水墨画のような深山幽谷をめぐる、瀞峡の川下り

瀞峡
奈良・三重・和歌山の三県境が入り組んだ山中にある瀞峡は見事な峡谷美で知られる。熊野川の支流・北山川の両岸に連なる奇岩巨岩に、水墨画を思わせる世界観…紀伊半島めぐりをするなら外せない観光スポットだ。この秋に紀伊半島を訪れた我らツアーの一行も当然のごとく瀞峡にやって来た。

瀞峡ではただ展望するだけでなく川下りを楽しむこともできる。我々が乗ったのは峡谷に合わせたとても小さな舟だから川面がすごく近い。それに岩や崖のすぐ近くまで寄ってくれる。迫力とリアルな体感はかなりのものだ。

もちろん一種幻想的な峡谷の美しさを楽しむこともできる。ちょこっと雨にやられた面もあったけど、でもそんなの関係ねぇ。

瀞峡への道

ツアー2日目の朝。入之波温泉山鳩湯をチェックアウトした我ら一行は国道169号をひたすら南下していった。事前の計画検討フェーズでは大台ケ原へ行く案も出ていたのだが、「紅葉時期は超激混み」という口コミ情報にびびったこと、有数の多雨地域だけに雨天時のプランBを用意するのが難しかったこと、やるなら専用の計画をもって臨むべきで周遊の一要素として組み込むには向かないことから見送った。

30分ほど走った上北山村の道の駅で休憩。横を流れる北山川が瀞峡までつながっているのだなあ。こう書くといかにも近そうだが、とんでもない。まだまだ先は長い。ちなみに道の駅の対岸に薬師湯という温泉施設と「フォレストかみきた」なる宿泊施設がある。ここも計画フェーズでは宿泊候補にあがっていた。

さらに南下を続け、下北山村で池原ダム・明神池を見学しつつ瀞峡を目指す。途中で不動バイパスを使って169号をショートカットしたため七色ダムには行ってない。

途中の立ち寄り見学を除いても入之波温泉から1時間半、いやもっと走ったかもしれないなあ。山と山の間の谷沿いをぐねぐねとカーブする道路をひたすら進んだ記憶しかない。東方に熊野灘があるなんて想像もできない、どの方角をどこまで行っても山しかないように思えた。


川下り前半は上流方向へ

小さな舟だから予約しておくのが無難

正午過ぎに瀞峡駐車場に着くと雨だった。雲の様子から、場所によってモザイク状に天気が違うくさい。またしても自然さんの嫌がらせか。もう慣れたぜ、来るなら来いやあ!…と心の中でイキがったらもっと降ってきた。すんません、勘弁してくだせえ。

バス停のある三県境展望所から瀞峡を見下ろすと冒頭写真のような景色が広がっている。おっ、いいね。右手の建物はレトロ感たっぷりの瀞ホテルである。

ここから川岸まで階段をずんずん下っていくと(足腰が弱ってるとキツイよ)「川舟観光かわせみ」さんの発着所があった。予約した便までの30分を雨の中で過ごす。その間に我々が乗ることになる舟を撮影してみた。
川下りの舟
定員は8名くらいで余裕のある大きさではない。飛び込みで「乗せてくださぁ~い」とやって来て、「ちょっとね~、もう予約が一杯なんでね~」と断られる客を数組見かけたから、事前に予約しておくことを推奨したい。

山彦橋を見上げながら

さて、いよいよ出発の時刻。テント内で雨を避けてあった折りたたみ椅子やシートを出してくれたおかげで、濡れた場所に腰掛けてお尻がぐっしょり、ってことにはならずにすんだ。ちょうど雨もやんできた。

前半は上流方向へ遡っていき、最初の見どころは山彦橋という吊り橋。瀞ホテルから徒歩10分で行けるし実際に渡れる(我々は行かず)。かなりスリルがありそう。
山彦橋
舟はもちろん手漕ぎではなくエンジンの力で快調に飛ばす。小型船ならではの迫力がある。乗ったことないけどたぶんオープンカーに乗ってるような感覚で、揺れの質として船酔いするような要素はまったくなかった。
快調に飛ばす川舟

獅子岩の先まで行く

小回りがきくので特徴的な崖や岩のところではかなり近寄ってくれる。川の両側はおおむね崖であり、人を寄せ付けない険しい地形の圧がすごい。
瀞峡の両岸に立ちはだかる崖
全国各地に亀岩とかゴジラ岩とかあるように、瀞峡にもありました。獅子岩だ。これはまさに獅子咆哮。
獅子岩
やがてこの舟で行ける緩やかな流れが終わって急流が始まりそうな場所まで来た。この先は北山村の筏下りの領域になってくるとのこと。では引き返しましょう。
上流側の折返し地点
発着所へ戻る間にまた雨が降り出した。ここは耐えるのみ。下の写真は出発前に撮ったものだが、舟が瀞ホテルの前を通りかかると、ホテルの回廊にいた人たちが手を振ってくれた。こちらも手を振り返す。と同時に雨で沈みかけた気分が再びウキウキと高揚してきた。さあ後半です。
瀞ホテル

川下り後半は下流方向へ

危なっかしい岩が…

後半は下流方向へ。しばらく進んだ後、なんだか狭い狭い洞門のようなところへ突っ込んでいく。
墜落岩
よく見たら落ちてきた岩が落ちきれなくて引っかかって上に蓋している状態だった。やっべー。大丈夫かよ。墜落岩という名前らしいね。

あとは亀岩というのもあった。前日の明日香村の亀石に引き続き、亀といわれれば亀、かな。
亀岩
で、あっという間に後半の終点。向こうはもうこの舟で行けそうな感じではない。引き返しましょう。
下流側の折返し地点

瀞峡のハイライト・屏風岩

後半のハイライトは復路にあった。このあたりは瀞峡の中でも特に美しい瀞八丁と呼ぶスポットにあたり、その中でも「瀞峡が一番きれいに見えると言われています」と紹介された場所でしばし停止。左岸に屏風岩が連なる幻想的な風景だ。
屏風岩
折しも雲が切れて日が差してきた。光が当たるとまた印象が変わるね。
屏風岩その2
たしかに諸要素が絶妙にバランスされた構図になっていて、まさに自然美という感じだ。いいものを見させてもらった。

あとは戻りつつ崖の割れ目に近寄ってみたり。水の侵食で割れ目がどんどん後退・拡大していった結果できたのが瀞峡だそうだ。へー。
侵食されつつある崖
で、発着所に戻ってきて終了。所要時間は30~40分。瀞峡の景色が期待以上に良くて非常に満足度の高いアクティビティだった。瀞峡めぐりには船室付きのもっと大きなウォータージェット船が就航していたのだが、2021年から事業休止してしまったので、いま川下りするなら今回のタイプになる。自分にはこちらが合ってたみたい。


おまけ:池原ダムと明神池

ふたつの堤体を持つ池原ダム

瀞峡へ行く前に立ち寄った池原ダム。ちょっと変わったつくりで、堤体が2つあるんですわ。第1のアーチ型の堤体がこちら。ダム湖を挟んだ奥に第2のやつが見える。
池原ダム 第1の堤体
第1の方は珍しいことに下流へ水を流さない構造。よって下流は枯れている。川跡には下北山村スポーツ公園(きなりの郷)が作られていた。
下北山スポーツ公園(きなりの郷)
本来の川筋はスポーツ公園のところから超蛇行しながら第2堤体のところまで続いていたっぽい。つまり第1~第2の区間を流れるべき水をショートカットさせて第2の位置から放流している。このときの高低差を発電に利用しているようだ。

日本三大酷道に輝く国道425号(シニゴー)を通って第2堤体へ行ける。※その範囲なら極度に恐ろしい道路ではない。良好でもないけど。
池原ダム 第2堤体の天端
第2側の下流方向は次のような感じ。この水が瀞峡まで行ってるんだなあ。感慨深い。
池原ダムの下流方向

明神池の鯉

425号を十津川村方面へ少し進むと明神池がある。晴れて明るければもっと良く映えるのかもしれない。鯉がいて鯉の餌も売っている。
明神池
すぐ近くには池神社がある。なかなか荘厳な雰囲気だ。
池神社
明神池には七不思議の言い伝えがあって、そのひとつが「池に石を投げると雷雨になる」。石は投げなかったけど鯉の餌を投げたから、それで瀞峡が雨になっちゃったのかな。