知床の観光拠点になっているウトロ。広大な知床半島を別な場所からの日帰り遠征で見て回るのはかなり無理があるから、ウトロで1泊する人も多いだろう。我々もそうした。
そのウトロに温泉がある。今回お世話になったお宿は源泉かけ流しの温泉を提供してくれて、なおかつリーズナブルな「民宿たんぽぽ」。もちろんどデカい大浴場とか露天風呂とかいうのではないが、温泉そのものは実に本格的だ。温泉目的の客も満足できる。
そしてお料理も大変結構。もちろん料亭並みの云々とかいうことではなくてね。別の方向性で大いに感心させられたのであった。おかげさまで冷たい雨によって折られかけていた心はすっかり復活した。
民宿たんぽぽへのアクセス
ウトロの町は国道334号をメインストリートとして海側に漁港や観光船乗り場が続いている。ペレケ川のあたりから山側に数百メートル入っていくと、いくつかのホテルが立ち並ぶ区画が現れ、その中に当宿もある。民宿といっても外観は一般民家スタイルではない。宿泊営業施設ぽい雰囲気はあるし、宿名がはっきり掲示されているからすぐわかるだろう。
我々は旅の3日目に羅臼側から入って知床峠を横断してウトロへ至り、午後を知床五湖と観光船にあてた。天候は雨。しかもこの季節にしてはずいぶん肌寒い。羅臼岳からこれでもかと無限に雲が下りてくる。大自然の手荒い歓迎に心を折られそうだった。
ところがよりによって観光船を下りた途端に雨が上がって雲の切れ間から青空さえのぞいた。いまさら天候回復しやがって。いけずはイヤだよ、気まぐれ天気さん。私を泣かすな、オロンコ岩よ。
1日の観光を終えてそのまま宿へ直行。山へ上がる入口の交差点付近にコンビニが2軒ある。買い出ししたければここですませておこう。
アットホーム感のある民宿
シンプルな部屋は機能面に不足なし
さっそくチェックイン。用意されてるスリッパが普通の旅館でよく見る無機質なやつじゃなくて一般家庭に多い温かみのあるデザインのやつだった。やはり民宿なので内装は旅館的でなく、部屋数の多い一般家屋といった風情。
玄関脇の階段を上がった2階に各部屋がある。我々が入った部屋は、床の間とかの装飾を廃したシンプルなレイアウトの10畳相当。機能面に不足なし。布団はセルフでお願いします。
トイレ・洗面なし。共同のシャワートイレが男女別で1個室ずつあった。洗面台が各部屋専用のが別々に設けられているのは、ちょっと変わっていて面白い。感染症対策にもなっているし、いいんじゃないかな。
トイレのドアはロックしたままでも力任せに開閉できてしまい、そうすると空室なのにロックがかかって閉まった状態になるから注意。この日は客の誰かが無意識にその動作をしてしまうようで、解除復旧してもまたロック閉め切りに遭遇するパターンが多かった。気をつけましょう。
旅館と違う浴衣事情に注意
あと部屋に金庫なし。冷蔵庫は廊下に共同のがある。他に共同の湯沸かしポットや電子レンジあり。WiFiについては忘れた。自分はキャリア回線で十分だったので。たぶんあったんじゃないかって気がする。そういえば浴衣はありません。スウェットなどを持参するか、200円で浴衣をレンタルする。
窓の外はこのような感じ。近くに夕日台展望台ってのがあるし、方角的にもしっかり晴れていれば夕日がきれいなのかもしれない。確証はないが。
かなり本格的な温泉に脱帽
源泉かけ流しのお風呂を貸し切りで
たんぽぽのお風呂へ行くには、いったん2階の廊下奥でサンダルに履き替えて外階段を1階まで下りると、すぐ隣にコンテナ風の浴室棟が二つ並んでいる。男女の別はなく空いている方を自由に使ってよい貸切方式。サンダルを脱いで中に入って鍵をかける。
脱衣所は正直狭い。お風呂全体が1~3名サイズだけど、複数人で利用する際は、まず一人目が脱衣所にいる間は他の者は外で待つ、一人目が浴室内へ移動するのを見計らって二人目が脱衣所に入る、というように順繰りでやりくりするのが無難かな。なお壁に分析書が貼ってあって「ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉、等張性、中性、高温泉」とあった。循環なし、消毒なし。おそらく加水も加温もしてないと思う。
浴室は2棟とも同様のつくりである。カランは1台。家族や仲間同士なら3名いけるサイズの浴槽。壁からパイプがのびていて源泉を盛んに吐き出している。温度を上げ下げしたければ蛇口をひねって湯量調整することは可能。
もう1本、サブのパイプと蛇口が付いていて、こちらは水が出てくる。急速にぬるくしたいときの加水に使う。投入されたお湯はオーバーフローして浴槽外の排水口へ吸い込まれていく。まさに源泉かけ流しだ。
見事なにごり湯を楽しめる
お湯の見た目はやや緑がかった黄褐色。すっかり濁って浴槽の底は見えない。見かけはなんとなく伊香保の黄金の湯に似ているなあ。大したもんだ。単にウトロで一泊しましたでも旅情感は十分だが、こうして特徴のあるお湯に浸かることができれば、温泉好きとしてはさらに満足感が増す。
お湯の匂いを嗅いでみたら、伊香保と違って甘い感じではなかった。なんというか、もっと渋み・酸味にたとえられる感じの、金気臭? 土気臭? いや連想したのはアンモニア臭かな。決していやな匂いではないし、特別な温泉気分を味わえる特徴だ。
ヌルヌル・トロトロしたお湯ではなくてキシキシ感がある。ニュートラルな状態だとやや熱めのチューニングになっているだろう。ぬるめを好む我々は加水の勢いを強めにした。それでも体の芯まで温まってホッとする。とくに夕方一発目の入浴は、さっきまで冷たい雨に心身とも凹みかけていたのが、温泉のおかげで生き返った。
いやー、いいお湯だ。チェックアウトまでに少なくとも4回は入った。温泉としてのクオリティは申し分ない。ウトロに温泉というイメージは持ってなかったのだけど、ここまでやってくれるとは予想以上だった、脱帽。
食事のレベルは相当高いと思った
夕食は海産物中心の実力派揃い
たんぽぽの食事は朝夕とも1階のダイニングで。向かい合わせに座るテーブルの真ん中にアクリルの仕切板が立っており、飛沫対策は徹底している。夕食のスターティングメンバーがこちら。
おー、いいねー。見た目からしてうまそう。テーブルの上に置かれたお品書きを読んでみた。あのお肉はエゾシカのたたきなのか。珍しいですな。臭みはなくフレッシュな味わいでビールのお供にぴったり。お刺身はありきたりな顔ぶれではない。サクラマス・ミズダコ・アブラガレイだ。
サラダは生ホタテのカルパッチョであった。自分がホタテ好きなこともあるが、野菜やドレッシング込みで、これがめちゃくちゃうまい。料理の脇役に甘んじがちなサラダとは思えぬ存在感を放っていた。これいくらでも食べられるぞ。
他に銀ガレイ、北海シマエビ、自家製サーモンフレークと、海産物中心のおかず群はいずれも気に入った。そしてイクラしょうゆ漬けは単体でもいけるが、やっぱりご飯の上に乗せて楽しみたい。最初から最後まで隙のないラインナップに感心した。量も多すぎなくてちょうどいい。
朝食の自家製知床鶏のハムがすごい
朝食はオーソドックスな和定食…いや待て、なんだこのサラダのどデカい肉は。自家製知床鶏のハムだって。一切れが鮭の切り身と同じくらいの大きさに見えるぞ。大サービスのボリュームだ。このハムだけでお腹いっぱいになりそう。
正方形の皿に入っているのは何かと思えばミズダコの漬けだった。いまミズダコの旬なのかな。こいつもかなりご飯のすすむおかずだ。最後鮭が余り気味になって単体でいただくことになるほどであった。朝食もあなどれないレベル。
食後はセルフでコーヒーをいただける。食事に関しては本当に期待以上で、良い意味で驚かされた。
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道東経験豊富なメンバーに宿探しをおまかせしたら、さすがいいところを見つけてくれましたね。リーズナブルでアットホームな宿、というだけでなく、小規模ながらも本格的な温泉を体験できる。めったにない道東旅行とくればどうしても観光主体の目線になるけど、こうして温泉面も抜かりないんだから言うことなし。加えて食事も大満足のレベル。
天気は悪かったけど宿は最高だったといえる。
おまけ:オシンコシンの滝見学
翌朝チェックアウトしてから知床を離れる前にオシンコシンの滝に立ち寄った。幾度となく名前を聞いたことがある有名スポットだ。駐車場から遊歩道的な階段を上がっていく。大した距離ではない。すぐに滝が見えてきた。
これかー。右側にふたつの主筋があるように見えますね。どっちがオシンでどっちがコシン?
左側のチョロチョロの筋がアクセントを添えているが、ネットで検索すると左の水量の方が多い画像も見かける。オシンコシンの滝は別名「双美の滝」と呼ばれていて、いまも右が二筋にみえるものの、本来は左右が同じくらい元気な時の姿を指しているのかもしれない。知らんけど。
当時も水量と滝の近さによる迫力があった。海のそばだから、流れ落ちた水は短い距離だけ川となってすぐに海へ流れ出る。知床らしさを感じる滝だ。