この道東旅行の最終日は、知床から女満別空港へ向かいながら網走を観光する計画。網走といえば刑務所を連想してしまうのは古い人間の性かしら。そんなおじさんにぴったりの観光名所が網走監獄。もちろん現役の施設ではなく移築復原をもとにした歴史テーマパークみたいなもの。
かつてのヒット映画の舞台となった昭和の時代よりむしろ、明治時代の想像を絶する厳しい環境と北海道開拓の歴史を織り交ぜた内容が主となっている。見るべき対象は相当に多く、ひと回りするのに2時間は見積もっておくべきだ。
また網走には天都山という見晴らしのよいスポットもあり、そこに併設されているオホーツク流氷館ではクリオネを観察したり、マイナス15度の世界を体験できる。
天都山のオホーツク流氷館
花の季節には少し早かった小清水原生花園
旅の4日目。ウトロの民宿たんぽぽをチェックアウトした我ら一行は知床に別れを告げて網走を目指す。網走は映画「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」(第11作)で寅さんがリリーと知り合った重要地である。でもそれよりは網走番外地のイメージが強い人も多いだろう。網走監獄、楽しみだぜ。
途中にあった小清水原生花園にちょっと寄り道。開花のピークにはまだ早かった模様。
現地の目の前にJR釧網本線・原生花園(臨時)駅がある。ちょうど居合わせた方が「そろそろ列車が来る時間ですよ」と教えてくれたので、撮り鉄してみた。奥の方にうっすら見える水の帯は濤沸湖である。
オホーツク流氷館でクリオネを初めて見た
ここまでは雨~どんより曇りだったが急速に天候が回復し、網走に入って天都山展望台に着く頃には晴れ間がのぞいてきた。ここはパノラマの展望が売りだからちょうど良かったね。
展望台そのものは無料で、地階のオホーツク流氷館は有料(750円)。まず流氷館へ行ってみた。いきなりクリオネの水槽がお出迎え。テレビや動画で知ってはいたけど生で見るのは初めてだ。姿や動きはかわいいが、ビデオで紹介されてた餌の捕食シーンに容赦ない冷徹な本性が透ける。
他にもユニークなやつらが何種類かいました。
しかし当館の主役はあくまで流氷。流氷の発生原理や見られる地域などが細かく解説されている。オホーツクの流氷を砕氷船に乗って見に行くツアーってのをいつかやってみたい気もするけど、真冬の道東という条件じたいが辛そうだし、悪天候で船が出ないリスクもそこそこありそうだし、近年は暖冬で流氷が発生しにくいこともあるだろう。成功の難易度は高そうだ。
やばい寒さ! 流氷体験室
最後にいよいよ流氷体験室へ。うむ、マイナス15.5℃か。入口に濡れタオルが置いてあって、中でぐるぐる振り回すと凍って固まりますとのこと。へー。
では入室。中に置いてあるのは実際の流氷の塊だ。キタキツネやアザラシはもちろんフェイクです。
入ってすぐの「やっぱりひんやりするな」程度の感想から、次第に我慢できない寒さに変わる。うああー早く出たい。しかしタオルを凍らせる実験をしなければ。手ぶらでは戻れないぜ。急いでタオルをぐるぐる振り回したら、本当にカチカチに固まった。バナナで釘が打てますってやつだ(古いよ)。
実験完了したから急いで出る。おー寒かった。あんなんヤバすぎですわ。資料館としてのボリュームは料金比で正直小さいと思うけど、テーマを絞って、観光客にとって日常とかけ離れた流氷という世界に触れられるコンセプトは、ありだと思う。
天都山展望台から見るオホーツクの絶景
お次は展望台の屋上へ。知床の方角はまだ雲が厚かった。
海岸線はまあわかる。中央の雲の上に頭をのぞかせているのは海別岳か。右端うっすらが斜里岳、左端うっすらが遠音別岳ではないかと思うが、自信はありません。
反対側の網走湖とその奥のオホーツク海は比較的に晴れ上がってよく見えた。麓のあたりには本物の網走刑務所もあったぞ。
北海道開拓の歴史と関わり深い網走監獄
最初の見どころ・庁舎で概要を学ぶ
天都山展望台から車で5分、いよいよ網走監獄だ。入館料1100円。
入口でもらったパンフレットを見ると中はかなり広そうだ。標準的な順路が決まっていて各見どころに番号が付いているから、それにしたがって進むことにした。全部あげてたらキリがないので主なところを紹介。まずは庁舎(重要文化財)。網走監獄の概要を説明する展示やちょっとした売店がある。
庁舎を見て、網走に送られた囚人と北海道開拓のつながりが深いことを知った。お次は明治から昭和の時代まで使われた職員宿舎。現在の感覚だと、家族と住むには手狭で相当質素な長屋である。囚人を監督する側の職員も日々の生活はなかなか大変だっただろう。
少し先に釧路地方裁判所網走支部。これは現代風。中にあった法廷再現部屋がドラマや映画で見たそのまんまの雰囲気だった。成歩堂くんが「異議あり!!」って出てきそう。
主役級のインパクトがある監獄歴史館
まだ全然序の口である。先はまだ長い。これは…だいぶ時間がかかりそうだなあ。でも空港に早く着きすぎて時間が余りそうな勢いだったので、むしろじっくり見ていくことになった。味噌醤油蔵・漬物庫などを経て、監獄歴史館に到達した。
が、いま写真を整理していて気づいた。よりによって主役級スポットの歴史館内部を1枚も撮影していない。いくらなんでもそんな大ポカするかなあ。もう記憶にないが、もしかしたら館内撮影禁止だった可能性がある。現地でご確認を。
たしか現在の囚人房(6人部屋とか個室とかがある)や伝説の脱獄囚・五寸釘の寅吉による語り、網走刑務所を舞台にした作品など展示・紹介に加えて、北海道開拓に駆り出された囚人の過酷な運命がかなりやばい。
明治時代、ロシアの南下政策に対する防衛として札幌・旭川・網走を結ぶ「中央道路」の建設が急がれていた。そこで囚人を人夫として駆り出し、なんか無茶苦茶な工期でやらせたらしい。屈強なイメージのある囚人といえども、あまりのブラック労働に次々と力尽きていった。政府のお偉いさんは「どうせ奴らは極悪人、斃れるなら養う負担が減って助かるわ!」くらいの台詞を吐いたみたいな演出。ウイグル獄長並みに闇が深い。
現場監督の看守が「しっかりしろ、こんなところで死ぬな!」と囚人を励ますシーンもあり、北海道の発展の礎は彼らの犠牲の上にあるのです的な総括だった。そういう歴史を知らなかったから新たな視点を得られた。
農作業場もあったみたい
歴史館を出て次は二見ヶ岡刑務支所(重要文化財)。ここは農場であり、優良な模範囚を集めて農作業をやらせていたようだ。
屋内作業風景を展示する部屋がこちら。たしか隣の部屋は当時の食堂という体裁で実際の食堂を営業している様子だった。いくつかのメニューが貼ってあったから。ただしこのご時世もあってか休業中。くさい飯をちょっと食べてみたかったですね。
獄房の一角には拘束具の展示コーナーも。ちょ、怖いよ。
ここに囚人たちが…網走監獄舎房
この後のいくつかを割愛して…後半の主役級といえる網走監獄舎房の前まで来た(重要文化財)。
中に入るとすぐに5つの方向に細長い棟がのびるという一般建築らしからぬ構造をしており、5本の付け根にあたる位置に中央見張所があった。
ひとつの棟は下のようになっている。各房の竪格子は隙間から外を覗こうとしてもせいぜい斜め方向しか見えないように工夫され、向かい合う房同士でお互いの挙動がわからない仕組み。徹底しているな。
共同部屋のお食事シーンもあり。これは息が詰まる。自分には無理だな。
教誨堂で悔い改めよ
舎房の次は浴場。温泉おじさんとしては一発撮影しておかねばなるまい。しかし妙にリアルなんですけど。
それからレンガ造り独居房なる、精神をずたずたにやられそうな採光性ゼロの小屋を経て、最後に教誨堂へ(重要文化財)。重厚感と威厳を放つ建物だ。和洋折衷テイスト。
内部は西洋の教会風でありながらも中央の祭壇に据えられているのは仏様。ここで囚人たちは己を省みて悔い改めたのであろうか。そういえば先の五寸釘の寅吉も、各地で何度も脱獄を図りながら、網走に来たら心を入れ替えたかのように模範的になったというから、教誨堂のおかげかもしれない。知らんけど。
あとは出口付近に物産館があっておしまい。ふう、長かった。網走監獄は広大な敷地に多数の見どころ。上に書いたのはごく一部に過ぎない。見学するのに1時間じゃ全然足りない、2時間はみておきたい。我々はどうやら3時間も滞在していたようだ。
入場してからずいぶん経ったんだな。久しぶりに吸うシャバの空気はうまいぜ。