南紀の有名観光地である那智勝浦の温泉宿といえばやっぱりホテル浦島でしょう。いや、関西ではきっとそうなんだろうなと関東人が勝手にイメージしているだけなんだけども、このたび那智勝浦に泊まることになったから面白そうだと思ってホテル浦島をプッシュしてみた。どんなところかもロクに知らず名前だけで。
実際体験してみて驚いた。想像を遥かに超える圧倒的なスケールのホテル。あんなの絶対迷子になるぞ。もはやひとつの街。風呂の数と広さも圧倒的だ。1泊の滞在中に全種類入ろうとすると相当にしんどい。似たような風呂ばかりで数だけが多いなんてことはなく、洞窟風呂という尖ったやつがあるから飽きが来ない。お湯そのものも本格的な硫黄泉だ。
南紀勝浦温泉「ホテル浦島」への道
巨大な駐車場からマイクロバスで
旅の3日目。熊野那智大社見学を終えた我ら一行は今宵の宿泊先となるホテル浦島へ向けて車を走らせた。完全にドライバーまかせだったのでどこをどう走ったかわからないが、ずっと道なりだったと思う。やがて海が見えてきたところで広い駐車場へ入った。
…え、ここ? じゃあ向こうのあの建物が浦島なのか。こんなに広い駐車場を設けるほどの巨大ホテルには見えないけどな。
やっぱり違った。後で調べると車を止めたのは木戸浦駐車場というところで、ホテルの現地までは2kmくらい離れている。なので駐車場でいったんマイクロバスに乗り換えて出発。
亀さんに乗っていく竜宮城みたいな
通常なら勝浦港の桟橋で専用の送迎船に乗り換えて、船でホテルの前に着くという演出になっている。すぐ対岸の岬までの超短い船旅とはいえ楽しそう。しかし当時は時間か天候か何かの事情で船は出ていなかった。マイクロバスのまま陸路で岬へ進入しホテルの裏口に着いた。
冒頭の写真は表口まで行って撮影したものだ。表口には桟橋があって送迎船が停泊していた。浦島だけに亀さん。
後日の調べでは、付け根から先端まで1kmくらいある岬のうち、少なくとも6~7割はホテル浦島の敷地ぽい。めちゃくちゃな広さ。しかし到着時点ではまだその広さを十分に理解していなかった。
広すぎて感覚が狂う巨大ホテル
勝浦港と那智の山々を望む部屋
ではチェックイン。大規模なだけあってフロントそばにコンビニがあります。ビールが観光地価格じゃなくて普通の価格で買えるのはありがたいね。ちなみにお土産も売っている。
本館・山上館・日昇館・なぎさ館と棟がある中で我々の泊まる部屋は本館の5階だか6階だかの12畳+広縁和室。管理状態は良好。ふとんは夕食中に敷いてくれる方式。
もちろんシャワートイレ・洗面台あり。金庫と空の冷蔵庫あり。宿泊先でWiFiをよく活用する同行メンバーが困ってなかったからWiFiは使えるんだろう。窓の外は勝浦港。うまくすれば遠くの山に那智の滝の筋がかすかに見えるそうな。
前日に泊まったホテル浦島チェーンの川湯温泉みどりやと同じく、タオルは「ホテル浦島チェーン」の文字入りで、ウェルカムお菓子は1人2種類ずつ用意されてた。
32階の狼煙山遊園
日が暮れる前に山上館へ行ってみた。本館1階から長い長いエスカレーターで32階(!)へ上がると山上館。位置関係をイメージしやすいよう、館内にあったミニチュア模型の写真を示す。
山上館のところから屋外へ出ると狼煙山遊園という園地になっていて遊歩道がある。しばらく進むと展望台が現れた。日の入りの時刻ならいい感じで海に沈む夕日を見られそうだ。
近くに赤い鳥居が立っていてその先に浦島稲荷神社があるが、もう1日歩き疲れて足にきてたし早く温泉に入りたくて、ここまでにして引き返した。
館内で湯めぐりができてしまう
とにかくお風呂がいっぱい
風呂へ行く前に作戦会議が必要だ。浴場の数が多いうえ館内のあちこちに散らばっている。時間によって男湯女湯が入れ替わるところもある。部屋からの距離、全部を湯めぐりするにはどういう順番でまわるのがいいか、検討しておきましょう。
山上館宿泊者専用風呂を割愛すると浴場は以下の通り。泉質はいずれも「含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物泉、低張性、中性、高温泉」。
・忘帰洞(本館)…男湯、女湯。午前/午後で入れ替え。
・ハマユウの湯(本館)…午前:女湯、午後:男湯。
・滝の湯(本館)…午前:男湯、午後:女湯。
・玄武洞(日昇館)…男湯、女湯。入れ替えなし。
・磯の湯(日昇館)…男湯、女湯。入れ替えなし。
このうち忘帰洞と玄武洞が洞窟風呂でハマユウ・滝・磯が一般的な内湯。男女入れ替えを含めるとのべ6箇所になる。1泊する間に全部をクリアするのはなかなか大変だ。実際に自分がまわった順番を無視して上に書いた順番で紹介する。
主役級の洞窟風呂・忘帰洞
本館1階の外れにある忘帰洞。山上館ならエレベータを使えばまだ近い。日昇館・なぎさ館からだとかなり歩くため遠く感じるだろう。それでも1回は体験しておきたいインパクト大の洞窟風呂だ。
午後の男湯は、広いホールのような洞窟の中に22名分の洗い場と4つの浴槽。入ってすぐ目の前にある20名サイズの浴槽は適温。半透明的な白濁湯で浴槽の底はぎりぎり見えない。匂いはやや焦げくさい硫黄臭がする。その右手に5~6名サイズの浴槽。また奥へ進むと10名サイズの浴槽があり、ここは他よりも濁りが強かった。
一番奥の洞窟開口部にある10名サイズの浴槽が一番人気を集めている。間近に海が見えるからね。しかもかなり近い。現地が洞窟であることからして視野に入る周辺の地形も岩場だし、その向こうは果てしなく広がる太平洋。力強さとスケールの大きさを存分に感じさせる。間違いなく話の種になる風呂だ。お湯はやや熱め。
夜明けの景色が素晴らしい
翌日午前の男湯は、なんだか秘密基地風の入り組んだ構造だった。小規模なホールが複数あって洞窟内通路でつながっていると言えばいいのかな。脱衣所から浴室への入口が複数あって、それぞれ異なるホールに面している。
位置関係を無視して列挙すると洗い場は各所合計で34名分。浴槽はホール内部各所に15名サイズ、5名サイズ、6名サイズ(ここは明確にあつ湯)、あと2箇所の開口部に4名サイズがひとつずつ。
営業開始が朝5時からなので夏季は厳しいかもしれないが、ぜひおすすめしたいのが日の出時刻の開口部浴槽だ。太陽本体までは見えなくても徐々に朝焼けに染まっていく空と海は一種絶景であった。港の景色ではないのになぜか渡辺真知子の歌が脳内リフレイン…ハーァバーァライトがぁ朝日にぃ変わーるぅ。
狙う客は多いゆえ湯船が混雑しがちなのを承知でチャレンジしてみる価値はある。
使い勝手のよいハマユウの湯と滝の湯
ハマユウの湯は本館1階のフロント寄りにある。洞窟風呂を見た後だとすごく普通に見えてしまう。実際普通のつくりだからべつに不思議はないけども。とはいえ7~8名サイズの浴槽に注がれるお湯は変わらず本格的な白濁硫黄泉でありクオリティと温泉気分は結構なレベル。
遠くまで歩くのがつらい方、ちょっとしたすきま時間にサクッと入りたい方はハマユウへどうぞ。人が来ることはあまりないと思われ、独占タイムの機会もあるだろう。洗い場は9名分。お湯は適温。
滝の湯は本館フロントからすぐそこくらいの位置。洗い場は8名分。ハマユウと同様の使い方に加えて3つの浴槽の入り分けができる。滝に見立てたのか、高さを変えて3つの浴槽が設置されているのだ。
メインとなる下段浴槽は8名サイズ。他より透明度のある半濁の湯はやや熱め。続いて3名サイズの中段浴槽はまあ普通に白濁。浸からずに手を突っ込んだだけだが適温くらいか。そして上段浴槽は2名サイズ。ここも白濁で中段と同じか微妙にぬるい。
各地によくある段々系は上の浴槽からあふれたお湯を下の浴槽へ流し込むので下段ほど冷めてぬるくなるのが多い。ここはそういう流し込みをしていないこともあって下段ほど熱くなっている。
もうひとつの洞窟風呂・玄武洞は熱めの湯
もうひとつの洞窟風呂・玄武洞は日昇館にあり、本館からだと2階の連絡通路経由でかなり歩く。男湯女湯の入れ替えはない。脱衣所の先の浴室は忘帰洞と同じような洞窟内ホールになっている。規模はひとまわり小さめ。洗い場は12名分。
浴室の大部分をひとつの大きなメイン浴槽が占めていた。浴室いっぱいの左右幅に加えて奥行きが長い。この奥にもうひとつある浴槽へ向かう客はメイン浴槽の中を歩いて通らねばならない。そのための通路スペースを考えに入れず、普通の風呂としてみれば30名は入れそうな広さ。
当館で体験した中では一番広い。だだっ広い湯船で手足を伸ばして…みたいなのを望むならここかな。白濁のお湯はやや熱め。
荒々しい波の迫力がすごすぎ
メイン浴槽を通って奥へ進むと開口部に4名サイズの浴槽がある。お湯は無色透明といってもいいくらいで、はっきりと熱い。なんで透明なんだ。焦げ硫黄臭がするから真湯ではないはず。空気に触れて濁りだす前の源泉なのか、よくわからん。
この浴槽はかなりワイルド。海が見えるだけでなく、打ち寄せる波の荒々しさは群を抜いている。ぶつかってくる波のドッカンドッカンいう重低音は迫力あるし、時おり高く上がった波しぶきが風呂の中に飛び込んできそうな勢いだ。
ここで波を見ていると時間を忘れるね。でも狙いをつけた客が次々来るからあまり長居はしにくい。日昇館にあるくらいだから日の出が見えるかもしれないし、早朝の競争率は結構高いかも。とにかく時刻を問わず一度は体験してみたい風呂だ。
特徴の異なる2つの湯船がある磯の湯
磯の湯は日昇館・なぎさ館向けの内湯。男湯女湯の入れ替えはない。洗い場は9名分、浴槽は2つある。手前側が7~8名サイズの透明湯が入ったあつ湯浴槽。ここも透明か。透明だと熱いんだよね。玄武洞の開口部浴槽の内湯版って感じ。
奥側に5名サイズの白濁湯が入った浴槽。こちらは適温。特徴に差のある湯船が2つあるから適当に使い分けるとよいでしょう。
こうして自分が入れる範囲の浴場は一応全部クリアした…浴槽レベルになると手を突っ込んだだけのやつもあるが。館内とはいえもはや湯めぐりであり、実際にスタンプラリー企画もやっている。スタンプを3箇所以上集めると何かもらえます。何かはお楽しみ。
食事はいろいろ楽しめるバイキングプランで
夕食はご当地メニューあり
ホテル浦島の食事はプランによりいろいろ。我々は朝夕とも日昇館のレストラン「サンライズ」のバイキングだった。会場へ移動中に温泉むすめのパネルを発見。
南紀勝浦樹紀ちゃん。磐梯熱海・湯田中渋・松江しんじ湖なみに姓が窮屈だ。まあいいですけど。
で、夕食はあらかじめ決まったテーブル席へ通される。さっそく料理を取りに行って集めてきたのがこちら。自分としては頑張ったボリューム。
勝浦だったらサーモンよりもマグロをたくさん持ってくるべきだったかな。あんま考えてなかったわ。その後、ご当地を意識して和歌山ラーメンを取ってきたりした。あと同行メンバーが食べているのを見てうまそうに見えたワイン煮込みを追加。提供される種類は他にもっとたくさんある。早い者勝ちみたいなこともない。
しかしいつもよりたくさん食べちゃった気がするな。かなりお腹いっぱいになったのでご飯は抜きで終了。
朝は浦島カレーを
朝は自由席方式。オープン直後の7時に行ったらスムーズに着席できた(そのために5時起きして忘帰洞に入浴し、おかげで朝焼けを見学できた)。取ってきたのがこれ。料理の選択肢は和洋とも十分。
ここで気づいた。前夜目をつけていた「浦島カレー」を食べようと思ってたんだった。つまり口の中がカレー味に染まる。焼鮭と合わせてる場合じゃない。
そこでまずウインナーと野菜以外を単独でいただいてから標的の浦島カレーをあらためて取ってきた。お味は、うん、カレーですね。ビーフかポークかチキンか、それとも浦島だけにシーフードベースか、そのへんは正直わかりません。だってカレー味だもの。
この日はよく晴れて、窓越しのプール(?)の先に青い海と水平線が見えた。気分爽快。
* * *
ホテル浦島すげー。と話の種にできちゃうくらいの、いろいろと印象的なホテルだった。おそろしいほどの広大な規模に加え、温泉の泉質は本格的だし洞窟風呂はよくできている。
欲をいえば、せっかく風呂の数が多いから温度差をつけてぬる湯を用意していただけると、自分の好みにマッチしてさらにうれしい。でもそこで喜んで長湯すると全浴場クリアが時間的に厳しくなるしなあ。洞窟開口部の浴槽にもじっくり滞在してみたいしなあ。妄想の中で悩んじゃうね。