青森旅行の3日目は奥入瀬ウォーキングの後、八甲田エリアの谷地温泉に泊まることになった。開湯400年の歴史を誇り、日本三秘湯に数えられるという。また調べてみるとメインの湯船は好みのぬるいお湯であることがわかった。これで行かない理由はない。決まった。
現地は山中の一軒宿であり、たしかに鄙びた雰囲気をがっつり出している湯治場風情の秘湯だった。快適なネット環境とか洒落たリゾートを求めるとミスマッチこの上ないが、レトロ感や素朴さを楽しむつもりがあるなら、ばっちり噛み合うだろう。
温泉は好みの温度だったこともあって大変に良かった。しかも鮮度抜群の貴重な足元湧出泉。完全に運動不足の身体で長時間歩いても筋肉痛にならなかったのは、この霊泉のおかげかもしれない。
谷地温泉への道
この旅も3日目に突入。東北町の上北温泉郷・温泉旅館松園をチェックアウトした我ら一行は十和田市の中心部から国道102号を西進、奥入瀬渓流を目指す。
ちょうど紅葉真っ盛りだけに激混みだったらどうしよう…その心配を少しでも緩和するために平日を狙ってスケジュールを組んだのが功を奏したか、観光客の姿はまあまあってところ。渓流沿いの道も渋滞してるわけじゃなくスムーズに流れている。
ただしあてにしていた下流側の起点に便利な石ヶ戸駐車場はもう一杯で余地なし。プランBとして十和田湖畔の子ノ口駐車場に止めて、まずバスで石ヶ戸まで下ってから徒歩で子ノ口へ折り返すコースをとった。石ヶ戸から子ノ口までは約9km、各名所を見物しながらで3時間半はゆうにかかった。疲れた~。
今日はもう時間も体力も使い果たした。あとは谷地温泉へ直行しましょう。再び下流方向へ走って星野リゾートなんかがある焼山で国道103号を青森市方面へ。蔦温泉を過ぎてさらに山を登ると、国道394号とぶつかるあたりに谷地温泉への分岐がある。
現地はすっかり霧というか雲の中。駐車場の隅に谷地湿原展望台があったけどあまりよく見えず。
あと入口の前に2匹ばかり猫ちゃんがいました。マイペースで人の方へは寄ってこない。
これぞ山中の秘湯宿
日本三秘湯とは
ではチェックイン。玄関とフロントの間にお土産コーナーが設けられている。脇に数名分の着座スペースがあって、我々はそこで風呂あがりのビールを買って飲んだ。
お土産コーナーの壁に「ざつ旅」という漫画が張り出されている。谷地温泉でまったりする話の中に日本三秘湯のことが書かれていた。谷地温泉・北海道ニセコ薬師温泉(旅館は閉館)・徳島県祖谷温泉を指すらしい。へー。今となってはコンプリート不可能になってしまったのか。
また散策路や神社へ通ずる出入口もあった。天気と時間の都合で行かなかったがよろしければどうぞ。
レトロ風情な本館の部屋
本館・西館・東館とある中で我々に割り当てられた部屋は本館2階の12畳和室。やや細長い部屋に低床のベッドを入れたレイアウト。
トイレ・洗面所・冷蔵庫は外に共同のがある。金庫はあり。部屋ではWiFiもキャリア回線も通じない。ネットをしたい場合は1階ロビーへ行くとWiFiが使えるようになる。ただし重い。テキストメールのチェックくらいはできても動画やゲームは辛いんじゃないかな。
部屋から見える外の景色は山の中の森。
館内はレトロな木造の鄙び宿風情で味がある。かわりに防音防振は完璧じゃないから各位のマナー注意でお願いします。本館2階の廊下はこんな感じ。
階段の踊り場に男子トイレがあった。小×2、シャワー付き大×1、シャワーなしの洋式大×1。洗面所の水道前には「八甲田の湧き水です」という札が見られる。
はっきり言って極上のお風呂
弱酸性の硫黄泉
大浴場は1階通路奥から隣の棟へ移ったところにあった。手前に男湯、奥に女湯。17時半~20時半の間だけ男女が入れ替わる。まずは手前側から。
脱衣所に貴重品ロッカーあり。分析書には「単純硫黄温泉(硫化水素型)、低張性、弱酸性、温泉」とあった。ほう、弱酸性のパターンは初めて見た気がするな。PH4.7だって。浴室内へ進むと木のぬくもり感のある、いかにも雰囲気たっぷりの光景が飛び込んできた。こういうのが好きな人にはたまらんでしょう。
かけ湯がすでに結構ぬるい。後で紹介する浴槽に注がれるのとは別源泉だそうだ。かけ湯専用源泉とはまた贅沢な。それから2つの浴槽を越えて一番奥に5名分の洗い場があった。シャワーは付いてない。
とてつもなく素晴らしい下の湯
かけ湯から近い方にあるのが下の湯と名付けられた浴槽。向かい合わせに3名×2列並んで入れるサイズ。「霊泉(38℃)」という札がかかっていた。お湯の見た目は青白く光る透明。なにやら神秘的ですな。底面は上げ底のような感じで板を渡してあり、板同士のすき間からプクプクとあぶくが立ち上っている。つまり足元湧出の源泉だ。なので一般的な湯口はない。
浸かってみるとたしかに37~38℃級でぬるい。自分の好みにジャストミート。入浴方法の説明に「30分間入る」と書いてあったが、その気になればもっといける。微妙に温かいのが気持ち良いので、ウトウトと居眠りしそうになるし、実際居眠りしている人もいた。
弱酸性ということで肌に若干ピリピリとした刺激がくる。といっても痛いほどじゃないし慣れればまったく気にならなくなる。でなければ居眠りしないし。一点注意があるとすれば、たまに天井からしずくがぴちゃっと落ちたときに跳ねたお湯が目に入ると結構しみる。流水で洗い流すべし。
陣取る場所によっては底のすき間から来る源泉の上昇流を背中や腕に感じることができる。なかなかできない貴重な体験だ。
別源泉で熱めの上の湯
下の湯の向こうに上の湯と名付けられた3~4名サイズの浴槽がある。こちらは別源泉地からの引湯で42℃と書いてあった。お湯の見た目は完全なる白濁。下の湯とは全然違う。説明によれば下の湯に30分浸かった後、上の湯に10分浸かるのがおすすめ。
どちらかといえばサブの役割になる。とはいえ単体で利用してもなかなかのクオリティで、熱めの湯を求めたい気分の時や下の湯が混んでいる時には主役の座に躍り出る。
もうひとつ、かけ湯のところから下っていく階段があり、その先は打たせ湯になっている。自分はふだん打たせ湯を利用しないこともあって一瞬だけ試してすぐに立ち去った。まあお好みでどうぞ。
もう一方の浴場は基本一緒でちょっとだけ違う
男女入れ替わったもう一方も体験してみようという話になり、17時半に行ってみた。基本的なつくりは一緒で、上記との違いは打たせ湯がないことと(しっかり探さなかったのでもしかしたらあるかも。自信なし)、かけ湯に近い側が上の湯で遠い側が下の湯というふうに逆の配置になっている。洗い場は最奥に5名分とかけ湯近くにも4名分あったような。
最大の違いは下の湯が足元湧出ではない。普通に湯口からドボドボと源泉が投入されている。そしてお湯の見た目が透明でなく白濁だった。上の湯と同じ源泉を流しているのか?…でも霊泉(38℃)と書いてあるし実際ぬるいことから推測するに、下の湯源泉は湧出したての新鮮な状態だと青白透明で、管の中を引き回すうちに熟成して白く濁ってくるのでは。知らんけど。
プレミアム感でいうとやはり足元湧出の透明湯の方になるが、こちらも良質のお湯には違いない。上・下を行き来して冷温交互浴的なアレンジをすれば楽しみの幅が広がる。
十分かつ満足できる食事
夕食は名物のイワナとともに
谷地温泉の食事は朝夕とも1階の食事処で。テーブル席と小上がりの座敷があって我々は座敷に通された。淡い記憶だと座敷にもテーブルを入れてたんじゃないかな。あぐらをかいた気がしない。座敷の壁にはテンの写真が飾ってあった。まあかわいい。
夕食のスターティングメンバーがこれ+鴨鍋。焼魚はイワナ。谷地温泉はイワナが名物らしい。いずれもビールのお供につまんでいくのにちょうどいい。
やがて鍋ができあがってきた頃、肉が追加された。なんだか洒落たローストビーフであった。鄙び宿のイメージからするとちょっと意外(失礼)。でもおいしかった。うれしいサプライズだ。
これだけいただくとさすがにお腹いっぱい。例によってご飯をおかわりするどころではなかった。こういう時はたくさん食べられる人がうらやましい。
余力があればおかわりしたかった朝食
朝食も同じ食事処で自由席方式。選んだ席は壁際で、別のテンの写真が掲示されていた。立ち上がって雪の盛り上がったところに手をついている姿…壁ドンならぬ雪ドン。なんともユーモラス。写真撮っておけばよかったな。
食したのはこちら。朝にふさわしい品が並ぶ。
とろろ・明太子がご飯を誘うのだが前夜の分がまだ消化しきれていない感じがして1杯でやめておいた。旅はまだ続く。無理をする局面ではない。
* * *
日本三秘湯だけあって山中の秘湯らしさを存分に味わうことができた。非日常感を求めるならまさにぴったり。言うまでもなくキラキラとかゴージャスとか雅びとは別の方向性だから、そこんとこは承知の上でどうぞ。
温泉に関しても湯質と雰囲気は大変結構なもので、とくにあの下の湯は忘れがたい。おそれいりました。
おまけ:紅葉の奥入瀬渓流
奥入瀬渓流は3年前の新緑の頃に訪れた。当時は時間がなくて車で限られた要所要所をつまみ食いして回るのが精一杯。今回は紅葉の中をびっちり歩いて多くのスポットの細部までを目に焼き付けられた。ただしここはおまけなんで大幅に割愛して要所のみを。
まず阿修羅の流れ。水の勢いが荒っぽく複雑になっている。
続いては前回立ち寄ることができなかった雲井の滝との初対面。車道から少し奥まったところにある。
こちらは名もなき場所。なんとなく印象に残ったので撮ってみた。
白布・白絹・白糸・不老と続く滝シリーズは後から写真を見てもどれがどれやら…。
これは九段の滝でしょう。
そして銚子大滝。やっぱり見栄えがするなあ。
最後に子ノ口へ出る途中の名もなき場所。鮮やかな紅葉が目についたので。
はい、お疲れさまでした。