秩父山地にあって日本百名山にも数えられる両神山。この名前を取った温泉宿が埼玉県小鹿野町の国民宿舎両神荘だ。温泉を楽しめて、部屋や食事なども一般の旅館と同様で、高級宿ではないかわりお値段もそこそこリーズナブル。庶民にとってはありがたい存在だ。秩父へのグループ旅行の1泊目として文句なく選ばれた。
実際のところ両神山とはなんの縁もない旅行だった。長瀞~秩父市内の観光スポットめぐりの中継地として、かつ温泉に入りたいから目をつけたようなものだが、ハード面・サービス面ともに、うん、いいんじゃないですかね。温泉通を唸らせる湯質やら美食家が認める料理云々まで求め始めたらキリがないですけど。秩父観光に利用しやすい温泉宿です。
両神荘へのアクセス
鉄道+バスでのアクセスも可
両神荘のある小鹿野町は自分にはなじみがないので場所を調べると、東~南~西を秩父市に囲まれる形で、北西~北にかけては群馬県と接している。平成の大合併前には小鹿野町と両神村に分かれていた。当宿は両神村側にあった模様。
当宿から徒歩5分ほどのところに薬師の湯という日帰り温泉を備えた道の駅があり、そこまで町営バスが走っている。東京方面からアクセスしやすいのは西武秩父駅発の路線だ。8,10,14,16,19時台に各1本ずつなのは注意。乗車時間は約50分。
他に秩父鉄道の終点・三峰口発の路線もある。こちらは7,8,10,11,13,15,16,17,18時台に各1本で乗車時間は約20分。午前の早い時間帯に秩父に到達できる人は三峯神社へ参拝してから両神荘へ移動することができるかもしれない。
お隣にボルダリング施設あり
我ら一行の交通手段は車だから融通が利く。長瀞の川下り→宝登山神社→秩父神社の順に周遊した後、最後のイベントとして日本酒・秩父錦の工場と資料館が合わさった「酒づくりの森」を見学した。その後、酒づくりの森からどうやって両神荘へ行ったかは覚えていない。完全にドライバーまかせだった。たぶん県道209号→37号のルートではないかと。極端な山道や狭い道ではなく普通に走りやすい道路だった。
現地に着いて駐車場の標識にしたがうと宿から少し離れた広い駐車場へ誘導される。そんな離れた場所が正規の駐車場のはずはないと宿の建物の前まで走ってみたらちゃんと駐車スペースがありました。
両神荘の向かいには妙に物々しい雰囲気の建物があった。クライミングパーク神怡舘(しんいかん)の文字が見える。ボルダリング施設のようだ。
もとは山西省友好記念の資料館だったようだね。ここへボルダリング合宿しに来た人たちが両神荘へ泊まるパターンは十分に考えられる。実際そんな雰囲気の集団がいた。登山組かもしれないけど。
シンプル・イズ・ベストな館内
ではチェックイン。館内は趣向を凝らしたつくりというよりはシンプルに質実剛健。公共の宿・国民宿舎だなあという感じ。こちらがお土産コーナー。
ロビーがこちら。まだ紅葉がちょっと残っているのが見られてよかった。
両神荘だけに両神山を紹介するポスターが貼ってあったりもする。フロントのある本館にすぐ接する形で別館があり、別館2階の廊下奥にビールやチューハイの自販機があった。
我々が泊まったのは別館3階の12畳+広縁和室。部屋の管理状態は良好で文句なし。布団は夕食中に敷いてくれるクラシック方式。
シャワートイレ・洗面台あり、バス付きかどうかはいつも関心外なので覚えてない、金庫あり、空の冷蔵庫あり、WiFiあり。窓から外をのぞくと川が見えた。荒川水系の小森川だ。対岸の山に紅葉があるといえばある。手前の木には柿がいっぱい。
紅葉でいえば廊下から見える中庭の方が鮮やかな色が残っていてきれいだった。
ぬるめで入りやすいお風呂
ちょっとぬるめの内湯
両神荘の大浴場は別館の1階にある。夕方~夜までと朝で男女が入れ替わる。チェックイン直後の男湯へ行ってみると、まだ利用者は少なめだった。でも独占ではない。掲示された分析書によれば「アルカリ性単純温泉」。加水なし、加温・循環・消毒あり。
浴室は真新しくはないが古びてもいないといったところ。カランは9台。内湯浴槽は向かい合わせに入ることができる奥行きがあるため、十分に間隔を取ってゆったり7~8名はいける。もし団体さんが詰めて入る覚悟で臨むならその倍以上は可能。
お湯の見た目は無色透明で湯の花や泡付きはない。ちょっとぬるっとしているのが温泉ぽい特徴だ。匂いをかぐと若干塩素臭がしたのはしょうがないね。気に入ったのは温度がぬるめだったこと。自分がぬる湯派だから冬シーズンでも熱くない方がいいのだ。おそらく40℃を切るくらい、39℃とかの水準ではないかと思う。
露天風呂は“かりん湯”だった
内湯にじっくりと浸かっていることもできたけど、露天風呂が気になったから移動してみた。こちらは内湯と比べてさらに新しい感じで、木製の屋根付きテラスの風情の中に岩風呂風の四角い浴槽があった。計5名が横並びで入れるくらいのサイズ。そばに木のベンチが設置してある。
お湯の特徴は内湯と同じで温度が少し低い。好みのぬるさにぐっと近づいてくれたため、以後ずっと露天風呂にいた。
ふと気づくとネットに包んだ2~3個の黄色っぽい果物がぷかぷか浮いている。ゆず湯?…なんか形と皮の質感が違うなあ…たぶんかりんだと思われる。かりん湯は初めてだ。
場所によっては川を見下ろせる
露天風呂の外は部屋から見下ろしたような川の景色のはずだけど、目隠しの柵があってはっきりとは見えない。ただし屋外に一番近い側に陣取った人は柵の窓のような部分からのぞき込む形で川などを眺められる。
湯口の隣にいた自分が「ぬるくていいですねー」とつぶやくと、屋外寄りの場所を陣取ったメンバーが「この場所はそうでもないよ」と応じた。当初は「???」だったが、その意味は後に明らかとなる。
夕食前に2回めの風呂へ行ったら団体さんがいて混んでいた。夜は寝落ちしてしまい風呂に行けず。
露天風呂は景色を取るか、ぬる湯を取るか
翌朝起床後に行ったら男女が入れ替わっていた。基本的には前日の男湯と同じつくりだ。カランは8台で内湯浴槽がひとまわり大きく見えたくらいの違い。
入れ替わり後の男湯にも露天風呂はある。レイアウトが若干違うだけで基本構造は変わらない。すでに3名ほどの先客が浸かっており、ちょうど屋外に一番違い場所が空いていたから陣取った。よしよし、外の景色を楽しめるぞ。
と喜んだのもつかの間、なんかお湯が熱い。湯船全体としてはぬるいのに、自分の付近だけ熱い。とくに膝まわり。どうやら側壁から熱いジェット流が噴き出して、我が膝を中心とする下半身へぶつかっているようだった。昨夕聞いた「この場所はそうでもない」とのコメントはこのことだったか。
位置取り次第でぬる湯を取るか、景色を取るかの選択になるわけだな。もちろん熱いのが大丈夫/好きな方は景色優先で大丈夫。
秩父名物わらじカツをお試しでどうぞ
夕食は両神産の食材を取り入れた「おがの膳」
両神荘の食事は朝夕とも本館1階の食事会場で。時間はいくつかの候補から選べる。希望した夕食時間に行くと、部屋ごとに割り当てられたテーブル席へ案内された。おがの膳と名付けられた顔ぶれがこちら。
追加でサーモンのカルパッチョと茶碗蒸しあり。固形燃料で温めるのは豚バラ肉と秋きのこの鍋。さんまの酢の物に使われているのが両神きゅうりだったり、茶碗蒸しの中に両神しいたけが入っていたり、サーモンと両神こんにゃくを合わせているなど、地の物も取り入れられている。
ぱっと見ちょっと少なめに思うかもしれない。実はこれらとミニバイキングがセットになっている。バイキング用のテーブルに秩父名物わらじカツ(1個1個は小さめ)、カレー、ご飯、けんちん汁、サラダ、漬物、デザート、コーヒーが用意されていた。わらじカツカレーをどうぞとおすすめが書いてあった。
ミニバイキングがあれば量が足りないことはない。なにせ最後がカツカレー締めですから。その満腹感とビール+日本酒の酔いで食後すぐ寝落ちしてしまったんだと思う。
朝食はバイキング形式
朝食も同じ会場・同じテーブル。朝は完全にバイキングだ。品数はものすごくたくさんではないものの、和洋どちらの組み立ても可能な程度の種類は用意されているし、品切れを起こすこともなかった。
いつものごとく普通のご飯とお粥があるとお粥を選んでしまう習性は修正できません。お茶漬け用に置いてあった具材をぶち込んで味変カスタマイズした。
もちろん食後のコーヒーは提供されている。普通のカップのほかに紙コップが置いてあったのは、部屋に持ち帰りOKってことでしょう。
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秩父観光の泊まりは温泉宿がいい、でも高級宿には手が届かないという庶民の味方。秩父の中心部とは言えないかもしれないけど、十分にエリア内・圏内である。温泉面ではやはり熱すぎないのが良かった。のぼせなくてゆっくり入れるからいいんだよね。まあ好みの問題ですが。