チョー気持ちいい。ぬるくて深い貸切風呂 - 船原温泉 船原館

船原温泉 船原館
アクセス便利な伊豆の船原温泉には何度か足を運んでいるが、今回の伊豆旅行の2泊目にも船原の地が選ばれた。お世話になったのは「ものわすれの湯 船原館」。

ぬる湯好きのメンバーが集まったので、当館にぬるい貸切風呂があるとの情報を見つけたことが動機となった。しかもその風呂は深さのある立ち湯だという。へー、興味が湧いてきた。たしかにユニークな立ち湯は楽しくもあり、初冬でもちょうどいい塩梅のぬるさで、いつまででも入っていられそうだった。

それだけじゃなく料理も旅情感たっぷり、量もたっぷり出てきて大満足。“ものわすれ”どころか、忘れられない印象を刻みつけたのだった。

船原温泉「船原館」へのアクセス

船原といえば、横溝正史原作の映画「女王蜂」(市川崑&石坂浩二版)で金田一耕助が天城・月琴の里のバス停を降りたシーンが思い出される。金田一が通行人に道を尋ねた後、「この峠を登ると船原の方から来た広い道にぶつかるから」というセリフが続く。

船原からの広い道ってなんだろ。とにかく現実世界の現代においては、伊豆縦貫道・月ヶ瀬ICを出ると船原の方から来た新しい道=国道136号バイパスにぶつかるから、そのまま西伊豆方面へトンネルを抜ければ、まもなく船原地区に入る。

謎のオーラを発散する伊豆極楽苑を過ぎて、以前泊まったことのある「山あいの宿うえだ」を過ぎて、以前立ち寄ったことのある「湯治場ほたる」の少し手前に船原館がある。目立つ看板があるからすぐわかるはずだ。

もう少し先へ進むと急に大きなドーム施設が見えてきて、そこだけ違和感があるものの、おおむね付近一帯はのどかな山里の風情がある。

実際の我々は松崎町の桜田温泉・山芳園をチェックアウトした後、黄金崎クリスタルパークを見学し…予想以上に楽しいところだったけど詳細は割愛します…あとは適当に時間を潰しながら当館までやって来た。


懐かしレトロな旅館

昔ながらの雰囲気

ゴージャスでモダンなリゾートホテルもいいけど、個人的には当館のような古き良きレトロな雰囲気を残す旅館にも惹かれる。ロビーはこんな感じ。
ロビーと原人ぎゃらりぃ
奥に見える「原人ぎゃらりぃ」なる部屋は天城ゆかりの文人に関する資料室。記憶にある限りだと松本清張・梶井基次郎・林芙美子ほか。またフロントの近くにはお土産コーナーがある。
お土産コーナー
昔懐かしの温泉卓球もできます。
温泉卓球の部屋
自販機は1台見かけた記憶があるようなないような、少なくとも酒類を買える自販機がないのは確かである。湯あがりにビールを欲した我々はフロントに頼んで瓶ビールを調達した。

みんなで泊まろう、広い客室

まあそんな感じでチェックイン。案内された部屋はフロントから1フロア下った奥にある二間続きの和室。我々の頭数にしてみればめっちゃ広い!
船原館の客室
なにせ10畳+6畳だからね。予約できる部屋はすべてこのタイプの二間続きになるようだ。したがって、というべきか、一人泊は受け付けていない。お泊りしたい方は一緒に行ってくれる相棒を探してみてね。

シャワートイレ、洗面所あり。金庫あり、空の冷蔵庫あり。よくよく探すと炊事場もあり。WiFiは真面目にチェックしなかったからわかりません。スマホで動画とかゲームとかやらないんで、キャリア回線でいいやと思っちゃうんだよね。かつてはChromebookを持参していたが、スマホで事足りる使い方しかしてないなと悟って、荷物を軽くしたくて手放してしまった。

窓の外はこんな景色。船原川がすぐ目の前。しかしザーッという水の流れる音は気にならず、国道を走る車は結構多いけど騒音は届かず、至って静か。隣室のゴソゴソ音が時おり入ってくる程度かな。
窓の外は船原川

新鮮な源泉が投入されているお風呂

小浴場は内湯のみ

最大のお目当てである貸切風呂についてはのちほど。一般の浴場は大きいのと小さいのがあって、夜22時までは小浴場が男湯で大浴場が女湯、22時を境に男女が入れ替わる。というわけでまず向かったのは小浴場。泊まった部屋からさらに1フロア下ったところにあった。

脱衣所に掲示された分析書によると泉質は「単純温泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」。浴室に入るとなにやらモヤッとした、何の匂いだと言い表せない温泉臭が鼻をくすぐる。そしてシャワーの付いたカランが5台と、6名サイズの浴槽が目に入る。露天風呂はない。

お湯の見た目は無色透明。浸かってみると熱めだった。客観的には適温ということになるだろうが、主観的にはあつ湯のゾーンだと感じた。なのでそう長くは入っていられない。

お湯を手ですくって鼻を近づけてみると…うーん、どう言えばいいのか。同行メンバーとともに「なんの匂いだろうね」と話したくらいに表現し難い特徴だった。突飛だったり強烈だったりするわけじゃない。でも微硫黄香のようでもあり、微金気臭のようでもあり、別の瞬間には微焦げ臭のようにも思われて、つかみどころがない。うーん、よくわからん。

露天風呂付きの大浴場

22時過ぎと翌朝起きてすぐに利用した大浴場は部屋と同じフロアにある。こちらは大浴場なだけあって脱衣所にさまざまなうんちくが掲示されている。内湯は湯口から湯尻にかけて熱い→ぬるいへ変化するそうだから、ぬる湯好き人間にも居場所はありそうだ。

広めの浴室内にカランは8台。軽くS字カーブさせた形状の細長い内湯浴槽は一列に並んで6名サイズってところですかね。向かって左手の湯口付近はどうせ熱いから近寄りもせず。右手の湯尻付近でお湯の中へ突入してみると、あくまで適温でぬるくはない。

そこで外気に触れて冷めているのではないかとの期待を込めて露天風呂へ出てみた。奥の方は熱いが手前側にいる分にはまあまあぬるい。4名サイズの岩風呂にしては場所によって温度がはっきり違うもんだね。結局内湯はまったく利用せず、ずっと露天風呂で過ごすことになった。なお塀に囲まれていて眺望はない。

熱いだなんだと言っても源泉かけ流し、おそらく加水・加温・循環・消毒なしのお湯には力強さがある。明らかに効いてくる感じがする一方で単純温泉ならではの刺激を抑えたマイルドさ。結構な浴感だ。口コミによれば汲み出した源泉を空気に触れないようにして湯船まで引いてきてるらしい。こだわりがすごいですな。


ユニークな貸切風呂がたまらない

立ち湯、かつ、ぬる湯

貸切風呂は1組につき45分ずつ無料で利用できる。チェックイン時に希望の時間帯を申し出て予約しておく。我々が利用したのは夕方。先ほどの大浴場の前に外へ出る扉があり、すぐ近くに木造の湯小屋が立っている。小屋に入って鍵を閉めれば貸し切り状態の完成。

洗い場はなく、少人数で独占するにはもったいないほどの広い浴槽だけがあった。立ち湯ということで注意しながら、底を探るように少しずつ入っていくと…おお、たしかに深い。胸のあたりまで湯に浸かった。

そしてぬるい。体温よりやや高い程度で、冬にはほんのり温まって気持ちいい温度だ。まっすぐ立たせれば30名並べることも可能な大きな浴槽に我々だけがポツンと立っていると、贅沢でもあり、落ち着かなくもあり。つい歩行浴よろしく端から端まで行ったり来たりしてしまう。

妄想ふくらむ夢の貸切風呂

さらに浴槽の一部は小屋の外に飛び出していて、5名サイズの立ち湯露天風呂のようになっていた。露天部分のお湯は小屋の中よりもさらにぬるい。まさに体温と同じ、お湯の存在を忘れさせ浮遊感をもたらす不感温度で、自分好みにジャストミート。こいつは大当たりや。

周囲は壁に囲まれているものの、見上げれば抜けるような青い空。気分が晴れ晴れするね。しかし悲しき貧乏性、小屋の中のスカスカ浴槽が目に入ると「誰もいないのはもったいないな」と戻っていった。まあそっちはそっちでぬくぬくと脱力する温度だからいいけど。

なお、この貸切風呂は「ワッツ」というリラクゼーション療法を行う場でもある(要事前予約)。その際に使うのだろうか、ウレタン製のカラフルな浮き棒が置いてあり、たぶんこれに腕や足をからめてプカプカ浮かぶのだろう。

もし体じゅうの力を抜いて浮かぶことができたなら…それもぬる湯の上に…最高のシチュエーションやないか。やばいやばいよ。そんな夢のような快感を味わったら抜け出せなくなっちゃうよ。

などと妄想しているうちに45分があっという間に過ぎた。この貸切風呂は何度でも利用したくなるね。


食事は天城の里の雰囲気いっぱい

お狩場焼きと猪鍋の夕食はボリューミー

船原館の食事は朝夕とも囲炉裏の並ぶ食事処で。囲炉裏を目の前に座ると非日常感で気分が盛り上がってきた。夕食のスターティングメンバーがこれ。
船原館の夕食
山里の宿にしてはわりと魚介類が多い。考えてみれば峠を越えれば西伊豆の海だし。なんなら沼津からだって十分に物流圏だしな。出だしは快調に食べ進んでいった。

だがもちろん魚介ばかりが売りではない。だんだんと山里系がメインになってくる。そのひとつが猪鍋。囲炉裏にかけられると、いかにもそれっぽい風情があって大変結構。猪肉は臭みもなく程よい脂乗りで美味しかった。※夏季は猪鍋がわさび鍋になる模様。
猪鍋
もうひとつの売りが名物・お狩場焼き。野菜やきのこなど7種の焼き物が要所要所で追加される。熱いうちにどうぞ。7種のうちの鮎は囲炉裏にぶっ挿されるという見事な演出。
お狩場焼きの鮎
猪鍋、お狩場焼きの鮎・そばがき・餅、この四天王が胃袋を満杯にした。毎度毎度「お腹いっぱい」的なことばかり書いて申し訳ないが、本当にかなりの量だったのだ。しかも鍋の汁でおじやを作ってくれたうえ、普通に締めのご飯ときたらもう限界。デザートの果物を残してしまった。すまんす。

自分にうまくマッチしていた朝食

朝食も同じ場所で。前夜の分がまだ消化しきれていない感じだが、不思議なことに完食できた。しかもわりと短時間で。こんな品々だったんですが。
船原館の朝食
伊豆の朝はやっぱりアジですな。そして湯豆腐鍋にほっこりする。さすがにご飯のおかわりはできなかったものの、するするっと完食できたのは、味付けや量がばっちりハマってたからだろう。

いやあ、夕食も朝食も期待した以上に良かった。同行メンバーも同じ感想を抱いたようだ。

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高速下りてすぐというロケーションにもかかわらず、変にキラキラ・ケバケバした俗化の波を受けていないのが船原のいいところ。その良き雰囲気を体現したような宿が船原館だ。

温泉という面をみても本格的な源泉かけ流しを体験できる。大浴場・小浴場だけでも水準以上だが、個人的にはあの立ち湯の貸切風呂が印象深い。あそこでいつまでもふわふわと漂っていたいなあ、などと妄想は尽きないのである。