西伊豆へ旅行するとたいがい通ることになる町、土肥。ここには金山跡だけではなくて温泉街もある。このたびの伊豆旅行2泊目は土肥温泉の老舗旅館・牧水荘土肥館が選ばれた。名前からして歌人若山牧水に縁がありそうね。
ハード面・サービス面で万事手堅い安心感のある宿、そのグレード感にもかかわらず、かなりお得にみえるプラン(休前日を除く)が提供されていたので飛びついた次第。このお値段で本当にいいんですか? いやーまいったなー。
お風呂は内湯もあるが基本的には雰囲気づくりに長けた露天風呂を楽しみにしたい。2箇所ある浴場の一方には、あつ湯・適温・ぬる湯の3種類の露天風呂があり、好みに応じた使い分けが可能だ。個人的に好きなぬる湯が余裕ある広さだったのがGood。
土肥温泉・牧水荘土肥館へのアクセス
旅の2日目に雲見温泉・高見家をチェックアウトした我ら一行。海沿いに国道136号を北上すればあっさり土肥に着いてしまうが、それだと時間が余ってしまって、いささか物足りない。河津方面へ矛先を変えて河津七滝の見学と七滝温泉ホテルへの立ち寄り入浴をこなしたのであった。
いい感じで半日を過ごしたらあとは土肥に向かうだけ。浄蓮の滝・湯ヶ島を経て月ヶ瀬から国道136号に入れば、そこから先は初日にも通ったルートである。いつのまにか爆睡していて気がついたら峠を越えて土肥に近づいていた。
当館の看板…「○○km先を右折」みたいな看板…が何箇所か立っているので頼りにしてもいいんだけど、最後はちょっと細い道を入っていくことになるから、迷わず行けよ、行けばわかるさ。136号が西から南へ向きを変える三叉路の1つ手前を右折する。
旅館の周囲に駐車場がいくつかあった。少なくとも第3駐車場ってのはあった。適当に空いてるスペースを見つけて止めるのかと思ったら、旅館の前でスタッフさんがこっちこっちと手招きしていたため、玄関前まで乗り付けた。車を置く場所についてはキーを預けておまかせするみたい。
うーむ、やはり事前に把握していたお値段と建物から受ける高級感の間にずいぶんギャップがあるぞ。本当にいいんすかね。こっちとしてはもちろんありがたい限りですが。
老舗らしい落ち着きのある宿
湯あがりにところてんを
ではチェックイン。客の扱いも丁寧かつおもてなし感のある振る舞いで良き。いやーご丁寧にすいませんね。フロント・ロビーまわりの落ち着いた雰囲気がよく似合う。お土産コーナーの前には鯉の泳ぐ水路なんかあるし。
その向かいは湯あがり休憩所になっており、ところてんをいただけるようになっていた。海岸で良質の天草が採れるので、土肥はところてんの産地になってるようだね。自分は関東人だけど黒蜜派だから酢醤油のところてんはスルーしちゃった。豪華であろう夕食に向けてお腹を空かせておきたかったのもある。
エレベータのそばに「牧水ギャラリー」なる展示室があって牧水ゆかりの品々がたくさん置いてあった。さすが老舗。こっちの分野はまったくわからないからノーコメント。
想定を超えるゴージャスな部屋
案内された部屋は2階の12.5畳…いや待て、もう一間あるぞ。12.5畳+7.5畳+広縁だった。え、まじで? 上級のプランと間違えたんじゃなくて? 本当にいいんですかい。ありがてえ。
各自の体の大きさをみて合うサイズの浴衣に取り替えてくれるなど、細やかな対応が続く。いやーすいませんねーしか出てこない。
言うまでもなくシャワートイレ・洗面台あり。金庫あり。別途精算のビール他が入った冷蔵庫あり。WiFiあり。優雅な休日を過ごすにはばっちりだ。身に余るスペックでございます。ウェルカムお菓子はかわはぎ&きんつばの豪華2種類。
窓の外はこんな感じ。南を向いていると思われ、左手が山・右手が海の方角になる。
写真中央やや左の高層の旅館は2年前に泊まった土肥ふじやホテルだろう。
優雅な気分で温泉を楽しむ
ちょっとユニークな感じがする内湯
牧水荘土肥館の大浴場は1階と2階にある。翌朝5時までは1階が男湯で2階が女湯だった。チェックイン後と夕食後に1階大浴場へ。脱衣所の壁の高いところに分析書を発見。「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。加水・加温なし、循環・消毒あり。
内湯と露天風呂は互いに通じてなくて、それぞれ別の扉から入る。まずは内湯へゴー。洗い場は9名分。浴槽はひとつだけだがちょっとユニークだ。素っ気ない四角のタイル風呂ではない。なんか中央に女神像(?)が立っているぞ。
普通にシンプルな左サイドに比べて右サイドは奥行きがある。そして一番奥は洞穴風になっていた。そこにお湯を吐き出す湯口が設置されていた。ひねりのきいた内湯浴槽だな。
お湯は無色透明で浸かってみると適温。ぬるくもなく熱くもなくってところ。どうしても露天風呂に目が行きがちで、洗い場を求める以外の客は露天に直行しがちだけど、これはこれ単体でみればなかなか面白い。
3種類の温度に分かれた露天風呂が良い
お次は露天風呂。トータルで相当の人数を収容できる岩風呂群だ。手前から4名サイズ「あつめの湯」、10名サイズ「ほどよい湯」、20名超サイズ「ぬるめの湯」と続く。
自分はぬる湯好きなので「あつめ」と「ほどよい」はつま先を突っ込んだだけだが、たしかに温度の違いがはっきりしていた。聞いた話によると「あつめ」は44℃、「ほどよい」は41℃、「ぬるめ」は38℃だそうだ。
ぬるめの湯は30名近くいけそうにも見えるほど広く、やって来る客の多くはここに浸かる。ゆっくり長湯できるからね。といってもその広さゆえ人口密度は全然上がらず超余裕。周囲は市街地なので塀に囲われて眺望はないものの、いかにも和風旅館の露天風呂です的な庭園風のつくりが優雅な気分にさせる。
お湯はやはり無色透明で湯の花や泡付きは見られず。入浴後にお肌サラサラ・スベスベになるタイプのやつだね。とにかくぬるいってのが何よりだ。こいつはたまらんでござる。
洞窟風呂を擁する、もうひとつの大浴場
翌朝起床後と朝食後に2階大浴場へ。1階のよりひとまわり小さいかな。内湯は7名分の洗い場に細長い6~7名サイズの浴槽。これは奇抜でないシンプルな形。お湯は適温。
内湯の奥から露天風呂へ出る。10名+αくらいのサイズの岩風呂があった。中央には乙女の像(?)。あと端っこに小便小僧。大きなゴムの木が頭上で枝を広げて屋根代わりになっている。さわやかな朝の雰囲気によくマッチする庭園露天風呂だ。適温のお湯がもう少しぬるければ最高だったのに…は個人の好みだからまあいいか。
この風呂の近くまで、竹やぶに覆われた裏山が迫っており、その岩盤をくり抜いて作った風情の洞窟風呂もあった。内部にこもる湯気の中で半身浴しながらミストサウナ効果を…という趣向じゃないかと思われる。洞窟内には詰め込めばそれなりに入れるけど、まあ2~3名までってとこかな。見ているとお年寄りが好んで入っていった印象がある。あるいは女湯の時間帯にはもっと人気があるのかもしれない。
以上の風呂が自家源泉でまかなわれているというから、湯量はかなり豊富。1日20万リットルらしいね。
華やかな食事にも大満足
オールスターキャストでお送りする夕食
食事は朝夕とも1階の食事処で。グループごとに完全に仕切られた個室状態で提供されていた。いかにお得なプランといえどもまったく手を抜かないのは素晴らしい。夕食のスターティングメンバーがこちら。
やはり海鮮寄りのメニュー、しかもズワイガニがあるとはね。見たところ全般にお上品な仕上がりで食欲が増すざます。なお各自にひとつずつ、舟盛りの刺身が出てきた。生しらすの旬にはまだ早いが、こいつを見ると春の華やかな気分が湧き上がる。
これだけじゃない。鶏肉と海老の入った寄せ鍋とアワビの踊り焼きもありんす。こんなに豪華絢爛で本当にええんですかいの…自分にとっては5日分の栄養をいっぺんに摂取しているといっても過言ではない。
ビールもたくさん飲んで(若い頃のようにジョッキ何杯もってわけにはいかないけども)、さすがにもうお腹いっぱい。締めのご飯はほんの少し、といういつものパターンで終了。ごちそうさまでした。
朝食にところてん
朝食も同じ場所で。小ぎれいにまとまった小鉢膳風の構成であった。伊豆といえばアジの干物。そしてイカまであるじゃないですか。これはご飯をおかわりしたくなるメンツ。しかし我が胃の容量がそれを許さない。悔しい。
おっと、ところてんがありますな。自分は黒蜜派だとあれほど…もぐもぐ…うまいじゃねーか、おい。酸っぱさ控えめなので黒蜜派の「ところてんとは甘いものだ」という脳の認知スキーマと衝突を起こしにくいのがよい。
いやー十分食べた。今日はお昼いらないわ。朝夕で1週間分の栄養をいっぺんに摂取したといっても過言ではない。
* * *
正直なところグレード感に対するお値段のお得感に惹かれて泊まることにしたという経緯はおいといて、コスパ云々を抜きにしてもいい宿だったと思う。さすがの老舗ですな。温泉面でも気分良くリラックスできて満足。
いやしかし今回のプランで数泊させてもらえるんだったら、“拙者リモートワークにて務めに励む所存…”とか言ってしばらく逗留することを夢見てしまうな。もし牧水が現代に生きていたら、きっとそうしていたに違いない。
【この旅行に関する他の記事】