大自然の秘湯宿で味わう超本格派の湯 - 雌阿寒温泉 野中温泉

雌阿寒温泉 野中温泉
北海道足寄町にある雌阿寒温泉。その名前からして雌阿寒岳が近いし、神秘の湖オンネトーも近い。車があれば阿寒湖だって遠くない。何かの本で高い評価を与えられていたのが記憶の片隅にあって、阿寒湖近辺に宿泊する計画が仲間内で持ち上がったのをチャンス到来とみて雌阿寒温泉にしてもらった。

お世話になったのは「山の宿 野中温泉」。モダンなリゾートホテルと対極をなす大自然の秘湯宿だが、リーズナブルなお値段で十分快適に過ごすことができる。

ネットで評判を調べると、知る人ぞ知るという立ち位置で温泉通が好む本格温泉らしかった。たしかに白濁硫黄泉のクオリティは素晴らしく、それが豊富に源泉かけ流しだから文句なし。そのかわり熱いけれども。

野中温泉へのアクセス

野中温泉へ行くには車がないと無理。頑張ってバスで阿寒湖畔まで行っても、そこから先の交通手段があるんだかないんだか、よくわからない。たぶんない。宿の送迎サービスはないからタクシーを探すくらいか。雌阿寒登山を兼ねて歩いて目指すツワモノならどうにでもなるだろうが。

とにかく我々はレンタカーで屈斜路湖→摩周湖→阿寒湖を経てオンネトー展望デッキまでやって来た。森に囲まれた静かな湖は何やら神秘的なムードを漂わせており、対岸の先に並ぶ雌阿寒岳と阿寒富士がグッドルッキング。時期的・世情的に我々以外の観光客はほとんどなく、静かで大変良い雰囲気だった。
オンネトーと雌阿寒岳・阿寒富士
ついでに少し場所を変えて撮ってみたのがこれ。天気に恵まれたのはラッキーだった。
オンネトーその2
オンネトーから野中温泉までは2km。そこだけちょっと土地を切り拓いたようになっていてすぐわかる。冒頭写真の建物はもともと別館だったようで宿名標には「別館」の文字が除去された跡がある。ちなみに隣の本館は別館よりも素朴なつくりで、もとはユースホステルだった。現在は日帰り入浴専門で営業している。
野中温泉 本館(日帰り入浴)
近くには雌阿寒岳登山口があり、雌阿寒岳の懐に入り込んだようなロケーションだが、それゆえにかオンネトーで見たような山の全体像が見えるわけではない。当館を除くと周囲にあるのは閉館した1軒の元旅館くらいで民家・店舗・耕作地などは一切なく、これはもう秘湯と呼んでよかろう。


秘湯宿の雰囲気はばっちり

割り切るところは割り切ったお手頃宿

ではチェックイン。玄関の左手にフロント、右手は「ふれあいの部屋」。湯あがり休憩室かな。
ふれあいの部屋
館内はわりとしっかりしたつくりで(失礼)、古い・ボロいといった様子もない。割り当てられた部屋は1階大浴場へ向かう廊下の途中にあった。廊下に沿ってサイン入りの色紙や白煙を上げる雌阿寒岳の写真がずらーっと並んでいたのが印象的。廊下の窓からは源泉施設らしきものが見える。

我々の部屋近くの壁には浴室の電灯スイッチがあった。大浴場までまだ結構な距離があるのに、なぜここにスイッチが? という疑問を抱きつつ部屋に入ると、なんと予想外の8畳+8畳二間。大サービス。
野中温泉 二間客室
室内全般にくたびれたところはなく、むしろ新しい感じもあって居住性はばっちり。一方、リーズナブルなお宿として割り切るところは割り切っていて、トイレ・洗面はない。フロント寄りのところに共同トイレと洗面所がある。シャワートイレではなかった気もするが管理は行き届いており清潔感あり。ちなみにメンバーのひとりが大浴場寄りのトイレに行ったら和式だったそうだ。お好みでどうぞ。

また室内に金庫・冷蔵庫はない。入浴用のタオルはあるがバスタオルはない。布団はセルフでお願いします。WiFiはあり。自分のスマホについてはキャリアの電波も普通に入った。窓の外は先ほど見た本館。
窓の外

野中温泉の主(?)が巡回中

ここで当館の重要なキャラに触れておこう。時おり猫が廊下を歩いている。もう慣れたもので人間が近付いても平然として媚びてくることもない。こちらにはまったく興味がないご様子。

翌朝この猫が、さも当然といわんばかりの顔で部屋の中へ入ってきたのだ。敷いたままの布団に潜り込もうとするポーズを見せつつ悠然と室内を巡回していた。相変わらず人間の存在を無視するような振る舞いだったが。
野中温泉の主?
このトラ猫以外に少なくとも黒猫と毛色を忘れたもう1匹がいることは確認している。


期待に違わぬ濃ゆい温泉

これぞ秘湯って感じ

期待の大浴場は1階廊下の奥、右が男湯・左が女湯で入れ替えはない。脱衣所ではさっそくかなり濃い硫黄の匂いが漂ってきた。ていうか、野中温泉に到着する前からすでに車内にタマゴ臭が入り込んできてたし、フロントや部屋の中も微かに匂ってた。半端ねー。

分析書によれば「含硫黄-カルシウム・マグネシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉(硫化水素型)、低張性、中性、高温泉」とのこと。とても多くの成分が表記されているしマグネシウムが出てくるパターンは結構珍しい。半端ねー。

浴室は完全に秘湯系・湯治系に振り切っていた。まずカランはありません。シャンプー・石鹸の類いもありません。これには泉質面や環境保護面の事情もあると思う。泉質が強烈なので丁寧にかけ湯をするだけでも汚れは落ちそうだけど。

ハイクオリティを見せつける内湯

そのかけ湯がやたら熱いので隣の蛇口から水を出して混ぜないと厳しい。そして内湯浴槽はもっと熱い。春先に入った角間温泉とまでは言わぬが相当なレベル。こいつは効くぜ。

ぬる湯派の自分の好みとは正反対の温度だが、湯質そのものや湯船・浴室の雰囲気はさすがに素晴らしい。青白く濁ったお湯の中で細かく白い粒が漂い、湯の中に入った最初の一発目の肌には泡が付く。トドマツ造りという5名サイズの浴槽は秘湯感いっぱいで幸せな気分になれる。熱くて長く居座ることはできませんがね。

湯口からの投入量は十分すぎるほどで、オーバーフローして出ていく量も半端ない。マクロ視点で見れば源泉を単にいったん浴槽に貯めてそのまま捨てているのと変わらないかのようにも思えてしまう。それほどの贅沢な源泉かけ流しであった。

濃縮アブラ臭の露天風呂

露天風呂もある。石造りで一部が浅く作られており、そこに1名を置けば全部で4名いけるサイズ。お湯はやっぱり熱いものの内湯よりは一段低い。我々はほとんどの時間をこちらにあてた。内湯はたまにガツンと刺激を味わいたいときや、最後あがる前のラスト一発に向いてるんじゃないかと思う。

露天風呂のお湯の特徴は内湯と同様。みんな大好き白濁硫黄泉を存分に楽しむことができる。お湯の匂いをクンクン嗅いでみたらタマゴ臭なんてもんじゃなく、はるか先を行っていた。あの匂いが凝縮されすぎて、もはや油性インク臭。なんじゃこりゃあ。

野生動物のご訪問

周囲は見通しのきいたパノラマ風景とかではないけど大自然の中って感じはある。そしてまさに秘湯というべき事態に遭遇した。近くの斜面に突如エゾシカが現れた! 1頭、いや2頭か…いや待て3頭目が来たぞ、おっと4頭目キターーー。鹿は一瞬だけこちらの存在を警戒する素振りを見せると、どうせ奴ら丸腰で何もできまいと見切ったかのように、あとは平然と草を食んでいた。

こうなると「熊が出るんじゃないか」という妄想がむくむくと膨らんできた。やっべー。夜ひとりで露天風呂へ入りに行ったときには正直かなりドキドキした。お湯が熱いからと自分に言い訳して短時間であがりました。

風呂あがりの体はかなりホカホカするのに不思議と汗は出てこない。脱衣所で汗が引くのを待つ時間がいらないくらい。キレの良い温泉といえよう。そして肌がすべすべになる。


気取らない食事はむしろ好感

夕食はこういうのでいいんだよ

野中温泉の食事は朝夕とも1階の食堂で。夕食時は部屋ごとに割り当てずみのテーブルに着席。客数が少なめだったこともあって他グループとの距離は十分に空けてあった。スターティングメンバーがこれ。
野中温泉の夕食
北海道のフキは巨大だと聞く通り、小鉢のフキがやたらと太かった。主力級はきのこのホイル包みと豚しゃぶ。自分の年齢だとビールのお供にいただく料理としては十分な面子だ。それに途中で大きめの天ぷら他が追加される。

お腹パンパンになる手前くらいの量で完食できたから絶妙な量だった。他のメンバーも「あれくらいでちょうどいい」との意見だった。量のことだけじゃなく、当宿のようなコンセプトの旅館に絶品グルメを求めるのがお門違いである前提に立てば、お味の面も合格点。こういうのでいいんだよ。

朝食でマイオリジナル丼を

朝食はたしか席が決まってなかった気がする。まあ前夜と同じテーブルに着きましたけど。おっ、山菜ありますな。
野中温泉の朝食
気まぐれの思いつきで、納豆にあわせる生卵をあえて単独で使い、卵かけご飯にしてみた。そこへ山芋を混ぜてドロドロ丼。トッピングにほぐした魚や山菜を。納豆を入れないのでネバネバ丼ではないところがポイントだ。何を言ってるのかわからねーと思うが自己満だから気にするな。

食後はセルフサービスでおコーヒーをいただける。

 * * *

もし泉質重視、あるいは秘湯を求めての宿探しであれば、野中温泉は十分候補になり得る。温度の好みはともかくとして一度は体験してみたい温泉であるのは間違いない。しかもお手頃すぎる価格。

そのためだけに足を延ばすのは…と躊躇しなくてもよい理由として、これまたおすすめスポットのオンネトーが近いという利点があげられる。オンネトー&野中温泉(&人によっては雌阿寒岳)は結構価値ある組み合わせだと思うがどうか。