群馬の吾妻渓谷近くにぬる湯の秘湯がある。川中温泉かど半旅館。日本三美人の湯に数えられる、日本秘湯を守る会の会員宿だ。ぬる湯派の自分としてはいつか行ってみたい候補のひとつだった。このたび万座からの帰りにもう1泊することにしてかど半旅館のお世話になった。
幹線道路を外れて奥まったところにある一軒宿で、まさに秘湯。泊まった本館の部屋は、いろいろ手入れを加えながらも昔ながらのレトロな雰囲気を色濃く残しており、こういうのが好きな人にはたまらんでしょう。
肝心のお風呂は期待した通りの不感温度帯のぬる湯を源泉かけ流しにしていてすばらしい。三美人の湯というだけあって泡付きのするマイルドなお湯はお肌に効きそう。
川中温泉「かど半旅館」へのアクセス
当館の近隣に松の湯温泉・松渓館という宿があり、5年前に泊まりに行った(ちなみにここもぬる湯だ)。その時にも感じたのだが、鉄道の駅が近くにないし、コミュニティバスはあっても旅行者が使うには時刻表に難があるので(しかも当館は最寄りバス停から徒歩20分)、鉄道の旅だとちょっと大変。長野原草津口または川原湯温泉駅までの送迎はしてくれるようだが。
車で行く場合、もし狭い道の運転を苦にするのであれば、最後のアプローチの仕方を事前によく研究しておくべきだ。渋川方面からだと国道145号が合計2.5kmくらいある雁ヶ沢&茂四郎トンネルに突入する手前の交差点を左折、長野原方面からだと逆にトンネルを出た直後の交差点を左折して坂を下りていく。するとすぐに当館の標識が出ているので右折。雁ヶ沢川の西側を通るこのコースだと極端に狭い道は最小限ですむ。
一方、カーナビに指示されることが多いのは雁ヶ沢川の東側・松の湯温泉の前を通過するコース。すれ違い不可の狭隘区間が延々続くので運転に自信がないと泣きを見る。自分も尻焼温泉から向かう時にカーナビの誘導で東ルートを走ってしまい泣きを見た。
かど半旅館の敷地の奥にある駐車場もそれほど余裕があるわけではない。普通に敷地へ進入してから駐車場内で車を転回させるべく切り返しを頑張るよりは、いっそ最初からバックで進入していった方が楽かもしれないな。
R145を外れた後に道を間違えるとなかなかUターンできる場所も見つからないし、カーナビの助けは欲しいところ。加えてゴールまでのイメージを頭に叩き込みつつ、周囲をよく観察しながらゆっくり走りましょう。
川沿いのレトロな旅館
どこか懐かしさを感じる風情
ではチェックイン。外観もそうだし館内もどこか懐かしさを呼び起こすレトロな雰囲気である。とはいえ決して古かったりボロかったりするわけではない。新しくすべき箇所は新しく、手入れはしっかりなされている。こちらがロビー。
予約の際に部屋にトイレがあるかないかの選択肢があって、少しお安いトイレなしの方にしたら本館の2階の部屋に案内された。6畳+広縁和室。ふとんは最初から敷いてあった。
昔ながらだなあと思ったのは、部屋の扉がふすまで、ネジ式の内鍵はあるけど外から鍵をかけることはできない。なので貴重品は金庫へどうぞ。あと冷蔵庫なし。ビールは1階の自販機で売っている。エアコンはなかった気がするけど当時は扇風機なしでも大丈夫だった。そしてWiFiあり。
トイレ・洗面所は2階に共同のがある。男子トイレは小×3、シャワートイレ個室×2。部屋の窓から見える景色についてはこちらをどうぞ。
本館の屋根+向かいに立っている別館の屋根が見えます。トイレ付きの部屋と大浴場は別館の方にあるのだ。窓を通して聞こえる雁ヶ沢川のザーザーいう水音が涼しげに響く。
夜の訪問者は勝手にやらせておけばよし
もう一つ補足すると、夜寝ようとした頃に部屋内に「ガタッ、ガタタッ」という重めの音が響き続けた。ポルターガイスト現象でないとすれば屋根裏でイタチでも歩いているのか?…よくよく聞いて脳内分析すると、何かが窓にぶつかりながら「バチッ、バチバチッ」と羽ばたきしているっぽい。蛾や蝉では足りない重さを感じさせるから鳥か? 夜中に鳥が行動するかなあ。
真実を知るのが怖くて窓を確認しなかった(広縁と畳の部屋を仕切る障子を閉めたままにしていた)ため正体は不明だが、気にせず寝ることにして灯りを消したら音も止んだ。あれはかわいい小鳥さんってことにしておこう。
何度でも入りたくなってしまう極上のぬる湯
本来は2種類の源泉がある模様
かど半旅館の大浴場は別館にある。本館から行くのに外へ出る必要なし。玄関脇から地下通路を通って行けるようになっているのがカッコいい。源泉が川から湧き出ているためだろう、地下1.5階くらいの階層に大浴場があった。手前から女湯、男湯、混浴風呂男入口、混浴女入口。
廊下に2種類の泉質説明パネルが掲示されていて、どの浴槽にどちらがというのはよくわからなかったけど、おそらく一方は現在止まっている気がする。泉質名からすると2種類とも大差はなくて似通っている。
まず男湯から説明しよう。脱衣所・浴室とも同時に3名くらいまでの広さだから、他客の気配があれば遠慮する、暗黙の貸し切り制的な使い方になってる空気感。一度だけ別のひとりと共存した以外はすべて独占状態だった。脱衣所にも分析書が貼ってあって「カルシウム-硫酸塩泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」。いわゆる石膏泉ですな。加温あり、加水・循環・消毒なし。
やめられない止まらないぬる湯をかけ流す内湯
洗い場は1名分。カランとシャワーの湯も源泉だそうだ。あとは石風呂的な2~3名サイズの内湯浴槽のみというシンプルな構成。だがそれがいい。宿の雰囲気にぴったりで、秘湯へ湯治に来たな~って気分が高まる。
湯使いもすばらしく、無色透明・かすかに石膏泉ぽい温泉臭のするお湯がオーバーフローして床を流れる。湯船に体を沈めると大量にあふれて大変なことになるほどだ。白い湯の花が舞い、湯口付近では肌にはっきりと泡が付く。
しかも加温しているとはいいながら体温程度のぬる湯を保っている。これ最強。のぼせず冷えもしないから全然出ようという気にならず、無限に入っていられそう。あーこりゃたまらん。個人的には冬でもこの温度で満足できると思う。
上述のように自分の存在を察知して他客が遠慮している可能性が考えられたから、ワタクシもいい大人なんで、1時間も独占するなんてことはしなかった。1回あたりは30分程度にしておいて回数を増やした。この男湯には6回くらい入ったかも。当時は朝から万座・草津・尻焼といっぱい湯めぐりしたので控えめにする意識があってこれだから、おそるべき川中温泉の魔力だ。
川中温泉の醍醐味が詰まった混浴露天風呂
当館のメインを張るのはきっと混浴風呂の方だろう。こちらの方が暗黙の貸し切り要素が濃くてカップルやお仲間同士で独占して楽しむんじゃないかな。※もちろん公式な貸し切りではないので他客が入ってきても文句は言えません。そこんところはご了承の上でどうぞ。ちなみに夜20~22時と朝6~7時は女性専用時間帯となる。
自分はチェックイン直後の時間帯に5分程度の偵察と、他客がチェックアウトした後のラスト時間帯を狙って本格的に入りに行った。脱衣所は男女で分かれているけど浴室内で合流する。内湯は2名分の洗い場と3名サイズの浴槽。
外へ出れば露天の岩風呂が2つ。ただし奥のやつは空っぽで供用されてない。両者の間は岩で仕切られているから、グループや男女で入り分けてね、っていう趣向か。脇に設置された2つの小さな小屋もKeep Out措置中。露天内脱衣所のようですな。
手前の岩風呂は5~6名サイズの浴槽にお湯がたっぷりと注がれている。浸かってみるとやっぱりぬるい。心なしか男湯より若干低温な気もするなあ。ええでええで。普通より深いため体育座りすると顔まで湯に浸かってしまう。縁の岩によりかかるかスクワット体勢で。
露天エリアは屋根付きで日本秘湯を守る会の提灯がぶら下がり独特の情緒を醸し出す。川は見えないものの自然の緑に囲まれた感はばっちりだ。こんないい風呂をひとりで独占しちゃってすいませんね。
しみじみと味わいたい食事
こんにゃくの奥深さがわかった夕食
かど半旅館の食事は朝夕とも1階食堂で。夜は18時に固定。部屋ごとに決まったテーブル席が割り当てられている。夕食のスターティングメンバーがこちら。
もうキラキラしたものは求めないおじさん好みの品々で大変結構なり。鯉の洗いがコリコリ食感+さっぱりしていてGood。薬味の生姜だけでそのまま召しあがって下さいと言われた刺身こんにゃくはまじでうまい。こんにゃくのイメージが変わった。さすが群馬。
鍋はきのこ・肉・野菜の蒸し物。さらに群馬といえばのおっきりこみうどんまで出てきた。もうお腹苦しいっす。締めのご飯は2口が精一杯というマンネリパターンで終了。満腹のK点越え。
朝食もやさしい感じで
朝は8時に固定。前夜と同じテーブル席に着く。旅館の和定食らしい顔ぶれが並ぶ。
当館のやさしいお湯のような、胃にやさしい品々ですな。これらのおかずのおかげで朝はご飯を1.5杯ほどいただけたぞ。やってやったぜ(何が?)。なお食後にはコーヒーもご用意してございます。
エナジー充填したら妙に元気が出てきた。さあてチェックアウトまでに混浴風呂での長湯にトライしてみるか。
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レトロ感のある秘湯のぬる湯として大変満足した。人によってはしっとり包み込むようなやさしいお湯であることも重要なポイントになり得るだろう。なにせ日本三美人の湯だからね。→川中温泉・龍神温泉(和歌山)・湯の川温泉(島根)だって。
日本三大ナントカに弱いおじさん、また新たなコンプ目標ができてしまったかもしれない…。