晩秋の福島へ行ってみようと思い立ち、目的地の前に立ち寄れそうな温泉を探していたら、興味深いところを見つけた。それが鏡石町にある弘法不動の湯。ぬるめで泡がよく付くという好みのタイプ。今回は鉄道旅なので駅から徒歩圏内なのも決断を後押しした。
しかしこの記事が公開される頃、当湯はもう営業していないだろう。訪問当時「令和5年1月31日で営業終了」の張り紙があったからだ。すごくいいお湯なのになあ~、残念。なんらかの形で引き継がれて再開見込みが立ってるといいのだが。
(2023.5追記)運営を引き継いで再開されたとの情報をネットで見かけた。確証はないが期待したい。
強力な泡が完全に源泉由来かどうかはちょっとわからなかったけど、匂いやヌルヌルの感触には温泉の個性がしっかり表れている。絶妙にぬるいんで1時間浴しちゃいましたよ。
弘法不動の湯へのアクセス
最寄り駅は鏡石
弘法不動の湯の最寄り駅はJR東北本線・鏡石。朝、東北新幹線に乗って、1時間あまりで新白河。在来線に乗り換えて20分くらいで鏡石へ着いた。
ここでうっかりはまりそうになったのが、新幹線から在来線に乗り換える際にSUICAは使えないこと。えきねっとの新幹線eチケットを利用してSUICAで乗車したから、そのままSUICAで在来線へ乗り継ぎしそうになった。正解はいったん改札外へ出て紙の切符を買う。
なんか、SUICAの首都圏エリアと仙台エリアのはざまで、新白河を含む黒磯~矢吹間はSUICA対応していないようだね。この区間をまたいだSUICA利用もできない。ちなみに鏡石駅は仙台エリアに含まれる。
駅からまっすぐ、徒歩10分
さて、鏡石駅のホームから見えるところに田んぼアートの看板が立っていた。東口の図書館4階から展望できるとか。横着をして駅構内の跨線橋からそれらしき方角を撮ってみたが…なんだかわからなかった。季節的にも外れちゃってる可能性高い。
ここは無人駅なのかな。いわゆる改札口がない。駅舎は鏡石町コミュニティセンターを兼ねており、「まちの駅かんかんてらす」なる物産館を併設している。
駅西口を出たら、まっすぐのびる道路をひたすら歩いていけばOK。10分もあれば着くでしょう。町役場や小学校が見えてくる頃に国道4号を渡る交差点が現れる。グーグルマップで駅から当湯までの徒歩経路を検索すると、この交差点を避けて大回りさせるルートを提示する。おそらく横断歩道や歩行者用信号がないからだと思うが、実際は地下道があって問題なく向こう側へ行けるので、大回りする必要なし。
現地にはこのような看板が立っているからすぐわかる。ちなみに場所的には東北道鏡石スマートICが結構近い。遠方から高速でアクセスするにも便利なロケーションだ。
最初で最後の弘法不動の湯
いきなり衝撃の張り紙が…
入館、の前に敷地内のお堂が気になったので見学。弘法不動堂だって。温泉の名前はここから来ているんでしょう。
今度こそ入館。ここで営業終了予告の張り紙に気づいたわけだ。えーーー!! 来て早々の衝撃。出会い即別れみたいな複雑な気分ですな。玄関の段階で分析書と、このような能書き書が上の方に掲示されている。
また、玄関に蛇口の生えた水場があった。どうやらここで温泉を汲むことができた模様。飲泉もできたかもしれない。訪問当時はもう使えなくなっていた(使用できませんと書いてある)。中は受付とちょっとしたロビーと男湯・女湯。直売野菜なんかも置いてあった。入浴料は500円。
脱衣所には鍵付きロッカーがあったものと思う(記憶あやふや)。一方で分析書は見当たらず、かわりに玄関に掲示されてたやつによれば「アルカリ性単純温泉、低張性、アルカリ性、温泉」。加水とか循環とかは不明ながら、このあと体験する湯質は「そんな字面を気にすんな」レベルで良いものであった。
ぬる湯の醍醐味をそのままに
浴室はとくに古びた様子はなく、むしろまだまだ新しいのにやめちゃうなんてもったいないなー、くらいの感じ。カランは5台。シャンプー・リンスは置いてない。固形の石鹸のみあり。石鹸ネットに入れてカランの胴体にくくりつけてぶら下げられている。
浴室の奥に長方形のタイル浴槽があって横一列に6~7名が収まるサイズ。お湯はクリアな黄色で湯面の一部には多数のあぶくが集まっていた。浸かってみるとぬるい。体温よりわずか上くらいの、全然のぼせない、かなりの長湯ができそうな温度。自分の大好物のやつや。
匂いは良質の単純温泉によくある温泉臭がした。大変結構でございます。つるつるした感触はアルカリ性ゆえか。最大の特徴は泡付きだ。最初は湯尻の方に入ったのだが、そこでもあっという間に体中が細かい泡に包まれる。なんだかすごいぞ。とくに二の腕のあたりなんかはとんでもないことになる。これは評判になるわな。
湯尻の側の壁には玄関と同じ能書きが掲示されている。また壁際の下の方には排湯口があるんだけど、なかなかに多量のお湯が湯船から吐き出されては吸い込まれていく。裏を返せば湯船への投入量もそれだけ多いってことだ。
湯口付近の泡付きは驚愕するレベル
浴槽の奥側には、すのことベンチの中間くらいの高さの腰掛けが設置され、そこに腰掛けると胸元まで浸かる3/4身浴(?)になる。
やがて1名いた先客があがって独占タイムとなった。いよいよ湯口付近へ移動するチャンスだな。湯尻であんだけ泡が付いたってことは湯口に近かったらどうなってしまうのか? わくわくしながら移動。
うぉーーーすげーーー。泡の量も1粒1粒の大きさも格段にアップしている。泡がシュワーッと寄り付いてきてはパチパチと弾ける感触すらも伝わってくる。これに匹敵するパチパチはトモエのそろばんくらいなものだろう。お湯の色とあわせてもはや薄めのビールの中にいるみたい。こりゃあ語り草になるわ。おそるべし弘法不動の湯。
良すぎて出るに出られず1時間浴
ただしお湯の流れが妙に強いことが気になった。湯口からの投入の勢いだけでは説明がつかない。お湯の中に手をかざして探ってみると、ベンチの下の一部から強い噴流が発生していた。ジェットバス的に噴き出させているものとすれば、多量の泡の出どころはこいつかもしれない。
かといって、じゃあ人工炭酸かっていうと、そういう感じでもないんだよな。施設の規模と様子から想像するに、わざわざ設備投資してケレン味狙いの仕掛けを入れるとは思えない。私見ではあくまで源泉の個性からくる泡だと思っている。
こうしてお湯のクオリティは申し分なく、好みのぬる湯だったうえに独占タイムが続いたこともあって、1時間近くも入浴してしまった。1湯目からやっちまったなあ。
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良質の温泉の個性をしっかり持っており、かなりいいお湯だった弘法不動の湯。評判を見かけて興味を抱いてからあまり先延ばしにせず行ってみたのは幸いだった。営業期間中に間に合ったので。
鏡石では以前に訪問した新菊島温泉がその後閉館してしまった。どちらも褐色系+ぬるい+泡付き+つるつる+しっかり温泉臭+規模に対して湯量多め、というすぐれた特徴を持っていた。時代の流れで片付けるにはあまりに惜しい。いつか復活の日が来るとよいが。
(2023.5追記)冒頭追記の通り再開されたものと考えられる。やったぜ。