このたびの北陸旅行では、かの有名な加賀温泉郷に寄る時間を十分に確保することができず、一軒だけちょろっと立ち寄り湯するのが精一杯だった。その際に選んだのが山中温泉総湯「菊の湯」。北陸では共同浴場を総湯と呼ぶ。
実際に温泉に浸かっていた時間はいつもより短い。もとから短時間しか滞在できない計画だったし、どのみちお湯が熱かったので、そうそう長くいられるものでもなかった。一方で湯殿のつくりや雰囲気には注目すべきところがあり、一度は体験してみてもよいのではないかと思う。
本来なら他の大型温泉地と同様に温泉街や温泉以外に数ある見どころを含めて山中温泉を評価し、語るべきであろうが、そこんところはご勘弁。単身&短信リポートとしてお読みください。
山中温泉「菊の湯」へのアクセス
福井からの山越えルート
小松空港から車で行くことを想定すると、片山津温泉・山代温泉を経由して40分くらいで山中温泉へ到達できる。自分が菊の湯立ち寄り後に小松空港へ戻っていったルートの逆パターンだ。山道とかではなく普通の市街地の道路で走りやすい。
実際に自分が通ったルートはほとんど参考にならないだろう。福井県側から峠越えでアプローチしたからだ。このパターンで行く人はあまりいないのではないか。
しかし自分にとっては最適だった。朝、越前海岸の鷹巣荘をチェックアウトして坂井市の丸岡城を見学し、それから山中温泉へ向かおうとすると、県境の大内峠を越えていくのがベストだとカーナビも支持&指示していた。じゃあそれで。
丸岡城から県道10号を山の方へ登っていく区間が一番やばかった。道幅は狭いしカーブは多いし落石注意だし。むしろ山の上の方で国道364号に合流した後は急に快適になった。大内峠も直線的なトンネルでぶち抜いてしまう。あとはだらだらと下って山中温泉街へ到着。
無料駐車場が町中のあちこちにある
温泉街のあちこちに観光客向けの無料駐車場がある。平日だったのでガラガラ。芭蕉の館という資料館近くの駐車場に止めた。菊の湯まで歩いてすぐ。
で菊の湯に着いてしまったわけだが、どうやら男湯と女湯で別々の建物に分かれているようだ。女湯の建物にカメラを向けてると不審者事案が発生してしまうため、かわりに近くの足湯&飲泉所を撮影。
お湯を飲んでみたくはあれど、このご時世で「コップは自前で用意せよ」とのことで断念。マイコップなんて持ち歩いてないよ。もちろんロボコップも持ち歩いてないしな。ついカッとなって隣の山中座を撮影してみた。観光案内所と山中節などの伝統芸能の紹介を兼ねた施設。
共同浴場「東の横綱」に選ばれた菊の湯
レトロ調デザインが目を引く
いいかげん男湯へ行こうか。冒頭写真のようなレトロモダンなデザインの建物だ。入口の前には小さな飲泉所があった。思い切って手のひらでお湯を受けてみたらとんでもなく熱くて耐えられずにすぐ捨てた。やはりマイコップがないと飲泉体験は無理っすね。
お湯の熱さを予感しながら入場。460円。下駄箱の近くに貴重品ロッカーあり。コイン不要か、あるいは少なくともあとで戻ってくる。ここにコストをかけた記憶がないので。
入ってすぐの番台から脱衣所まで、わくわくさせられるレトロ調のデザインでまとめられている。どこがどうとは逐一指摘できないものの、ちょっと大正ロマンぽい雰囲気も随所に取り入れられている。脱いだ服や小物は鍵付きのロッカーに入れるから安心だね。
壁に全国の共同浴場の番付表が貼ってあり、当湯が見事東の横綱に選出されていた。ほう、やるじゃない。となると一度は体験してみるべきなので来た甲斐があったな。また分析書には「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉、低張性、アルカリ性、高温泉」とあった。加水なし、冬は加温あり、循環・消毒あり。
熱い・立ち湯・ジェット
浴室は広い。左右の壁に20台のカランが並び、中央の大部分は25名以上が余裕で入れそうな巨大浴槽で占められている。手前には2区画に仕切られたかけ湯槽。一方は水だからお湯の方を容器に溜めて体にかけた。アッチーーー!!! やけどするかと思ったぞ。これはやばい熱さ。いきなり全力で浴びないように注意。
カランやシャワーから出てくるのは温泉との情報あり。またシャンプーや石鹸の類いは置いていないため、各自で持参することになる。
かけ湯での体験から確信を抱いた通り、湯船のお湯もやっぱり熱い。一風変わった特徴といえば結構深さがあって立ち湯のノリになる。湯船の真ん中に柱が立っていて四方にジェット流を噴出していた。つまり広大な立ち湯+真ん中付近は立ちジェットバスという、よそではあまり見かけない構成だ。
お湯の見た目は無色透明。匂いや感触にも強い特徴があるわけではない。わかりやすい尖った特徴を求めると肩透かしを食うだろう。先の番付評価はお湯のクセとか物珍しさではなく、浴場の雰囲気・地域との関わり・歴史など総合的な要素を加味したものと考えられる。
さくっと入ってサッパリしたい人向け
あーそれにしても熱いわ。1回出ますね。洗い場へ逃げてしばし休憩。奥の壁に描かれた古い絵巻物風の巨大絵画を見ながらクールダウンに徹した。あらためて全体を見回すと、レトロモダン調でありながらもリニューアル感のある新しさは万人向け。
再びお湯に浸かってみたけどやっぱり熱い。何分も粘っていられる温度ではない。まあだいたいのところは体験できたし、念のため時間に余裕をもってレンタカー返却したかったので、短い滞在ではあったが出ることにした。入浴後はさっぱり感多め、ただし汗はなかなか引かない。
菊の湯にちょっと入っただけで山中温泉を立ち去ったのは、温泉街の懐の深さを考えるともったいないことだったろう。わかっちゃいるけど時間の都合でしょうがない。別の機会があればその時に。
ついでに山代温泉を偵察
山中温泉を出発して小松空港まで移動する途中に山代温泉を通りかかったので、2箇所の共同浴場をチラ見偵察してみた。ひとつは総湯。広くて新しいとのこと。
向かいには古総湯。うっかり裏側を撮影したようだ。正面入口は反対側にあった。こちらは明治時代の総湯を復元したものだという。
山代温泉は、マンションや普通の会社の事務所なんかが並ぶ市街地の一角に旅館や総湯が突如固まって出現する、といった雰囲気であった。
おまけ:現存12天守・丸岡城の見学
おそろしく急な階段
県をまたいでしまうので本記事に含めるのがふさわしいのかどうか迷ったが、山中温泉の前に訪れた丸岡城について。現存12天守のひとつであり福井県へ行くならクリアしておきたかった。
今は公園になっている敷地のこんもりした丘の上に天守があった。見学料450円。
購入したチケットで「歴史民俗資料館」と「一筆啓上日本一短い手紙の館」にも入場できる。“一筆啓上”は丸岡城主本多成重の父・重次が長篠の戦いの際に妻に宛てた短い手紙のエピソードから来ている。
お城の天守はどこもたいがい急階段だけど丸岡城は特に急だ。補助ロープがないと上り下りできません。
「一筆啓上」の里
ふう、無事に最上層へ着いた。
一例として西の方角の景色がこちら。よく目を凝らすと鉄道の高架線が見える。たぶん建設中の北陸新幹線ではないかと思う。
天守じたいは大規模ではないので、さらっと回るだけなら20分あれば足りる。歴史好きの方は説明をじっくり読んだりすることを考慮して長めに見積もっておくとよい。
で、その後は資料館と日本一短い手紙の館にも行ってみた。後者は一般の方から寄せられた、家族への短い手紙の優秀作品を展示している(ユーモアのある内容が多い)。その3階は展望室になっており、ベランダから丸岡城がよく見える。
で、それから山中温泉へ向かったというわけだ。