かつて銅山で繁栄していた足尾。名前は知っていてもほとんどなじみがない。現在は日光市に含まれるといっても、日光への旅行といえば東照宮とか中禅寺湖の方を連想しちゃうからね。温泉についても日光湯元や鬼怒川の方に意識が向いてしまう。
秋の栃木遠征の計画中に温泉宿を探していたら、たまたま「国民宿舎かじか荘」が目に留まった。ふむふむ、足尾にあるのか。そういえば足尾にはなじみがないな。行き先として逆に新鮮ともいえる。銅山跡の見学なんかもできるだろうから、組み合わせたら面白いんじゃないか、で決まり。
当館はわりと秘境的な場所にありながらも建物は新しくて快適。お風呂では強アルカリのヌルヌル湯を楽しめる。一人旅にも向く。
(追記)2024年1月から「四季の彩りに風薫る足尾の宿 かじか」に変わったが、本文では当時の名称を用いる。現在の宿のコンセプトや価格・サービス内容は下記体験と異なっているかもしれない。
国民宿舎かじか荘へのアクセス
マストの観光スポット・足尾銅山観光
群馬県側から渡良瀬川を遡るように国道122号をドライブしてきた温泉おじさんがいよいよ栃木県・足尾に到達した。時刻は15時。宿に入る前にあと1箇所だけ見学しておこう…ベタで外せない足尾銅山観光を。
入場料は830円。坑道内を見学するのだが、まず最初にトロッコ列車に乗るというフェーズがある。そのトロッコは15分間隔で出ていて、次の便の出発まで待合室で待つ。のちの帰り際に列車を撮影してみたのがこちら。小さくてかわいい。
トロッコに乗り込んでさあ出発。途中の駅みたいなところ(上の写真を撮影した場所)で先頭の機関車を切り離し、残った車両が自力で坑道へ突入する。行くぜい。
トロッコ+徒歩での見学
はい到着。走行距離はそれほど長くなく、以降は徒歩での見学となる。まず最初は果てしなく続く坑道の奥をチラ見せ。写真だと何だかわからないですね。
基本的には下のようなところを歩いていくわけだ。ある種の洞窟のようにヒンヤリ涼しいということはなかったな。
江戸時代~昭和まで、いろんな時代の坑夫の人形があちこちにいた。たいがい近くにボタンがあって、押すと効果音や人形のセリフや解説音声が聞こえてくる。
銅山で採掘された鉱石の展示もあります。
所要時間は30~40分。外に出た後も若干の展示物あり。
足尾銅山の関連施設跡が残る道
さて、ここから宿へ向かうと16時着みたいな感じでちょうどいい具合だろう。国道122号沿いにかじか荘の看板が出ているところを曲がると、いきなり秘境へ向かう狭い狭いくねくね道になった。しかも5kmほど続く。これはきつい。岩手の秘湯・夏油温泉への道を思い出した。
道中には足尾銅山に関係する施設跡が残っている。たとえば製錬所・選鉱所跡。レンガの跡がちょこっとだけ見える。
あとは坑夫浴場跡とか。
現道のすぐ脇にある旧小滝橋は廃道感がすごい。しかも橋の先が坑口になってるのよ(もちろん塞がれていて入れない)。
ちゃんと探さなかったが、他に小学校跡や火薬庫跡なんかもあるようだ。
モダンなつくりで快適な宿
皇海山・庚申山の登山口にある
というような道路を走っていくと銀山平公園キャンプ場に続いてかじか荘が現れた。当館に隣接する敷地…散策の森?…には紅葉がちょっとだけ見られた。
ここは皇海山・庚申山の登山口でもあり、登山の拠点として利用するお客さんは多いと思われる。自分のように温泉目当てでのんびりしたいだけの人間は浮いてしまうんじゃないかと心配したけど、実際はそうでもない。心配無用。
ではチェックイン。いやいや何もかもが新しいじゃないですか。こりゃ頼もしい限り。ロビー兼談話室のようなスペースがこちら。温泉の特徴やかじか荘の名前の由来についての説明が置いてあったよ。
客室が集まっている2階もやっぱりモダンな雰囲気ですな。いまだに昭和の国民宿舎のイメージが強いおじさんには驚きだ。
部屋のスペックと雰囲気良し
泊まった部屋は8畳+α相当の和室。新しくて清潔感・安心感があって、こりゃええわ。布団は最初から敷いてあった。
言うまでもなくシャワートイレ・洗面台あり。金庫あり、小さい冷蔵庫あり、WiFiあり。タオルハンガーはドアそばのクローゼット内にあるのを引っ張り出して使う。時期的に秋が深まってきた頃で、旅行前に「全国各地でカメムシ大量発生」のニュースを見ていたため、カメムシいるかと警戒したけど、まったくいなかった。よしよし。
窓の外に見える景色がこちら。鮮やかな紅葉が見られるのはもう少し先だな。
おじさん、久しぶりの温泉にニンマリする
強アルカリが特徴
かじか荘の大浴場は1階奥。大浴場手前にはマッサージチェア+自販機のコーナーあり。ビールも売ってます。
男湯女湯の入れ替えはなく固定されていた。脱衣所には普通の脱衣棚のほか、100円リターン式のロッカーあり。分析書や泉質の説明が数箇所に貼ってあったが、アルカリ性単純温泉と書いてあったり、温泉法に定める温度に該当するので温泉と書いてあったり。
いずれにせよPH10.0という強アルカリが特徴。エビデンスはないがおそらく加水・加温・循環・消毒あり。
ヌルヌルがすごい美肌の湯
浴室内も新しい。7名分の洗い場と、奥に10名サイズの内湯浴槽。窓は大きく、屋外の様子がよく見える。お湯は完全に無色透明で無個性に見えるが、入ってみると特徴がはっきりしている。すごいヌルヌルでございます。ただの沸かし湯とは明らかに違う。美肌の湯を謳うだけのことはありますな。これがPH10.0の力か。
湯の花は見られず。含有ガス由来の泡付きはないものの、家庭の一番風呂的なちょっとした気泡が付くことはある。チェックイン直後の入浴時に軽い塩素臭を連想したが、その後はまったく意識しなかったから気のせいかな。温度は適温で、慣れてくると長めに浸かることも可能。すぐにのぼせて短時間で出たくなる温度ではない。
あーこりゃええわ。なにせ休日にレジャーの予定を入れられない、長い空白期間が続いた後の久しぶりの温泉だからね。うれしくないわけがない。
眺望をしっかり楽しめる露天風呂
露天風呂もある。普通の館内廊下+下り階段のような雰囲気の通路を下りていって(専用通路だから裸のままでOK)、低温サウナの前を過ぎ、屋外に出たところが露天風呂だ。
第一印象は10名サイズの岩風呂。ただし岩の配置の具合で人間を規則正しく並べられないことや、一部の横壁からお湯を強く噴き出している箇所があって、そこに人間はいられないと考えると、6~7名までだろう。お湯の特徴は内湯と一緒。温度も特に冷めていることもなく適温。
四方を塀に囲まれた露天風呂が多いこのご時世、正面が開けていて眺望がしっかり確保されているのはポイント高い。正面に見える山の景色が良いね。当時は緑の中にちょっと黄色が混じり始めたところ。紅葉本番の時期だったらかなり見ごたえのあるものになりそうだ。
ちょうど行楽シーズンであり、たぶん満室だったと思うのだけれど、お風呂はそれほど混雑してなかった。芋洗いやワイガヤでうんざりすることがなく、ゆっくり湯浴みできたのは好感が持てた。
おじさん、久しぶりの旅館飯にニンマリする
夕食は日光ひみつ豚を味わう
かじか荘の食事は朝夕とも1階の食事処で。夕食はいくつかの選択肢から希望時間を決める。指定した時間に行ったら窓際のテーブルに案内された。夕食のスターティングメンバー+少し後に運ばれてきた岩魚の唐揚げがこちら。
今宵の主役は日光ひみつ豚。恥ずかしながら初めて知った、ブランド豚肉である。日光を「ひみつ」と読ませているのか。秘密豚じゃないよな。もしそうなら公開豚もいるはすだよな(暗号肉)。まあいいや、いただきましょう。
ひみつ豚を陶板焼きとしゃぶしゃぶ鍋でいただく。おっ?! なにこれうまい。いつも食べてる豚肉と違うぞ。コクがあって柔らかく、豚肉らしい風味がありつつもくどくない。やるじゃないか。第二の矢・岩魚の唐揚げも頭から尻尾まで全部ばりばりと食べられた。この献立なら唐揚げが合ってるかもね。
少食おじさんも完食できる、ちょうどいいボリュームで、締めの栃木産コシヒカリ&デザートまで胃が苦しくならずに到達した。良いぞ。
朝食も日光の食材が並ぶ
朝食にもお品書きが付いていた。地元選りすぐりの食材とな…日光きすげ鶏卵の卵料理、野州吟醸味噌の味噌汁、日光ひみつ豚のソーセージ(陶板鍋の中)、栃木産コシヒカリ、日光たまり漬け。
ご飯は自動投入機みたいなやつで提供される。少なめとか普通とか多めとかのボタンを押すと、指定した量の白飯の塊がボコッと投下されるのを茶碗に受ける。省力化の波がここまで。
朝は窓の外が明るくて、散策の森の一部というか庭を眺めることができて、1本だけ葉が赤く色づいている木を発見した。おー、結構じゃないの。気分良く最後にコーヒーをいただいて終了。
* * *
登山とは関係なく利用してみたものの、普通の足尾観光拠点の宿・温泉でゆっくりする宿としても十分にいける。他のお客さんもガチガチの登山者には見えなかったな。見かけによる判断は得てして間違うものだが…。
ハード面がモダンで新しいのもポイントで、今回のような一人旅でなく誰かと一緒に行く旅の際にも、外さない安心感のある宿…高級宿の上を見たらキリがないから庶民感覚の範囲で…の候補として、一考の価値はあると思った次第。