下田に集合して温泉宿で1泊したおじさんグループ。ある意味でここからが本当の始まりといえる。伊豆半島を周遊するのでなく、港から船に乗って伊豆諸島を目指したのである。船を降りたのは式根島。映画「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」(第36作)の舞台にもなった小さな島だ。家出したあけみを連れ戻しに来た寅さんが下田から渡っていったよな。
それはさておき、式根島は湯治場だといわれる。観光客も利用可能な共同浴場があるほか、無料で開放されている野湯も何箇所かある(水着着用が必要)。我々が訪れたのは「地鉈温泉」「松ケ下雅湯温泉」「憩の家」の3つ。鉄成分を感じる濃ゆめのお湯はなかなか強烈。
満潮のときしか入れない、ワイルドな地鉈温泉
おじさん、式根島に上陸する
下田から神新汽船の船に乗り、利島→新島→式根島という経路でやって来た我ら一行(船はその後神津島を経由して下田へ戻る。逆コースの便もあり)。乗船時間は3時間以上。当日は波が高い日だったらしく、わりと揺れてあやうく酔いそうになっちゃった。
式根島はそんなに広くないとはいえ徒歩で島内を回れるほど甘くはない。観光客の多くはレンタサイクルを利用するようだ。坂が多いからアシストなしでは結構体力を使うと思う。すでに枯れたおっさんになっていた我々は無理せずレンタカーを借りた。
あちこち見どころを回る途中途中で温泉に入ったのだが、観光については別記事に譲ります。まず最初に体験したのが地鉈温泉という野湯だ。島の観光スポットとしては最も知られている温泉かもしれない。海の岩場の潮溜まりがそのまま湯船、源泉と海水が混ざった状態のところに浸かるという、野趣あふれる温泉だ。
ちなみに寅さん映画でもあけみが地鉈温泉に入るシーンがあった。自分はそのとき初めて当湯の存在を知り、興味を持つようになったのである。まさか本当に現地へ来る日が来ようとは感無量。
海に入る感じで温泉に浸かる
冒頭写真は地鉈温泉の入口。車数台+自転車の駐車スペースとトイレがある。電話ボックスもあるけど使い物になるかどうかは不明。この場所から階段を下っていく。段数はなかなか多いよ。なめてはいけない。下に着いたら今度は海岸へ向かって少々歩き、行き着いた先の岩場が地鉈温泉だ。写真を示せなくてすいません。観光客が入れ代わり立ち代わりで常に浸かってる感じなので記念撮影は難しいね。
天然の混浴露天風呂は目隠し用の囲いなどもなく丸見え。みんな水着を着て入っている(そういうルールだし)。更衣室はありません。ある岩の上にそれっぽい土台の跡があったが、今はきれいさっぱり取り払われている。なので最初から服の下に着ていくか、岩場の影に隠れてどうにかやりくりするか。ロッカーも収納箱もないから荷物は目につくところにまとめて置いておこう。
湯船は大まかに3つ。手前の4名サイズはまあまあの適温。ただし下から源泉が湧き出しているスポットにピンポイントで当たると「熱っつーー!!」となる。お湯は黄土色に濁っていて足元は見えない。葉っぱくずのような湯の花のような茶色いつぶつぶがたくさん漂う。匂いを嗅いだら海水らしさよりも金気臭が強かった。
波が寄せてきたときに流れ込んでくる海水がちょうどいい塩梅の加水となって適温化するため、満潮の頃でないと熱すぎて入れない。満潮のピークから若干引き始めた頃がベストだそうだ。うまく計画して行こう。
海水との混ざり具合で温度が変わる
中央の5名サイズは真ん中付近が熱くて周辺部が適温らしい。その状況に合わせて先客が輪になって談笑していた。自分は入らず。
奥の3名サイズは海水の割合が高いせいか、ぬるめ。ぬる湯派の我々はそこにしばらく陣取った。周囲をぐるりと岩が取り囲んでおり、お湯に浸かりながら海を見ることはできない。しかし明らかに海はすぐそこ、というか自分のいる場所がすでに海みたいなものだから、ワイルド感は十分すぎるほど十分。
泉質は記載がなくてよくわかりません。ネットで調べると硫化鉄泉とのことだ。湯あがりの際は、シャワーも更衣室もないから、まあうまくやってください。応急的に着替えて後述の「憩の家」で上がり湯するのがいいと思う。
なお、近所には「湯加減の穴」というスポットがあって、手軽に現在のお湯の温度をチェックできるというふれこみだ。
港の見える露天風呂・松が下雅湯
整備されてて取っつきやすいお風呂
お次は松ケ下雅湯。共同浴場「憩の家」の駐車場に車を止めて、海岸まで下っていく遊歩道がある。途中には足付温泉という野湯があったが時間の都合でパス。誰もいなかったので写真だけ撮らせてもらった。
さらに遊歩道を歩いていくと松が下雅湯の前に出た。ここは地鉈温泉よりも整備されており、男女別の更衣室あり。足湯コーナーとかベンチも設置されている。ルールに従って水着を着て、さあ入りましょう。
潮溜まりに直接入るというほどワイルドではなく、人工的に岩を配置して作った感じの10名サイズの浴槽。お湯は普通の温泉と一緒で湯口から注がれ、温度は安定した適温。地鉈温泉をワイルドすぎて受け付けない人でも当湯なら大丈夫じゃないかな。
ぬるい奥の露天風呂が大変良い
お湯の特徴は地鉈温泉と似ていて金気臭のする黄土色濁り湯。やっぱり硫化鉄泉なんでしょう。そして見える景色は港です。大海原ではない。しかし開放感と非日常感はたっぷりだ。
最初は気づかなかったが浴槽が奥にもうひとつあった。そっちの方が広くて20名いけそうなサイズ。温度ははっきりとぬるくてすばらしい(個人の感想)。ずっと入っていられるし、心地よくていつの間にかウトウトしてしまう。最高じゃん。
地鉈温泉に比べると野趣・ディープさ・個性の尖り方は抑えめだが、利用のしやすさと安定感ではこちら。湯船は広いし、観光客が大挙して押し寄せる風でもないから、余裕を持って温泉を楽しめる。なお、松ケ下雅湯にもシャワーはない。
式根島の共同浴場・憩の家
最後の仕上げにちょうどいい
松ケ下雅湯を出て憩の家まで戻った。最後にここへ入っていこう。宿の女将さんが言っていた…「この島の温泉は海水みたいなものだから、そのままにしておくとベトつきます。最後にシャワーを浴びた方がいいですよ」と。
憩の家は島の共同浴場。一般の小さな温泉施設を想像しておけば間違いない。料金は200円。湯あがり休憩コーナーや100円リターン式ロッカーを備えている。いつもの温泉めぐりのように分析書を探すところまで気が回らなかった。たぶん松ケ下雅湯なんかと一緒の硫化鉄泉じゃないかな。
脱衣所の洗面台は普通の用途のためのもので、水着を洗ったりするのはNG。禁止の張り紙あり。まあそうでしょうね。
3つの温泉ですっかりへろへろ
浴室のカランは4,5台だった気がする。向かって左手に4~5名サイズの浴槽がひとつ。こちらのお湯も濁りの程度は弱まっているものの黄土色を呈していた。浸かってみると熱すぎない適温。最後の仕上げのつもりだからそんなにじっくり滞在するつもりはない。適当なところでシャワーを浴びて出た。
風呂の作りや景観を含めて、地鉈や松ケ下雅湯ほどの派手さはないが、いかにもな温泉らしさは十分。むしろふだん使いに向きそうな、こなれたお湯でいいんじゃないの。
式根島の3つの温泉に入ったらすっかりへろへろになってしまった。実はなかなかの濃ゆい温泉だったのかもしれない。途中から意識がボーッとして半分眠っているかのような感じだった(疲れもあっただろうが)。
自分ひとりだと式根島へ渡るというアクティブさを発揮できたかどうか。今回はグループの勢いで来ることができたようなもの。おかげさまで一生もんの体験をしてしまった。