然のごとく計画に組み入れており、当初は2日目に訪れる予定だったが、心身ともに調子が良くて時間に余裕があったから初日にクリアすることにした。これには天気が良くなかったのも後押しした。屋外の観光とかいまいち気が進まないし、どうやって時間つぶすか悩むくらいなら温泉入っとけということで。

お湯のクオリティ、ちょっと鄙びたノスタルジックな雰囲気、すべてがすばらしい。1時間近くいたけど、もっと延長したいくらいだった。

千原温泉へのアクセス

雨が前倒しにさせた計画

旅の初日。出雲空港でレンタカーを借りて大田市へ移動、小屋原温泉そばカフェ湯元と湯めぐりして、計画では午後の時間を何らかの観光に費やすつもりだった。

しかし雨が降ってきてしまった。この天気じゃなあ…。展望所からの絶景といってもガスって真っ白な世界しか見えないだろうしなあ。無理して雨の中を黙々と歩いてもテンション下がるし、下手すると心が折れて旅のワクワク感が台無しになってしまう。

やはり温泉に入るくらいしかやることがないな。2日目午前に予定していた千原温泉に今日行ってしまおう。今宵泊まる宿のお風呂を含めると1日で4湯、ちょっと頑張りすぎな気はするけど、幸いにも心身のコンディションは絶好調に近い。やるなら今しかねぇ。

というわけで三瓶町志学から美郷町千原へ向けて出発。ただしグーグルマップやカーナビが推奨する「北から回り込む最短ルート」を取らなかった。事前調査により自分の運転技量では厳しいと判断したため。離合困難な狭いくねくね道が5km以上も続いてそうなんだよね。

三瓶温泉付近から向かうなら南から回り込むルートで

かわりに美郷町の中心部まで下り、国道375号→県道166号を使って南から回り込むルートを選択。こちらは遠回りになるかわりに大半が快適な片側1車線確保ずみ道路。酷なラスト2kmも北回りの道よりはいくぶん走りやすそうだった。実際に両方を走って比べたわけじゃないけど、この判断は間違ってなかったはず。

県道166では並走する廃線跡が目についた。もしかして三江線かな。旧駅らしき跡もあったりして探索してみたい気持ちになるもスルー。今は温泉に集中しよう。

現地の直前に未舗装の駐車スペースが現れた。もっと先へ進めば千原温泉のすぐそばにメインの駐車場があるんじゃね? などと甘い考えでいると、いよいよ道が細くなり、行った先に駐車場はなく(もしくは満車)、Uターンもできずで泣きを見る可能性あるある。初見で変にリスクを取るべきじゃない。即断で未舗装スペースに車を止めた。

そこから徒歩1分で千原温泉に到着。実際は当館の隣にメイン駐車場があって空きもあったけど、それはあくまで結果論。保険が掛け捨てに終わっただけの話だ。最適厨じゃないからいちいち気にしない。


まさにぬる湯天国の千原温泉

さすがの人気ぶりを実感する

駐車場に近い側の受付所で入浴料500円を支払って隣の入口からお邪魔する。
千原温泉の玄関付近
男湯は満員御礼ということで、「どなたかが出られたら入って結構です。それまで休憩室で待っててください」とのこと。了解です。休憩所は鄙びた湯治宿の風情たっぷりで各種パンフレットが置いてある。
千原温泉の休憩所
5分か10分か待つうちに一人の男性が通り過ぎて出ていった。つまり入ってOKってことだ。じゃあ行きましょう。廊下の奥へ進んで男湯へイン。簡素な脱衣所の簡素な棚の多くが先客の衣類で埋まっていた。ああ、これは混雑してますね。だが怯んでる場合じゃない。

扉を開けて浴室へ。下り階段とともに右手がカーテンで仕切られた謎の通路が続き(謎解きは湯浴みのあとで)、奥に4~6名サイズの浴槽が現れた。そこにはすでに先客が5名。正直ちょっと入っていきづらい人口密度だった。だが怯んでる場合じゃない。

すばらしきぬる湯&にごり湯

洗い場はない。丁寧なかけ湯の後、「えろうすんません」的なムードを醸しつつ、隅っこにちょこんと加わらせてもらい、どうにか居場所を確保した。

浴槽脇の壁に泉質が張り出されているし、休憩室前に分析書があったかもしれない。とにかく我が記録メモによれば「ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉、高張性、中性、低温泉」だった。低温泉を源泉かけ流しだからぬるい。だがそれがいい。体温に近い温度なので冷たすぎず熱すぎずでとても心地よい。ぬる湯の醍醐味を存分に堪能できる。

お湯は黄土色に濁っており、浴槽の底どころか一寸先も見えない。だから泡付きとか湯の花とかの状況もよくわかりません。匂いははっきりと金気臭。三瓶山周辺で今回体験してきた各温泉と同様の匂いだ。

貴重な足元湧出泉

当湯の足元湧出について触れないわけにはいかない。浴槽の底から源泉が直接湧き出しているのだ。お湯の鮮度はフレッシュ・オブ・フレッシュ、これ以上ない最上級である。ゆえに浴槽のあちこちでボコッボコッと気泡とともに湧き出した源泉の塊が上昇してくる様子を観察できる。思い込みによる幻聴かもしれないが、実際にボコボコという音が耳に届いてたような。

浴槽の底から湧出して上昇する源泉の塊が背中などに触れるとくすぐったい。温泉は生きていると実感する瞬間ですな。いやー、たまりません。

浴槽の縁だったか、縁に近い壁板だったか、小さな鍾乳石状の析出物も見られたりして、並外れた「本物の温泉」をまざまざと見せつけられた。湯質はもちろんのこと、小さめながらも鄙び湯治場ムードたっぷりの、ノスタルジーあふれる湯小屋も特筆ものだ。そりゃあみんな行くよね。混雑しちゃうよね。

カーテンの向こうにあったものは…?

すべてが溶けてゆくような感じで天にも昇る気分。ああ、やばい、涅槃に到達してしまう。遠方から連れ立って来ているらしきグループの、内輪でじゃれ合う姿を臆面もなく公衆の面前に露呈します式おしゃべりは正直耳障りだったが、良くも悪くもその雑音が現世につなぎ止めてくれたようなもんだ。

やがてひとり静かに浸かっていた常連風の客が、おもむろに「五右衛門風呂」と言いながら例のカーテンの奥へ消えていった…あ、そうなの? カーテンの向こうは五右衛門風呂だったのね。どうやら上がり湯として使う男女共用の五右衛門風呂があったらしい。

※男女共用ゆえ、使用前には「五右衛門風呂使います」と男女湯全体に聞こえるよう声を掛けるのがマナーっぽい。

というような体験を経て、1時間弱で出た(五右衛門風呂は使わず)。いやー、千原温泉すごかった。近隣地区の皆さんは足繁く通うことができちゃうのかよ。うらやましすぎる…想像以上の名湯に興奮冷めやらず、しかしあくまで冷静に、帰りも南回りルートで三瓶町方面へ戻っていった。