春が来た。長い冬の巣ごもりはもう終わり、そろそろ反撃してもいいですか? というわけで再開した温泉旅行の第2弾が長野への一人旅。1泊目の地はエメラルドグリーンのお湯に興味をそそられた戸倉上山田温泉。ぬる湯好きだけどたぶん熱いんだろうなーと覚悟しつつ。
おひとりさまOKの宿を探した結果、一人旅向けプランが出ていた有田屋旅館さんのお世話になることに決めた。口コミを調べてみても評判は上々だ。よし行くぞう。
お湯は予想通り熱かったものの、見た目の美しさばかりでなくクオリティ全般が優秀。しかも諸般の事情により貸切風呂的に独占して使うことができたのである。やったぜ。料理も自分の味覚にマッチしていたのか大変美味しく、珍しく箸が進んであっさり完食したのには我ながら驚いた。
戸倉上山田温泉・有田屋旅館へのアクセス
東京方面から車だと上信越道・坂城ICから国道18号を下っていくことになる。しなの鉄道・戸倉駅まで行かない手前のところを左折して千曲川にかかる橋を渡る。万葉橋ならばっちりだし、大正橋なら少し行きすぎだ。自分は車じゃなかったから未確認だけど温泉の案内標識が出てるんじゃないかな。
松本あたりからだと長野道・姨捨スマートIC下り出口からアプローチできるようにも見える(当ICは上り方向だと出口がないから注意)。まあそっちから来るような地元の方ならもっと最適な下道ルートを知っていて、ささっと行けてしまうんだろう。
今回は鉄道旅。上田で新幹線からしなの鉄道に乗り換えて戸倉駅下車。駅から当館を目指してまっすぐ行くなら徒歩30分。あちこち見ながら散歩チックに進むと1時間。天候や足腰の問題で歩けないなら、バス便はあてにできなそうだから、どうにかしてタクシーを呼ぶか、宿に送迎を相談してみるかになる。
外湯探索もしたかったのでぶらぶら歩きで行った。途中で外湯のひとつ・白鳥園に立ち寄り入浴しつつ、万葉橋を渡って温泉街へ。メインの大通りから1本裏通りに入るとスナックの類いの店がやたらと多い。かつては有数の歓楽街として名を馳せたらしいが、当時は誰も歩いてなくてひっそりしてた。昼だからか。
そんな昭和演歌の世界そのまんまの裏町酒場に隣接しつつもメイン大通りに面している有田屋旅館は、いたって普通な、家族旅行にも使える雰囲気の温泉旅館である。
レトロ感もありつつ新しいところは新しい
有田焼が並ぶ館内
ロビーにあたるスペースには数多くのコーヒーカップを飾る棚があった。おじさんに見分ける目はないけど、有田焼だと思う。というのも、大正時代の創業者が有田焼の行商を営んでいたことから有田屋の名前がついたそうだし、料理に使われる器が有田焼なんだって。
1階の廊下にも壺や皿などが展示されている。状況背景からいって有田焼でしょう。
一人旅には贅沢なスペックの部屋
さて案内されたのは1階の和洋室。一人旅プランだからといってふだん物置きにしてる部屋をあてがうなんて差別をしないのは立派。8畳和室にツインベッドルーム、むしろ贅沢ですな。
ピカピカの新しさはないけど、更新すべき設備は更新されていて居住性はばっちり。洗面台やシャワートイレやエアコンなんかは全然新しいしね。その他の部分も管理状態はおおむね良好。ちなみにベッドルームはこんな感じ。
金庫あり、空の冷蔵庫あり、WiFiあり。エアコンを操作したら「○○します」と音声で返してきたので一瞬びびった。いまどきは喋るのか。あと風呂あがりにビールを求めてお風呂場近くの自販機の前に行ったら故障中だった。温泉の硫黄分ですぐやられてしまうらしい。すげーな。調理場にあった瓶ビールを出してもらいました。
窓の外はこんな感じ。
スナックの看板が見えたりもする。夜ベッドに入ると「ありがとうございましたぁ~」と客を見送るママの声がたまにちょろっと聞こえてくることもあるけど、気になるほどじゃない。大騒ぎや歌声が聞こえてくるわけじゃないし。すぐに寝落ちした。
エメラルドグリーンを湛えたお風呂
貸し切り運用の大浴場へ
有田屋旅館の浴場は1階。大きいのと小さいのがあり、ふだんは男湯女湯として使い分けていたようだが、コロナ対策のために貸し切り運用になっていた。つまり大小を問わず、扉の前の札が裏返っていればいつでも何度でも利用可能。札を「利用中」に返したら中へ入って内鍵をかける。
チェックイン直後に大きい方へ行ってみた。脱衣所に分析書があったかどうか覚えてない。少なくとも部屋に置いてあった案内冊子の中に分析書のページがあって、「アルカリ性単純硫黄温泉、低張性、アルカリ性、高温泉」とのこと。
漂う空気がすでにツーンとタマゴ臭。いいんじゃないですか。期待が高まる。浴室は昭和レトロな雰囲気もありつつ、客室と同じく更新すべき箇所は更新されている。洗い場は3名分。カランも硫黄ですぐにやられちゃうんだろうから大変だね。
色と匂いが印象深い、超本格派の温泉
中央には4名サイズの浴槽があってお湯の色はまさしくエメラルドグリーン。よくぞこんな絵の具で作ったような美しい色になるもんだ。近いのでいうと新潟の咲花温泉の色かな。第一印象は若干青みが混じった透き通った緑、チェックアウト直前に入った時は日の当たり具合のせいか、黄みが強まって黄緑ぽく見えた。
浸かってみると、うん、やっぱ熱いわ。若干熱めの適温。寒い季節だったらむしろホッとする熱さかも。なぜなら、慣れてくると出たくなくなるのである。何十分も長湯は無理だけどね。どのみち貸し切り運用だから、あんまり長く占有するとひんしゅくを買ってしまうし。
匂いを嗅いでみたら典型的な硫化水素のタマゴ臭。あやうくタマゴを通り越して焦げタイヤ臭になりかけていた。そのレベルまでいくと頭がクラっとしそうになる。こいつは本物だぜ。あのやばい匂いが充満したらやばすぎるから、換気は重要ですな。窓を開けてあるのは正解だ。
大きい方の浴場には夕食前に2回、翌朝チェックアウト前に1回入った。湯力があるだけでなく見た目も楽しい、本格的な源泉かけ流しのお風呂である。
新しめの浴室にあつ湯の小浴場
夕食後と翌朝起床後には小さい方の浴場へ。こちらは後から作ったのかな、レトロなところはなくて全体が新しい感じ。浴室の壁は下半分が木板で上半分がタイルのツートン。床は和モダンスタイリッシュな貸切風呂なんかで見られる畳方式だ。
洗い場は2名分。浴槽は2~3名サイズで浸かってみると明らかに大きい方の風呂より熱い。あつ湯といっていい部類だ。湯口から惜しみなく投入される源泉量が浴槽サイズに比べて潤沢だからじゃないか。やってくれるぜ。
お湯の特徴は大きい方と一緒。ただし夜の時だけ湯の花がすごかった。なんか綿ボコリのようにも見える黒っぽいのや白っぽいふわふわしたやつがたくさん浮遊していた。知らない人が見たら「掃除してないのかよ」と思ってしまいそうな。犬鳴山温泉・山乃湯で見たほどまでの量では全然ないが、あれを思い出してしまった。※翌朝は湯の花がだいぶ消えていた。
熱いから、半身浴→全身浴→浴槽を出て休憩、を何度も繰り返す。お風呂にたくさん入ると普通は指先がしわしわになるんだけど、この温泉は違った。逆に皮膚にピーンとハリが出て、表面がテカテカになったのである。よくわからんが、なんかすごい。
有田焼とともに楽しむ食事
自分の口にはよく合った夕食、言うことなし
さあお楽しみの夕食です。少なくとも今回のプランだと部屋食になる。18時と18時半から選択できて18時でお願いした。スターティングメンバーがこちら。
ひゃっほう、信州のそばだ。他にも肉あり、海鮮あり、川魚あり、野菜ありで申し分ない。有田焼なんだろうと思われる各器に盛られた料理は、自分の口によく合った。満腹感を感じる間も箸が止まる間もなくスッスッと胃袋へ消えていったのである。自分にしては珍しい。地酒飲み比べセットとの相性も良し。
銘柄の知識もなければ利き酒できるほどの味覚もないけどね。気分ですよ気分。途中で天ぷらともう一皿が追加され、もう何も言うことはない、ってくらいに食べて飲んだ。これぞ温泉旅行の醍醐味だぜ。ぐへへ。
締めのご飯もいただいて、デザートは抹茶ムースのようなものだったと思う。いやあ結構結構。地の物が~とか、ひと手間の工夫が~系の話は正直わからないけど、とにかく自分の味覚にはマッチして美味しくいただくことができた。それだけで十分だ。
燻製3兄弟が出てくる朝食
朝食も部屋で。7時半か8時を選ぶことができて8時から。鍋に入っているのは湯豆腐。
納豆のように見えるのは、なんていったっけ、忘れた。糸を引くネバネバの典型的な納豆とは違う。あと、燻製3兄弟が珍しかった。玉子・チーズ・鴨肉のスモーキーフレーバーな味わい。しかも味噌汁に使う味噌は自家製だという。ふだん飲んでる市販系の味噌とは違う方向性の新鮮味があった。
あまり腹いっぱいで苦しくならないようにとご飯の量をセーブしたのが惜しまれる。まあ仕方ない。食事の後にはコーヒーを出してくれる。カップはロビーに飾ってあったやつでしょう。優雅にすすって…うーん、マイルド(てきとう)。違いのわからない男。
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うん、いい旅館ですね。旅行業界ではまだまだ肩身の狭い一人旅に対しても手抜かりのない部屋とサービスを提供してくれるし。また、このご時世、他者との接触ということに敏感な世情を考えると、部屋食や風呂の貸し切り運用もありがたかった。※今後どうなるかは保証ありません。
なにより噂に違わぬ戸倉上山田温泉のエメラルドグリーンのお湯は一見の価値あり。もちろん見るだけじゃなく入ってみなければその真価を体験することはできない。入ってみれば、熱いながらも確かな湯力を感じることができるはずだ。
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