見よ、白と黒のミステリアスな競演 - 塩原元湯温泉 大出館

塩原元湯温泉 大出館
塩原温泉発祥の地とも言われる元湯温泉は、箒川沿いに温泉街を形成する現在の塩原中心部からさらに山奥の、3軒の旅館以外には何もない静かな温泉地だ。秘湯の雰囲気とにごり湯を楽しめるとのことで以前から興味はあったものの、アクセスの問題と一人泊のハードルが高そうだったために躊躇していた。

このたび車という飛び道具を手に入れたのでアクセスの問題はクリア。泊まりにこだわらず日帰り入浴に頭を切り替えて単独行動の問題もクリア。季節的に雪・凍結の心配もない。今ならやれる、と最終日の帰りに大出館へ立ち寄ってみた。

うん、見事なにごり湯ですね。特に白湯と黒湯が隣り合って並ぶ浴場が面白いし、黒い方はぬるくて最高。

塩原元湯温泉・大出館へのアクセス

東北道西那須野塩原ICから国道400号を西へ走っていくと、箒川沿いにずーっと温泉地が連続している。塩原温泉郷と聞いて連想するのがこの一帯だが、その中に元湯温泉はない。一連の流れが終わりかけたあたりで国道を外れて細いくねくね山道を登っていった先にあるのだ。

そういう場所だから路線バスは設定されていない。最寄り駅やバスターミナルへの送迎サービスがあるのかもよくわからない。宿に確認してみればいいんだろうけど。

今回は車で塩原の新湯温泉・湯荘白樺に泊まりに来ていた。予定より早くチェックアウトすることになり、うーん、時間に余裕があるな、試しに元湯まで走ってみるかと思いついちゃったのである。この時点では「べつに入浴できなくてもいいや」という気分。将来のため偵察に行くだけ。現地を見るだけ、見るだけだから。

新湯から元湯までの道は、新湯の方が標高が高いようで、結構な下り坂が続く。野生動物が出てきそうな山林の狭い道だ。熊とか出ないだろうな。

なんとか無事に走り切って小川を越えると、ゑびすや・元泉館という2軒の旅館が現れ、そこからぐるっと回り込むようにして最奥の大出館へ。ラストの道路が輪をかけて狭隘で、対向車が来てもすれ違える気がしなくて泣きそう。これぞ秘湯だ。


黒湯と白湯が隣り合う興味深い墨の湯

名湯を前にして帰れません

現地に着いたら10時近く。あと少しで日帰り入浴の受付が始まる。と思ったら無性に体験してみたくなった。いや今日は偵察だから…見るだけだから…って、えーい、ここまで頑張って運転してきたのに手ぶらで帰れナイヨ! オレ、フロ、ハイル! はい計画変更。

ちなみに受付開始までは入館を控えて車内で待機して下さいとのこと。いったんフライングを認めると際限なき早い者勝ちのモラルハザードになっちゃうからね。
駐車スペースから大出館を見下ろす
10時が近づくと、チェックアウトして出ていく車と入れ替わるように、数台の車が立て続けに到着した。一番風呂狙いの客かな。さすがは名の知れた秘湯だ。この後も続々とやって来るかもしれないな。混雑しちゃうのかな~(不安)。

よし時間だ、行くぞ。さっそうと入館してフロントで800円お支払い。玄関は3階にあたり、大浴場は1階へ下りていく構造。一切の予習なしで来たからよくわかってないが、どうやら2箇所の浴場を利用できるようだ。最初は一番奥にある墨の湯へ。一応混浴です。

唯一無二と思える神秘的な墨の湯

ねんのため浴室をチラ見したら誰もいない。あれ? さっきまでの人たちは別の浴場に行ったのかな? まあいいやラッキー。分析書をチェックすると「含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉(硫化水素型)、低張性、中性、高温泉」とのこと。

ネットに出回る画像だと、ところどころ剥がれかけたコンクリ壁になってる浴室の画像を見かけるが、訪問時には上から木の板を張って修繕してあったかと。中には2名分の洗い場と内湯浴槽が2つ。面白いことに片方が白いお湯で、もう片方は黒いお湯を湛えていた。隣同士でまったく正反対の色。なんじゃこりゃあ。

まず浴場名と同じ「墨の湯」と名付けられた黒湯の方へ。4名規模の浴槽の縁は赤茶けた析出物がこびりついている。含鉄泉的な特徴も持っているのだろうか。お湯は真っ黒で浴槽の底は見えない。

南関東の黒湯のような、烏龍茶をどんどん濃くしていった黒さとはまた違う印象を与える黒だ。お湯の中には炭をボロボロに崩したような湯の花がびっしりと漂っている。それが腕などにたくさん付着する(簡単に取れるので心配無用)。

匂いに軽い金気臭を感知した点は、赤茶の変色現象と符合する。温度はぬるめでいくらでも入っていられる感じ。いいじゃないか。もうここ一本で終わっても悔いはないくらいのクオリティ。

王道の白濁硫黄泉・鹿の湯

いつまでも墨の湯に浸っていたいが、白湯「鹿の湯」も体験してみなければいかんぜよ。やがて一人の男性客が入ってきたのを潮時として鹿の湯へ移動した。こちらは3名規模で、浴槽の縁はいかにも硫黄ぽい白い析出物がこびりついている。

浸かってみると墨の湯よりは温度が高い。でものぼせる熱さではなく入りやすい。やはり底が見えないくらいの見事なにごり湯の中には、白くて細かい粒々がいっぱい。そして匂いは典型的な硫黄臭。正統派の白濁硫黄泉ですな。インパクトの強さは墨の湯に持っていかれてしまうものの、鹿の湯もさすがのクオリティを誇る。

白と黒を行き来するだけで楽しく幸せな気分になれそうだ。実際そうしたかったのを、まだもうひとつの浴場が残っているからと、後ろ髪を引かれる思いで出た。


五色の湯を実感させる御所の湯の3浴槽

2つの内湯を備える

お次は御所の湯へ。こちらも一応混浴。分析書の字面の泉質名は先ほどと同じだ。浴室には2名分の洗い場と内湯浴槽が2つ。手前側が2名規模の小浴槽で「平家かくれの湯」と名付けられている。奥側が浴場名と同じ「御所の湯」だ。

見たところお湯の特徴はどちらも一緒のようだ。それぞれに手を突っ込んでみたら、平家かくれの湯の方がぬるかった。ぬるいのが好きだから平家かくれに全集中。

おそらく光の当たり具合のせいだと思うけれど、お湯は先ほどの鹿の湯と比べてやや明るく、白い中にも緑の色味が強くなっているように見えた。あとはまあ鹿の湯と同じかな。あー効くう。じっくり浸かって硫黄を思い切りチャージしてしまった(比喩です)。

露天風呂・岩の湯もあるよ

浴室奥から露天エリアへ出られる。その先に待つのが5名規模の露天風呂・岩の湯だ。名前の通りの岩風呂です。たしか屋根付きだったと記憶している。全方位を塀で囲われているわけではなく一部に眺望あり。

こちらのお湯は緑白濁に加えて黄色が強まっていた。屋外レベルの強い光が当たっているからだろう。それとはまた別の話として、大出館の源泉は五色の湯とも呼ばれ、天候によって色が変わるんだとか。なんかいろいろと特徴てんこ盛りですね。

岩の湯も熱すぎない適度な温度でまったりできた。ふと見ると、飲泉所と書いてあって壁から蛇口状の管が突き出ているところがある。飲めるのか?…見るからにガタがきており、下手に触るとやばいことになりそうで、やめておいた。

そんなこんなで小一時間。まだまだ飽きてないし、ぐったりしてないし、また墨の湯へ戻りたい気持ちもある。しかしこの泉質でいきなり長湯はまずいかなと自制心がはたらいた。家に着くまでが遠足だ、安全策でいこう。大出館はまた機会を見つけて来てみたいね。