妙高山・火打山とあわせて頸城三山を形成する新潟焼山。標高2400mの活火山だ。その登山ルートの起点に位置するのが笹倉温泉。と知った風に書いてはみたものの、登山しないし山にも詳しくない自分が笹倉温泉を知ったのは、ネットでいい温泉だという評判を見かけたからだ。
上越妙高~糸魚川遠征の宿として泊まってみたいなと思い、我が身にはいささかハイスペックすぎる気もしたが、自分へのご褒美だからと言い訳して実現させた。
サービスや演出面などいろいろ頑張っているし、自然環境や秘湯感も申し分ない。温泉は湯の花が大量に見られ、少しヌルヌルする、美肌の湯系統。個人的にはぬるめになっている展望露天風呂と一人用の寝湯が気に入った。湯質は貸切風呂が良い。
笹倉温泉龍雲荘へのアクセス
もしもしピットとは?
JR糸魚川駅から笹倉温泉まで路線バスがあるようだ。旅行者目線だと14時台か15時台のどっちか狙い。北陸新幹線+バス1時間弱で行けるならいいんじゃないか。なお旅館でも糸魚川駅までの送迎サービスをやっているようだ(要事前予約・時間固定)。
自分はレンタカーで糸魚川・ひすいの湯に立ち寄り入浴し、フォッサマグナミュージアムを見学した後、笹倉温泉へ向けていざ発進。
ちょっと待て。せっかくここまで来たら、ヒスイ海岸ってのが気になるから寄り道してみるか。付近に駐車場があるような、ないような。グーグルマップには載っているのだが、その住所をカーナビに入れたら全然違うところに誘導されるなど。迷ってうろうろしたあげく「ヒスイ押上海岸もしもしピット」なる駐車帯に落ち着いた。
もしもしピットってなんや?…今回の遠征でやたらと見かけたな。携帯電話を使うならここでどうぞという場所らしい。東北と新潟で展開中だって。
ヒスイ海岸から焼山方面へ
すぐ近くに糸魚川海水浴場の看板が立っていて海岸へ出ていけるようになっていた。テトラポットがゴロゴロしている、砂浜じゃない小石の浜だ。
小石は白・黒・緑・淡桃など、わりとカラバリ豊富。運が良ければヒスイを見つけられるかもしれない。でもヒスイかどうかを見分ける目がないんだよな。緑っぽいのを拾えばいいという簡単な話じゃない。
そんじゃ行くか。ヒスイ海岸から当館までは車で20分。国道8号が早川を渡る手前で県道270号に入って焼山方面へ南下する。山奥の秘境へ向かう狭くて過酷な道路だったらどうしようと心配したけど、片側1車線の普通に走りやすい道路で全然大丈夫だった。
当館の1kmほど手前に焼山温泉の看板が現れ、対岸に旅館の建物が見えてくる。でも焼山温泉は閉鎖されてしまったようですね。最後は1.5車線くらいの道になって県道が終わる末端あたりが笹倉温泉だ。
焼山を背後に従えた、ちょっといいお宿
いきなりの太っ腹サービス
ではチェックイン。玄関とフロントのあるフロアは地上階と見せかけて実は2階だった。ロビーの右半分がこちら。
何が置いてあるのかと思えば、なんと、宿泊客にはウェルカムドリンクとお菓子を1つずつサービスしてくれるとな。ドリンクの中にはビールのミニ缶もあったぞ。しかもアイスは16時~翌10時まで無料サービス。風呂あがりにどうぞ。すぐ近くには温泉水の提供もあった。
ロビーの左半分にはお土産処がございます。
正面のガラス越しにのどかな風景が広がる。下の写真だとちょっとわかりにくいが重機が入って整地作業をしているところは、もともと棚田になっていたのを一枚田に均すための工事だそうだ。焼山は背後の方角にあるので見えない。どのみち当時は雲にすっぽり覆われてて姿を現さず。
目を下に向ければ池があって魚影が見える。説明によれば幻の魚イトウ。糸魚川で見られるなんて意外だな。プラン次第では料理に出てくるそうだ。へー。
一人旅には贅沢な部屋でまったり
今回案内された部屋は3階の12畳+広縁和室。マッサージチェアがあるぞ。一人客にこんないい部屋をあててもらっちゃってすいませんね。布団は最初から敷いてあった。
室内はもちろんきれいで管理状態は良好。シャワートイレ・洗面台あり。金庫あり、水容器入りの冷蔵庫あり、フリーWiFiあり。部屋の向きはロビーと同じなので見える景色も似ている。肉眼だと左右にもっと広がりがあります。
お菓子は3種類が用意されていた。さっきロビーで取ってきたウェルカムお菓子とあわせて4種類。
つい我慢できなくて、風呂あがりに取っておこうと思ったウェルカム缶ビールと一緒に平らげてしまった。だってこの日は新幹線ホームの売店で買った某社の100円お菓子・チョコあ~んぱんしか食べてなかったんだもの。わいはあかん…だめな男や…(うどん野郎)。
いろいろな種類のお風呂が楽しめる秘湯
大浴場その1はポピュラーな内湯+露天風呂
笹倉温泉の大浴場は2階にある。まず行ってみたのが大浴場。近くには自販機コーナーがある。通路に近い側が男湯になっていた。脱衣所で分析書をチェックすると「ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉」。加水なし、加温・循環・消毒あり。消毒は塩素不使用の紫外線殺菌方式。
浴室にカランは12台。内湯浴槽は10名サイズで、お湯は見たところ完全な無色透明。浸かってみると万人向きの適温であった。手のひらにすくったお湯に鼻を近づけるとアブラ系の匂いを感知したが、これは先に体験した「ひすいの湯」の匂いが染み付いていた可能性がある。
すぐに露天風呂へ移動。4~5名サイズの岩風呂でややぬるい。長めにじっくり入るならこっちだろう。眺望はなかったような気がする。この時は露天エリア全体の頭上が青い網で覆われていた。落ち葉対策かアブ対策かはよくわからない。
なんだか通り一遍の体験になってしまったが、実際こちらの男湯には20分くらいしか滞在していない。以後来ることもなかったし。良い悪いという話ではなくて、他に展望風呂もあるとのことでまずは両者をさくっと体験してみたら展望風呂の方を気に入ってしまい、以後そちらに時間を割いたためである。
大浴場その2にある寝湯が気に入った
ただし、翌朝のチェックアウト前に気まぐれで大浴場へ来てみたら男女が入れ替わっていたので、入れ替わり後の男湯へ行ってみた。場所は階段を下りた先の1階相当のフロア。
こちらはカラン12台、うち1台故障中。やはり10名サイズの内湯浴槽に適温の透明湯。露天風呂がなくて別室に2~3名サイズの桶風呂と1名専用の木の寝湯があった。
もっと早く気づいていれば…と惜しんだくらい、寝湯がかなり良かった。まず温度低めでずっと入っていられる。加えてお湯がやけにヌルヌルしている。さらに湯の花の量が他よりも多め。湯の花は淡茶色の糸くず状になったものが大量にふわふわ漂っていた。これはいい寝湯。
展望風呂にある露天つぼ湯がおすすめ
大浴場とは別に展望風呂もある。泉質は同じだけど季節により加温する以外は加水・循環なし、消毒は内湯のみで露天風呂はなし。翌朝行ってみた様子だと男女入れ替えはないね。
浴室のカランは5台。10名サイズの内湯浴槽は半露天ぽい雰囲気もあり、外の景色を眺められる(ただし当時は虫よけのため網戸を閉め切っていた)。一部が半身浴コーナーになっていて2~3名が腰掛けられるようにしてある。お湯は熱め。
気に入ったのは露天風呂だ。といっても男湯側は1名専用のつぼ湯だけどね。混雑時にはノーチャンスで終わってしまうかもしれないが、なんとかトライしてみてほしい。まずお湯がぬるい。やけにヌルヌルしている。湯の花の量が多い…先ほどの寝湯と似た湯質に加えて展望風呂を名乗るだけの眺望がある。
ずいぶん幅が狭くなった早川の流れ、対岸には緑。頭上を覆うものはなく空が広がるのみ。建物に目をやれば素朴感たっぷりの木の湯小屋。秘湯に来たなーって感じ。アブの気配を受け止めつつも直ちに危険はないと判断して粘らせてもらいました。
湯質にすぐれた貸切風呂
さらに貸切風呂もある。2つの浴室をそれぞれ1時間に1組ずつ予約制で貸し出している(利用は40分を目安にとのこと)。宿泊客はフロントに申し出れば1回だけ無料で利用できる。就寝前の時間帯に予約して行ってみた。
こちらのお湯もおそらく加温のみの源泉かけ流しではないかと思われる。浴室に入るなりムワッとアブラ臭がした。ひすいの湯の残り香でなくて笹倉温泉も匂うことがあるのかなあ。気のせいかなあ。
まあいいやと浸かってみたら熱めだった。温度は好みと逆傾向だがなかなかの良質湯だ。湯の花量はつぼ湯・寝湯にも負けていない。2~3名サイズの浴槽からあふれたお湯が床の上を流れ、その析出物がドス黒~赤~白へ色変化する千枚田を作っていた。
雰囲気は普通の内湯ながら良好なお湯を楽しめるから、宿泊したら1回は試してみてほしいところ。ちなみにカランは3台あった。
献立と量がよく考えられているお食事
夕食の酒と肴と米がうまい
笹倉温泉の食事は朝夕とも1階大広間で。1階には飲泉所があった。
大きな一部屋に全員集合ではなく数組ずつ別々の広間に分かれる。夕食時に案内されたテーブル席に並んでいたスターティングメンバーがこちら。
食前酒の謙信という日本酒の風味がよくて、自分へのご褒美理論で1合頼んでしまいました。お造りは鯛・カンパチ・ホウボウだったか。酢の物には鮎。台物に村上牛ステーキとくればもう狂喜乱舞。それだけじゃなく、丸なす揚げや太刀魚のソテーが追加されたのだ。
釜の飯は炊き上げに30分くらいかかるという説明だから早めに着火をお願いしよう。生姜とホタテの炊き込みご飯・あら汁仕立てだって。旨味しか想像できん。
全部完食してもお腹パンパンになる手前くらいの量なのは、苦しまず満足感だけを残してくれる意味でベスト。
温泉水を活用した朝食
朝食も同じテーブル席で。まずは目覚めの一杯として冷やした温泉水が置かれていた。飲泉にかなり自信を持ってるとみた。
お米系には温泉水で炊いたお粥を頼んであった(おかわり可)。他の料理にも温泉水を使ったものがあるようだし、徹底しているな。小鉢がいろいろあってご飯のお供には困らない。鍋は湯豆腐。
朝食のボリュームも絶妙である。当館の献立はよく練り上げられているな。朝食後は2階ロビー隣の談話室にてコーヒーサービスあり。1杯ずつマシンで淹れる本格派コーヒーを飲むと、うーんマンダム、と言いたくなるのはなんでだろう。
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旅情をかきたてる自然の景観、秘湯感、良質の温泉、よくできてるお食事。高い水準でバランスが取れている。さすがは日本秘湯を守る会の会員宿だ。焼山の懐にありながら日本海の魚介も多く楽しめたのは良かったな。
きっとどの季節に訪れてもそれぞれの良さがあるに違いない。しかし冬はかなり雪が深そうだけど大丈夫かな。一応県道がしっかり除雪されるとは聞いた。ここの雪見風呂はさぞかし圧巻だろう。