美しい山岳風景を望む上高地へ、行ってみたくはあれどなかなか敷居が高い。とくに温泉めぐりを絡めた一人旅となると、一人でも泊めてもらえる温泉宿は限られてくるし、実現可能性がさらに狭まり、全然考えがまとまらないのであった。永遠の「だめだこりゃ」。
そこで仲間内の企画「人生で一度は行きたいシリーズ(国内)」の候補地に提案してみたところ、無事に採択されて実現の見通しが立った。おひとりさまNGの旅館も複数人なら大丈夫だしね。ありがてえ。
しかも上高地経験豊富なメンバーが無理のない行程と時間配分を考えてくれた。ありがてえ。おかげで良好な天気の下、登山をしない一般人としての年相応のペースで大正池から明神橋までのハイキングを楽しめた。
前半:大正池から河童橋まで
焼岳を映す大正池
上高地へ向かう道路の釜トンネルから先はマイカー規制されている。よって一般には手前の沢渡駐車場に車を置いてバスかタクシーを利用する。ハイシーズンは松本市街から沢渡までが大渋滞するようだし、バスの乗車待ちの列が大変らしいからお覚悟を。
我々は安房峠の中の湯温泉旅館に泊まり、翌朝の宿の送迎車で大正池まで送ってもらった。連泊だから車は旅館の駐車場に置いたままだし、バスの乗車待ちロスもない。しかも場所が沢渡よりも奥なので大渋滞する区間ではない。なるほどうまく練られた行程案だ。
道中はまったくスムーズ。大正池で降ろしてもらい、ここから歩きのスタートだ。夏の盛りでも朝9時頃の空気はひんやりしている。半袖でもいけるが長袖が合うくらい。あたりに観光客の姿はそこそこ多い。でもちょっと前のインバウンド云々の頃に比べたら混んでるうちに入らないんだろうな。
大正池はやっぱり見事な風景だった。いきなりベストショット級が撮れた。逆さ焼岳。
反対側には穂高連峰。こちらの方角は昼すぎまで雲に遮られがちでベストな景観とは言い難かった。にもかかわらず目を引く景色だ。
田代湿原と田代池
見学コースはまだ始まったばかり。先は長い。遊歩道をしばらく進むと次の見どころ・田代湿原に出てきた。植物の名前とかは正直わかりません。とにかく爽やかな夏の湿原らしさがよく表れたスポットだ。
ここから1~2分のところに田代池もある。池というよりは川がそこだけ幅広くなったかのような雰囲気。池の向こうに見える特徴的な形をした山は六百山であろうか。池の底はなんだか赤茶けていた。
田代湿原を後にすると、しばらく湿地帯の上に通した木道を歩くことになる。しかしなんだろう、土壌が赤いんですよ。気にしたら負け?
梓川コースを通って田代橋へ
途中で道が林間コースと梓川コースに分かれる。川を見たい我々は梓川コースを選択すると、狙い通りに川岸へ出られる場所があった。川の水は究極的に澄んでおり、深さか距離か角度か、何のせいかは知らぬが南国の海のようなエメラルドグリーンを呈していた。すぐそばの湿地が見せる赤茶との対比がすごい。
やがて到着するのが田代橋で、2つに分かれたコースは橋の手前でいったん合流した後、橋を渡ってウェストン碑を経由する梓川右岸コースと、橋を渡らずにバスターミナルを経由する左岸コースに再び分かれる。
我々は右岸コースへ。田代橋の上から上流方向を見るとホテルの建物が並んでいるのが見えた。とりあえずあそこを目標に歩こう。この頃から空気のひんやり感は消え失せ、普通に暑くなってきた。直射日光がきつい。
ウェストン氏の名前が意識される一帯
目標にしていた上高地温泉ホテルの前に来た。ここは外来入浴を受け付けているようだ。まだ序盤なのに風呂に入るわけにはいかないし、そうする時間もない。財力と予約競争を勝ち抜く根性があればこういう上高地の懐に泊まって行動に余裕ができるんだろうな。
上高地は西側の焼岳・穂高が注目を集めるけど、このあたりでは東側の六百山・三本槍・霞沢岳の見事な姿を梓川越しに拝むことができる。うーん、いいね。脇役にしておくにはもったいない。
上高地温泉ホテルを過ぎて少し先へ行くとウェストン碑があった。明治時代に日本アルプスを世界に紹介したイギリス人宣教師ウォルター・ウェストン。自分は何も知らなった。はっきりいって調べながら書いてます。とにかく氏の功績を称えた記念碑だ。
その先にはウェストン園地なる緑地もある。途中で見つけたベンチで休憩しようとするも、日なたでじりじりと焦がされてむしろきつい。もう歩き続けるしかない。
上高地観光の拠点・河童橋
そうしてようやく上高地の一大拠点・河童橋へたどり着いた。大正池から歩き始めて2時間近く経っていた。橋の上から下流方向を見たら焼岳がくっきり見えた。この構図はすごいな。さすが河童橋。
上流方向は雲が山の稜線を覆い隠してしまい、いまいち。帰り際に再び河童橋へ立ち寄った際にはいい具合に晴れてくれた。これはお見事。さすが河童橋。冒頭の写真も帰り際に撮った河童橋である。
涸沢カールとか、行けばすごい感動ものなんだろうけどね。ふだん何の運動もしてない鈍りきった体の自分にはちょっと難しいかな。
河童橋のまわりにはいろんなお店やホテル、案内所が集まっている。観光客もひときわ多くにぎわっていた。ここで水を飲んだりアイスを食べたりトイレに行ったりして休憩。橋から数分のところにはバスターミナルがあり、もし力尽きてたらバスに乗って帰ることもできる。しかしまだ余力はあるし時間もある。せっかく来たんだから、計画していた明神橋までは行こう。
後半:河童橋から明神橋への往復
岳沢湿原を見るなら右岸コースを
ずいぶん歩いたようでいて、まだ全行程の4割。残された河童橋~明神橋~河童橋の往復コースは、歩いてきた大正池~河童橋間の1.5倍の距離になるとのこと。やってやるぜ。ちぇすとォーーー。
後半はばっさりダイジェスト版になります。実際に時間の感覚がなくなってきて前半ほど長くは感じなかった。ただ淡々と黙々と歩いて、意識がどこかへ飛んだみたいに真っ白で、気づいたらクリアしてたみたいな。あるよね、そういうこと。
明神橋まで行くにも右岸コースと左岸コースがある。距離と道の整備具合で有利なのは左岸コースだ。我々は右岸から行って左岸を戻って来ることにした。で、最初の見どころが岳沢湿原。湿原というよりは池と呼びたい。
明神橋から見る明神岳はかなりおすすめ
そうして後半戦開始から70分、ついに明神橋が見えてきた。展開が早いのはダイジェスト版だからいいのだ。
歩いていて空中のあちこちに綿毛がふわふわ浮遊しているのが次第に気になってきた。なにこれ。たんぽぽじゃないし…。後日の調べによると、柳絮(りゅうじょ)と呼ばれる柳の種だって。上高地の風物詩とのことだ。午後になってから殊更に多かった。
明神橋のそばに穂高神社奥宮があり、入ると明神池を見学できる(有料)。お時間あればどうぞ。我々はパス。
明神橋の上から上流方向を見たのがこちら。梓川はそこそこの幅を保ちながらまだまだ遡れそうな勢い。源流は槍ヶ岳の方になるらしい。長げー。
景観という意味では川の流れの方向よりも川の西側にそびえる明神岳に注目したい。橋の上からいい感じで見える。
左岸側からだと明神橋の全容と山を一緒に撮影できる。河童橋ほど人だらけじゃないし、ベストショット級のが撮れた。明神岳はピークがいくつかあって三峰とか五峰とか名前がついている。一番目立つ尖りは五峰。
超久しぶりにいい汗かいた
帰路の左岸コースはあまり記憶がない。川や山や森を見ることもなく、ひたすら歩いてた。うつむき加減で地面ばっかり見てたかもしれない。ある種のゾーンに入ってしまった状態。あるよね、そういうこと。で、後半戦開始から2時間10分かそこらで河童橋へ戻ってきた。
はい、お疲れさまでした。バス乗り場は行列ができていたが、30分に1本じゃなくピストン輸送してくれてたおかげで、ほとんど待たずに乗れた。あとは中の湯バス停で降りて旅館の迎えの車に乗って中の湯へ戻る。あー早く温泉に浸かりたい。
こうして夢の上高地を実体験した。登山志向はないので、これくらいが過不足なくちょうどいい行程だった。実のところ久しぶりにかなり運動した部類だけどね。梓川と背景の山々からなる景色はたしかに素晴らしく、人気スポットなのもうなずける。まだ体が動くうちに行っておいて良かった。