岩手で行ってみたいと思っていた秘湯のひとつが夏油温泉・元湯夏油だ。山奥の川のそばに湧く露天風呂、しかも貴重な足元湧出泉。この舞台設定だけであふれるロマンとアドレナリン。いつかきっと…そう思い続けてウン年、踏ん切りがつかないまま、むなしく時だけが過ぎていった。
ええい、悩んでいてもきりがない、もう行っちゃえ。人生思い切りが必要だ。考え過ぎは短命の元(by らんぽう)。
岩手県南への一人旅をテーマに旅程を組み、1泊目を当館とした。現地までの道路といい、旅館の雰囲気といい、露天風呂の様子といい、まさしく秘湯中の秘湯。1泊だけして帰るのはもったいない、湯治気分で連泊するのが似合う宿ですね。
元湯夏油へのアクセス
旅の初日。一ノ関駅前からレンタカーで出発。途中、高館義経堂や奥州湖を見学しつつ、永岡温泉夢の湯に立ち寄り入浴した後、いよいよ夏油温泉を目指す。
県道122号に入って瀬美温泉を過ぎるあたりから、だんだん山を登る感じになってくる。それでも片側1車線が確保された道路だからまだ大丈夫。入畑ダム(アプローチ道が落石のため通行止めで近寄れず)を過ぎて夏油高原スキー場への分岐が現れてから先、ついに山深い秘境への道らしくなってきた。
まず対向車来ないでくれと祈りたくなるほど道幅が極端に狭くなる。加えて右へ左へと延々続く、見通しの悪いくねくねカーブ。そんな道路が5km以上も続くのだ。カーブミラーとたまに現れる待避所を頼りに、臆病な警戒心&ある種達観した度胸という、相反するメンタルを両立させながらの運転が要求される。周囲の景色を見る余裕など一切ない。
5kmもあれば一度は対向車に遭遇するはず。当時は行きも帰りも5回ずつくらいあったかな。我ながらよくぞ切り抜けたもんだよ。こういう苦労を避けたければ、北上駅までの送迎サービスを利用するのが吉。
…まだか、まだ着かないのか、と気を張って運転していると、急にちょっと開けた場所に出た。ようやく夏油温泉に着いたようだ。左手前に夏油温泉観光ホテル、正面奥に今回泊まる元湯夏油という配置。冒頭写真の本館の前が駐車場になっている。
それだけで温泉街のような旅館
旅館部と自炊部、希望に合わせてどうぞ
元湯夏油はいくつもの棟からなり、同一旅館の敷地内でありながら、ちょっとした温泉街の風情さえ感じさせる。本館の右手にあるのが駒形館。食事処と小天狗の湯なる内湯を備えている。
その奥に別館と嶽館。かなり年季の入った建物ですね。
その奥に夏油館・紅葉館、さらには昭和館・経塚館・薬師館と続く。奥へ行けば行くほどレトロ感が増す。
本館と別館(もしかしたら駒形館も?)以外は食事の付かない自炊部なんじゃないかと思う。自分はサバイバル能力皆無なので食事付きの旅館部を予約した。では本館フロントでチェックイン。フロント前の売店&ロビーがこちら。お酒・ソフトドリンクの自販機もあり。
朝はここでコーヒーサービスをやっている。
俗世を忘れて気分転換するには最適
案内されたのは本館2階の6畳+広縁和室。布団は最初から敷いてあった。
トイレ・洗面所・冷蔵庫は共同。2階の男子トイレは小×1+シャワートイレの個室×1。1階の男子トイレはそれぞれ×2だった。部屋には金庫あり、エアコンなし、扇風機あり。エアコンなしでも暑くはなかった。むしろ夜は風が涼しかったくらい。風呂あがりに体がカッカした時は扇風機で十分だし。
テレビがないのは珍しいかな。まあどうせ観ないので無問題。WiFiは室内に案内メモがなくて不明。スマホのアンテナはばりばりに立っていたものの、ネットにはつながりにくい状態だった。窓の外はこのような感じ。
赤屋根の建物が密集して見えるけど、2軒の旅館以外には何もない山奥ですのでね。俗世から完全に切り離された世界である。
7箇所もあるお風呂のワンダーランド
いっぱいあるお風呂、ご利用は計画的に
元湯夏油には7箇所のお風呂がある。露天風呂に洗い場はない。混浴風呂には女性専用時間帯が設定されていることを考慮して、入る順番とタイミングを計算しておくとよい。
- 大湯(激熱、露天、混浴)
- 疝気の湯(ぬるめ、露天、混浴)
- 滝の湯(適温、露天、女性専用)
- 真湯(適温、露天、混浴)
- 目の湯(ぬるめ、露天、混浴) ※当時は閉鎖中
- 白猿の湯(適温、内湯、男女別)
- 小天狗の湯(適温、内湯、男女別)
青き夏油川を望む真湯
真湯は16時から女性タイムになると知り、その前に真湯を体験しに行った。夏油館前を左に折れて石段を下りていくと眼下に夏油川の流れが見える。川の色があまり見慣れない明るい青を呈していた。緑色に見える川はよくあるけど、なんでこんなに青いんだ。曇っていたから空の青さを映したものではない。石の色なのか水の色なのか、うーむ、不思議だなあ。
各風呂の泉質はそれぞれに異なるというが、自分はまだはっきりと区別できてない。基本は「ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉、低張性、中性、高温泉」かと。もちろん100%源泉かけ流しだ。真湯には男女別の簡素な脱衣所に続いて露天の岩風呂がひとつあった。
風呂の大きさは6名規模。無色透明のお湯に浸かってみたら熱めの適温だった。長湯は難しいね。先入観を抜きにしてもお湯はとてもフレッシュな感じで「なんか普通と違う」と思った。泡付きや湯の花は見られない。匂いを嗅ぐとほのかに硫黄香を感知した。
例の青さが映える夏油川が目の前を流れていて峡谷的な景観がすばらしい。川の対岸に目の湯があって、しかし向こう岸へ渡る橋がない。雪害で閉鎖中とのことだったから、雪で目の湯じたいが押しつぶされたか橋が壊されてしまったか、そんなところではないかな。個人的に好きなぬる湯系なので復活が待たれる。
激熱の大湯にあっさり敗北
16時前に真湯を出て、お次は夏油の大将格と目される大湯へ。薬師館を左に折れて石段を下る。激熱のためか、人がいることはほぼない。自分が行った時も無人だった。男女別ではない単一の質素な脱衣所に4~5名規模の岩風呂。
うぉぁ熱っつうーーーー!!! 無理っす。全然無理っす。片足の膝下まで入れてすぐに引っ込めた。こりゃあきまへん。潔く敗北を認めよう。
お湯はぬるいが人気は沸騰? 足元湧出の疝気の湯
お次は疝気の湯。個人的に最も気に入った風呂だ。夏油川の近さは真湯・大湯と同等以上。個人的に好きなぬるめのお湯でじっくり浸かっていられる。そして足元湧出泉の特徴が最もわかりやすく現れていた。4名規模の岩風呂の中央付近の底にある鉄板のあたりから、あぶくがボコボコと浮き上がってくるのが見えるのだ。
気分的な問題かもしれないが、お湯のフレッシュな感じがより一層際立ちますな。こりゃあ最高すぎる。いやあたまりません。可能な限り長く入っていたい…。
しかしそうは問屋が卸さない。人気の証か、混浴時間帯でもちょいちょい偵察に来るんですよ、女性客やカップルが。なのでなんとなく無言の圧が…。こんなとき居座るのは無粋、早く出てあげなくちゃと思えばこそ、なんだか落ち着かなくて短時間しかいられない。
夕方はカップル波状襲来により5分程度の入浴に終わり、翌朝6時前は無人だったので「やったー」と思って入ったとたんに女性グループが偵察に来たからやっぱり5分、誰も来ず心ゆくまで入れたのはチェックアウト前の8時台だけだった。難しいですね。
入りやすい温度に調整された内湯も侮れない
夜は露天風呂をパスして2つの内湯を体験した。駒形館にある小天狗の湯は「ナトリウム・カルシウム-塩化物泉、低張性、中性、高温泉」で浴室の洗い場は4名分。L字型をした浴槽は6~7名規模。お湯は無色透明の適温。真湯ほどには熱めじゃなくて入りやすい温度。
湯口には白い析出物がびっしりとこびりついて、まるで白い布を被せてあるかのようだった。そして浴室の床にはオーバーフローしたお湯が作り出した千枚田模様。いやいやすごい光景ですな。
本館の白猿の湯は「ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉、低張性、中性、高温泉」で浴室は若干小さめ。洗い場は2名分。4名規模の浴槽の奥には岩を配してある。お湯はここも無色透明で、ややぬるめなのが結構なり。
小天狗の湯ほどではないものの浴槽の縁は析出物で白くなっており、さすがの源泉かけ流しだなーと。内湯もなかなかのクオリティだから、露天風呂が混雑していたり悪天候だったりしたら内湯へ目を向けてみるのも悪くない選択だ。屋外でアブ・ブヨがしつこい時とか。
そういえば訪問時(初秋だが全国的に猛暑継続中)にはトンボがたくさんいたけどアブ・ブヨはいなかった。カメムシも皆無だったし、ちょうどいい時期だったかもしれない。
湯治宿としてちょうどいい塩梅の食事
夕食は牛形膳でほろ酔い気分
旅館部に泊まると、食事は駒形館1階・紅葉の間でいただく。夕食は18時から20時までに設定されている。ちょうど18時に行ってみたら部屋ごとに割り当てられたテーブル席へ案内された。夕食のスターティングメンバーがこちら。
これはスタンダードな牛形膳プラン。さらに数品増やしたプランもあったかと思う。おじさんの胃袋の容量を考えたらスタンダードで十分だった。途中でお腹が苦しくなることもなく、締めのご飯まで余裕を持って完食できた。
ものすごく手の込んだ~とか料亭のような~とかでは正直ないけれど、そういう要素を求めて来ているわけではない。夏油の風呂あがり、すべすべになったお肌を眺めて自己満足に酔いながら生ビールにも酔いつつの旅館飯、いいじゃないですか。
こういうのでいいんだよ的な朝食
朝食は7時から8時半まで。どうも最近朝の行動がどんどん早まってきていて…歳のせいかな…ちょうど7時に速攻で紅葉の間へ行ったら一番乗り。昨夜と同じテーブル席でいただく。
オーソドックスな布陣ですね。朝はこういうのでいいんだよ。もちろんご飯のおかわりは自由なはず。おじさんはおかわりなしで満足だったが。
食後は本館ロビーで提供されているコーヒーをいただける。ロビーには、10時まで滞在できるのに早くもチェックアウトのためにたくさんの客が集合していた。ふむふむ、もしかしたらこの後の時間帯は露天風呂が空いているのでは? 独占チャンスかもな、と目論んで疝気の湯へ向かったのは言うまでもない。
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念願の夏油温泉を体験できて大変良かった。露天風呂にアブとかブヨとかまだいるのかなと心配してたらいなかったし。不思議に青く光る夏油川を眺めながら入る露天風呂は格別だ。なんか普通じゃない特別な浴感は、足元湧出泉という字面の印象だけから生じたものでは決してない。
行き帰りの難路を考えると、1泊だけして帰ってしまうのは、なんだかもったいない気がしてくる。たくさんある各お風呂を堪能しきったとも思えないし。可能なら連泊で籠もってみたい温泉地だね。