JR身延線・国母駅のまわりにある日帰り温泉といえば、3年あまり前に甲府近郊の温泉めぐりをした時にいくつか立ち寄ったことがある。しかし取りこぼしてしまった施設もあった。それが国母温泉。まあそのうち行くことになるだろうと思って早3年。時が経つのが早すぎて怖い。
今回は運命のいたずらと言うべきなのか、ちょっとしたミスから始まった恋、じゃなくて国母温泉との出会いだった。訪れてみるとかなりノスタルジーあふれるお風呂屋さん。しかも提供されるお湯はしっかりした本格派の温泉であるうえ、いくらでも入っていられるレベルのぬる湯。一般人はもとより、ある種の嗜好を持つ方々には刺さりまくるのではないかな。
国母温泉へのアクセス
最寄りバス停を通るバスは本数注意
国母温泉の最寄り駅はJR身延線の…いま調べたら国母駅じゃないわ。甲斐住吉が一番近くて徒歩20分。次が南甲府で25~30分。国母だと30分オーバー。これらの駅からバス便はない。
甲府駅からだったらバスあり。当湯のすぐそばに国母・下石田四ツ角停留所があるけどそこを通るバスの本数は少ない。帰りに利用しようとしたが時間が合うはずもなく。通りを一本変えて昭和通りへ目を向けても大差ないと思われる。それなら遊亀通り~伊勢通り経由の本数そこそこ出ているバスに乗って、遠光寺で降りて10分ちょい歩くのはありかもしれない。自分は帰りにその逆コースをやった。
じゃあ行きはどうしたかというと、前の晩に甲府昭和IC近くのホテル昭和に泊まっていたので、チェックアウト後に歩いて向かった。多少迷ったのを含めて30分弱。
ちょっとしたミスから始まった○○
実は当初の目的地はフカサワ温泉だった。3年前の遠征で行きそびれてしまったのでね。たしか甲府駅から乗ろうとしていたバスが減便されてて、スケジュールの都合がつかなくなってあきらめたんだったな。
今回はホテルから徒歩圏内だし今度こそ、と思ったら、ふとツイッターをチェックした際に「当面は地元客のみ利用可とします」だと知ってしまったのだ。しまった、事前調査が甘かったか…早めに気づいてまだ良かったものの、3年ぶり2回目のフラれは縁がなさすぎ。
うーんどうしよう。最終日何もなしで直帰するのもな。他に候補があるはずだ…徒歩圏内でまだ未体験のところを急きょ検討して国母温泉に決まったというわけ。同じエリアにあるトータス温泉へ行ったときと展開が似てるな。歴史は繰り返す。
ぬるめのモール泉を長く楽しめる温泉銭湯
ジモティー色強めのノスタルジックな雰囲気
建物の外観は普通な感じ。ところが中へ入ると急に昔ながらの風情が強くなる。入浴料430円。石鹸・シャンプーは備え付けてありませんとのことで、洗髪したかったのでシャンプーだけ買った。60円。右の方に下駄箱と男湯がある。
脱衣所は中央にぽっかり空間ができてて広く感じる。鍵付きロッカーがあるから旅行者も安心だ。ざっとあたりを見回すと、べつに古いとかボロいわけではないのだが、なんだか妙に懐かしい気分にさせられる雰囲気がある。客層は地元のシニアが中心か。アウェー感は強めかな。
分析書に目をやると「ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」だった。あれっ、高温泉なの? ぬるいんじゃないの? なあに、迷わず入れよ、入ればわかるさ。と自らを鼓舞する。
浴室内は予想通り地元のおじさま方の社交場っぽい様子だった。ちょっと気後れしてしまい、9名分が点在する洗い場の中の一番隅っこで小さくなってる感を醸し出しながら、あたりを観察する。
内湯3兄弟のどこを狙う?
ふむ、浴槽は3つあるな。3つ並んでL字型の配置になっている。いずれも3名分くらいのサイズで、ぱっと見すぐわかるような違いはない。温度が違うとかかな。そのうちの1箇所は同じ人達がずっと独占してた。1時間後も微動だにせず出る気配がなかったから、相当なぬる湯なんじゃないか。結局ノーチャンスで入れなかったから実際どうだかは知らんけど。その浴槽に何度かにわたって参戦してた方は湯に浸かりながら本を読んでたな。やっぱりぬるいんだろうね。
ぬる湯好きだし、強引にでも割り込んでいくべきだったのかなあ…まあ今さらいいや。残る2つのうち手前側に入ってみたら、ぬるめだった。そこそこ長湯できるレベルだからここで満足だ。お湯は水飴のように透き通った茶色で、匂いについてはモール臭を感知した。じっとしていると若干の泡付きも見られる。山梨あるあるな泉質。いいですよー。
ここに湯口はない。残るひとつの浴槽がすぐ隣にあって、そちらには湯口があったと思う。で、そっちから少しずつお湯が流れ込んでくる仕掛けになっていた。だから温度が下がってうまい具合の湯加減になっていたわけだ。
ということは湯口がある側の浴槽は温度が高い可能性があるな。試しに移ってみたところ、たしかに熱めだった。とはいえ、あくまでこの銭湯の中での相対比較であって、実際は熱すぎない適温の部類だと思う。そして少なくともこれら隣り合う2つの浴槽はどうやら源泉かけ流しらしい。浴室内には他に水風呂とサウナ室がある。
ぬる湯好きにはたまらない露天風呂もあるよ
それだけじゃない。露天風呂もある。外へ出てみると4~5名サイズの岩風呂があった。誰もいない。よし独占させてもらうとするか。浸かってみたら体験した中では一番ぬるかった。今回の旅を通じても一番ぬるかった。不感温度と言ってもいいくらいだ。所得は倍増しなくてもハッピーが倍増。
弱めながら泡付きはあるしモール臭は健在、浮遊する湯の花も見えることから、おそらく源泉かけ流しと思われる。誰もやって来ないし、もうずっとここでいいじゃん。人気を集める露天風呂かと思いきや、独占し放題で穴場の空間と化していた。
町中の銭湯だから塀に囲われて眺望はない。でもそんなの関係ねえ。最後の締めにふさわしい風呂に入れて良かったぜ。ふと見ると大きな黒い蝶が岩風呂の上空をふらふら行ったり来たり、時々はお湯の近くまで下降していた。お前も温泉に入る気か。こうして蝶と一緒に蝶時間、じゃなかった長時間、心おきなく露天風呂を楽しんだのである。
* * *
あーいい湯だった。こんな本格温泉を銭湯感覚で利用できてしまうんだから国母おそるべし。当湯を出た後、上に書いたように遠光寺バス停を目指して歩くと、途中の千秋橋でぱっと視界が開けた。
うむ、よきかな---千と千尋で風呂に入って成仏(?)した神さまの気分になってしまったのは、国母温泉のおかげでもある。