道東の有名観光スポットである摩周湖と開陽台。その中間地点にあたる養老牛温泉「湯宿だいいち」の存在を知り、調べてみると口コミ評価がおしなべて高い。ちょうど開陽台へ行く計画があったから湯宿だいいちへも立ち寄ってみることになった。
感じの良い洒落た雰囲気漂う当館はお風呂にも相当な力を入れている。まず湯船の種類がとても多い。そして熱めからぬるめまで幅広い温度帯が提供されている。とくにぬる湯が多めになっているのはありがたかった。露天風呂は景色を見て楽しむという面も十分に考えられている。
これはすごいんじゃないのと感嘆して当初の滞在予定を延長したほど。立ち寄りでなく泊まりで来てたら、ゆっくりじっくり堪能しまくりだろうなと夢想してしまうのであった。
養老牛温泉「湯宿だいいち」への道
養老牛温泉には個人的に勝手な思い入れがある。というのも映画「男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎」(第33作)のラストシーンのロケ地だからだ。マドンナ・風子が結婚式を挙げる場所が養老牛温泉だった。そこへ向かおうとした寅さんはなぜか徒歩で山越えを試みて熊に追われる羽目になったのだった。んな無茶な。
むろん我ら一行は徒歩でなくレンタカー。前泊地の雌阿寒温泉・野中温泉をチェックアウトして、前日取りこぼした屈斜路湖畔のスポットに寄り道しながら開陽台を目指した。
JR摩周駅のあたりを過ぎて弟子屈町から標茶町・中標津町へ入ると道路がひたすらずーっとまっすぐ続くようになる。1kmとかそんなレベルじゃない。どこまで行っても直線道路で一向にカーブが見えてこない。信号もほとんどないし、これぞ北海道って感じ。
開陽台は厚い雲がかかっていて展望が今ひとつでちょっと残念。まあ天気予報でわかってたことだし、この日は雨を覚悟して立ち寄り入浴をメインに据えるくらいの腹づもりである。降られなかっただけましだ。
開陽台から当湯まではそこそこ近い、と思ったら北海道スケールに惑わされていたようだ。後日ちゃんと調べたら20km弱ありますね。本州から空路で入る場合、地理的には中標津空港が最も近い。宿泊客には中標津空港までの送迎サービスあり(要予約)。
魅惑のお風呂がいっぱい
オシャレ感のある旅館の中へ
入館するといきなり洒落たつくりのエントランス。つきあたりがガラス越しに見せる庭園になっていて、T字路を右に進むと宿泊棟、左に進むと大浴場のある本館棟。
我々は左に進みフロントで日帰り入浴の受付をすませる。現在は1000円。目の前にはこれまた洒落た感じのくつろぎ処があった。利用不可の立て札があったな。日帰り客は利用できないルールかたまたまか、よくわからん。
なお、日帰り入浴の受付は13時から15時となっている。宿泊客の視点でいえば、16時を過ぎたら日帰り客がいなくなってゆったり入れるのはいいんじゃないかな。ちなみに宿泊者専用の浴場もある。
さて我々は大浴場へ。脱衣所には100円リターン式の貴重品ボックスあり。分析書を探すと「ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉、中性、低張性、高温泉」だった。はっきりと明示した資料は見つからなかったが加水・加温・循環・消毒いずれもなしの源泉かけ流しのはず。
内湯はかなり雰囲気良し
浴室に入るとまず右に水風呂、左に4名サイズのぬる湯浴槽。各浴槽には温度目安を書いた札が掲げてあるけど多すぎて覚えてらんない。とりあえず今回体験した中ではこのぬる湯槽が一番ぬるかった。37℃くらいだろうか。結構気に入って多用させてもらった。
高い位置から打たせ湯状にじょぼじょぼと投入されるお湯は無色透明。マイルド系で刺激はない。いかにも温泉らしい匂いがする中にも硫黄・金気といった癖のある特徴はない。ぬるめのお湯に長く浸かるのに向いている。
ぬる湯槽の奥にかけ湯するところがあって、左側に7名分の洗い場。宿泊客は専用浴場の方で洗身洗髪すると考えれば少ないわけではないだろう。
で、右側に2名分の木製のぬるい寝湯。頭を乗せるところが丸太ぽくなっていたような。何も考えずに片方の箱に収まってみたら、たしかにぬるめではあるものの時おり熱く感じるし、なぜかあまり長湯できそうもない体感だった。どうやら隣接する高温槽のお湯が少しずつ流れ込む仕掛けになっている。もう片方は高温槽に接していないので、そっちだったら普通にぬるかったかもしれない。ぬる湯好きの方は選択大事。
その高温槽は4名サイズで明らかに42℃級。自分好みのゾーンより熱いからパス。内湯は一部を除いて浴室全体が総ヒバ造りのような感じで、木の香りもするし大変に雰囲気が良い。
川のすぐそばにある露天風呂
満を持して露天エリアへ出ていった。すぐ目の前に現れるのが40℃の中温風呂。15名以上いける大きな岩風呂だ。そのわりに人が少ないのは他にも露天風呂が山ほどあるからだ。逆に穴場とも言える。一番奥を陣取って外を向いて入るとモシベツ川の流れを見ることができる。ここだけでも十分に水準級。
そこからもっと先の露天風呂へ続く道が三叉に分かれている。右手に下りていくと混浴風呂。女性はタオル巻き可。川に一番近くて迫力を味わうにはベストの浴槽か。ただしつねにカップルさんが占めているような気配があって(もちろんしげしげと覗いたりはしてません)、多数のカップルが順番待ちで交代交代みたいになっちゃってるのかなあ、たとえ短時間でも潜り込める隙はなさそうであきらめた。
中央の道を下りていくと寝湯コーナー。2名サイズのぬる湯と3~4名サイズの中温風呂が隣り合って並んでいた。ここも川見風呂を決め込むには好適。モシベツ川がすぐそこに見える。完全に寝湯の体勢だと川面が見えなくなるのは悩ましいが…。ぬる湯に入ってみたら38℃くらいな感じ。ここに長く留まって川を見ながらのんびりするのも満足度高いだろう。対岸ががけ崩れ一歩手前風になっているのがワイルドだ。
おひとりさま向けの湯船もたくさん
左の道の先には「おひとりさま風呂」が多い。まず大きめの丸太をくりぬいた丸太風呂。39℃程度。もうちょっとぬるければずうっと居座りそう。それから木の箱風の寝湯もややぬるめ。こいつが一番他者を意識せず、ひとりになれる場所かもしれない。
近くには大きめのつぼ湯がひとつ、いやふたつだったかな。比較的人気があるようで埋まってる率高し。自分が入る機会はなかった。そして「35~37℃、夏は32℃」と書いてあった気がする3名サイズの浴槽。浸かってみたら体温よりは高いと感じたけど内湯ぬる湯槽の次にぬるいと思った。ぬる湯好きは狙い目ですね。自分も長くお世話になりました。
他のメンバーも当湯をかなり気に入ったようだ。浴場では各自バラバラに行動していたのだが、途中で顔を合わせたときに「1時間の予定を30分延長しよう」とあっさり決断が下ったくらいだ。異議なーし。
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湯宿だいいちへ行ってみたのは正解だった。情緒たっぷりの内湯にモシベツ川を望む露天風呂、湯船は多彩で温度帯もいろいろ、とくにぬるめが多いってのが高得点。湯質も大変結構なり。
泊まりでじっくり体験してみたくはあれど、醸し出す雰囲気からして"特別な人と特別な時を過ごす”的な宿で我らには手が出ないんでしょうな、きっと。しかし人生どんな大逆転があるかもわかんないから、頭の片隅にはその名を留めておこう。
おまけ:地球が丸く見える開陽台
湯宿だいいちの前に、360度のパノラマ絶景と謳われる開陽台に着いたが、明らかに絶景は望めそうにない天気。せっかく来たので丘の上の展望館ヘ。
展望館は休館中で屋上のみ立ち入ることができた。近くの起伏を見るだけでも北海道らしい雄大なスケールの一端は垣間見えてなかなか結構なんだけど、やっぱり遠くの方は霞んじゃってますね。
東の方角は天気が良ければ海、そして国後島まで見えるとのこと。目を凝らせばかろうじて見えるような、見えないような、やっぱり見えない。
ああ残念。展望所として本当に恵まれた地形だと思うので訪れる価値はある。あとはすべてお天気次第。