妙高山の出湯を“ひやあつ”で楽しもう - 燕温泉 ホテル花文

燕温泉 ホテル花文
妙高山の中腹に位置する燕温泉。標高1100mというから、平野部が残暑の時期でも涼しいに違いないと見込んで上越遠征の2日目に泊まってみることにした。たしかに空気はひんやりとしていて涼しかった。ていうか、到着時は温泉街全体が雲に覆われて冷たい霧の中にあった。下界はまあまあ晴れだったのに。

お世話になった先は「ホテル花文」。なかなか年季の入った建物だが、多くの登山客とスキー客と湯めぐり客を迎えてきた実績の表れでもある。

お湯は白濁硫黄系の源泉かけ流し。クオリティは間違いない。お湯は熱めながら露天風呂だけはぬるめでワイルドな景色も楽しめる。翌朝には近くの無料野天風呂「黄金の湯」も体験してみた。

燕温泉「ホテル花文」への道

温泉が効きすぎちゃった?

旅の2日目。赤倉温泉・滝の湯で入浴体験した後は、いもり池と苗名滝を見学した。詳細は別記事に譲ってここでは割愛します。苗名滝は思っていたよりもハードな行程で、駐車場から片道15分にしては結構へろへろ。

滝を見て駐車場へ戻る頃には体調に異変が…。急に気分が鎮静化してだるだるになってきたのである。単なる歩き疲れかもしれない。あるいは赤倉温泉の濃ゆい成分にあたったか?…とにかく活力というものが奪われて動きが鈍くなったように感じた。

なんだこれは…自分の中でこの状態を「だう~ん現象」と名付けた。決して「アイ~ン」ではない。推測するに、この旅で入ってきた温泉(ひすい温泉笹倉温泉→赤倉温泉)の効きめの積み重ねが原因だろう。眠気や注意力散漫はないから運転に支障はない。だいじょうぶだぁ。

霧に包まれた温泉街

ついでに野尻湖を見学してから燕温泉に向かった。国道18号を外れてからの山を登る道路は片側1車線が確保されていてそれほど難路ではない。急勾配を意識させることもないまま着実に標高が上がっていく。

ゴルフ場や休暇村妙高の前を過ぎて関温泉を通る頃になると急に天気が怪しくなってきた。さっきまで晴れ間があったのに、関温泉街に入るなり霧がぶわーっと出てきた。しかも先へ進むほどに霧が濃くなる。きっと下界から見ると山の中腹から上が雲にすっぽり覆われた状態なんだろう。

くっ、もうあと少しというところでこんなピンチが…関温泉から燕温泉まで3km・5分ということになっているが、もっと長い距離と時間に感じられた。

どうにか到着した燕温泉街は完全に濃い霧の中。だう~ん現象に加えて映画ミストの世界に放り出されたような気分で、どうしたらええんやと途方に暮れそうになる。いかん、このままでは負の感情に支配されてしまうぞ。フォースの暗黒面に堕ちる前に部屋に入って落ち着かなければ。


昭和チックな雰囲気を持ったホテル

館内はわりと入り組んでる

フロントには誰もいない。しばらく待ったが同じだった。不在の時は呼び出して下さいと書かれた電話でチェックインをお願いすると、つねに忙しく立ち回っていそうな風体のお母さんが出てきた。待たされたことに加え、到着前から陥ってた気分を引きずって若干不機嫌そうな声で対応してしまったかもしれない。今から思えば悪いことしちゃったかなあ。全部だう~ん現象のせいです。

フロントとロビーはこんな感じ。宿泊客にはフリーのコーヒーサービスあり。
ホテル花文のロビー
隣にこんなスペースもあります。
休憩スペース
本館はエレベーターを含めてかなり年季が入ってる。モダンなスタイリッシュ宿に慣れっこになっている方は受け付けないかもしれない。3階フロアを奥へ進むと途中で別館になるのか、少しだけ新しめに雰囲気が変わる。少しだけですけどね。

客室のソファでだらだらするのがいい感じ

その別館側の10畳部屋へ案内された。部屋の管理状態は悪くない。一人用の座卓のほか、二人掛けソファとサイドテーブルが置いてあり、これがなかなかの居心地で気に入った。布団は最初から敷いてあった。
ホテル花文 トイレ付き客室
シャワー付きでないトイレと洗面台がセットになった3点式ユニットバスあり。金庫なし、空の冷蔵庫あり。WiFiはロビーで使える。エアコンはないがこの日は空気がひんやりしていて全然問題なし。窓の外は白い霧。
窓から見える景色 その1
翌朝は霧が取れてこうなっていた。
窓から見える景色 その2

飲泉も可能な白濁硫黄泉

1階大浴場はレトロでシンプルな浴室

浴衣に着替えてとりあえず風呂へ行くにしても最初は短時間にとどめて、だう~ん現象が収まってから本気モードで入浴しようと決めた。登山者が立ち寄るのか、夕方はなんだか人の出入りでわちゃわちゃした雰囲気があって落ち着かないということもあったし。

翌朝7時までは1階の大浴場が男湯(女湯は2階)。1階のエレベーターを出たところにビール含む自販機がある。脱衣所に分析書が掲示されていたのでチェックすると「カルシウム・ナトリウム・マグネシウム-炭酸水素塩・硫酸塩・塩化物泉、低張性、中性、高温泉」とあった。源泉100%かけ流し。

浴室はシンプルなもので、洗い場が4名分。鄙び旅館あるあるでカランのお湯の出が良いとはいえない(隣のカランを使われると明らかに出が悪くなる)。浴室の中央に4名サイズ、その4名がきれいに四隅を陣取ってくれればもう2名割り込めるサイズの浴槽がひとつある。

お湯は浴槽の底がちょうど見えなくなるくらいの白濁。湯口のそばにコップが置いてあったから飲泉できるのかと思って少し飲んでみた。軽い硫黄の風味はあるけどまずくはない。

浸かってみたところ、熱めの適温だった。長く入り続けるのは難しいね。濃ゆい温泉だからあんまり無理して粘るのもよくないだろう。この泉質にふさわしく白い湯の花が大量に舞っているのが見える。匂いを嗅いでみると腐卵臭まではいかないレベルの硫黄の特徴を感知した。

夜風に当たりながらの入浴が気持ち良い

夕方は客が次々やってくる中、短時間で切り上げた。夜になって落ち着いた頃を見計らって行ってみると、開け放した窓から涼しいというより冷たい夜風が吹き込んでくる。熱い温泉の後だとこれが気持ちいい。内湯→のぼせそうになったら上がって脇に退く→夜風に当たる→内湯…の変形式冷温交互浴にしばらくハマった。

開いた窓から見上げると霧は晴れていてお月様がこんばんは。その隣にはやたら明るい星が輝いていた。なんていう星かはわからんが。こうして夜の入浴体験は結構満足度が高かったな。※当館は星観察用に屋上を開放している(行ってないから詳細は不明)。

翌朝5時台も風が冷たくて爽快だった。ただし大浴場が駐車場~温泉街入口に面しているので、明るくなった時間帯に裸で窓に近寄ると、外の人間に見られてしまうかもしれない。要注意。

ぬるめの露天風呂がうれしい、2階の大浴場

朝7時~9時は男湯女湯が入れ替わる。朝食時間が8時と決まっているので、7時台に入るか朝食後にダッシュで行くか、その両方になる。自分は7時きっかりに突撃したらまだ誰もいなくて一番乗りだった。

先の男湯に比べるとあちこち新しい感じだな。浴室の洗い場は4名分。こちらのカランは普通に使えそう。6名サイズの内湯はやはり湯口にコップが置いてある。注がれるお湯の特徴は一緒で、浸かってみたら熱めの適温だった。ふいー効くぜー。

こちらのセールスポイントは露天風呂が付いていることだ。3~4名サイズの浴槽の両端から源泉が投入されている。外気に触れるせいか、あるいは狙っての調整なのか、ぬる湯派としてはうれしいことにお湯はぬるめだった。これならじっくり楽しめそう。

露天風呂は当館の裏手(?)に面しており、V字谷のような落ち込みと向かいの山肌といった景色が展開している。確たることは言えないけど大田切川の谷筋かなあ。

温度を含めてこれは良い露天風呂。利用時間の設定からどうしても男性客は同じタイミングに集中しがちだと思うので、狙うなら作戦を考えてうまく立ち回りましょう。


「いろいろございます」な感じの食事

自家製手打ちそばを楽しめるボリューミーな夕食

夕食は部屋出しとのこと。一人客だとそういう対応になることがあるようだ。グループ客は広間に集まる方式だと思う。最初に運び込まれた品々がこちら。
ホテル花文の夕食
おっと山菜があるね。山の中だけど刺身もある。ビールを飲みながらつまんでいった。ちなみに鍋は豚の角煮と野菜。これだけでは終わるまいと思ったら、やっぱり後から天ぷらや岩魚の唐揚げが追加され、なんとがっつり一人前級のそばまで出てきたではないか。
自家製手打ちそば
うひゃー。この量はギブアップ必至。でも自家製そば粉の十割手打ちそばを筆頭に、どれもこれも残したくない、あきらめたくない代物だ。慎重に腹具合を探りながら胃袋に収めていった。

その反動でお櫃のご飯を一口しか食べられず。新潟の米なのにもったいねー。あとデザートも一部残してしまった。メニューとしては好みの品揃えだったんできっちり完食したかったけどね。体力勝負の登山客だとこれくらいはペロッと平らげてしまうのかもしれない。

朝食のボリュームには対応できました

朝食は広間に来てくださいとのこと。わりとオーソドックスな和定食系であった。
ホテル花文の朝食
デフォルトで牛乳が付くのは、妙高地域に牧場や高原牛乳の生産地があるってことだろうか。幸いなことに前夜の分は消化されて胃に余裕のある状態だ。今度はしっかりご飯をいただくぞ、と軽くおかわりするくらいはしました。

窓際のテーブル席だったから温泉街の道を通りすぎていく登山客が見える。今日は晴れてて良かったですねー。食後はフロント前でコーヒーをすすり充電完了。だう~ん現象はとっくに解消ずみ。最終日も張り切っていきましょう。

 * * *

山の中の白濁硫黄泉という、ある種のロマンを満たしてくれる湯宿。お湯はさすがの本格派で効きめはばっちり。逆に長く浸かりすぎて湯あたりしないように気をつけなければならない。夏は窓から入ってくる涼風を活用した変形式冷温交互浴がおすすめだ。冬には通用しないだろうけど。

露天風呂が男湯になる時間帯設定が特殊なので、そこは注意してお楽しみください。


おまけ:気軽に立ち寄れる野天風呂「黄金の湯」

燕温泉街よりもっと奥に野天風呂が2つある。河原の湯と黄金の湯だ。河原の湯の方は途中の吊り橋が崩落してしまったとのことで2022年は休止。そこで花文をチェックアウトした後に黄金の湯の方へ行ってみた。朝ならそんなに混むことはないだろうと予想しつつ。

温泉街から5分と案内されるように距離はそんなに遠くない。ただし階段と登り坂が…山登りの趣味はないし在宅勤務のため歩かなくなってしまった身にはかなり辛かった。なお途中には薬師堂がある。
燕温泉 薬師堂
ひいこら言いながら黄金の湯に到着。あー疲れた。入口のスマホ撮影は、中が見えちゃうわけではないが、あらぬ炎上を避けるためにもアングルを下めに。中へ進む前に携帯の電源を切っておくのが無難だな。
燕温泉 黄金の湯
男湯は簡易な脱衣所と4~5名サイズの岩風呂。もちろん洗い場はない。周囲は木立。お湯の色は花文で見たのと同じ乳白色である。温度はやや熱め。多少の出入りがありつつ自分以外に常時2~3名がいる感じだった。登山道の始まりの位置にある気軽に立ち寄れる野天風呂といったところ。