夕焼けに染まる那珂川の絶景を期待して - 馬頭温泉郷 元湯東家

馬頭温泉郷 元湯東家
真っ赤な夕焼け、沈む夕日を眺めながら浸かる露天風呂は、さぞかし最高の気分に違いない。しかも好みのぬる湯であれば言うことなし。そんな夢を叶えてくれそうな温泉宿を見つけた。栃木県は那珂川町にある馬頭温泉郷。那珂川沿いの景観面を期待できるロケーションだ。

今回お世話になったお宿は「元湯東家」。事前の調査で“お湯がぬるい”との情報を数多く見ていたので、ぬる湯好きの各位に提案して栃木への温泉旅行を組んだ。さあ、あとは当日のお天気次第できれいな夕日を拝めるかどうかだ。

…現実は甘くなかった。お湯はぬるくなくて普通の熱さだった(少なくともその日は)。露天風呂で夕日をボーッと見ながら長湯することはできなかった。

たまたま熱めだったのかもしれず、とくに温度にこだわりがないのであれば、ヌルヌルする美人の湯を楽しめて、リーズナブルなお値段で泊まれるリバービューの宿といえる。

馬頭温泉郷「元湯東家」へのアクセス

ある春の日の早朝、メンバーの一人が出してくれた車に乗り込んで出発。ひどい渋滞に遭うこともなく順調に首都圏を脱出した。空は快晴、これなら夕日を見ることができそうだ。期待に胸膨らませるおじさんを乗せた車は快調に走り続けて矢板ICを出た。

そのまま宿に直行するなら東へ、さくら市や大田原市を越えて那珂川町へ至る。しかし我々がまず向かったのは喜連川早乙女温泉。自分にとっては再訪。詳細は割愛するが相変わらずのすばらしい硫黄+アブラ臭のにごり湯であった。※このエリアでぬる湯を求めるなら、松島温泉乙女の湯を最有力候補とすべきだろうが、当時は首都圏からの客は利用不可だった。

その後は進路を北に取って大田原市に入り、ふれあいの丘天文館(開館時刻よりだいぶ早く着いちゃったのでパス)を経由してなかがわ水遊園を見学。お子様に混じって水槽をのぞき込むおじさま軍団。前半は那珂川に棲む淡水魚がメイン、後半はスケールアップしてアマゾンがテーマになる。あと1頭だけカピバラもいたぞ。
なかがわ水遊園
なおも時間に余裕があったので「道の駅ばとう」に立ち寄りしてから東家に着いた。馬頭温泉郷を貫く県道298号沿いにあり、看板も出てるからすぐわかる。なかがわ水遊園からは車で5分。

電車を利用する場合、JR氏家駅から馬頭車庫行きのバスに乗って道の駅ばとうまで行けば、宿の送迎をお願いできるようだ。


夕日の沈む那珂川を見る客室

昭和風だが諸設備は新しい

正面玄関の自動ドアの前に「温泉とらふぐ発祥の地」という看板が立っていた。栃木県で温泉を利用したフグの養殖をしているとのニュースを昔見た記憶がある。那珂川町だったのね。当館が出している宿泊プランをよくよく見れば、夕食にとらふぐが付くプランもあった。

フロントで靴を脱いでスリッパに履き替えるのかと思ったら、土足のままでいいとのこと。では遠慮なく。ロビーはこのようになっております。窓の向こうは那珂川。
元湯東家のロビー
客室は冒頭写真の奥に見える4階建て(?)の棟にある。我々の入った部屋は3階の10畳+広縁の和室。ふとんは最初から敷いてあった。このご時世では同様の対応をする宿が多い。
元湯東家の10畳和室
館内は正直なところ昭和チックな年季を感じさせるものの、室内はとくに古びたところもなく、洗面台やシャワートイレは十分に新しい。別途申告精算のお酒・ドリンクが入った冷蔵庫あり、金庫あり。WiFiはあるけど1階ロビーのみだったはず。

目の前が広い川だから眺望は良い

さてさて自慢の眺望がこちら。太陽はまだ写真より左上の高い場所にいる。
窓から眺める那珂川
残念ながら時間とともに雲がどんどん出てきて、夕方の太陽は雲のカーテンの向こうに薄ぼんやりと力なく輝くだけになってしまった。絶景的なのをお求めの方はネットで検索すればベストな画像がいろいろ見つかるでしょう。

川の中洲に見える塔のようなものは源泉採取地らしい。対岸は護岸工事中だったり工事車両がたくさんいたりするけど、川幅が広くて距離が遠いから興を削ぐほどではない。まあええわって感じ。景色の印象が泊まるタイミングや天気にどうしても影響されてしまうのは致し方なし。


美肌の湯と川べりの露天風呂

少しトロみ感のあるアルカリ泉

さっそく大浴場へまいりましょう。エレベータを1階で降りてフロントと反対方向(左手)へ。靴やスリッパを脱いで、食事処の広間に接する畳の通路を進むと、奥に女湯・男湯がある。時間による男女の入れ替えはない。

壁に貼ってあった分析書には「アルカリ性単純温泉、アルカリ性、低張性、高温泉」とあった。加水なし、加温・循環・消毒あり。源泉温度は高いから、あれやこれやでぬるくして提供してくれてるのかな。と期待して浴室へ。脱衣所と浴室の仕切りが自動ドアになっているのがモダンである。

まず目につくのは、向かい合わせに5名入れそうな檜風呂。右手の壁に4名分の洗い場。この後体験する露天風呂とあわせて全然古い感じはしない。適度に設備を更新しているのだろう。檜風呂の背後はガラス窓になっていて、ガラスの曇りはあるけどしっかり屋外が見えるから、明るくて開放感がある。

浸かってみると適温。ぬるくはない。無色透明のお湯は少しニュルッとした感触があり、美人の湯・美肌の湯を謳う温泉の特徴を備えている。手ですくったお湯の匂いを嗅ぐと檜の良い香りがありつつ、なにやら硫黄を連想させる火薬臭も感知した。ただしこれは先の早乙女温泉の匂いが手に染み付いて残っていた可能性もある。

露天風呂もぬるくなかった…(たまたまかも)

続いて露天風呂へ移動。この時、床の上のお湯にツルッとすべって転びそうになった。さすがのヌルヌル。気をつけましょう。

外へ出ていくと屋根付きの岩風呂があった。縁に沿って並べていくと6~7名入れそう。ぬるいという情報が目立ったのはこの露天風呂の方だ。内湯は適温だったがこっちはぬるいはず。期待とともにいざ入湯。

…あれれ? ヌルクナーイ! 外気に触れるためか内湯より温度は下がっていたものの、決してぬる湯ではない。そもそものきっかけは、全国各地のぬる湯を紹介する本に載っていたのを読んで興味を持ったのだ。ネットの口コミにもぬるいとの声が散見された。それなのに、おー、なんてこった。

たまたま今だけ熱めのチューニングになっちゃってるのかもしれないと、かすかな希望を胸に全部で5回入りに来たけど、毎度普通の適温だった。まあたしかに旅館自身は「うちの温泉はぬるいです」とは言ってない。ぬる湯を売りにしてるわけじゃない。ぬる湯旅を企てておきながら、お湯の熱い日に来てしまうとは、我ながら運がないな。

自然環境を楽しみましょう

せめて夕方の景色を楽しむとしよう。薄曇りのため夕焼けは見られずとも霞みや雨でないだけましである。黄昏気分で川の流れに目をやりつつ、気を取り直して湯船の中を観察すると、目立たないくらい細かい泡が肌に付いていたし、湯の花の白い粒が漂っていたし、よろしいのでは。

ヌルヌル感は内湯の方が強いと思った。また、匂いは内湯の印象から木の香りを差し引いたようなもので、やっぱり微かに火薬系の主張あり。

すぐそばには竹やぶがあって、翌朝入りに来た時はうぐいすが盛んに鳴いていた。ホーホケキョじゃなくてホーホホケキョ。こういうのは良いね。夜景に関しては遠くの対岸にポツポツ灯りが見える感じ。光の海ではないからロマンチックはほどほどに。


食事はわりと好きなタイプ

田舎料理でもてなす夕食

東家の夕食は1階の宴会場を仕切ったと思われる食事処で。大浴場へ向かう畳の通路の途中にある。個室状態のテーブル席になっているのはありがたい。田舎料理と題したプランのスターティングメンバーがこれ。
元湯東家の夕食
おじさんはこういうの結構好きである。鍋物は猪鍋。このあたりはたしか八溝ししまるというブランドの猪肉が流通していたはず。こいつもきっとそうじゃないか。加えて馬刺し。地元かつ自分の食生活だと絶対に味わう機会のない種類のお肉が並ぶ。単純にうれしい。

このプランでとらふぐの皮が付いてきたのは太っ腹。ビールのいいつまみになった。酢味噌の刺身こんにゃくもよろしい。いいじゃん、全然いいじゃん。途中で天ぷら・そば・鮎も出てきて量的にも十分です。
元湯東家の夕食その2
むしろお腹パンパンで苦しくなってしまった。多めによそってあった締めのご飯を律儀に完食したのが決定打になったと思うが、それだけ満足して全部いただいたということでもある。

朝食はオーソドックスに

朝食会場は夕食と違ってロビーの隣のホールで。こちらは個室じゃなく全員集合方式。案内された席につくとご飯と味噌汁が運ばれてくる。
元湯東家の朝食
オーソドックスな和定食。温泉玉子にはわさびを乗せてある。お魚は火が通ったら頭からバリバリいっちゃってください。前夜ずいぶんたくさん食べたし、朝からそんなにたくさんいらないから、おかずの品はこれくらいでいいだろう。ご飯は茶碗に普通盛りで、他のメンバーはおかわりしたけど自分はやめておいた。

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天気や湯温のコンディションという、その時になってみないとわからない要素を承知の上で、自分が得た範囲の情報だと「川の向こうに沈む夕日が美しいぬる湯」に出あえる可能性がある温泉宿。今回の我々についてはちょっと運がなかった。

そういったマニアックな注文をつけずに、ヌルヌルの美人の湯をリバービューで体験できる宿と考えるなら、お値段的にも手頃でいいのでは。誰もが知る有名温泉地とはいえないが、逆に穴場的な楽しみはあるだろう。