久しぶりの温泉めぐりはまず無難に1泊2日のグループ旅行から。行き先は比較的近場の石和温泉。もちろん名前は知っているし、電車でも車でも行きやすい場所ではあるけど、それほど馴染みがあるわけじゃなかった。さてどんな温泉地なんだろう。
今回のお泊り先は「ホテル八田」。この規模のホテルならではの、開放感ある露天風呂と、好みに合わせて幅広い選択肢から選べるさまざまな温度の浴槽が特徴だ。ほかにワイン風呂なんていう珍しげなお風呂も楽しめるぞ。
当時だけの特別大サービスだったかもしれないが、なんといってもコスパがすごい。本当にこのお値段でよかですかって感じ。食事面に関してはおかげさまで久々に質・量ともしっかり摂取することができたのだった。
石和温泉・ホテル八田へのアクセス
東京方面から車だと中央道・一宮御坂が最寄りのICになる。桃狩りやぶどう狩りのできる果樹園がいっぱいあるところですね。ICから北上すると10分かそこらで石和温泉街に入る。途中には案内標識も出ているはずだ。
途中には山梨のお土産といえばこれ=信玄餅の工場がある。昨今の残念な世間情勢さえなければ工場内を見学できる。また信玄餅をお得に買えるアウトレット売店なんかもある。実際の我々は甲府で合流した後に山口温泉に立ち寄り入浴し、信玄餅工場へも寄り道しつつ、石和温泉へとやって来た。
温泉街には旅館が多く立ち並ぶ「湯けむり通り」と「さくら温泉通り」があって、当ホテルはさくら温泉通りの側にある。この通りは用水路に沿って桜の木が植えられており、開花の時期にはさぞかし見栄えがするんだろうなと思わせた。
当ホテルの名前は武田氏家臣・八田家からいただいたものと思われる。付近には八田という地名があるし、八田家書院なる史跡もある。歴史に興味のある方はどうぞ。
なお、鉄道利用の場合はJR中央本線・石和温泉駅が最寄り。近くを通ってみたら結構モダンでおしゃれな駅舎だった。駅南口から東南東を目指せばさくら温泉通りにぶつかる。ホテル八田までは徒歩15~20分。まあこのクラスのホテルはさすがに駅まで送迎してくれる。
落ち着いた雰囲気と安定感のあるホテル
久々の旅行者を浮かれさす優雅な館内
ではチェックイン。目を引くのはロビーのあたりで、鯉の泳ぐ池がすぐ近くに見える。優雅ですなー。久しぶりの温泉宿にちょっと浮かれてたかもしれないな。
またお土産コーナーも充実している。結局ここでは買わなくてすいません。
やっぱりワインが前面に出てきてるな。同行メンバーと「山梨の(お土産になりそうな)名物といえば何だっけ?」が話題になったとき、いろいろ思い出そうとしたんだけど、信玄餅・ワイン・ほうとうしか出てこなかった。あと個別のブランドで富士山なんちゃらは多そうだ。
勝手に大規模ホテルのイメージを持ってやって来たら、実際の館内はそこまで広々としたものではない。とはいえ宿の評価は規模で決まるわけじゃない。丁寧な応対や落ち着いた雰囲気はなかなか良いものを感じた。
源泉風呂付きの部屋は好天なら景色が良さそう
このご時世なので部屋まで付き添ってのご案内は控えさせていただいております。なので自分たちで3階へ。エレベータを降りると、フクロウだかミミズクだかのいささかユーモラスな置物が和ませる談話スペースがあった。平時ならば旅の陽気な気分と活気を演出してくれる仕掛けだったろうに…。
このように館内はごちゃごちゃしたり狭苦しい印象を与えるところがない。我々の泊まった客室もそうだった。はい、どーん。8畳+広縁を発展させたような憩いの間。
我らにとっては十分に立派なクオリティで快適そのもの。洗面台・シャワートイレ・金庫・別途精算のお酒やドリンクの入った冷蔵庫・空気清浄機を含む空調もばっちり。フリーWiFiあり。
驚いたのは内風呂。なんと源泉100%だそうな。部屋にいながらにして源泉かけ流しをできちゃうのかよ。結局利用することはなかったが、大浴場まで行き来するのがちょっと…という事情を抱えたお客さんにとっては、ありがたいんじゃないかな。
窓の外はこんな感じ。撮影時は雲が多くて遠くの山並みがよくわからなかった。もうチェックアウトの時間が迫った最後の最後、空が晴れて山の稜線がようやく現れたとき、意外と高く・近く見えたのが印象に残っている。たぶんあれが富士山じゃないか、と思われる白い“八”の頭も見えた。
あちこち入って楽しめるお風呂
万人向けの内湯
ホテル八田の大浴場は1階にある。フロントの裏へ回り込むような通路から湯上がり休憩スペースへ。ここにはビールやお茶・ジュースの自販機がある。そのすぐ隣が大浴場で当時は入って右側が男湯。時間による男女の入れ替えはなかった。
脱衣所はまあ広くも狭くもなく規模に見合ったもの。掲示された分析書には「アルカリ性単純温泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。一部加水あり、冬期加温あり、循環・消毒あり。自分はぬる湯派なので、高温泉ということでどこまで熱いのかが気になる。でも、同じくぬる湯派の同行メンバーが一度体験ずみのうえで当館をおすすめしてきたくらいだから、あまり心配していない。
浴室は全般に新しめで小ざっぱりとした雰囲気で清潔感もあり、万人向けの安定感があっていいんじゃないでしょうか。カランは12台。全部が埋まってしまうことはまずなかろう。
内湯には10名サイズの浴槽が1つ。奥の3名分ほどの領域はジャグジー風に泡をボコボコさせていた。注がれるお湯は清澄な無色透明である。浸かってみると適温、いやちょっと熱めかもしれないな。この季節の一般受けを考えたら納得の範囲だ。
次いでお湯の匂いをチェック。自分のセンスだと塩素臭は感じられず、むしろ単純温泉らしいほのかな甘い硫黄香が連想された。ヌルヌルした感触は特になし。
長湯向きの小露天風呂と低温風呂
内湯にずっといたらのぼせてしまう。露天風呂へ行ってみよう。露天エリアへ出てすぐ右手に2名サイズの小浴槽があった。こいつが微妙にぬくぬくとする程度にぬるいから侮れない。ずーっといつまでも入ることができてしまう優秀な風呂だ。よほどのことがない限り、見知らぬ誰かが隣に収まる展開はないはずだから、独占できそうだしね。
小浴槽の目の前に小屋があって中に岩風呂が見える。低温風呂とのこと。お湯に手を突っ込んでみたら、水風呂級まではいかないものの、かなりハードなぬる湯。「ふーん、まあ今はいいや」と思ってパスして以後、なぜか試しに入ってみることすらしなかったのは、我ながら理由がわからない。永遠の謎。
さあお好きなところへどうぞ…温度の幅が広い岩風呂群
露天エリアを奥まで行くと、大小4つの岩風呂からなる主役が現れた。最大のやつは10名以上が余裕で入れるかわり、お湯は熱くて長湯はできない。途中でスタッフの方が温度チェックに来て「ちょっと熱すぎますかね」って反応だったから、この日の源泉コンディションがとくに熱かった可能性がある。とにかく一番広いけどほぼ利用せず。
その隣の一段低い位置に作ってある4名サイズのやつが先の小浴槽よりもさらにぬるかった。パスしてしまった小屋の中の低温風呂からパイプを通じてこちらへお湯が流れてきており、別途で流れ込んできている熱めのお湯と混ざり合って、うまい具合に温度が下がっている。場所によっては体温より低いくらいのスポットもあった。ぬる湯好きは狙い目。
その隣の一段高い位置にはぬるめの適温を楽しめる2~3名サイズのやつ。ホッとする温度で、寒い時期にはこちらを好むこともあるだろう。ぬる湯で体が冷えてきたかなと思った時にちょうどいい。
その隣は1~2名サイズのあつ湯。「源泉使用のため高温になっています」と注意書きがあるくらいだ。実際かなり熱い。片足突っ込んだだけでこりゃだめだとあきらめた。ガツンとくる熱さを求める方はどうぞ。
このように露天エリアにはさまざまな温度のお風呂が提供されている。一番大きい岩風呂が本来はあんなに熱くない万人向けの温度だとするなら、ほとんどの客の好みをカバーするはず。眺望はないけれども露天エリア自体がそれなりに広くて頭上を覆うものがないので開放感は十分ある。結構ですな。
名物ワイン風呂を体験してみた
さて、当館の最上階にワイン風呂なる浴場がある。温泉に赤ワインエキスを混ぜたらしい。もちろんアルコール分を抜いてあるからお子様も大丈夫。
浴室にカランは8台。4~5名サイズの浴槽に満たされているのは、まさしく赤ワイン色の湯。正確には赤ワインを薄めたようなクリアな赤紫色で浴槽の反対側の底まで見通せるくらいには透明度がある。浸かってみると適温。
匂いが明らかにワインというか、ぶどうの甘い匂いだった。へー面白いね。お子様や酔っぱらいだったら思わず飲もうとしてしまったり…しないか。他の特徴としては、上層階にあるから展望風呂としての性格も持っている。天気の良い日の明るい時間帯だったら結構眺めが良いかもしれない。
温泉宿の楽しい食事を思い出させてくれた
浮かれ気分の夕食、そして満腹
ホテル八田の夕食は2階の食事処で。ちゃんと個室方式になっていて畳の部屋にテーブルを置くスタイル。18時か18時半かを選べたから18時にした。スターティングメンバーがこれ。
聞いた話だと山梨はマグロの消費量がトップクラスだとか。海なし県なのに本当かよと調べてみたら、静岡についで2位という記事を見つけた。人口比換算の寿司屋の数は全国一だって。だから刺身もしっかり出てくるんだな。
目の前の牛肉はワインビーフと説明されていた。鍋は予約時にほうとう・鴨・豚しゃぶから選べる中で鴨鍋すり酢にしてみた。陶板焼きと鍋物がある時点でかなり満腹になる予感だったが、途中で道明寺・天ぷら・魚が追加された時点でもう、うっひゃー。
どうにか完食したけれど、例によって締めのご飯はほんの少しだけ。いやもう食べられませんの無条件降伏状態で席を立った。とはいえ温泉と同様、かなり久しぶりに気分がアガるイベントだったせいか、妙にうれしかったなあ。
和食膳方式になっていた朝食
朝はもともとビュッフェスタイルだったらしいが、このご時世で宴会場での和食膳方式となっていた。個室ではないもののテーブルの配置はソーシャルディスタンスが確保され衝立もあるからご安心を。
朝もたっぷり。小鉢というには一品一品の量が準主役級。これなら昼飯いりませんね。ご飯の量を減らして対応したから、のりや焼き鮭が余り気味の変なバランスになっちゃって、ちょっともったいなかったな。ステイホーム中に胃袋を鍛えるとかいって結局何もしなかった自分が悪い。
お味もなかなか。もし世情が落ち着いてビュッフェに戻ってくれたら、量をコントロールしながら好みのおかずを中心にチョイスすることができて、かなり満足するかもしれない。締めに熱いコーヒーを飲んで終了。
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「頑張ってほしい」には2つの意味がある。ひとつは改善しなさいと尻を叩く意味。もうひとつは大変だろうけど負けずに乗り越えてほしいと応援する意味。ホテル八田に関しては後者だ。
今回かなりのお値打ちサービスだった。えらい得したと単純に喜んじゃったけど、当時の世情からやむを得ないとはいえ、本来ならもっと値を付けられるだけの価値があったと思う。やがて世間が萎縮から解き放たれればそれが可能になるはず。無責任に言い放つだけの立場からで恐縮ながら、その日までなんとか頑張ってほしいと願う。