熊本県の人吉周辺で温泉のある宿泊先を探していたら「山江温泉ほたる」を見つけた。場所は人吉市のお隣の山江村。村の物産館「ゆっくり」を併設していることや、現地で感じた建物や運営スタイルの印象から、第三セクターかそれに準ずる施設と思う。
1人泊OKだったこと、1泊2食付きでまあまあリーズナブルなお値段だったこと、温泉面の口コミ評価がわりと良かったこと、山江村は栗が特産品らしくて訪れる季節にちょうど合うなと思ったことが決め手となった。
部屋はモダンなデザイン、大浴場もしかり。お風呂はいくつかの種類が提供されていて、とくに露天風呂はぬるめで泡付きが良いという、自分にとって優れた特徴があった。夕食に出た栗ご飯も良かった。
山江温泉ほたるへの道
人吉城跡を見学した…といえるかどうかは微妙
山江村には鉄道が走っていない。最寄り駅はJR肥薩線の人吉駅だ。遠方から来る場合、2020年豪雨の影響により八代方面も吉松方面も通じてないから、鉄道は事実上使えない。となると高速バスで人吉ICバス停まで行って、そこからタクシー10分か。やっぱり基本的にはマイカーやレンタカーだね。
自分もレンタカー利用。近くの華まき温泉(車だと10分の距離)に入浴した後、時間に超余裕があったため球泉洞の見学をして、まだ時間が余ったので人吉城跡へ行ってみた。
とりあえず石垣を見た。もっと先まで車で行けるんじゃないかと奥へ進むうちに狭い道へ入り込んでしまい、自分の運転技量では厳しい感じになってきて、ドツボにはまる予感がしたのでおとなしく元の場所へ戻ってきた。ちょっと消化不良で終了。後日調べたら、麓の駐車場に止めて市内を展望できる丘の上まで歩くのがベストだったみたいね。
人吉から車ですぐの場所
ひとつ収穫があったとすれば、近くに人吉温泉元湯を見つけた。これから山江温泉まで行くとちょうどいい時間だから入らなかったけど。
では山江村へ向かいましょう。球磨川にかかる大橋を渡る時、対岸にいくつかの旅館やホテルの建物が見えた。あのあたりが人吉温泉街ということになるんだろうか。まさに川べりだから水害をもろに受けたはずだ。ニュース映像でも流れてたし。
1日も早い復興を祈りつつ、そこらへんには結局立ち寄ることなく旅を終えてしまった。温泉旅行で人吉まで行っておきながらどうなのよとも思うが、まあいろんな要素の絡み合いでこうなった。人吉にはいい温泉が集まってそうだから、いずれまた来ることもあるだろう。
人吉城跡から10分ほどで山江温泉ほたるに到着。人吉市から山江村に入ってすぐのところだった。
宿泊棟「ほたる亭」を持つ温泉施設
チェックインは日帰り温泉の受付で
当施設は浴場棟・宿泊棟・物産館からなる。冒頭写真は浴場棟の日帰り客向け入口だ。宿泊者は次のような物産館の横を通って奥へ進む。
すると宿泊棟「ほたる亭」が現れる。
この狭くなる道を進んだ先に宿泊者向け駐車場があった。チェックインは浴場棟で行う(宿泊棟を出ると向かいに浴場棟の宿泊者専用入口がある。日帰り客向けの入口に回る必要はない)。フロント前はお土産コーナーになっている。
デザイナーズ物件風の客室
施設はまだまだ築浅な感じのモダンなデザイン。宿泊棟の内部がこんなですから。天井の高い平屋に10室ほどが並んでいる。
案内された部屋は10畳+広縁和室。天井などは木のぬくもりをアピールしつつも壁はコンクリート打ちっぱなしというデザイナーズ物件みたいな部屋だ。やってくれますな。
シャワートイレあり(個室の鍵のかけ方が凝っている)、洗面台あり、非温泉の客室風呂あり。金庫あり、水容器入りの冷蔵庫あり、WiFiあり。部屋でのんびりすごすに不都合はない。窓の外は裏山+小さな水路。
夕飯前に風呂あがりビールを楽しみたい方は少なくないだろう。残念ながら当館にお酒の自販機はない。生ビールを販売する日帰り客向け食事処はあるけど夕方の営業は17時から。それだと「もうすぐ夕食だからやめとこう」になっちゃうんだな。
多種類の湯船からお好みでどうぞ
貸切家族風呂もあります
さっそくお風呂へ行ってみよう。宿泊棟を出てすぐ向かいの浴場棟に入る。靴履き禁止だから素足が嫌ならスリッパか部屋に置いてある足袋を用意していこう。
最初は貸し切りの家族風呂の区域を円を描くように回り込む通路が続く。家族風呂は無料で利用できるという情報があるけど今回は利用してない。おひとり様で家族じゃないからな。渡世人の辛えところよ。
そうしてチェックイン手続きをした受付で宿泊者専用ロッカーの鍵を受け取る(必須ではない)。一方で日帰り客がロッカーを使いたければ10円戻らない式のやつを使うことになる。さらに通路を奥まで進みきると男湯と女湯があった。時間による男女の入れ替えあり。
低周波風呂・浮風呂・気泡風呂
週末の夕方だからだろうか、脱衣所の様子からすると日帰り客を中心にそこそこの活気があった。分析書を見つけてチェックすると「ナトリウム-炭酸水素塩泉、低張性、弱アルカリ性、温泉」。昼の華まき温泉と同じだ。場所が近いから泉質も似てくるのかな。加水なし、加温あり、循環+新湯投入併用、消毒あり。
浴室はやはり新しめな感じで万人にとって抵抗感はないはず。洗い場は11名分。浴槽はまず手前に2~3名サイズの水風呂、奥の方に2名サイズの低周波浴、2名サイズの浮風呂、2名サイズの気泡浴、4名サイズのマイナスイオン風呂と続く。あとはサウナ。
うーん、低周波・浮・気泡はパスしよう。浮風呂が何かは気になるけれども(ジェット流で体を浮かせるらしい)。そういうギミックよりも純粋に温泉に浸かりたかったんでね。
森林浴を思い出すマイナスイオン風呂
そんなわけで内湯はマイナスイオン風呂のみを体験した。お湯は無色透明。黄褐色に見えるのは底のタイルの色じゃないかと思う。温度は熱すぎない適温でわりとゆっくり入っていられる。湯口から湯尻方向へ強い流れができていてお湯に落ち着きがない。そのせいか泡付きや湯の花は確認できない。匂いにはやや塩素臭あり。
マイナスイオン風呂についての説明が壁に貼ってある。マイナスイオンが2700個/cc…やっぱりわからん。マイナスイオンとは炭酸イオンのことだろうか。アボガドロ数を考えたら数千のオーダーではきかない気もするが。それに水分子が電離した水酸化物イオンもマイナスイオンじゃないの。
脱衣所に詳しく書いたポスターはあるが、やっぱりわからん(こっちは2800個/ccになってた)。まあいいや。森林浴と一緒で、なんか体にいいってことだろう。
泡付きする露天風呂がおすすめ
露天風呂もありんす。屋根付きで6名サイズ。こちらはぬるい。かなりの長湯が可能だ。塩素臭なしでいかにもな温泉の匂いがするうえ、泡付きが強め。湯質にこだわる温泉ファンほど露天風呂一択になるでしょう。ここまでのクオリティは正直期待していなかっただけに嬉しい誤算であった。おみそれしました。
翌朝は男女が入れ替わっており、基本的なつくりは前日の男湯と一緒。低周波・浮・気泡の並びがリラックス浴・低周波浴の並びに変わっている。リラックス浴はまあジェット風呂ですね。
こちらだけの特徴として歩行浴がある。1周11mの深い浴槽を歩く仕掛け。試しに1周だけしてみた。当たり前だが水圧が適度な抵抗となり、足腰に無理なく負荷をかけることができる。
露天風呂は同じくぬるめで泡付きあり。こいつはなかなかのものですよ。感心した。客の好みはうまく分散しており、必ずしも皆が露天風呂に集中するわけではない。おかげで朝の露天風呂は独り占めだった。
食事は「やまえ栗」をいただくチャンス
夕食は名物栗ご飯ほかいろいろ
山江温泉の食事は朝夕とも浴場棟の食事処で。大広間にテーブルを並べてグループ別に仕切りを入れている。開始時間はいくつかの候補から選べる。夕食のスターティングメンバーがこちら。
食前酒に梅酒、酢の物にはズワイガニ。固形燃料で温める陶板は黒毛和牛と野菜の盛り合わせだった。もうこの時点で満腹の予感。締めのご飯は山菜栗釜飯で、完成に25分かかるとのことで最初に火がつけられる。
いやあうまいうまい。風呂あがりに我慢したビールも最高。やがて茶碗蒸し・里芋まんじゅう・鮎塩焼きが追加され、陶板も釜飯もできあがった。祭りはいよいよクライマックスに。
ビールの次は球磨焼酎を飲んでみようと思い、メニューから適当に黒伊佐錦を注文。…待てよ、伊佐って鹿児島だよな。球磨焼酎じゃなくて薩摩芋焼酎なんじゃないか。まあいいか。で、帰ってから調べたらやっぱり球磨焼酎ではなかったみたい。うまかったからいいけど。
締めの栗釜飯も大変結構で最後までばっちりだった。しかし焼酎の量とペース配分にいまだ慣れず、1合空けるのに苦戦。食後は酔いと満腹感で動けなくなり夜の風呂は断念。
絵画に囲まれながらの朝食
朝食も同じテーブル席で。うむ、さわやかな朝にぴったりの布陣ですな。蓋をしてあるのはハムエッグ。
この日が旅の最終日。今日は昼飯抜きで夕刻の空港まで駆け抜けるつもりだからしっかりいただいておこう。前夜食べすぎ飲みすぎた気がするわりにはすっかり復活しており余裕で完食できた。食後のコーヒーがあるとなお良かったかな。
食事処の広間には風景画や静物画がいくつも飾ってあり、その中には山江村を描いたと思われるものもあった。もぐもぐしながらちょっと見上げると目に入ってくる。今回は村内を観光しなかったんだけど、絵を見る限り風光明媚なスポットがありそうだな。
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一人旅を受け入れてもらえてお値段もそんなに張らないのが心強い山江温泉ほたる。大自然の秘境というわけではないが、街の喧騒とは無縁のゆったりした環境でリラックスできるだろう。ハード面はモダンスタイルなので、鄙び系はちょっと、という方でも安心。
温泉面では泡付きの露天風呂で満足できる。ぬる湯が好きならなおさらだ。今回パスしてしまった内湯の各種お風呂も、そういう仕掛けが好きな人であれば楽しいはず。それに名前からして初夏にはほたるが見られるのだろう。いいなあ。
おまけ:にしき ひみつ基地ミュージアム
出発の朝。チェックアウト後に向かったのが近くの錦町にある「山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム」。
名前の字面からするとユルい系の施設に思われるが、実際は逆だった。現地は太平洋戦争時に作られた人吉海軍航空基地の跡である。もともと滑走路だった長い直線道路や地下壕などが今に残る。
着いた時にちょうど地下壕ガイドツアーが始まったところだったから参加させてもらった。戦後明らかになった基地の状況を詳しく説明してもらいながら崖下の地下壕を見学。中で魚雷の調整仕上げをしていたらしい。崖下への長い階段を行きは下って・帰りは上ってがあるから体力と相談のうえでどうぞ。
ガイド解散後に本館の展示を見学。地下壕ツアーの後だと印象がより強くなる。全般に撮影は禁止だが練習機「赤とんぼ」の実物大模型はOK。
こうして熊本県を後にし、宮崎県えびの市を経由して、最終日の湯めぐりの地である鹿児島県に入ったのである。