あつ湯もぬる湯も良質なモダン湯治宿 - 湯宿温泉 大滝屋旅館

湯宿温泉 大滝屋旅館
群馬県の湯宿温泉は小規模ながらも長い歴史を持ち、温泉のクオリティには定評がある。そもそも名前からして期待して良さそうな温泉地だ。以前から目をつけていたので、いよいよ実行に移す時が来た、と出かけてみることにした。

調べによるとパワフルなあつ湯らしかったから、ぬる湯派の自分としては、そこだけが気になった。まあでも半分冬みたいな早春の時期には合いそうだし、名湯なら満足するでしょう。

お世話になった大滝屋旅館は窪湯源泉・大滝源泉という2種類の源泉を100%かけ流しで提供している。大滝源泉はぬるめでありがたい。窪湯源泉は湯力が半端ない。ここはすごいと思った。モダン湯治といえるような雰囲気も大変よろしい。

湯宿温泉「大滝屋旅館」へのアクセス

沼田もしくは後閑駅からバス

湯宿温泉は三国街道(国道17号)沿いにあり、東京方面から車だと関越道・月夜野ICから容易にアクセスできる。赤谷湖・猿ヶ京のちょっと手前くらいだね。ちなみに自分にとって響きの良い地名の西日本代表が日奈久であり、東日本代表が月夜野だ。

新幹線を使うなら上毛高原駅から猿ヶ京行きのバスに乗って約20分。湯宿温泉で下車して徒歩数分。多少の雨でもなんとかなってしまうアクセスの良さ。

今回は各駅停車の旅。まず上越線・敷島駅で下車してユートピア赤城へ立ち寄り入浴し、それから沼田駅まで行った。前述のバス路線が沼田→後閑→上毛高原の各駅を通っていくので、乗り継ぎを沼田にするか後閑にするかを迷った結果、なんとなく市の中心駅ぽい沼田にした。バスの待ち時間が1時間ほどあるからコーヒーでも飲むか。中心駅ならスタバとかあるでしょ。

…ない。ないよ。スタバもドトールもないよ。個人店やコンビニ内の飲食コーナーはあったけど。結局は自販機で買った紙コップコーヒーを駅舎の中で飲むことになった。安上がりですんだとは言える。

沼田駅は利根川に近いエリアにあり、駅の東側にせり上がっている高台の上に繁華街が発達している模様。そっちならいろいろあったかもしれない(しかしとても歩いて行こうと思える距離・高低差ではない)。沼田の河岸段丘をすっかりなめてたなあ。

情緒ある石畳の路地を歩く

さて、バスに乗ったら40分くらいで湯宿温泉に着いた。何年か前に川古温泉に行った時は車で素通りしちゃったからな、ちょっとぶらぶら歩いてみるか。三国街道から1本裏に入ると石畳の道が続いていて小ぢんまりした温泉地の情緒を醸し出す。道沿いには共同湯がちらほら。下の写真は小滝の湯。
湯宿温泉 小滝の湯
窪湯の存在も目立つ。ここの源泉は大滝屋にも引かれている。なお、いずれの共同湯もコロちゃん対策として当面の間は地元民専用とのことだった。
湯宿温泉 窪湯
薬師瑠璃光如来を祀るちょっとした広場もある。
薬師瑠璃光如来
こうした物件を眺めながらぶらぶら歩いても5~6分あれば当館に着く。直前にはものすごく古そうな「←大滝屋」の看板があって、それに釣られるとやたら細い路地へ誘われてイレギュラーな入り方になる。看板を無視して石畳の道を進めばすぐにちゃんとした正門が現れます。


湯治場風情がありつつもモダンな宿

鄙びた湯治宿を想像していたらわりと新しい感じだった。近年リニューアルしたようだね。オールドファンだけでなく自分のような新しい客層にもアピールできそうだ。

案内された部屋は1階のバリアフリー8畳和室。スタンダードプランだとこの部屋になる(おひとりさまは土曜予約不可)。ちょっとレトロ感を残した雰囲気だけど部屋そのものは新しい。布団は最初から敷いてあった。
大滝屋旅館 8畳バリアフリー客室
シャワートイレ+洗面台を備えた広めの個室あり。その扉を最初押入れと勘違いして開けることすらしなくて気づかんかった。トイレは共同だと思い込んで、チェックイン直後は廊下の共同トイレを使っちゃったよ。

金庫あり、空の冷蔵庫あり、WiFiあり。エアコンと暖房ヒーターあり。タオルハンガーが大きくて使いやすい。くどいようだが雰囲気はレトロでも設備はモダンで管理状態も良好だから快適性はばっちりだ。こういう部屋でゴロゴロするのが最高ですな。窓の外はこんな感じ。玄関前の敷地ですね。
外の景色
あと廊下にソフトドリンクの自販機あり。お酒の自販機は見当たらず。


湯宿の源泉おそるべし

2箇所を貸し切り方式で運用中

大滝屋旅館の浴場は1階に2箇所。一方に男湯、他方に女湯の暖簾がかかっているのは無視してOK。説明によれば当面の運用として「空いていればどちらを利用しても良い」とのことだった。しかも貸し切り式。外にスリッパを脱いでおくこと・扉を閉めて電気をつけること、この2点が「いま利用中です」のサインになる。

まずは泊まった部屋に近い男湯暖簾の方から。おー新しい。ここでもレトロ感を醸しながら実体はモダンで清潔感ばっちりという路線が貫かれている。脱衣所で分析書を探してみたけど見当たらず。

浴室に入ると、うおー、すげー熱気。カランは2台、浴槽も2名サイズってところだ。壁などに使われている板や木は全然新しいといえども、どことなく湯治場の小ぢんまりした湯小屋を思わせる風情あり。木の湯口から湯船の大きさに見合った量のお湯が投入され、縁からあふれて出ていく様は明らかに源泉かけ流しで、うれしくなってくるね。

強烈に熱くて強烈に効くお湯

では浸かってみよう…熱ぅーーー!! なにこれ熱い。源泉が容赦なく皮膚にアタックしてくるぞ。擬音でいうと“ジンジン”が当てはまる。ただし慣れてくれば肩まで浸かることができる。

お湯は無色透明で注意深く見れば湯の花らしきものが目に入ることもある。泡付きはなし。結構わかりやすい温泉臭がするのはさすがである。そしてとにかくすごい効く。ただの温度の高い沸かし湯とは浴感が全然違います。こいつはすげえや。これが噂に聞く湯宿温泉の湯力か。

なので「あつ湯だから5分で出ました」とはならない。ちょっと入っては縁に腰掛けて休憩、またちょっと入っては休憩…を繰り返すことになる。なんだかんだで居座ってしまうあたり、妙に中毒性があるな。

チェックイン直後と夜寝る前に入ってみて、いずれもガツンとくるパワフルな熱いお湯だった。あつ湯好きにはきっとたまらんでしょうな。なお、浴槽の段差とか手すりとか、ちゃんとバリアフリー設計が考えられている。


二枚看板の源泉がすごい

こちらの窪湯源泉もかなりキテます

夕食前と夕食後には女湯暖簾の方へ。こちらの方が規模が大きい。分析書代わりの説明書が脱衣所の壁に貼ってあって、2種類の源泉があることを示していた。「大滝源泉=含炭酸土類(炭酸水素塩泉)」と「窪湯源泉=ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉」。窪湯源泉ってのは共同湯の窪湯と同じ源泉を引いてるのかな。大滝源泉は名前からして自家源泉ぽい。へー。

どうやら大滝源泉はぬるいようだ。一方の窪湯源泉は熱いようだから、男湯暖簾浴場に使われていたのは窪湯源泉だろう。

浴室はタイル系の現代的なデザイン。カランは3台。大小2つの浴槽が隣り合って並び、それぞれのお湯は清澄な無色透明で見た目まったく区別がつかない。しかし温度は全然違う。

1~2名サイズの小さい浴槽は熱い。こっちが窪湯源泉だな。やはりジンジンと攻めてくる圧がすごい。うぁー効くぅー。草津とは別の意味で、悪いところを力で滅殺してくる感があるね。

ぬるいのがたまらない大滝源泉

隣にある3~4名サイズの大きめ浴槽はぬるいから大滝源泉だな。こちらは39℃級で優しく包み込む感じ。この季節だと「のぼせてきたからあがろう」ってなことには永遠にならないだろうと思わせる極楽浄土。自分には細かな特徴を感じ取る能力はないから温度以外の窪湯源泉との違いはわからない。強いていえば湯の花を発見しやすい。やや大きめの糸くず状になったやつもあった。

まあとにかくぬる湯派だから大きい浴槽メインで浸かっていた。そしてときどき小浴槽へ行く。これを繰り返すと冷温ならぬ温熱交互浴となって大変に気持ちが良い。癖になるわあ。

はっきり言ってスゴすぎます。窪湯源泉だけでも力強いあつ湯として看板になるし、大滝源泉だけでもぬるめ適温の極楽湯として主役を張れる。その2つが共演しちゃうんだから、盆と正月がいっぺんに来るようなもんだ。


温泉の後は上州の味わいをどうぞ

夕食はほど良い加減のチョイスに満足した

食事は朝夕とも2階の広間で。当時は自分以外の客が0もしくは1組だったし、仮に満室だとしても各テーブルは間隔を空けてあるから全然密ではない。夕食は18時固定で用意ができると部屋に電話連絡が来る。スターティングメンバーがこちら。
大滝屋旅館の夕食
刺身にこんにゃくが含まれるのは群馬らしさある。カレイは煮汁でびしゃびしゃになってなくて、身の中に程よくしみ込んでいるのが良かった。赤城鶏のカツもビールに合う。

茶碗蒸しに見えるのは手作り(?)豆腐。そのための薬味をうっかり上州豚しゃぶ鍋用のポン酢に入れてしまった。あわてて拾って豆腐の上に戻したら、薬味が吸ったポン酢のおかげでいい具合の味付けになった。怪我の功名。

キラキラな観光客向けに派手な食材やボリュームを誇るのではなく、しかし湯治向けに地味すぎることもなく、のんびり温泉一人旅にマッチする、好感の持てる内容であった。

こんにゃくあり、そしてきのこいっぱいの朝食

朝は7時半固定。朝風呂は早めにすませておきましょう。テーブルの上にはシンプルながら侮れないメンバー構成。
大滝屋旅館の朝食
今度は玉こんにゃくか。味噌汁の中には大根ときのこがこれでもかと入っていて大変に頼もしい。別途きのこの皿があるのもいいね。きのこ好きなんで。魚はたぶんサバ。あと明太子もあるからご飯おかわり必至。

ところでテーブル脇の壁にいろいろな工芸品が飾ってあった。近くの道の駅「たくみの里」でやっている体験教室で手がけられる作品群のようだ。
たくみの里体験教室の作品群
湯宿温泉から歩いていくには距離と高低差がちときついが、うまくバスをつかまえるかマイカーがあるなら楽勝。興味があればどうぞ。

 * * *

湯宿温泉には感服つかまつった。ぬる湯派の自分も認めざるを得ない窪湯源泉の素晴らしさ。しかも当館なら別の性格を持った大滝源泉も楽しめてしまう。こちらも窪湯に負けない良質湯だ。

レトロな風情と現代的な嗜好を融合したモダン湯治の方向に進化しているのもいいと思う。若い層や新しい温泉ファンを取り込めるんじゃないだろうか。と、取り込まれかかっているおじさんが申しております。