山梨県はぬる湯の名湯の宝庫だという認識は以前から持っていて、これまでも何度かぬる湯めぐりをしてきたけれども、またひとつ、とんでもない大物に遭遇してしまった。ていうか有名どころだし狙ってた。
山口温泉。知ってる人は知っている。ここへ行かずしてなんとする、というくらいの存在だ。しかし電車やバスだと行きにくい、でも車を出すパターンのグループ旅行だと参加者が温泉めぐりに興味ない、と残念なちぐはぐが続いていた。
そうして苦節ウン年、ついにすべてが噛み合った。念願の山口温泉はやっぱりすごかった。ぬるさ加減が好みにばっちり当てはまっているし、肌への泡の付き方が尋常でない。温泉は久しぶりだというのにいきなり2時間も入浴してしまった。
山口温泉へのアクセス
久しぶりの温泉です
春。長い冬を越えて久しぶりの温泉旅行。オラわくわくすっぞ。特急かいじに乗り込み駅弁を食べちゃったりなんかする。この非日常感、この旅情、たまりませんな。自宅でテレワークをし、近所でテイクアウトしたものを食べる毎日の繰り返しでも死にはしないけど、ただ生きてるだけだ。映画マトリックスの中の培養器に繋がれた人間みたいな気分だった。
エージェント・スミス…じゃなくて自粛警察が牛耳る、フェイクニュースとポジショントークにまみれた仮想現実みたいな日常を抜け出して甲府駅に着くと、目の前に立っていたのはモーフィアス…じゃなくて前乗りしていたメンバー。駅前で待ち合わせていたのだ。無事に合流したら車で出発。
伝説的な温泉が湧いてるとは思えぬ立地
今回のメンバーは温泉好き、かつぬる湯好きでもあるので、むしろ積極的に山口温泉に行こうと誘ってくれた。ありがたや。聞けば山梨入りした前日にも山口温泉へ行っていたという。気合いの入り方が半端ない。
車の運転はおまかせで、どこをどう走ったのか、よくわかっていない。アクセス情報を書くべきなのにすいません。少なくとも東京方面からだと中央道・甲府昭和ICから国道20号を竜王方面へ進む。で、どこかで脇道に入って住宅街の細い路地をぐちゃぐちゃっと行かなければならない。ナビ必須。
本当に普通の住宅街の中で、こんなところに温泉が湧いているのか? と信じられないような一角にあるから、予断は禁物。一応看板は出ているけど、目測だけだとなかなかたどり着きにくいだろう。ナビ必須。迷わなければ所要時間的には甲府昭和ICから程ないので首都圏の方にも行きやすいとは思う。
内湯は泡、泡、また泡…
大量にオーバーフローするお湯
館内の風情は小綺麗というより通好みの渋さ。でも入りづらい雰囲気はないから気負わなくても大丈夫。受付で600円を払って左手すぐに男湯の入口があった。ちなみに右手にはちょっとした休憩スペースがあってこんな感じ。
脱衣所には昔ながらの脱衣かごと鍵付きの青ロッカー(無料)がある。お好きな方をどうぞ。壁の上の方に泉質が大きく掲示されており、「ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、低張性、弱アルカリ性、温泉」と書いてあった。毎分680リットルを源泉かけ流しとも。すげーな。
脱衣所からの行き先は二手に分かれる。一方が内湯。もう一方が露天風呂。ではまず内湯から行ってみよう。シャワー付きの洗い場が4名分。奥にある8名サイズの浴槽は岩風呂風に仕立ててあり、縁から大量のお湯がオーバーフローしているのが見えた。
それもそのはず、龍の頭の形をした湯口から投入される源泉量がとんでもない。贅沢過ぎるかけ流しといえよう。お湯は茶色っぽいようでもあり無色透明のようでもあり、その中に細かい泡が密集して漂っている。とくに手前側の一部は泡が集まりすぎて(?)白く濁っていた。すさまじいな。
わかっていても驚いてしまう泡付き
浸かってみると快いぬる湯。若干ぬくいから38~39℃くらいか。季節的にはちょうどいい。人気があって混んでいてもおかしくない当湯が、このときは幸いにも非常に空いていたから、湯口の近くを陣取ってみた。注がれる源泉によって作られる複雑な流れが体にぶつかって来るのにあわせて泡がパチパチと弾ける感触がする。なんじゃこりゃあ。
暗くてよくわからないけれどもかなりの泡付きがあるようだ。山口温泉の特徴として事前にわかっていても実際に体験すると驚いてしまう。
お湯の匂いを嗅いでみた。ちょっと硫黄ぽい玉子風味を想像していたら違った。印象に残ったのは金気臭。ぬるい+泡+金気臭の豊富な源泉かけ流しか、いやあ大したもんだ。特別な地理的条件に見えない市街地の中でよくぞまあと感心するのみ。
最強クラスといえる露天風呂
絶妙な温度がたまらない
いやがうえにも高まる期待の中、脱衣所を通って露天風呂へと出ていった。待っていたのは10名サイズの岩風呂。屋根付きで結構立派なつくり。囲いのために外の景色は見えないけど(どうせ住宅街だし)なかなかの風情を醸し出している。
こちらのお湯はクリアな黄色味を伴っている。あるいは黄緑に見えなくもない。ぬるい+泡+金気臭+色付きとは、もはや非の打ち所がない。奥の方の2箇所にあるパイプのような湯口からドボドボと源泉が投入されていてやっぱり湯量豊富。
浸かってみると内湯よりもぬるかった。不感温度帯、適当にいうなら36℃前後ではないかと思う。自分のどストライクである。寒気を感じることなく、のぼせてきたから出ようなんて気にもならず、なんの負担も感じないから永遠に入っていられる温度。こいつはやばい。
明るい時間帯の露天風呂なら泡付きをはっきりと視認できる。…うわあ、肌にびっしり。スーパー銭湯によくある人工炭酸泉も目じゃないくらい。付いた泡を払ってもすぐまた復活する。天然温泉でこのレベルの泡付きは貴重中の貴重。実際に笑うことはないが(変質者になっちゃうんで)比喩的な意味で笑いが止まらない。
至福の長時間入浴
なお内湯とともに飲泉可能である。湯口から出てくるお湯を手のひらで受けて飲んでみたらやっぱり鉄のような後味があった。まあ全然飲めますけど。あと炭酸シュワシュワみたいなのはない。大量に飲めばシュワシュワするのかな。
このご時世は黙浴必須だし、もともと入浴中に雑談する習慣を持ち合わせていない。黙ってお湯に浸かっていると気持ち良くて眠気が襲ってきた。ウトウトしてはハッと我に返り、またウトウトする…それを繰り返していると1時間などあっという間に過ぎた。
2時間粘ろうと打ち合わせて入館した際には、正直なところ「久しぶりの温泉だし2時間も入っていられるかなあ」と自信を持てなかったが、少なくともここ山口温泉に関しては全くの杞憂であった。一時内湯へ戻ったりはしたものの、いったん風呂を出て休憩する必要など全然なかった。
* * *
1時間経過してのぼせるどころか絶好調。残りの1時間も泡に包まれながら至福のリラックスタイムとなった。こうして打ち合わせ通り2時間で上がり、服を着ていると体中が妙にぽかぽかしてきた。ぬるい湯の中にずっといただけでこんなに温まるとは。
最後まで感嘆の種が尽きない山口温泉、ぬる湯や強烈な泡付きがどれだけ一般受けするかわからないけど、稀に見るハイクオリティな温泉であることは間違いない。