泊りがけで箱根に行くなんて、もう長いことやってない。大昔に何度か経験していたため新鮮味の面で弱かったことと、インバウンド含む昨今の混雑ぶりから回避の気持ちが働いたことと、ぶっちゃけ価格相場が高すぎて手が届かないことが大きな理由。
しかし真冬に一発どこかの温泉へ行っておきたいと目論んだ際に、ふと「箱根はどうだろう」と思い直したのだ。車を使わず電車・バスで行くことにすれば、山の方とはいえ神奈川だし、冬の気候が障害となるリスクは大きくないはず。さらに休前日を外して価格と混雑のピークを避ける作戦。
その中で手が届く候補を探してKKR箱根宮ノ下に決めた。静かな環境の保養所的な温泉宿で、木賀温泉の泉質もなかなかいい。
KKR箱根宮ノ下へのアクセス
駅から徒歩の場合は急坂に注意
宿名から宮ノ下温泉のような気がするけど実際は木賀温泉に属する。古くからの箱根七湯…湯本・塔ノ沢・堂ヶ島・宮ノ下・底倉・木賀・芦之湯…のうちのひとつだ。ちなみに現在は箱根十七湯に増えてる。※一説によれば箱根二十湯とも。
最寄り駅は箱根登山鉄道の宮ノ下で、駅から徒歩20分。バスであればホテル前停留所で降りると歩く距離は半分ほどになる。いずれにせよラスト250mが超きつい急坂なので要注意。事前に申し出れば宮ノ下駅まで送迎してくれるから頼った方がいい。
箱根といえば彫刻の森美術館
自分はといえば、箱根に行くならそれにふさわしいワクワク感が欲しいからと、箱根湯本から箱根登山鉄道に乗り換えて三度のスイッチバックを体験しつつ、宮ノ下をスルーして終点強羅の手前・彫刻の森駅で降りた。
そう、彫刻の森美術館を見学するためだ。初めてじゃないけどね。かなり昔の遠い記憶なので久しぶりにいいかなと思って。入場料1600円のチケットを買い、中に入るとやっぱり何も覚えちゃいなかった。典型的な美術館らしい作品の屋内展示は、入ってすぐの本館と最奥部のピカソ館へどうぞ(中は撮影禁止)。ピカソは絵画だけじゃなかったのね。
あとは屋外に大きなオブジェがぽつぽつと置かれているのを見ながら敷地内を歩く。広いから思った以上に体力を使う。芸術の素養がないから、作品を見ても意味や解釈がさっぱりわかりません。
直線距離だけなら彫刻の森のすぐそばだが…
幸せをよぶシンフォニー彫刻という作品は展望タワーでもあって、上まで登ると360度を見渡せる。今宵泊まるKKR箱根宮ノ下は、高低差を無視すれば彫刻の森美術館のすぐ近所と言ってよい。地図アプリで2次元的に認識するだけならピカソ館のすぐ裏手みたいな場所だ。タワーの上から宿の方角を望むとこうなる。
木の枝の隙間から見え隠れしている建物がそうなのか、あるいは崖下の見えないところにあるのか…標高差100mくらいありそうだからね。なので美術館の裏口から当館を最短ルートで結ぶような都合の良い道はない。
電車かバスで宮ノ下方面へ大きく迂回するしかなかったので、鉄道で宮ノ下駅まで行って、そこから歩いて最後の超急坂もしっかり体験しましたよ。あの傾斜は歴代山の神でも手こずるだろう。
万事しっかり手堅い宿
もとは公務員向けの保養所
ではチェックイン。KKRとは国家公務員共済組合連合会のことで、もともと公務員向けの保養所だったみたい。今は一般の人も泊まれる(ちなみに自分は公務員ではありません)。そうした性格の宿だから全般に鄙びすぎず華美すぎずの質実剛健的な雰囲気。
ただお堅いだけではなく、ロビーの奥の方にはキッズコーナーと漫画コーナーがあった。
フロントの向かいにはちょっとしたお土産&お酒の売店あり。ビールは中びんのみ。350ml缶があれば風呂あがりにちょうどいい量なんだが。まあ中びん飲みましたけど。
また1階エレベータ乗り場の横から外へ出ると、わんぱく広場なる遊び場になっており、わりと眺望が開けているから展望所としても機能する。
思ったより好条件な「訳あり最上階プラン」の部屋
案内された部屋は3階からさらに少し階段を上った3.5階のようなフロアの8畳和室。たしかインターネット予約限定の訳あり最上階プランだったな。訳ありと言っても普通の広さだし設備面にも管理状態にも特に不足はなかった。
布団は最初から敷いてあった。シャワートイレ・洗面所あり。金庫あり、空の冷蔵庫あり。WiFiあり。金庫の鍵は漫画チックなデフォルメの効いた形でなんとなく愉快な気分に。浴衣はフロント脇に数種のサイズが置いてあるから自分にあったやつを取っていく。
窓の外に見える景色がこちら。もし反対向きの部屋だったらピカソ館からズドーンと落ち込んでいる崖の斜面しか見えないだろうから、一人泊にしては好条件な部屋を割り当ててくれたようですな。ありがてえ。
木賀温泉の3つのお風呂が待ち構える
温泉臭が結構漂ってくる
KKR箱根宮ノ下のお風呂は内湯と露天で場所が異なる。内湯は2階、露天はいったん外へ出て歩く。内湯の方は「木賀の湯」と「ひょうたん風呂」の2つがあり、21時45分までは前者が男湯で後者が女湯。それから15分の一時休止を挟んで22時以降は男女が入れ替わる。
チェックイン直後にまず木賀の湯へ行ってみた。例の急坂や入館直後からすでに時々ふわっと温泉臭が鼻につくなと思っていたのだが、脱衣所ではかなりはっきりと感じられる。なかなかのもんじゃないか。掲示されてる分析書には「単純温泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。加水・加温・循環・消毒いずれもあり。
冬にはいい感じ、鮮度も良さそう
浴室に入るとここでもムワッと温泉臭。なんだかアピールがすごいな。カランは奥に5台。手前に4名規模の浴槽が無色透明のお湯を湛えている。湯口からの投入量は多く、しっかりと浴槽の縁を越えてオーバーフローする様子が見て取れる。浴槽のお湯が入れ替わる回転率(?)は良い方じゃないかと思われ。
浸かってみると適温だった。真冬にはほっとする温度だね。熱すぎることもないから、すぐにのぼせて出なきゃいけなくなるタイプではなく、じっくり温まることができる。近年のおじさんは冬になると指がむくんで血が滲んだり、気化冷凍法を食らったのかと思うほど体の芯から冷え切ってしまうから、ちょうどいい湯治タイムだ。
湯の花や泡付きは特になし。匂いを嗅ぐとやっぱり温泉臭であって塩素の主張は感じられない。いいね。夕方混み出す前に露天風呂へ行きたかったので、まずは軽いジャブくらいのつもりで早めにあがった。
少し外を歩いていく露天風呂・せせらぎの湯
木賀の湯の後は続けざまに露天風呂・せせらぎの湯へ。玄関口で館内スリッパをサンダルに履き替えて(用意されてるサンダルが全部はけてしまってたら露天風呂はキャパ一杯ということだから出直そう)、沢沿いに1分ほど歩くと、男女別の入口が現れる。
こちらの脱衣所の分析書も木賀の湯と同様だが、加水・消毒のみで加温・循環なしだった。ほほう、そうなのか。中にカランの類はなくてかけ湯と3名規模の岩風呂があるのみ。
入湯した瞬間は「熱い!」と思ったけど、表面だけで下の方はそうでもなかった。腕を使ってぐるぐるかき混ぜたら適温になった。お湯の特徴は木賀の湯と一緒。たまに小さな白い湯の花が見られるくらいかな。温泉らしい匂いと浴感はしっかり保たれている。
周囲は目隠しの塀が張られていて眺望はない。しかし目線を上にやれば木々や空が見える程度の自然環境感はあった。
もうひとつの内湯、ひょうたん風呂
木賀の湯は夕方と夜、露天風呂は夕方とチェックアウト前に入った。そして朝起床後に行ってみたのがひょうたん風呂だ。大まかな構造や広さは木賀の湯と同じだと思われるが、なんとなく一回り大きいような印象を抱いたのは、たぶん気のせいだろう。
浴室の手前側に5台のカラン。奥には名前から察せられる通り、ひょうたんの形をした浴槽。半分は浅く作られており、寝湯とは言わないまでも自然と仰向けに近い体勢で入ることになる。残り半分は普通の深さである。浅い側に2名、深い側に3名、計5名いけそうなサイズ。
オーバーフローしたお湯が床の上を流れる様子はこちらでも確認できた。温度は熱すぎない適温で木賀の湯よりも少し低めに感じた。時間や状況次第で変わる話なんだろうけども。しっかりと温まったおかげで、しばらくは冷え冷えモードの日常生活が続いても耐えられそうだ。
温泉宿の旅館飯をたくさん楽しめます
夕食はいろいろ出てきて、なかなかにボリューミー
KKR箱根宮ノ下の食事は地下1階の食事処で。夕食は18時、朝食は8時に固定されている。地下1階の手前に食堂があって自分はそっち。奥に広間があったのは団体さん用かな。食堂内には部屋番号の札付きのテーブル席が用意されていた。衝立が目隠しになって他の客からうまく隔離されてる感を確保している。夕食のスターティングメンバーがこちら。
温泉旅行のこういう旅館飯が楽しいんだよね、っていうツボを押さえたメンバー構成。さすがわかってらっしゃる。大根を何かで巻いてるのがあるなと思ったら鮭だった。へー、そういう組み合わせもあるのか。続いて出てきた料理を茶碗蒸しだと思って食べたら、なんだか妙に濃厚。どうやら白子豆腐だったらしい。
鍋物は鰤蕪菁。後出しの煮物とあわせて中身はこれ。
なんだかんだでボリュームは十分すぎた。周囲の席からも「量が多いな~」との声があがっていた。だが締めのご飯がたけのこ釜飯とくれば残すわけにはいかない。
いろんな品をちょっとずつ系かと思わせて、終わってみれば腹八分目、ではなくて九分目、でもなくて限りなく十分目だったな。
朝食もいろいろ出てきた
朝食も同じ席で。朝にしてはすごくないか、これ。
普通は夕食に出てきそうな茶碗蒸しがある。アジの干物は定番ですな。固形燃料で温めているのはシジミの味噌汁と、豆乳から作る豆腐。普通の白飯の他にセルフで取りに行くお粥もあったので、せっかくだから取ってみた。こうなるとアジと明太とろろの相手をするためにも、お粥に続いて白飯にも手を伸ばさざるを得ない。あーもうお腹いっぱい。
食後のコーヒーが欲しければロビーにて有料版が提供されているからどうぞ。朝食が8時ならゆっくりいただいても、入浴時間の終わる9時半には余裕で間に合う。ってことで最後の露天風呂へ行ったのであった。
* * *
キッズコーナーやわくわく広場の存在から、小さなお子様連れファミリーの利用もあるのだろうが、当時の客層は大人ばかりだった。しかもどちらかと言えばシニア世代。そういう客層に向いた雰囲気ではある。
休前日を外した訳ありプランのおかげにせよ、あの箱根で“おひとりさま”の2食付きをそれなりに手の届く価格帯で利用できたのはありがたい。冬の体調トラブル予防に木賀温泉が役立ってくれたと思う。
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