キャベツで有名な群馬県嬬恋村は万座を始めとする名泉に恵まれている。村の南西部にある鹿沢温泉もそのひとつだ。興味はあったのだがなかなか時機は訪れず、心の候補リストの中にずっと眠っていた。
秋の長野遠征で高山村から軽井沢へ移動することになり、最初は高速道路を使うつもりだったけど、考えてみたら嬬恋村経由で北から回り込むルートもあるなと思い直し、だったら鹿沢温泉行けるんじゃね?と決まった次第。
数km離れた新鹿沢温泉を含めてどの施設を訪れるかといえば、せっかくここまで来たら湯元の紅葉館にしましょうかね。青緑半濁とでも言うべき不思議な色をした熱めの温泉はとてつもない湯力。こりゃすごいと唸らされる。
鹿沢温泉「紅葉館」へのアクセス
高山村から望む美しい風景を後に
鉄道+バスで当館まで行くことはできない。新幹線の上田駅と吾妻線の万座・鹿沢口駅(さらには草津)を結ぶバスがあるようだけど、途中寄るのは新鹿沢温泉まで。そこから紅葉館のある鹿沢温泉は4kmほどの距離がある。送迎サービスもない。
自分の場合は高山村の奥山田温泉・仙人小屋をチェックアウトして車で向かった。高山村をまったく観光してなかったから、せめてもと八滝展望台で小休止。
続いて須坂の町へ下りていく途中、目を引く風景に車を停めた。牧歌的な里、下界の町を隠す雲海、その上に浮かぶ山々。北信五岳ってやつですかね。
実際の視界には色付いた紅葉も入ってきてた。思わず息を呑んだよ(続いて吐き出したよ)。ちなみに紅葉の具合はこれくらい。
菅平経由で嬬恋村へ
あー、いいものを見た。これで思い残すことはない。鹿沢へ直行しよう。国道406号を菅平方面へ南下する途中で、予約が超困難と言われる高級宿・仙仁温泉の横を通ったら、塀がバッチリめぐらされててどんな様子か皆目つかめず。こりゃ泊まってみるしかないな(一生無理)。
菅平高原を過ぎたら東へ向かう感じになり、鳥居峠を越えて群馬県に入った。数km走って国道を外れて右折すると新鹿沢温泉街となり、いくつかの旅館が軒を連ねる。しかしまだ終わりではない。目指す紅葉館は4km先だ。
湯尻川に沿う地蔵峠越えの山道は、勾配とカーブはきつめながら道幅が極端に狭いわけではなく、まあ何とかなる。時間に余裕があったため玉簾の滝という看板を見つけて寄ってみた。滝はどこだ~?
実際はこの遊歩道の奥まで行かないとちゃんと見えないみたいね。風がやけに冷たかったのと熊注意の看板にびびってすぐ車に戻ってしまった。だって周りに誰一人いないんだもん。妙な静けさが怖い。どうせ遊歩道の先には野生動物が領域展開してるんだろ。その手には乗らないぜ、離脱。
個性と湯力に満ちた鹿沢温泉
貴重な体験を予感させる雲井の湯
紅葉館は近隣に何もない一軒宿だった。日帰り客向けの入口にはそば処の表記もあり、「温泉? おそば屋さん?」と一瞬迷うが温泉で間違いない。すぐ脇に源泉タンク的なのがありんす。
受付で入浴料500円を支払い、障子を開けて中へ進むと休憩・食事処になっていた。ここで手打ちそばをいただけるのかな。コミックもいろいろ並んでいる。
この広間を通り抜けると無料で利用できるロッカーがある。貴重品はここへしまっておこう。その先の通路を進むと男湯・女湯の順に並ぶ大浴場。雲井の湯って書いてあったかな。泉質が掲示されていて「マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩泉、低張性、中性、高温泉」だって。マグネシウムが字面に含まれる、しかも泉質名の最初に登場するのは結構珍しい。しかも源泉かけ流し。貴重な体験になりそうだ。
脱衣所に入った時点でかなり昔ながらの雰囲気が漂う。浴室も同様である。いかにも古くからの湯治場風情に満ち満ちた小さな浴室で、こうした雰囲気を好む人にはたまらないだろう。奥の壁の上部に取り付けられた窓は閉め切られている。「小動物が入り込むから開けないでください」との注意書きに秘湯感アップ。独占で楽しませていただきます。
熱めでたいそうパワフルなお湯
床と5~6名入れそうな浴槽は木製。男湯女湯を隔てつつ湯口を生やしたコンクリ壁には美術作品のようなレリーフが彫られている。壁も床も茶色と緑の複雑な変色パターンがこびりついていて、温泉の影響すげえ。
お湯の見た目も印象的だ。青のような緑のような、完全に濁っているともいえずクリアともいえない、線引きの難しい特徴を呈している。単純に白黒つけられないこの世を象徴しているかのようだ。浴槽からは多量のお湯があふれ出て床の上を流れている。木の床だからトド寝ができちゃいそう。やりませんけど。
浸かってみたら熱かった。浴槽内で長く粘ることは難しそう。まあ相当パワフルなお湯なのでどのみち長湯するタイプではないが…なんだか「うわー、これは『来る』わー」という感じでドドッと一気に効いてきちゃう。なんちゅう温泉や。ちなみに匂いを嗅ぐと金気臭を感知した。
別源泉の打たせ湯もあり(冷水に注意)
ところで浴室に一般的な意味での洗い場はない。壁から生えたパイプから流れ落ちる打たせ湯を、床に置いた洗面器で受ける格好になっていたから、これがカラン代わりなのかなと思って触ったら冷水だった。これじゃ冷たすぎて体にかけられないな。どうするんだろ。
と思ってしばらくすると、もう1本の枯れたパイプから突然ブシャーッと勢いよく噴き出してきて、そちらの打たせ湯は適温だったので使えるかもしれない。ただしシャンプーなどは置いてなかった気が。
そして後日あらためて調べたところ、この温かい打たせ湯は浴槽に注がれているのとは別源泉だったらしい。しまったな、スルーしちゃったよ。
こうして、入湯してはガツンと来たら浴槽外へ出てクールダウンしてまた入湯、を繰り返すうちにすっかり仕上がってしまった。いやいやいやなんだろうこれは。効きすぎですよ。鹿沢温泉おそるべし。やがて他客が入ってきて独占状態が終わったのを潮時とした。
紅葉館のホームページを見ると客室なんかはとてもモダンで洗練された感じだ。宿泊した場合、昔にタイムスリップしたかのような鄙びた浴場と、その他の館内の現代的な雰囲気からくるギャップ萌えを楽しめそうだ。紅葉に赤や黄色があるように、当館のお湯も、浴室の壁や床も、宿のテイストも、単にひとつの色に染まってない点が面白い。