温泉マーク発祥の地の湯質にすぐれた宿 - 磯部温泉 小島屋旅館

磯部温泉 小島屋旅館
群馬の磯部温泉といえば温泉マーク[♨]発祥の地といわれる。また、映画「男はつらいよ 寅次郎子守唄」(第14作)のオープンニングのシーンに登場した、寅さんゆかりの地でもある。そんなわけで行ってみたいなーと思っていたのだ。

ネットでいろいろ情報収集してみると、温泉通の人ほど小島屋旅館さんの湯質を高く評価しているようだった。磯部温泉の中では湯使いが図抜けており、源泉本来の個性が強く現れているとかなんとか。自分が遠征するのも温泉目当てだから、せっかく行くならそういう点にはこだわりたくて、はい決定。

確かに濃ゆい印象で、薬のような匂いやピリピリと攻め立ててくるような感触のある、なんとも不思議なお湯だったな。

磯部温泉「小島屋旅館」へのアクセス

駅から近いので電車でも可

よく利用させてもらってる楽天トラベル・じゃらんといったサイトに小島屋旅館は現時点で掲載されていない。リアル店舗の旅行代理店経由で取り扱っているのかどうかは知らん。今回は直接電話して予約した。一人泊でも断られることはなかった。

場所はJR信越本線・磯部駅から徒歩5分ほどの立地だから電車で行くにも便利だ。ただし他の温泉施設や観光スポットを効率よく回りたかったため、今回は車を運転していった。直行するなら上信越道富岡ICから下道になるんでしょう。

太っ腹サービスのこんにゃくパーク

実際は関越道花園ICから下道。まず埼玉県神川町のおふろCafe白寿の湯へ立ち寄り、その後は群馬県に入って甘楽町のこんにゃくパークへ。工場見学+直売所+体験教室+足湯その他の複合施設だ。わりと大規模。
こんにゃくパーク
受付でどこから来たか(都道府県名)を伝えると、パンフレットとバイキング券をくれる。入場料は特にかからず無料だった。館内ではたいがい最初に2階へ上って工場を見学することになる。見学通路からガラス越しにゼリー・板こんにゃく・しらたきの製造工程を見つめるのであった。
こんにゃくパークの工場見学
続いて1階へ戻ると、こんにゃく製品の直売コーナー。ここまではいいとして、その奥にある無料のこんにゃくバイキングがたいそうインパクト大きかった。
こんにゃくバイキング
こんにゃくオンリーとはいえ、味噌田楽・玉こんにゃく・レバー風・うどん風・焼きそば風・かき揚げ・唐揚げ・デザート風…その気になれば食事1回分の量を食べちゃいそう(「20分以内でお願いします」の注意喚起あり)。旅館の夕食が入らなくなるとまずいから控えめにしておいたが。

こんにゃくパークの駐車場奥から妙義山と真っ白な浅間山(?)がきれいに見えたのはいい思い出。
妙義山と浅間山

温泉街では道迷いに注意

続いて訪れた世界遺産の富岡製糸場についてはまた後で。富岡製糸場の見学を終えて磯部温泉街に着いてから、いささか手間取ってしまった。第一に、温泉街の道路が狭くて運転がスムーズにいかない。第二に、カーナビが旅館の場所を見失っており、誤った場所へ誘導する。おかげでラスト100mにえらい苦労した。

正解は、見晴館・旭館のある高台側ではなくて(道が狭くて迷い込むと大変)、磯部館・磯部ガーデンのある川寄りを意識するとよい(まだしも走りやすい)。名月堂・松風堂・栄泉堂といった和菓子店が並ぶ通りからちょっと入ったところだ。事前にグーグルマップで場所を確認しておくと吉。


昔ながらの雰囲気たっぷりなお宿

ではチェックイン。予約時に電話口で念を押された通り、昔ながらのレトロ感たっぷりのつくりである。もちろん承知の上だし、こういうのは嫌いじゃない。
小島屋旅館 2階の談話スペース
おー、昔の料金表だ。ひと桁円で泊まれたってこと?
昔の料金表
案内された部屋は2階の8畳+広縁和室。昔ながら系とはいえ管理はしっかりしており居住性に不満はない。布団は最初から敷いてあった。
小島屋旅館 8畳客室
トイレは共同で男女別。男子トイレは小1+個室1。共同の洗面台は1人用。室内に金庫あり、空の冷蔵庫あり、電子レンジもあるぞ。WiFiは見当たらず。ウエルカムドリンクとしてミネラルウォーターのペットボトルと、お菓子は磯部せんべい。サクッとして甘くてうまい。
磯部せんべい
窓を開けて見えるのはこのような景色。高台側なのかな。
窓から見える景色
ちなみに他のお客さんは3,4組いた様子。連泊が多そうだった。仕事関係の滞在宿としてビジネス利用している雰囲気の客もちらほら。


本格派のパワフルなお湯が待っている

見たことのない泉質名に高まる期待

小島屋旅館のお風呂は向かいの建物にあった。冒頭写真からわかる通り、小路をはさんで2つの建物が立っている。写真中央から右にかけてが帳場や泊まった部屋のある棟(仮に本館と呼ぼう)、左奥がお風呂場のある別棟だ(仮に別館と呼ぼう)。

本館から別館への移動は2階の渡り廊下を使う。廊下にはかなり古い時代の雑誌や絵本がずらりと飾ってあった。
渡り廊下
別館の階段を1階へ下りると、パン酵母の香ばしい匂いが漂ってきた。聞いた話ではパン屋さんを始めたんだとか。うん、それっぽい工房があるね。そして1階奥まで進むと女湯・男湯が現れた。

扉に貼られた分析書によれば「含銅・鉄(II)-ナトリウム-塩化物・炭酸水素強塩泉」ですって。含銅ってのは記憶にないな。初めて見たんじゃないか。ナトリウム-塩化物以外の字面を含む強塩泉もおそらく初めてだ。なんだかすごそう。加水・加温・消毒あり、循環なし。

薬剤臭のする熱めのお湯

レトロ宿ながらも脱衣所や浴室はそんなに鄙びてない。比較的万人に対応できるだろう。脱衣所については窓のデザインがなんとなく大正ロマン風を思わせるほか、別の古い分析書に「日本カルルス磯部温泉」と書いてあった。味のある名称だな。

浴室の右側に1〜2名サイズの空っぽの浴槽があった。温水と冷水を示す赤と青の刻印が付いた、よくあるタイプの蛇口が壁から生えている。まあ深く追及する必要もあるまい。正面奥には4台のカラン。左側に3〜4名サイズの浴槽があり、浴槽付近の床の一部は茶色い析出物に覆われていた。うわあ濃ゆそう。

ライオンさんの湯口から投入されるお湯はささ濁りで、浴槽の底にすのこが敷いてあるのがわかるくらいの透明度はあった。では浸かってみよう…んん、ちょっと熱いかな。でもそのうち慣れる。

熱いからというだけではない、パワフルな効きめが感じられるお湯だ。なぜだか妙にピリピリとくる感覚があるんだよね。匂いを嗅ぐと、これといった明確な認識には至らないものの、絶対に無臭ではないと確信する何かがある。ふと連想されるのは薬剤臭かな。湯の花や泡付きの面で目立つところはなし。

不思議な力で引きずり込まれる

長湯できる温度でないため、しばらく浸かったら浴槽外に出てクールダウンする必要がある。で、その際に浴槽の縁に腰掛けると、お尻がちくちくします。縁にも茶色い析出物がびっしりとこびりついて千枚田を形成しており、表面の細かい凹凸の上に体重をかけるので、どうしてもそうなる。

熱い熱いと言いながらもしつこく何度も浸かり直してしまう、沼る温泉だ。強烈な個性が〜というよりは、なんだかわからないけど不思議な力強さがある。他にたとえようのないお湯だけど、強いてあげれば三朝温泉を思い出すな。

お風呂が1箇所で他のお客さんが3〜4組いれば、簡単にかち合いそうな気がするにもかかわらず、独占チャンスが多かったのは良かった。夕方・夜は独占、朝食前はかち合ったためいったん遠慮して時間をずらして再トライしたら独占、チェックアウト前にラスト入浴へ行ったら独占だった。


お食事もパワフル。満腹不可避

夕食の品数と量に圧倒される

小島屋旅館にレギュラープランで泊まったところ朝夕とも部屋食だった。夕食は勧められた通り18時半にしてもらい、運ばれてきたのがこちら。この時点でボリュームたっぷり。
小島屋旅館の夕食
すき焼きはしらたき・下仁田ねぎ・上州牛というワードが浮かんでくるので群馬の得意技じゃないかと思ってしまう。その通りの食材を使っているかは不明だが。このすき焼きと鶏肉を使った煮物と焼き魚でもう十分でしょう。…と思ったら追加で出てきた。
小島屋旅館の夕食その2
うおお、なんじゃこりゃあ。ステーキ肉(写真は半分以上食べた後)、ひとつひとつがでっかい天ぷら、さらにパン。すでに満腹になりかけているのに、これ以上入るだろうか。ひとまずパンは翌日に回そう。さあいくぞ。

…だめでした。天ぷらとステーキをやっつけるのが精一杯。焼き魚は半分以上残してしまった。締めのご飯はお櫃に満載の炊き込みご飯だったのに、ひと口ふた口程度でギブアップ。ああもったいない。しかしもう限界だった。きのこなど具材たっぷりの味噌汁をどうにか完食して終了。久しぶりに膨満感で夜中まで苦しむことになったのである。

いやーすごかったな。それぞれの品はしっかりと作り込まれたもので、宿泊料金を考えたら質・量とも想定のはるか上をいってる。

朝食はオーソドックスに

朝起きたらまあまあ胃の消化が進んでいた。うん、大丈夫そうだ、さあ来い。希望した8時になって運ばれてきたのがこちら。
小島屋旅館の朝食
オーソドックスな日本の朝食で結構ですな。卵を割ってみたら温泉玉子だった。磯部温泉のお湯で作ったものだろうか。あの不思議な感じの強塩泉の中に入れられたんだとしたら、どんな味がするんだろう…さすがにそれは勝手な妄想であり、実際は普通の温泉玉子の味でしたね。

ご飯は白飯で、やっぱりお櫃にたっぷり入っており、おかずの力を借りても空にすることはできなかった。そして食後にドリップコーヒーが用意されていたのは大変良かった。ごちそうさまでした。

 * * *

通好みの湯質なのはわかる気がする。クオリティ重視の温泉目当てで旅行する方であれば一浴の価値ありと言える。そういった層の方々は鄙び宿やレトロな湯治宿指向だろうから、ハード面についてもマッチするでしょう。知る人ぞ知る本格温泉の宿ってところか。


おまけ:世界遺産と寅さん

時間配分を間違えちゃった富岡製糸場見学

こんにゃくパークの後、小島屋旅館へ行く前に訪れた富岡製糸場について。施設内に無料駐車場はなく、周辺の民間駐車場を探して止めるみたいね。徒歩5分の距離を厭わなければ、自分が利用した市営宮本町駐車場というのが安いと思う。
富岡製糸場
入場料は1000円。予想よりボリュームがあって見学に時間を要する。でも早めに旅館に着いてゆっくりしたいという思惑もあったし、だんだん駆け足になっちゃった。最初に入るであろう東置繭所の中は全体的な説明あり。
東置繭所内の展示
向かいの西置繭所は建材や設備品の展示、アートギャラリーなど。撮影禁止区域が設けられているので注意。
西置繭所
西置繭所2階の外廊下では次のような景色を展望できる。
西置繭所2階からの展望
このあたりから旅館着=16時過ぎが意識されてきて、露骨に駆け足になってきた。最後に操糸所だけ見ておこう…中にはなんかそれっぽい機械が設置されている。
操糸所の機械
操糸所の奥では糸取りの実演をやっていた(撮影禁止)。はい、見学はここまで。せっかくの世界遺産があっさり風味の見学になっちゃったな。時間配分をミスった。

河原でひとり寅さんを想うの図

翌日小島屋旅館をチェックアウトした後、近くの碓氷川へ行ってみた。ホテル磯部ガーデンに面するあたり。
碓氷川
映画のロケ地そのものずばりではないだろうが(河原のシーンはあったが碓氷川とは限らない)、「寅さんも近くまで来ていたんだなあ、磯部温泉に泊まったのかなあ」と、しばし感慨にふけるのであった。