熱めサッパリ湯に野湯風情の露天風呂 - 尻焼温泉 星ヶ岡山荘

尻焼温泉 星ヶ岡山荘
群馬県に尻焼温泉という変わった名前の温泉がある。川底から温泉が湧き出していて、温められた石に腰かけるから、尻が焼かれる感じになるためその名前がついたらしい。長笹沢川をせき止めて作った天然の露天風呂が有名だ。

へー、じゃあ行って尻を焼かれてみようか。しかしトライしたのは代表格の露天風呂じゃない。旅館「星ヶ岡山荘」の立ち寄り湯だ。事前にネットで調査した際の印象もあって、旅館のお風呂を利用させてもらう方が無難な予感がしたものでね。

自然の中のモダン秘湯宿といった雰囲気の星ヶ岡山荘。お湯は結構熱かった。やはり尻が焼かれるだけのことはある。また河原へ下りていって入る露天風呂もあり、こちらは野湯的な楽しみがある。

尻焼温泉「星ヶ岡山荘」へのアクセス

六合といえば寅さんのロケ地(うっかりしてた…)

尻焼温泉へ車で行くとしたら、JR吾妻線・長野原草津口駅付近から始まる国道292号の東ルートを北上して、六合(くに)地区で分岐する国道405号を野反湖方面へさらに北上していく。R292に入ってから30分程度の道のり。一本道とはいえ最後にR405を外れて分岐するところがあるから注意。案内標識は一応立っている。

自分は草津の西の河原露天風呂に入浴した後で尻焼温泉を目指した。この場合はR292を反対側からアプローチする形で六合地区へ向かうことになる。途中の品木ダムの標識にちょっと興味をそそられたけど時間の都合でパス。草津白根地域由来の強酸性の河川水を中和する目的で作られたダムかー、また今度。

そこからくねくねした難儀な下り坂が続き、まもなく平坦になってくれそうなところに映画「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」(第25作)のラストに出てきたバス停跡があったみたいだけど、気が付かずに通り過ぎてしまった。

寅さんが炎天下でバスを待っていたら、リリーを乗せた車が通りかかって2人は再会。「私達これから草津へ行くんだけど寅さんも一緒に行かない?」「おお行く行く!」みたいなシーンだったっけ。出会いと失恋と旅立ちという大筋を踏まえつつ、明るくさわやかな余韻でまとめた名作。ロケ地には寄りたかったな~。

尻焼温泉駐車場からは近い

そんな重要地を見落としたとは当時つゆ知らず、下り坂をクリアしたらすぐにR405に入って白砂川沿いを北上。道路は一部狭隘な区間もあり、だんだん秘境感を増してきた。入山という少し開けた集落で、標識にしたがってR405から分かれて長笹沢川沿いの道を進むと、1キロくらいで尻焼温泉駐車場に着いた。

もし有名な天然露天風呂に入るならここに車を置いて数百メートル歩く。駐車場がキャンパーで一杯とか、混浴の露天風呂は水着必須とかそうじゃないとか、いろいろ噂が錯綜していてリスク高そうに感じたので自分は入浴対象から外した。当時はまあまあ普通の雰囲気だったけどね。川の様子を撮影するだけにしておいた。※露天風呂はもっと上流です。
長笹沢川
星ヶ岡山荘は駐車場から100メートルほど奥にある。


尻焼温泉の持つ雰囲気をそのまま楽しめそう

お湯のクオリティはお墨付き

フロントで日帰り利用の旨を告げてお支払い900円。館内は新しい感じできれいにされており、ロビーはこのような様子。
星ヶ岡山荘のロビー
大浴場は奥の奥にあり、玄関から結構歩いた。建物の正面顔から想像する以上に奥が深いんだな。大浴場の手前に洒落た休憩スペースあり。「湯あがりにここで休んで下さい」と部屋の灯りとエアコンをつけてくれた。コスト回収できるかわからない一介の日帰り客のために、ありがてえ。
大浴場前の休憩室
脱衣所もわりと新しい感じ。日本温泉協会の温泉利用証なるパネルによれば「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物泉」とあった。加水あり、加温・循環・消毒なし。自然度・適正度の目安と称する5点満点評価では引湯・加水項目が4点、残りの源泉・泉質・給排湯方式・新湯注入率項目は5点。おーすごい。

熱めでサッパリしたお湯

浴室は全10室という宿の規模に見合った広さ。洗い場は3名分。岩風呂風の内湯浴槽は5~6名サイズ。片隅に湯もみ棒が置いてあるのは、もしかしてかなりのあつ湯なのか?

おそるおそる浸かってみると、やっぱり熱かった。極度に熱いわけではないが平均的な適温と比べるとはっきり熱い。尻どころか全身が焼かれるぞ。まあ宿泊客が入る頃までには適正にチューニングされる可能性はある。

お湯は無色透明で泡付きや湯の花は見られない。匂いはいかにもな温泉臭が少々。ぬるっとした感触もなくて、ベトつかないスッキリサッパリ系のお湯だ。湯口にはひしゃくが置かれていた。飲泉できるってことかな。湯口から投入されるお湯をちょっとだけ飲んでみた…ああやっぱりスッキリサッパリ系だ。変な味はしないね。

浴槽の縁からオーバーフローしていく量はなかなかのもので、お湯の回転率と鮮度が高いことを示していた。加水ありとはいえ湯使いにこだわる方も満足できると思われる。とくに熱めを好むならベストマッチだろう。

川のほとりの露天風呂がよさげ

脱衣所と浴室内の両方から外へ出られるようになっている。外へ出ると河原へ下りていく階段があって、その先に露天風呂があった。3名分ほどのサイズの岩風呂はやはり熱め。内湯よりは少し低い温度かな、くらい。川の景色を間近に見ながら入れて、まわりに他の人工物がない、野湯に近い雰囲気だ。これはいいね。

あふれたお湯がもっと低い位置に流れて溜まっている窪みがある。あれも浴槽の一種なんだとしたらぬるくなってるんじゃないか。あるいはもっと川の中に入っていっちゃうくらいまで進出できるのかな。なんて考えながら、残り時間を露天風呂で過ごそうと考えた矢先にトラブル発生。

アブが来やがった。明らかにこっちをターゲッティングしている。熊と蜂とアブはアブなくていけません。あとトビズムカデとマムシとカツオノエボシとミノカサゴとヒョウモンダコ。とにかく、あーちくしょー。わずか1分で撤退する羽目になった。

内湯へ戻って残り時間を過ごす間にやって来た客は露天風呂へ直行していった。頼む、かたきを取って野趣あふれる露天風呂を楽しんでくれ。

なお、当時の男湯は上記のようなつくりで、女湯の方は露天風呂が内湯のすぐ隣にあって広いみたい。男女の入れ替えはあるはずだから両方試したければ泊まりでどうぞ。

 * * *

にごり湯とか硫黄プンプンとかの特徴を求めるのでなければ、お湯のクオリティに間違いはなく、いい温泉だと思う。短時間で逃げてしまって浅い体験になってしまった(これは自分のせいだけど)露天風呂は風情込みでかなりのポテンシャルを秘めていそうだった。グッジョブな温泉宿。


おまけ:山奥にひっそり佇む野反湖

ここまで来たら野反湖を見ていこう。入浴後にR405をさらに北上。道はくねくね、そしてますます狭くなり、対向車とすれ違うのに難儀するレベル。そんな道路が10キロも続くから神経を使う。ひィ~! 泣きを入れながら頑張って運転した。

どうにかこうにか野反峠休憩舎・花の駅に到着。おお、あれが野反湖か。ダム湖でありながら、天然湖だと言われても違和感ないね。
野反湖 南端
ここはまだ野反湖の南端。車道は北端まで続いている。せっかくなので北端の野反湖展望台まで行ってみた。花の駅から4キロ先。
野反湖 北端
R405はこの先が未開通区間となり、県境を越えて長野県側へ出るには登山道を徒歩で踏破するしかない。山を越えると秘境として知られる秋山郷へ出て、そこから車道としてのR405が復活する。とはいえ相当な酷道ですけどね(経験者談)。

さあて、熊が出る前に帰ろうっと。