奥吉野の宿で出あった最強濃厚ぬる湯 - 入之波温泉 山鳩湯

入之波温泉 山鳩湯
奈良県の温泉宿だったら「ぜひここに泊まりたい」と思っていたのが入之波(しおのは)温泉の山鳩湯だ。ただし一人泊NGであること、車以外でのアクセスが難しい山深い場所であることから、ほとんどあきらめかけていた。いい温泉だからという誘い文句で関西まで一緒に行ってくれそうな相手はいないし、ひとりで日帰り入浴と割り切っても自分の運転じゃ道中が心許ない。

そこへいきなりチャンスが巡ってきた。南紀・熊野を中心とする紀伊半島観光が主テーマとはいえ、奈良起点のグループ旅行計画が立ち上げられたのだ。大チャンス。奈良パートの宿泊先については山鳩湯を半ばゴリ押ししちゃいました。

結果、我が判断に狂いはなかった。行ってみて大正解の温泉だった。そのヤバさはお湯に入ってみればわかる。

入之波温泉「山鳩湯」へのアクセス

車がないと厳しい場所

入之波温泉に電車で行こうとするのは現実的でない。ひとまず近鉄・大和上市駅まで行くことはできるし、冬を除けば駅から大台ケ原行きのバスも出ている。ただし1日1往復。往路は大和上市9時発、復路は同17時21分着だからなかなか厳しい。

しかも大迫ダム前で下車してから4~5km歩かなくてはならない。近隣にタクシーなんか走ってません。呼ぶこともできないだろうね。かといって大和上市から30km以上をタクシーってわけにもいかないだろう。

なのでマイカーもしくは大きめの町でレンタカーを借りるのが一般的と思われる。我々は大和八木からレンタカーに乗り、明日香村の観光を経て入之波温泉を目指した。

途中で大滝ダムと大迫ダムを見学

国道169号で川上村に入ると吉野川源流域ぽい雰囲気が強まってくる。途中に大滝ダムがあったので立ち寄ってみた。この形は重力式か。
大滝ダム
ダム湖(おおたき龍神湖)側はこんな感じ。なんだかツバメがやたらたくさん飛び回っていたな。あと堤体内部に「中みち」と名付けられた見学通路が設けられているのが珍しい。歩いてみたかったが終了時刻を過ぎていてアウト。
おおたき龍神湖
もうひとつ立ち寄れるのが大迫ダム。こちらの形はアーチ式。
大迫ダム
大迫ダムから天端を渡って県道224号に入る。道は狭く、対向車とのすれ違い注意。4~5km走ってトンネルを抜けるといったん小さな集落が現れる。その集落を過ぎた少し先に山鳩湯がある。


素朴さを感じさせるお宿

あまりの人気ぶりにびっくり

着いてみてびっくり。日帰り入浴は17時までだというのに16時を過ぎた段階でなおも客が続々とやって来ていた。旅館前の数台分の駐車場は当然満杯。あふれた車が路駐みたいな感じで列をなしている。我々の車を置くところがないよ…ドライバーが少し離れた第2駐車場の方になんとか場所を見つけてくれて事なきを得た(それから17時を待って旅館前に移動させた)。

この混雑ぶりは自分の推理によると、行楽日和だし緊急事態宣言解除されたし大台ケ原なり何なりへ山歩きに行こか→帰りに温泉でも入ってこか→せっかくだから山鳩湯、という人々の発想が一極集中してしまった結果だろう。いくら人気施設とはいえ異常事態に近かったのでは。

さて、当宿は冒頭写真のように建物の屋根が道路面よりも低いくらいで、階段を下っていくと次のような玄関が現れる。中でチェックイン。
山鳩湯の玄関
フロント前にはイノシシの剥製が。イノシシの上に乗らないでください。
イノシシの剥製

温泉の存在を身近に感じる部屋

階段で1フロア下がると、右手に日帰り客・宿泊客共用の男子トイレ(小×2、大はシャワー付き洋式×1)と洗面所があり、その先のアコーディオンカーテンで仕切られた奥が客室エリアになっている。同様に左手には女子トイレと別の客室がある模様。

我々の部屋は右手側にある中の10畳和室。広縁なし。トイレ・洗面所は上述の通り共用。ふとんは夕食中に敷いてくれるクラシック方式。
山鳩湯 10畳和室
シンプルな部屋だが管理状態は良好で不便はない。テレビは当然あるし金庫もエアコンもあった。冷蔵庫はない。ちなみに館内を探検した限りだと自販機はソフトドリンクのみでお酒を買えるやつはなかった。あと自分はスマホのキャリア回線でカバーしたけど、同行メンバーによればフリーWiFiを使えたみたい。

ちょっと湿気を感じたのは宿のロケーションによるものかな。窓の外はこのような感じ。
窓の外
滞在中ずっと雨が屋根に打ちつけるような音が聞こえていた。まさか雨が?と空を見ても降ってないし、なんだろうと思ったら温泉が排湯される音だった。部屋と男湯の露天風呂が結構近かった。


ぬるくて爽快で見た目もすごい、最上級の温泉

下って下って行く大浴場

芋洗い間違いなしの日帰り入浴時間を避けて17時に大浴場へゴー。客室からもう1フロア下ると休憩コーナー。ここにソフトドリンクの自販機がある。
休憩コーナー
窓から見える景色がなかなか良くて、吉野川(大迫ダム湖)・入之波大橋・そして緑。紅葉したらもっとすごい絶景になるはず。
入之波大橋
さらに1フロア下ると、100円式に見えるけど無料と書いてあるロッカーがあって、それから大浴場だ。手前が女湯・奥が男湯で入れ替えはない。脱衣所の分析書にはシンプルに「炭酸水素塩泉」とだけ書いてあった。泉温は39.6℃。加水・加温・循環・消毒なしの源泉かけ流しだと思われるから、好みのぬる湯に違いない。

内湯は黄土色の天国

浴室内にカランは3台。L字状の大きな内湯浴槽は15名ほど入れそうなサイズ。浴槽全体が石灰華でできているんじゃないかと思うほど、明るい茶色の石灰成分でびっしり覆われているのが圧巻。端っこの壁には頭上からパイプが下りてきていて大量のお湯を吐き出している。あまりに勢いが強いため、飛散防止と思われる波板で吐き出し口の周囲を覆ってあったが、その表面はすっかり茶色くなっていた。

お湯の見た目は明るめの黄土色。濁りで浴槽の底は見えない。浴槽内の段差に注意しながら入っていくと期待していた通りのぬる湯だった。体温よりわずかに高いくらいだろうか。長時間浸かっても全然大丈夫なやつ。湯口から離れるほどぬるくなる。

濁りのため泡付きとかはよくわからない。たまに表面に泡のような粒のような細かいものがプカプカ浮いていることがあるのは湯の花か。お湯の匂いからは金気臭を感じた。

しばらく浸かっていると絶妙な温度が心地良くて出るに出られなくなる。これはやばい。あー出たくねー。日帰り入浴の時間が終わってしまえば混雑とは無縁の環境になり、広い浴槽に多くて数名という恵まれた状況でぬる湯を楽しめる。

奥の窓の下あたりで浴槽の一部に横長の穴がぽっかり開いており、お湯はそこから外の露天風呂へ流れ出ている。ってことは露天風呂はもっとぬるいな。

極上の露天風呂体験

では露天風呂へ。たしか屋根付き。こちらは4~5名サイズの浴槽でやはり石灰華コーティングがすごい。先ほど見た内湯からのお湯が流れ込んでくる一方、浴槽の奥に設けられた切り欠きからお湯が出ていく。結構な量が出入りしている。排出されたお湯が落ちた先でぶつかって立てる音は、まさしく部屋の中で雨のように聞こえた音だった。

露天風呂は思った通り内湯より一段ぬるい。ちょうど体温と同じくらいで自分の好みにジャストミート。ベストですベスト。それにしても爽快感が強調されているのは、ただぬるいからってだけではなさそうだ。炭酸成分もしくは二酸化炭素ガスが効いているんじゃないかと想像する。温度+爽快感でやばさマックス。

しかも景色が良い。休憩コーナーから見えた川と橋と緑をここでも見ることができた。女湯との仕切り板のために左側の視界は限られる。女湯が男湯と同じレイアウトであればそちらの露天風呂からのアングルの方が眺めが良いかもしれない。

これほどの素晴らしいお湯には何回も入りたくなるが、残念ながら24時間いつでもってわけにはいかない。夜は21時まで、朝は7時からとなっている。


ご当地感を楽しめる食事

夕食は猪鍋プランで

山鳩湯の食事は朝夕ともフロント奥の食事処で。テーブル席と座敷があり、チェックイン時にどちらがよいかを尋ねられたのでテーブル席を希望。夕食はこのような感じ。あとで鮎の塩焼きが追加された。
山鳩湯の夕食(猪鍋)
メインの鍋物は標準だと鴨鍋になるらしい。他にアマゴの南朝鍋とイノシシの牡丹鍋に変えることもできて、我々は牡丹鍋にした(料金は変わる)。肉は臭みがなく味噌ベースの汁がよく合う。いやーうまい。いつもよりビールの量が多くなってしまった。

鍋の具をひと通り食べ終えると締めのうどんが来る。締めのことまで頭が回らずにスープを減らしすぎたけど、なんとか1玉×2回を投入できた。すっかりお腹いっぱいでございます。

朝食の釜飯がうまい

朝は同じテーブル席でこのような感じ。あと味噌汁も付く。
山鳩湯の朝食
主役はご飯といえる。なぜなら温泉で炊いた釜飯なのだ。白いはずのご飯が全体に黄色みを帯びており、口の中へ運ぶと独特の風味が広がる。釜飯特有のおこげも楽しめるし、これ単体で十分いけそう。もちろんおかずと一緒に食べるもよし。

食後にコーヒーも出てくる。ばっちり。

 * * *

お湯の見た目も浴感も相当なレベルで大変に満足した入之波温泉・山鳩湯。どうしても体験したくて半ばゴリ押ししちゃったけど、他のメンバーも気に入ってくれたみたいだから良しとしよう。これでまた野望のひとつが達成された。

9時半頃にチェックアウトしたら、日帰り入浴は10時からであるにもかかわらず、入口の前にはすでに1名の客が待っていた。続いて2名のライダーもやって来た。朝から気合入ってんな…まああのお湯目当てだったらわからんでもない。