秋の大型企画第2弾は青森。ひとつの県に4泊5日を費やす過去最大級の濃密な日程で催された。恐山や大間崎へ行ってみたいというメンバーの要望から、最初の宿泊先は下北半島・風間浦村の下風呂温泉郷。お湯が熱いことで知られ、ぬる湯好き一同にとってストライクゾーンとは言えないが、源泉の質は間違いないし、海産物をどっさり味わえる魅力に抗える者などいない。
お世話になったのは「さが旅館」。ミルキーホワイトの温泉はその熱さにもかかわらず不思議とまろやかですらある。冬に入ったら出たくなくなるんじゃないかと思える感じ。
食事は期待通り、いや期待を超えていたかもしれない。よくぞこれだけ、と(いい意味で)呆れるほどの魚介類が出てきた。すんばらしい。
下風呂温泉「さが旅館」へのアクセス
公共交通機関だけで下風呂温泉へ行こうとすると、青い森鉄道・野辺地駅からJR大湊線で下北駅へ、そこから佐井村行きのバスに1時間以上乗らねばならない。出発地点を東京とするなら移動だけで1日がかりだろう。
我々は東北新幹線の七戸十和田駅でレンタカーを借りた。野辺地からむつ市中心部までは無料の高速道路ぽい区間を含む国道279号をずっと北上。直行するならそのまま同国道を大間へ向かうつもりになって大畑→下風呂と走ればいいが、実際には恐山・薬研渓流へ寄り道して大畑へ出た。
実はこの年8月の大雨により、国道279号は土砂崩れが発生したり橋が落ちたりしたため、下風呂温泉前後の区間でしばらく通行止めの期間が続いた。当温泉の各旅館も当然休業を余儀なくされる。苦しい時期を乗り越えて秋本番までに再開にこぎつけられたのはご当地にはもちろんのこと、我らにとっても幸いであった。
風間浦村のあたりを走っていると災害の爪痕があちこちに見られた。土砂崩れの跡や、木が根こそぎ倒れていたり、落ちた橋は仮復旧状態だし、片側交互通行になっているところもいくつか。そんな光景を目にしながら下風呂温泉にたどり着いた。
温泉街の道路は狭く、さが旅館の最後のアプローチ道はさらに狭い。車の向きを変えるための切り返しとかも楽じゃない。運転は慎重に。
海峡ロマンを感じさせる部屋
フロント前のロビーの天井にチョウチンアンコウのねぷた(?)が吊り下げてあった。風間浦村はアンコウも有名だからね。当館では冬季限定でアンコウプランが提供される。今回は時期と予算の関係で一般プランを予約。
チェックイン後に案内された部屋は3階の8畳+広縁客室。なんか窓の向こうに海が見えてる気がするぞ。ムードばっちりなんじゃないの。布団は夕食中に敷いてくれる方式。
シャワー付きではない洋式トイレ・洗面台あり。金庫なし、冷蔵庫なし。WiFiはノートPCを活用するメンバーが困ってなかった様子だったが詳細は不明。キャリア回線は問題なし。ウエルカムお菓子は下風呂らしくイカせんべいであった。窓の向こうはこんな感じ。あえてズーム気味にしてみました。
海の向こうに浮かぶ陸地の影は北海道・恵山のあたりだと思われる。3年前に戸井・恵山へ行って海を見たときは下北半島がうっすら見えた。そして今度は反対側から北海道を見ることになろうとは。感慨深い。
なお、カメムシが入ってくるので窓を開けてはいけません。といっても窓を閉めていてもどこからか奴らは侵入してくる。人類に阻止できる術はない。備え付けのガムテープがなかったので丁重にティッシュでくるんでくずかごへお連れした。
熱いがまろやかで気持ちの良い温泉
見るからに濃ゆいお湯がお待ちかね
さが旅館のお風呂は1階。階段脇の通路の奥に男湯があった。脱衣所に入った時点でもう硫化水素がプ~ンと匂ってくる。分析書をチェックすると「含硫黄-ナトリウム-塩化物泉(硫化水素型)、低張性、中性、高温泉」。新湯1・2・3号及び4号の混合泉とのこと。もちろん源泉かけ流し。
内部はそんなに広くはない。よって別グループの客がいつも1~2名いるような印象。みんなが食事してそうな時間とか深夜なら独占しやすいかもしれない。
洗い場は5名分、ただし1箇所はシャワーが付いてない。カランの金属部は硫黄にやられて黒ずんでいたり白い析出物がびっしりとこびりついていたりした。これを見るだけですごそうなお湯だ。
ただひとつある浴槽は4名~向かい合わせに詰めれば6名サイズ。木箱のような湯口はレトロな雰囲気があって良い。一方、浴室の壁とか天井とか他の部分はわりと新しい感じ。先の大雨で浴室に土砂が流れ込んだというニュースを旅行前に見たが、よくぞここまできれいに戻したものだ。ありがたく入浴せねば。
思ったよりフレンドリーなお湯でした
浴槽を満たすお湯は文字通りの乳白色、絵に描いたような白濁硫黄泉だった。濁りで浴槽の底は見えない。とりあえずかけ湯をしてみると…熱っちー。やっぱり熱い。当館の風呂は下風呂温泉にしては熱くないという口コミを読んだことがあって淡い期待を抱いたものの、そんなに甘い話ではなかった。
覚悟を決めて湯に浸かる…熱っつぅー、うー、うん?…なんか熱いけど結構いけるぞ。もちろん熱い。各地のぬる湯に比肩するほどの長湯ができるわけでもない。しかし結構いけるのだ。お湯になめらかさがあって好ましい浴感になっている。あともうちょっとだけ浸かっていてもいいかなという気分が持続する。そうして気づけば想定以上の時間を過ごすことになるのだ。
お湯の匂いを嗅いでみると、どぎつくない程度に抑えられた硫化水素臭。刺激で頭がクラっとくることはないだろう。とはいえ嗅ぎすぎは禁物。湯あがりはベトつかず、すぐに肌すべすべになる。
結局、夕方・夜・早朝・チェックアウト前の4回入りに行った。いずれも最初は「熱い!」と感じ、やがて「結構いいじゃないか、もうちょっと粘ろう」に変わってくる。寒い冬だったらもっと積極的に気持ち良さを感じるかもしれない。めったに雪の降らない地域にしか住んだことのない人間が物見遊山で冬に当地を訪れるってのが現実的な話なのかどうかは別として。
これが…下風呂の飯か…おそろしすぎる…
おさかな万博と言っても過言ではない夕食
さあ期待していた夕食の時間が来た。2階の大広間を仕切ってグループごとの個室風に仕立てた一角へ案内されると、すでにスターティングメンバーが用意されていた。ちなみに畳の上であぐらをかいて座る方式ね。それからいくつかの品がちょいちょいやってきて、ほぼ出揃ったのがこちら。
見事なまでの魚介づくし。先付にタコの口とイカ、他の小鉢はイカの松前って聞いたような、あとタコの頭の粕漬け、もずく酢、サーモン山かけ、お造りはマグロ(大間産とは聞いていないが地産地消ものだと思う)とヒラメ。
焼魚が高級魚と言われるキンキ、煮魚はアカウオ、加えてイカリング味噌鍋、そして茶碗蒸しに漬物。下から2番めのプランでこれかよ。おそろしすぎる。食べても食べても海産物が続くのがやばい。やばすぎてやばい。
ビールも飲むから当然お腹が膨れて苦しくなってくるが、最後の方で温かいにゅうめんが出てきてびびった。おお、まだ食べるのか。まあ口の中をさっぱりさせるにはいいね。ちゅるっと完食。あとは締めのご飯をセーブ気味にいただいてデザートはりんご。
いやー食べた食べた。量もすごいが食材と料理の質がその上を行く。宿泊料金を考えたらお得を通り越してもはや何がなんだかわからないくらい。本当にこんなにいただいちゃっていいんですか、っていうくらいの内容であった。
朝からイカとホタテ祭り
翌朝起きると、意外なことにお腹の空き具合はいつも通りだった。別のメンバーも同じ感想を述べた。量は多くても消化が良いものばかりだったのかな。締めのご飯をセーブしたのが効いたのかな。これなら朝食に全力で立ち向かえる。
場所は1階の食堂で他グループと一緒に。朝も下風呂らしい内容だ。
なにせイカの塩辛に加えてイカ刺し。最も目を引いたのがホタテの味噌貝焼き。貝殻を鍋にして中にホタテとネギ、そこへ生卵を溶いたのをかけて卵とじにして温める。できあがりがめちゃくちゃうまい。これは反則でしょう。珍しくご飯をおかわりしてしまった。最後にコーヒーをいただいて終了。
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下風呂温泉すげえ。海産物が自慢のノスタルジックな温泉街。言葉で書けばまあその通りなのだが、実際に訪れて体験してみると事前の想像の上をいっていた。食事面は都会生活に慣れきった人ほど強いインパクトを受けるに違いない。
温泉面は温度の好みによって差はあれど、湯質と浴感には文句のつけようがない。温泉とシーフード。天は二物を与えたり。